ドルススタッドの鐘を鳴らして 騎士×特殊能力×陰謀/ルート分岐型小説

ぜじあお

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5章 花畑で告白、からの初夜

【カタファ】R18 無自覚テクニシャンの剛の者に意識が飛ぶほど揺さぶられても甘々な感じで夜が更ける話

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※R18
※それぞれのキャラルートを跨いだ話の整合性は取っていません。キャラごとに発生したパラレルワールドだとご理解いただけますと幸いです。



 トニーはホテルのきらびやかな廊下に一人、立っていた。客室廊下はダークブラウンで落ち着いた内装になっており、人に反応して小さく音楽が流れる魔法がかけられている。

 その音楽を一身に浴びながら、トニーはカタファの部屋の前にいた。シャツの襟もとを持ち上げて匂いを嗅ぐ。風呂に丁寧に入り、髪も綺麗に乾かした。次にトニーはくるりと視線を移して腰のあたりを確認する。

 汚れなし。

 自身の体を確認した後、トニーは胸いっぱいに息を吸って、吐く。肩をゆっくり下げながら肺の空気を全て吐き出した。


 チャイムを鳴らすために腕を伸ばしたところで、ぱっと扉が開いた。扉から笑顔のカタファが顔を覗かせている。

 薄い唇の口角がきゅっと上がり、トニーに微笑みを向ける。

「ようこそ」

 カタファはトニーがチャイムを鳴らすために伸ばした腕にハテナを飛ばしたが、「早く入れよ」と言って普段通りの声色で言う。


 花畑で告白され、受け入れた。今、自分たちは恋人同士で、これからホテルの部屋で二人きりになろうとしている。トニーもカタファも二十代半ば。つまりはーー、皆まで言うな、である。

 しかし、目の前にいるカタファはあまりにも自然体で、トニーからすれば緊張や興奮を全くしていないように見えた。

 もしかして期待しているのは自分だけだったのだろうか。トニーは一抹の不安と肩透かしを食らった気持ちになりながら、カタファの案内で部屋に入ったのだった。


「トニー、ここ」

 部屋に入るなりカタファはベッドに座り、その隣をポンポンと叩いた。入口に立ち止まっていたトニーは一瞬固まり、ごくりと生唾を飲んだ。手招きするカタファの笑顔には全く邪な気配は感じないが、いつもより少し早口だった。

「お、おう」

 少しどもったが、トニーは無表情を取り繕って返事をした。初手で積極的にかましてくるタイプだとは考えていなかった。ここで変に反応すればカタファは拒否と受け取って穏やかに夜を過ごそうとするかもしれない。

 トニー自身、能動的に情事がしたいのかと言われれば、確信を持ってそうだと言えるほどではなかった。しかし、首都第三騎士団に戻れば神秘をめぐっての一連の出来事を調査しなければならなくなるだろう。そうなればきっと、このような緩く甘い雰囲気になることもあるまい。

 にこやかに待つカタファに気付かれないよう、トニーは拳を握りながらベッドに近づいた。





 布団の端を持ち上げると、トニーは抵抗もせず静かにベッドに入ってくる。すんとした表情だが、直立不動を床に平行にしただけのがちがちの体でベッドに横になっているのは少しおかしかった。

 カタファは緊張しきったトニーの体に触れないように、そっと布団をかける。そして横向き体をベッドに預け、トニーに体を向ける。

 緊張してるなぁ。カタファは未だ緊張の面持ちのトニーを見た。

 カタファにはトニーの気持ちが痛いほど分かるーーそれはカタファも緊張しているからだった。

 大きく深してから腕を出し、掛け布団ごしにトニーの腹をリズムよく叩く。

 ぽふぽふという小さな音を響かせながら、カタファは口を開いた。

「今日は楽しかったな」

「……そうだな」

 トニーの口元が強張っている。瞬きもほとんどしていていない。

 カタファは変わらずにリズムよく布団を叩く。会話のない空間に響くその音は、次第にゆっくりになっていく。布団の暖かさも相まって、トニーの鼓動も布団を叩くテンポに合わさっていく感覚があった。

 ふっとリビングスペース側の魔法灯が消え、カタファたちのいるベッドのサイドテーブル上のランプだけ明かりが灯る。高級ホテルらしく部屋には人感魔法がかけられており、一ヶ所とどまっているとその部分だけに明かりが灯る仕組みだ。

