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第4章 雌伏の章

第46話 ロングウッドの森で中心に至った

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「確かに凄い巨樹ですね。これがア・レウラ・ムーロですか」

「そうだ、凄いだろう。ここが我の棲家だ」

 クマさんは自慢げだ。ただ木が大きいのはクマさんのお陰ではないだろうに。

「というか、そのア・レウラ・ムーロってどういう意味なんですか?」

「意味?意味などないぞ。名に意味を求めるとは変な奴だな」

「意味がないのか?ではア・レウラ・ムーロとはただの意味のない名前なのか?」

「ア・レウラ・ムーロとは我の故郷で『始まりの樹』という言葉だ」

「何だよ、ちゃんと意味があるんじゃないか。でも故郷って、ここで生まれたんじゃないのか?」

「我がか。ここで生まれたなどとは言っておらんだろう。我の故郷はドーラ、北の閉ざされた大地だ」

 聞いたことが無い地名が出てきた。このロングウッドの森でもケルンなどからすると結構北になる。北の閉ざされた大地なんてツンドラ地方みたいな感じなのか。これ以上寒い所は嫌だな。

「そうなんだ。やっぱりクマさんは北から来たんだね」

「やっぱり、というのはどういう意味だ?」

「シロクマではないけれどヒグマも基本寒い所に棲む生き物だからね」

「クマというものはそうなのか。というか、クマと呼ぶのはいいが、我はクマという種族ではないぞ」

 北から来た、には突っ込んでくれないし、ヒグマであることも認めないんだ。

「はいはい、ごめん、判りました。それで、まあ、今はここで暮らしているってことで」

「そうだ。ここが我が棲家だ。大体五百年くらいになるぞ」

 五百年?なんだか皆んな五百年が好きだな。もしかして流行っているんだろうか。

「五百年もここで暮らしているんだ。年齢も五百歳ってことなのか?」

「まさか、そんな訳が無かろう」

 何がまさかなのか判らない。

「もっと年齢を重ねていると?」

「当り前だろう。我は生まれて五百一年になる」

 一年かよ。

「では一歳で北の閉ざされた大地からロングウッドの森に来たってことでいいのか?」

「そう、その通り。だからヴァルドアは我より年下という訳だな」

「えっ、ヴァルドアってヴァルドア=サンザールのことか?」

「他に五百歳も生きている魔法士が何処に居るというのだ」

 師匠の知り合いだったのか、クマさん。というか五百歳って本当の話だったのか?

「師匠と知り合いだったんだな」

「なんだ、お前はヴァルドアの弟子なのか。でも確か若い女の魔法士が修行を付けてくれるとか言ってなかったか?」

「ヴァルドア=サンザールは俺の師匠で合ってる。その師匠に紹介で、この森に住む魔法士に修行の手伝いをしてもらうってことになっていたんだ」

「なるほど、それではその魔法士とはルナジェール=ミスティアではないか。あの二人は幼馴染だからな」

 幼馴染も本当の話なのか。もう訳が分からなくなってきた。

「そうそう、そのルナを探していたんだ」

「ん?ルナとは誰だ?」

「いや、さっき言ってたルナジェール=ミスティアのことなんだが」

「お前はなんだか名前を変えたり短くしたりするのが好きなようだな」

「ルナジェールは師匠かルナと呼んでいたのでね。それでルナの居場所は知っているのか?」

「ルナジェール=ミスティアの居場所は判らんな。というか、ここにいる魔法士の居場所など誰も知らんな」

「誰も?」

「そうだ。興味も無いのでな」

 結局本人を知っていても居場所は知らないのでは意味がない。

「では、ここを拠点に探させてもらう、というのは大丈夫か?」

「なんだ、ア・レウラ・ムーロに棲みたいのか」

「いや、そういう訳ではないのだが、ルナの居場所を探すのに、ここが中心なら探しやすいんじゃないかと思ってな」

「まあいい、我も話し相手か出来て暇つぶしには丁度いいしな」

 まあ。とりあえずここでじっくり腰を据えてルナを探すことにしよう。

「ところでお前はどうして魔法の修行をしているのだ?」 

 俺は今までの経緯をクマさんに説明した。ただ、よく考えれば自分でも魔法の修行を続ける理由が判らなかった。今のところは逃げられればいい、という状況でしかないのだ。

「それに歳も歳ではないのか?我は五百一歳だが、それは特別な存在であるのでお前たちとは違うからな。普通はお前の歳ではもう隠居する者も多いのではないか」

「そうなのか?よく判らないが、普通はそうなのかも知れないな。確かに俺もあと一年もせずに60歳になるから」

「60歳か、まだまだ若いな。だがお前たちは百年も生きないのではないのか?だとするともう半分を超えているな」

「そうだな。そろそろ身体も動かなくなってきているし、ここでのんびり暮らすのもいいかもな」

 俺は少し本気でここで余生を過ごすことを考え始めていた。クマさんを揶揄って面白おかしく暮らすのもいいかも知れない。

「何を温いことを言っているのだ。若い者はもっと修行をして我やヴァルドアを超える魔法士にならなければならないと言う使命があるだろう。魔法を極めるのだ」

「いやいや、そんな大それた野望は無いよ」

「野望というより夢や希望を持てと言っている。どうだ、我が修行を付けてやらんでもない」

 ああ、それもアリか。

「それもいいかもな。師匠とどっちが魔法使いとしては上なんだ?」

「聞かなくとも判るだろう。あ奴はいつまで経っても我には追い付けない」

 その話が本当なら確かにクマさんに修行を付けてもらうのも有効だと思えてきた。





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