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第6章 魔法学校の章

第70話 王都で学科試験だ、どうしよう

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 この世界の文字は俺の感覚から言うと英語のアルファベットと記号がま混じっている感じだ。勿論アルファベットではないのだが元の世界の他の言語の文字なんかよく判らないので比べようがない。

 例えば古代文字とかなら似通ったものがあるのかもしれない。ルーン語やセム語なんかか。よし判らないが。

 俺は一応読み書きは出来たが難しい単語は読めても書けない。その状態で学科試験だ。全く自信が無かった。

 キサラは俺とは違い、どちらかと言うと学科の方が自信があるようだ。やはり問題は俺だな。

 キサラと別れて試験会場に入ろうと歩いている時だった。

「えっ」

 後ろから声がした。振り返ると15、6歳くらいの少年がこちらを見ている。少年だが来ているローブを見ると魔法学校の教師のそれだった。

(まさか?)

 そうだ。間違いない。エル・ドアンだ。エル・ドアンが俺を見つけて「えっ」と思わす声を発したのだ。

「君はここの生徒ですか?」

 王都魔法学校ではエル・ドアンより年上の生徒しかいない。もっと若い者たちは幼年学校だ。だから俺の年齢でも変なことは無い筈だった。見た目は二十歳なんだから十分生徒で通用する。中には三十歳を超えても魔法学校に入学してくる者もいるのだ。

「いえ、生徒ではありません。初級試験を受けに来ている受験生ですよ」

 俺は極力冷静に答えたが少し声が震えていたのかもしれない。

「初級?君が初級なんですか?」

「そうですよ、ケルンには魔法学校が無かったので王都には先月初めて来たのです。試験を受ける為にね」

「そうなんですか。でも君が初級と言うのは無理があるでしょう。試験官はどなたでしたか?」

「スージール・ローウン先生です」

 エル・ドアンの表情が少しだけ固くなった。相手を好いてはいない、という顔だ。お互いにちゃんと嫌っている、ということだな。

「ローウン先生には僕の方から伝えておきます。君は上級でいいですよ」

「えっ?」

 俺は思わず聞き返した。この少年は何を言っているのだ?

「だから君は上級に合格ということにします。僕の推薦ということで」

 なんだ、なんだ、この展開は。もしかしたらエル・ドアンは探知魔法も天才的なのか?

「なぜですか?俺は初めて魔法士の試験を受けるんですが」

 一応俺は聞いてみた。

「君のマナの量は異常ですよ、それで初級なんてあり得ないです。魔法そのものが例えばまだまだ稚拙であっても、その量なら直ぐに上級でも遜色なくなります。僕が保証します。試験もいいのですが、僕の教室に来ませんか?」

 拙いぞ、これは。なんの用意もなくエル・ドアンの元に転がり込むのは危険過ぎる。

「魔法学校にはいずれ入学したいとは思っていたのですが、入学はまだ少し先のことだと思っていました。正式にはそうだと聞いていますが」

「そんなの大丈夫です。僕に任せてください」

「いえ、実は今日上級を受けている連れもいるんです。その子も魔法学校に一緒に入学したいと思ってます。ご提案は有難いのですが、二人で正式に入学させていただきますよ」

「では、その人も一緒に僕の教室に来たらいい。上級を受けるくらいなら問題ないでしょう」

 エル・ドアンは引かない。あんまり固辞するのも逆に目立ってしまうか。

「そこまで言ってくださるのなら、二人で魔法学校に入学させていただきます。但し、連れは上級に合格すれば、ということで。俺は初級は受けなくていいんですか?」

「君が初級なんて飛んでもない。マナの量だけなら僕より上です。ということは魔法学校の校長より随分多いという事になります」

 暗に自分は校長より上だと言っているようだが。

「では、明日にでも学校の僕の部屋に来てください。手続きをしておきますから。あ、それとローウン先生ですね。今から伝えておきます」

 そう言い残してエル・ドアンは去って行った。

 俺は急な展開に正直少し途方に暮れていた。考えが纏まらない。とりあえず試験会場には行かないといけないか。試験の方の結果は確認しておきたいしローウン先生とも話をしておかないと後々拙いことになりそうだ。

 試験会場に入ろうとすると中からローウン先生が出てきた。試験開始にはまだ少し時間があるが、そろそろ中で待機している時間の筈だった。

「おい、お前、エル・ドアンに何をした?」

 いきなり険しい顔で詰め寄られた。多分こんなことになりそうな予感はしていたが。

「いえ、何も。いきなり俺を見て上級試験合格だとか魔法学校に直ぐに入学しろ、とか夢みたいな冗談を言って去っていきましたが?」

 俺は一応逃げ道を作って説明した。冗談だと思っていた、という逃げ道を。

「冗談ではない。アレはお前を上級魔道士として認定するから初級はもう受けないと宣言していった。アレが言うのだ、その通りになってしまうだろう。それに入学についても自分の教室に入れると言っていた。それも本当の話だ。」

「冗談じゃなかったんですか?」

「アレが上段を言うような奴だと思っているのか?アレは魔法のこと以外は全く興味がない。ただ魔法については異常な執着心があるのだ。ここの誰もついて行けないほどのな」

 俺は少し怖くなってきた。エル・ドアンに目を付けられたという事はもしかしたら不幸中の不幸だったりしないか?

「お前ともう一人入学させると言っていた。アレが言うのだ、その通りにしかならない。本当にお前はアレに何をしたのだ?」

 ローウン先生の探知魔法は大したことが無いようだ。俺のマナの量にはあまり気が付いていない。やはりマナの量を探る探知魔法はレアらしい。

「何もしてませんよ。歩いていたら後ろからいきなり声を掛けられただけです」

 これは本当の事だ。俺も驚いたのだ。ローウン先生は訝しんでいたが本当なのだからしょうがない。

「まあいい、アレが言い出したら私にはどうしようもない。校長にも止められはしないのだ」

 やはり校内ではエル・ドアンの立場は校長以上らしい。いずれ校長に、と企んでいたローウン先生がボワール商会と誼を結びたいと思ったのは、校長への道が閉ざされたと思ったからだろう。

 そして俺はなんといきなり上級魔法士の資格を得、順調に上級試験に合格したキサラと一緒に魔法学校に中途入学することになった。



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