 暗くなった部屋で、カタファは大きく伸びをした。目じりに浮いた涙を振り取りながら、ぼんやりを光るランプの明かりを受けるトニーの横顔に、カタファは再び話しかける。

「じゃあ、おやすみ」

 ごろりと寝返りをうって、トニーに背を向ける。


 ーー不思議な感覚だ。トニーが俺の恋人になるなんて。

 カタファにとって、トニーを好きになることは予想外だった。

 市民ながら神秘に目覚めた、まさに後世に語り継がれる”主人公”を、脇役である自分が好きになるなど、思いもしなかった。

 一方でカタファは優秀な兄たちに家を任せて騎士団に入った小金持ちの息子でしかなかった。取り柄と言えば、相手の懐に入り込むこと。

 ヒューラ人らしからぬ肌と髪、そして瞳を持つ自分がこの国でうまく生きていくためには集団に馴染むことが最重要だった。柔軟で人懐っこい姿勢と言えば聞こえはいいが、それはある意味、『逃げ』でもある。そんな逃げてきた自分が、大きな運命を抱える男を好きになるとは、本当に。

 

 実際のところカタファは焦り、動揺をしている。だが商人の血のせいか、そういった心情を悟られるのを好まない。相手が真に願うものを与えてこそ愛だとカタファは信じてやまないから、情事に無理に誘うことはしたくなかった。もちろん、彼に触れたい気持ちがないわけでは無いが、押し売りのような無理強いがカタファの一番嫌うものだ。


カタファが背を向けてから、たっぷり三分は経っただろうか。背後からもぞりと布団を持ち上げる音がした。

「カタファ、まだ寝てないよな」

 その音と共にトニーが声をかけてきて、おずおずと腕が体に回された。意外と重みのある腕はカタファを割れ物を扱うように触る。

「くっつきたい」

 聞こえてきたのはその一言だけだった。その後の言葉はなく、トニーが距離を詰めることもない。彼はただ暗い部屋の中で、カタファが振り返って抱きしめる時を待っている。

 カタファは一呼吸置いてから、口角を上げ振り返った。不安そうな表情のトニーと目が合った。高鳴る鼓動を画して、明るく声をかける。

「なんだよ、甘えん坊だな」

 カタファはベッドの上で体を滑らせ、トニーを抱きしめた。互いの顔が見えなくなるまで強く抱きしめて、背中をぽんぽんと叩く。トニーの腕は空いた脇を通ってするりとカタファの腰に回った。大きくはっきりとした動作で抱きしめたカタファとは対照的に、静かで縋りつくような手つきだった。

「カタファ、そういうのじゃない」

 トニーの小さな声が胸元から聞こえ、引けていたカタファの腰にトニーの足が絡みつく。互いの呼吸が聞こえ、体温と鼓動を分け合うように密着している。キングサイズの大きなベッドの中で、二人は小さな塊となっていた。高まる興奮が指先にまで広がっていく。

「えっと……」

 カタファは薄く口を開いた。まごまごと口を動かすものの、続く言葉が浮かばず、やはりトニーの背中を優しく叩いたり、視界の端にある茶色い髪を撫でたりしていた。

 バクバクと鳴り続ける心音が喉の奥から聞こえそうで、落ち着かない。

 すると腕の中のトニーの肩がくっくっと小さく震えた。

「カタファ、うるさいくらい心臓が鳴ってるぞ。このまま体から飛び出すんじゃないか」

 トニーのからかいにカタファは細かく瞬きをしたが、やがて、笑うトニーの背中を両腕で抱き寄せ唇を尖らせた。

「うるさいな。俺だってわかってるよ。あー、もう」

 わしわしとトニーの頭を撫でた。


 周到に準備して、ここまで完璧にエスコートしてきたのに最悪。

 カタファは居心地を悪く感じながらトニーの顔を見た。しかしそんなカタファに対面したのは、少年のように笑うトニーだった。

 安心しきったふにゃりとした笑顔。カタファは一番好きな表情だった。

 高鳴る心音を聞かれて恥を感じるものの、不思議と心は満たされ、暖かいものがひろがった。

 ーー完璧でなくとも、男としては格好悪い状況でも、この笑顔が見られるのであれば悪くない。


 つられてカタファも笑った。頭を撫でていた指がトニーの頬を包み、親指で柔らかく撫でる。

 真正面にいる恋人と目が合った。トニーは添えられた手に頬ずりをすると、小さな声で語りかけた。

「恋人同士、だよな。俺たち。で、今……」

「うん。分かってる」

 カタファが言葉を紡ぐトニーの唇を押した。空いた唇が口が閉じた時、二人の影が重なる。

 重ねるだけの軽いキスから甘く深い口づけになるまで、そう時間はかからなかった。

「ん、カタファ。そろそろ……」

 唇の端を拭いながらトニーは体を起こす。カタファはトニーの動向を見ていたが、熱っぽい目でカタファを見下ろしながら腰に跨り、そしてそのままポンポンと服を脱ぎ始める。掛け布団があるなら恥ずかしくないーーとでも言うようにムードと一緒に服を脱ぎ捨てるトニーは、そういう意味では男らしい。

 だがカタファは焦った。

 ムードがないーーのは百歩譲って許そう。だがリードされるとなんだか背中がぞわぞわとする。

「お、おい」

「カタファ。もし恥ずかしいならお前はまだ脱がなくていい」

 当の本人は気遣うように優しい声色で話しかけ、あまつさえ髪を撫でてくる。

 カタファは唇の端を引きつらせた。


 ここに至るまで、どちらが上とか下とか気にしたことはなかった。どちらになるかなとは想像したが、トニーの今の言動は、想像以上にカタファのプライドを刺した。

 ーー嫌だ。エスコートされるのは、得意じゃない。

 やたらに優しい目で見つめてくるトニーの視線から思わず逃げてしまう。

ーーはっきりと分かった。俺、絶対に下は無理だ。


 ここで素直に「上になりたい」と言ったら、彼は「そうか」といって退くだろう。ただ、それは『違う』。今は主導権争いの場だ。ここで相手に『お願い』することは、精神的な負けに近い。

 

 カタファはーーにこりと笑った。

 腕を伸ばしてトニーの首から肩、胸へと手のひらを滑らせる。するすると動く手にかすかに体を震わせたトニーの反応を見て、カタファは口を開く。

「トニー、ちょっと前に」

「前に?」

「うん。前……頭側に移動してくれ。ベッドボードに置いてあるボトルを取ってほしい」

 トニーは何も疑問に思わず、この声の通りに腰を浮かせ、前のめりになってベッドボードの縁に置いてある水入りボトルに手を伸ばす。カタファはしめしめと、頭上を通るトニーの胸部の突起を摘まんだ。

「う……!?」

 普段人に触られない箇所を急に摘まれ、トニーは目を丸くしてカタファを見下ろした。カタファは驚きの表情のトニーを見ながら、次は人差し指でかりかりと刺激する。

「カタファ、んん、何するんだよ」

 くすぐったそうに身をよじったトニーだったが、悩ましげに広められた眉に快感が滲みだしているのをカタファは見逃さなかった。そのまま強く乳首を摘まむと、堪えるような苦し気な声がトニーの口の端から零れた。

「何って。ほら、俺たち恋人同士だろ?」

「そうだけど。いや、そうじゃなくて……あのっ、んっ!」

 大きく体を震わせて、ぎゅっと目を瞑ったトニーの反応を愉しみながら、カタファは片手をそのまま下に伸ばし、熱を持ち始めた陰茎をそっと撫でる。すでにトニーは脱いでいたから、直接触れるのは簡単なことだった。彼の欲望は少し触れただけでそれはむくりと頭をもたげて、存在を主張し始めた。

「おい、カタファ。ちょっと、それは……」

 制止するトニーの声を無視して、カタファは竿を包んで上下に扱く。根元から先端まで絞り出すように手を動かすと、頭上のトニーの口からは、あ、あ、と小さな喘ぎ声が漏れ始めた。カタファの上で四つん這いになったトニーの腕が震え、俯き、性感に悶えてに唇をかみしめている。

 刺激を受けて完全に勃起した陰茎は擦る度にびくびくと反応し、先端からは透明な先走りが滲む。カタファはカリを包んで握り、先走りを亀頭に馴染ませるように親指でくるくると塗り広げた。


「ん、ひっ……!」

 敏感な先端をいじられ、トニーは情けない声を出した。恥ずかしさで反射的に顔を上げると、カタファと目が合う。カタファはいつも通り人の良い笑顔のままで、息の乱れた自分とは対照的なのがトニーの羞恥心を加速させ、顔が赤くなるのが分かった。

「トニー、腰が引けてるけど……位置変わる?」

 そんな様子を見て、カタファは相変わらずの笑顔で言った。。トニーは唇を軽くはんでから、真っ赤になった顔でこくこくと頷いた。


 先ほどまでカタファの髪を撫でていた余裕はどこへやら、トニーは大人しくベッドに体を委ねていた。

 カタファは柔らかい掛け布団の感触を背中いっぱいに受けながら、腕を伸ばして改めてトニーの体を触る。

 脇腹から太ももにかけて手を沿わすと、トニーが小さく息を吐き、肩が震えた。カタファは反応を見ながら、局部に触れないように何度も指を往復させていく。

 上を向いて硬くなったそこの近くをカタファの指が通ると、ぴくぴくと揺れるのがいじらしく、かわいらしかった。

「あ、う」

 むず痒そうにもぞもぞと足を動かしたトニーが、カタファの名を呼びながら服の袖を摘む。

 トニーの息はだいぶ乱れていて、目が潤んでおり、期待に震えるそこは、先端から先走りが溢れ、腹に垂れている。

「もっとしっかり触ってほしい?」

 にやりと口角を上げてカタファは言った。

 トニーは赤くなった顔を隠さず、しかし目線をうろうろと泳がせた後にゆっくりと頷いた。

 それを確認してカタファが手のひらで陰茎を包むと、トニーはとろけた表情で受け入れた。


「ん、あっ……」

 硬さを確かめるように熱を持ったそれを握って擦り始めれば、トニーがまた眉をひそめて息を漏らす。

「あ、ああっ、んん」

 手首を柔らかく使って扱いたり、根元から先端まで絞り出すように握ったり、緩急をつけて攻めるとトニーの体は面白いように反応した。

 ここまで素直に反応が返ってくると、する側も嬉しいものでカタファは表情や体の動きを注視して彼の弱いポイントを見つけては攻めていった。

「んあっ、ああっ!」

 先走りで滑りが良くなった分、与えられる性感も強いようで、トニーの体が反応して更に先走りが滲み出てくる。

「あ、うっ。カタファ、もう、もう……!」

 上ずった声で限界を主張するトニーが縋った。内太ももが震えて揺れる。体の奥からこみ上げる熱が、腰に、根本に上っていく。

「んっ……!」

 トニーの全身に力が入った瞬間、ぱっと手が離れた。濡れた竿に空気が触れ、急に寒さを感じる。

「え、あ……?」

 思わず上にいるカタファを見つめる。彼は申し訳なさそうな顔をしながらも、いたずらっぽく笑った。

「イキたかったよな? ごめん。でも何かもったいなくてさ」

 そう言ってカタファが膨らんだ亀頭にすりすりと指を滑らせて焦らす。


 ーー物足りない、そんなんじゃ。

 イク寸前だった体には小さすぎる刺激が何度も続き、トニーは次第に苛立ちに似た感情を覚えた。カタファは自分を弄んでいるのではないか、もう少しすればちゃんとイケたのに、と。

 性的な快感を中途半端に止められ、トニーの頭は欲望を吐き出したい焦りに冒されていく。

「大変かもだけどなるべく長く持たせて愉しみたいっていうか……って、わっ!」

 照れ気味に趣意を語るカタファには目もくれずに、トニーがカタファの手ごと掴んで上下に擦り始める。

 あ、あ、と小さく声を漏らしながら、カタファの手を使っているとは思えないほど身勝手に扱いて、トニーは快感を貪っている。

「ちょっとちょっと、待って! 待てって!」

 暴走し出したトニーの手首を掴み上げて止める。微量な電気を魔法で流して筋肉を弛緩させたことは、おそらく墓場に持っていくだろう。暴漢を抑え込むテクニックを恋人に使ったなど、誇れることではない。

「興奮しすぎだって。我慢、我慢。な? できるよな?」

 なるべく優しくなだめたつもりだが、トニーは興奮した様子で肩で息をして目尻に涙を溜めている。熱に浮かされたような、ぼうっとした表情ながらもーーはっきりと首を左右に振った。

「早く……」

 ぽつりとトニーが呟く。潤んだ目はカタファを懇願している。

 普段はどこか人を寄せ付けない雰囲気があるトニーの煽情的な姿に、カタファは自身の体温がぐわっと上がった気がした。

 普段とは違い素直に甘えるトニーの姿に興奮していたが、それを一呼吸して少し逃してから、トニーの顔を覗き込んだ。

「トニー、もう待てない?」

「待てない……」

 幻聴かと思うくらいの細い声だったが、小さく動いた唇を見て、カタファは彼の意思を汲んだ。

 受け止めた意思表示として、茶色い髪をぽんぽんと頭を撫でる。そして腕を伸ばしサイドチェストから用意してあった諸々を取り出して枕元に置いた。トニーの腰の下には何枚かタオルを敷いて、準備をいそいそと進める。


「冷たかったらごめん」

 手にローションを出しトニーの下腹部から臀部かけてたっぷりと塗る。粘り気の強いローションを指の腹で伸ばしていくが、臀部や太もも撫でるとトニーの体はこの先の展開を予想してか、びくりと大きく跳ねた。次第に腹部周辺が強張っていくのが見て取れた。

 ーー緊張すんな……とは言えないよな。

 彼の緊張が肌から伝わってきて、カタファは同情した。今から触る箇所は本来、”受け入れる”ための器官ではない。人に触られる機会もないだろうに、同性の恋人ができたばかりにと哀れむ気持ちでいたが、トニーはじっとカタファを見つめたかと思うと、ひそひそと息を押し殺して言った。

「多分、大丈夫だと思う。慣らしてきた、から」


 ナラシタ? ならした? 慣らし……?

 カタファは背後に宇宙が広がったような顔のまま、二回、瞬きをした。硬直しているカタファにトニーは続ける。

「だから、どっちになってもいいように……準備して、ここに来……」

 言葉を遮ってカタファはトニーを抱きしめた。最初は竦んだトニーだったが、腕を回して、カタファの薄く整った体を強く抱き返す。胸に感じる微かな震えは、トニーの決意と恥だ。カタファは腕の中にいるトニーにバレないように大きく深呼吸してから、努めて明るくにこやかに返す。

「わかった。ちょっと待ってろ。俺も服を脱ぐから」

 緊張からか服を脱ぐのに少しもたついたが、トニーは気にしていない。だんだんと見えてくるカタファの肌を食い入るように見つめていた。

「そんなに見られると穴が開いちまうよ」

 一挙手一投足を舐めるように見られてカタファはかなり恥ずかしかったが、顔を見られないようにして横たわるトニーに覆いかぶさって抱きしめた。トニーの荒い吐息が耳元で聞こえる。彼の熱い手のひらがカタファの背中撫でた。


 少しと経たず、トニーの腰がもぞもぞと動き出す。

「カタファ、あの……」

 下腹部の熱が合わさると、トニーは遠慮がちに声を出した。十分とは言えないが、だいぶ硬くなっていたカタファのそれ。トニーとカタファはほとんど身長が変わらないがーー明らかに違う。やたらに猛々しいというか雄々しいというか、簡潔に言えば、大きい。

「……」

 トニーの瞬きの回数が増える。

「怖気づいたか?」

 煽るようにカタファが言うもトニーは首を左右に振って、何ともないと言った澄ました顔をした。けれども、心の中の、その昂ぶりが入ったらどうなってしまうんだろうという一抹の不安は拭えない。

 ーーまぁ、何とかなるか。多分。まずは指からと、カタファはしっかりと段階を踏むはずだから。

 半ば願掛けに近い考えでもって、トニーは自身の心を落ち着けることしかできなかった。


 ぬぐり、と体に何かが入ってくる。

 トニーは下腹部が訴える異物感を無視し、大きく吐く息と一緒に筋肉を弛緩させた。その間に指が奥に進んで、内側の壁を撫でる。

「痛いか?」

 心配そうなカタファの声が降ってきて、トニーは短く、大丈夫、とだけ答えた。

 大丈夫というか、むしろーー。

 慣らしが上手だったのか、心配な目を向けつつも準備万端と勃ち上がったそれの熱を感じるからか、はたまた焦らされて中途半端に高まった性欲のせいなのか、思ったよりもすんなりとトニーはカタファの指を受け入れ、そして、心地良さを感じていた。

 自分にはそちらの才能があったのかと複雑な気持ちを頂きながらも、中はカタファの指に絡みつくように収縮しているのが分かる。指の腹が奥をこそぐように動いたり、指の向きが変わったりすると、ひゅっと喉が鳴る。下腹部の奥から背中を伝ってじんわりと快感が上ぼり、必要以上に喉が引きつく。

「んっ」

 漏れ出た小さな声は吐息交じりだった。ピクリと揺れた肩と一緒に、トニーの陰茎が根本から揺れる。腹圧のせいで亀頭が下腹部にくっついてしまうのではないかと思うくらい反り返っている。

 カタファの指先は軽く曲げられており、ゆっくりと抜いたり挿したりしながら、トニーの中を丁寧に執拗に擦っていく。何度も出し入れを繰り返しながら、指の腹で触れていない場所がないかを探しているようだった。

「……!」

 その指が中にある膨らみに触れた時、トニーの体が大きく跳ねた。とっさにトニーは両手で口を押えたので声は出なかったが、折り曲げた太ももは揺れ、亀頭からぽたりと先走りがこぼれ落ちて腹を汚した。

「ぁっ、カ、カタファ」

 恋人の名を呼ぶが、彼は灰色の髪を傾げた首に垂らしただけで何も答えない。

 それまで慈しむように動いていた指は中の膨らみを擦り続けては、たまにとんとんと叩いたり、強く押し込むように力をこめたり、好き勝手に動いている。

「あぁっ!」

 ーーなんだ、これ。

 自身の情けない矯声を聞きながら、トニーは抗いようのない快感に震えていた。

 男性が性感を覚える箇所が直腸の中にあるのは知識として知っていた。だがそれは予想以上の甘い痺れで、陰茎への刺激とは違い、波のように全身に伝わって足の先から頭までをベールで包むような、それでいて電撃のように突き抜けるような刺激だった。そこを擦られると無意識に下腹部に力が入り、気を許せばすぐにでも達してしまいそうだ。

「大丈夫か? 無理なら言ってくれよ」

 あまりに体が大きく跳ねるものだから、ついに心配になったカタファが問いかけたが、手は止まっておらず器用に擦られ続ける。


「ひ、うっ……!」

 次第に声が大きくなっていることにも気付かず、トニーは息を漏らす。彼の中はぎゅうぎゅうと指を締め付け続けてて、指を挿れてから触られていないはずの陰茎は体のビクつきに合わせて、とろとろと糸を引いている。

「あっ、カタファ、俺……!」

 トニーがカタファの腕にしがみついた。目の端に小さな閃光が灯り、腰が跳ねるのを止められない。感じたことのない快感が怖くなって制止しようとしがみつくも、カタファの手が止まることはなかった。

「え、あっ!?」

 粘度の高いローションが掻き回され、狭い穴からぐちぐちと音が漏れる。

「ん、あっ、だめ、だっ! ああっ」

 上ずった声は愛欲から出た嬌声というには無理があった。ほぼ悲鳴に近い。

「トニー、暴れるな。ほら。我慢、我慢」

 柔らかい声色で話しかけるもカタファは攻め続けたままだ。その顔にはうっすらと笑みも浮かんでいる。トニーは堪らず腕を突っ張らせてカタファの肩を押したが、難なくその手は外されてしまった。変わらず腰が砕けるような快感が続いている。

「ああっ、あ! ん、ひあっ!」

 一層甲高い声が続き、周期的に中が収縮する。空に浮いたトニーの足の指先がピンと張って伸びる。

「だめ、だ。もう、いっ、イク……」

 しかしーー絶頂は訪れなかった。

 中にあった異物感は消え失せ、早鐘のような鼓動だけが置いてけぼりになった。

「何で……」

「いや。ううん。あの。指じゃないので、イかせたくなったっていうか……」

 口八丁なカタファが珍しく言葉を濁らせて話す。膝立ちで立ち上がったトニーの目線の先には、カタファの体に見合わない大きさのものが猛々しく主張している。本人の手首よりも若干太いくらい、細身のと太ももの真ん中で脈打つそれは、やたらに生々しい。

 トニーは改めて見た大きさと太さに驚きつつも、正直、自身の体にぐるぐると巡る不思議な感覚が怖かった。

 ニ度喰らったお預けのせいか、昂りは爆ぜることなく体に貯まり続けている。皮膚がベッドに擦れるのでさえ気持ちいい。

 ーー早く、早く出したい。

「カタファ」

 吐き出してしまわないと。頭が沸騰してしまいそうなくらい熱い。トニーは肺の中の温まった空気を吐いて、部屋の冷えた空気を胸いっぱいに吸い込んだ。そのまま何度か荒い呼吸を繰り返すも体の奥底にある熱は滞留し続け、煮えたぎっている。

 トニーは体を捻って枕元にある小さな箱を開けた。先程カタファがサイドチェストから出した″諸々″の道具の中の一つ。独特なサイズ感の箱の中には、小分けにされたこれまた小さな袋が入っている。ミシン目がついた連結部分を剥がし、一つをカタファに差し出した。

「これ……早く、つけて」

 受け取ったカタファはトニーの積極性に少し気圧されつつも、大きく頷いて次の″本番″へと駒を進めることにした。


 トニーの体を横向きにして、背面から抱きしめながら上側の太ももを持ち上げる。トニーの顔が見られないのは心配だったが、力が抜けている彼に負担を掛けずに挿れる方法がこれくらいしか思い浮かばなかった。

「本当に無理だったら言ってな?」

 一声かけて、カタファは窄まりに自身をあてがって腰を進める。ゆっくりと押し広げて侵入すると、肉壁に包まれる独特の感覚がカタファの腰に響く。

「う、すご……」

 思わず声を漏らしたカタファは我慢ならず、柔らかく受け入れる穴の最奥に向かって腰を突き動かし、ばちんと、乾いた音が部屋に大きく響いた。


「んぅっ……!」

 トニーは声を漏らした。痛みはなかったが、カタファのそれは予想より重く、大きい。

 甘い痺れに脳が揺れて一瞬気が遠くなったが、ふいに太ももに生ぬるい何かがかかり、トニーの意識は引き戻された。

「……?」

 なんだろうと目線を向けると、そこには、ぴくぴくと痙攣しながら押し出されるように吐精している自身の陰茎が見えた。

「え……」

 事態を理解するよりも早く、体が反応した。目の前に細かい閃光が煌めいたかと思うと、脳が溶ける程の強い快感が体中を駆け巡り、快感がトニーの指先まで犯す。

 声も出せないほどの性感に襲われながらも、トニーの本能はカタファを止めることを考えていた。

「あっ、カタファ、……ひ、あっ」

 制止しようと声を出したトニーだったが、それよりも早くカタファが呻きながら腰を動かし始めていた。

「あぅっ、や、ああっ!」

 ばちゅばちゅと音を立てて攻められれば、トニーは簡単に射精してしまう。振動で揺れる陰茎の先から、精液が溢れて太ももやタオルにぱたぱたと垂れる。

「トニー、すごく気持ちいいよ」

 肌のぶつかる音の合間にカタファが声を漏らしたが、トニーの耳には届いていない。

「はぁ……あう、んぁあっ!」

 トニーの意識は、体を巡る快感に押しつぶされていた。感じたこともないような強烈な感覚の中で、ただただ、抉るように奥を埋めるカタファの存在感に翻弄され、喘いでいる。

 背後にいるカタファはそれに気付かない。繋がれたことの悦びを感じながら、トニーの首筋に顔をうずめて、欲望のままに腰を打ち付ける。

「ひっ、ぅ、ううっ」

 奥を突かれる度、制御が効かないトニーの体ががくがくと震えた。何度も何度も中でイき、吐精液を繰り返していく。最初はそれでも感覚があって、視界があって、太ももを支えるカタファの手のひらの感覚があった。たが、そのうちに本能ですらトニーの中から遠のいていく。

 はっ、はっ、と犬のように細かく呼吸をするリズムに合わせて亀頭から精液が押し出される。既にそれは粘度をなくして、ほとんど透明になっている。


「ごめん、トニー。俺がイクまで……!」

 背後からした余裕のないカタファの声も、もはやトニーの耳を通り抜けるだけだった。

「うん、うっ…あっ、あぁぁっ!」

 後から強く抱きかかえられながら、性感を貪るような振動に揺らされ、トニーはより一層大きな喘ぎ声をだした。声と共に絞まる中に、カタファも悶えて呻く。

「ああ、すごい、本当にっ……」

「んんっ! あっ! ああっ……!」

 がつがつと無遠慮に突かれると、トニーには果てのない快感が押し寄せ、花火のような閃光を目の奥に感じた。

「う、あ、出る……!」

 声とともに一際大きくカタファが動き、同時に中にある陰茎がどくどくと脈打く。無意識に内壁が蠢いてカタファの陰茎をねぶり、もっと多く、もっと奥にと搾り取る。最後の一雫まで、余すことなく注ぎ込めと言わんばかりの力強い収縮だった。


 カタファはトニーを後ろから抱き寄せたまましばらく動けなかった。

 激しい中の収縮と、頭を突き破るような強烈な快感。そしてトニーの反応は、間違いなくカタファに大きな満足を与えた。

 一度大きく息をついてから、腰をゆるく動かして残余を吐き出す。そのままゆっくりと引き抜いてゴムを縛って捨てた。 


「トニー、ごめん。大丈夫だっ……」

 カタファはそう言いながらトニーと肩を揺り動かしたーーが、ごろりと捻った体を見て言葉を詰まらせた。

 彼の腹やふとももには大量に精液が付着し、タオルにも広い範囲に染みができている。体はだらりと弛緩して、かろうじて肩で息をしている。赤くなった目元からは涙が滲んでおり、トニーがいかに強い快感に振り回されたかがひと目で理解できた。

「わ! マジでごめん! 気づけなかった……本当にごめん」

 カタファは土下座の勢いで頭を下げ、予備のタオルで汚れを拭った。

「カタファ……」

 かすれたトニーの声がカタファに耳に届く。

「水……冷たいの……」

「わかった!」

 加速魔法を使っているのではと思うくらいの速さでカタファがベッドから降りた。急いで部屋に備え付けの魔冷庫を開ける。ぼうっと庫内灯に照らされたカタファの目に、あるものが飛び込んだ。

「あのさ、これ」

 カタファは手を持ったボトルのキャップを開ける。パキッと心地良い音が部屋に響くが、カタファは漏れないように緩く締め直してから寝ているトニーに差し出す。

「起き上がれそう?」

「……無理」

 飛んできた声は弱々しい。カタファはベッドに上がると、トニーの上体を抱えてベッドボードに寄り掛からせる。幸い、高級ホテルのベッドにはどれを使えばいいかわからないくらいたくさんの枕があったので、それを彼の背中と腰に差し込んだ。体が安定したのを確認してから、カタファはボトルのキャップを開け、トニーの口にゆっくりと流し込む。

 シュワシュワと微炭酸の弾ける音とともに花のような香りが辺りに広がる。甘い匂いは控えめで、ラベンダーやジャスミンのようなすっきりとした香りがトニーの鼻腔をくすぐった。

 微炭酸は渇いた喉を通って、熱のこもった体内に流れる。

「美味い……花の、香りが、して……」

 たどたどしくトニーは言葉を返した。カタファはボトルをサイドチェストの天板に置いてから、少し気まずそうに人差し指で頬を掻く。

「それ。あの花畑で栽培してる花の花弁を入れた炭酸水で……その、今日の思い出になるかと思って買ったんだけど……」

 よもやこんなタイミングで飲ませることになるとは思わなかったけど、カタファは素直に伝えた。虚ろな目のままのトニーは、それを聞いてふっと笑う。

「ある意味、絶対に。忘れられない味になった。明日起きたら、また……飲み、たい」

そう言うとトニーは瞼を伏せ、丸くなって寝入り始めた。限界だったのか、汗ばんだ額に前髪を張り付かせたまま落ちるように寝た。

「トニー。せめてシャワーくらい……」

 カタファはゆさゆさと肩を揺らしたがトニーは起きる様子がない。小さな寝息が返ってくるだけだ。その後、カタファは何度か声をかけたが彼が起きることはなかった。

 カタファは心の中で何度も謝りつつ、涙跡の残るトニーの目元にキスをした。

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