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4章 港町ミガルへ
海の男と失くしたペンダント
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砕いた宝石のように輝く水面と、潮の香りが生暖かい風に乗り、車を降りた面々の肌を包む。
魔動車の導入で予定より早くミガルに着いた。
日没前、宿場に入る前に海を見ようと言い出したのはジブだった。
「海だよ。トニー、海!」
運転席から降りたトニーをジブが攫うようにして先導し、小さな丘の上に立った。海を指差してトニーの視線を誘導しているが、もう1本の手はしっかりと腰に回していた。
「まぶしい……」
枯れたの後ろにいたガヨは、トニーが眉をひそめて目を細くしているだろう姿が思い浮かんだ。海風に茶色う神を揺らすトニーは海の美しさに感嘆を漏らすような詩人肌な男ではない。
そう思うガヨの横をするりとエイラスが通り抜け、ジブの腕に自身の腕が重なることを厭わず、トニーの肩を抱いた。
「輝く水面が美しいですね。ああ、あそこ。今、魚が跳ねましたよ」
エイラスは少し屈み、指先を揃えて1点を指し示す。トニーはその方向を見て、また跳ねたな、と反応した。トニーの視線を奪ったエイラスを、ジブは射殺すような目で見るが、当の本人は揺れる白金の髪を整えるだけで見向きもしない。あそこの二人の関係性はなかなか悪いが、ガヨ自身も慣れ始めていた。
「……暑い!」
少ない言葉に不快感を載せてトニーは両手を振り上げて2人を振りほどくと、振り返って早足でカタファとエンバーのいる桟橋へと逃げる。ガヨもそれに着いて行った。
桟橋には両手を頭の後ろで組んだカタファと、立ち竦むエンバーが並んでいる。
「この潮の匂いを嗅ぐと、海だって思ってわくわくするんだよな。俺、内陸出身だからさ。エンバーは?」
「初めて嗅いだ。独特な匂いだ」
海をまっすぐに見つめるエンバーにカタファが声をかけていたところだった。トニー、ガヨも並んで夕焼けの海を見た。
「そうか。初めて見た海の感想は?」
ガヨの問いかけに、エンバーは揺らめく水面から目を離さず、返事をした。
「光がちらついて目を突き刺すようだ。だが、終わらない波に日の光が溶けていくようで……不思議だ」
カタファがエンバーの背中を軽く叩いた。
「これからたくさん、色んなものを見ような」
エンバーは瞬間的にカタファを見て、ああ、と小さく同意をするとまた海を眺めた。その様子をトニーは小さく微笑みながら見ていた。
夕焼けに照らされた海の銀鱗が彼の白い制服に写り、揺蕩っている。
「行こう。チェックインに間に合わなくなる」
一番星が輝き始めた頃、トニーがポケットからキーを取り出しながら言った。
港町ミガルでは、どうか穏やかにすごせますように。
ーーこれは誰の願いだろうか。
穏やかであわい気持ちは波に揉まれて消えていった。
**
港町ミガルの街並みは、多様な色彩の建物が立ち並ぶ。外海から帰ってきた船から分かりやすいように、そして無事の帰港を願って塗装されている。
ガヨら一行は宿屋で夜を過ごし、昼前、ミガル一番の市場を訪れていた。
「ミガル騎士団は海の魔物たちと戦う事が多いので、投擲や魔法を得意とする団員が多いんだそうです」
ボタンを開け、やや着崩した制服姿のエイラスがタブレットを見ながら言った。
「市民出身が多いよな、確か」
首都では目立つカタファの緋色のバンダナと灰色の髪も、多種多様な肌と髪色が混在するミガルでは馴染んでいる。
「市民どころか外海出身者も多い。商業が盛んなこともあって貴族よりも商人の方が発言権があるそうだ」
夏服のシャツを第一ボタンまで閉めたガヨは辺りを見回しながら言った。
ミガルの騎士団長との待ち合わせ時間が迫っていたからだった。
その時、ばしんと乾いた音が響いた。ガヨが振り向くと、エンバーの背中を躊躇なく叩く男がいる。
「君、でかいねぇ! 何食ったらそんなに大きくなるのかなぁ?」
浅黒く日焼けした肌と逞しく発達した胸筋を見せびらかすように開けた胸元が目に飛び込む。軽いウェーブのかかった黒髪を額の真ん中で分け、後ろ髪を雑に一本にまとめている。
突然、現われた男に結構な音を立てて叩かれているがエンバーはその男を見下ろしたまま微動だにしていない。
「ミガル騎士団長、服が乱れているようです」
ははは、と笑いながら背中を叩き続ける男にガヨは近づいた。
「おお! ガヨくん、この前会った時はまだうぶな小僧だったのに、分隊長でしょ? すっかり偉くなっちゃったねぇ!」
今度の標的はガヨになった。ばしばしと背中を叩かれる度にガヨが小さな声で止めてください、と言っているが効果は全くない。
「グルーザグさん、そのくらいにして」
今度はカタファが近づくと、グルーザグは、ぐわっと両手を広げてカタファを抱き寄せ、同じようにばしんばしんと背中を叩く。ぐえ、とカタファの小さな悲鳴は背中を叩く音にかき消された。
エイラス、ジブ、トニーは遠巻きに見守っていたが、グルーザグは白い制服を着たトニーを見つけ、にんまり微笑んだ。そしてずかずかと近づくと、ほうほうと呟きながら物珍しげに上から下までしげしげと目を向ける。
「ははぁ。アンタが最近入った新人さん? 白い制服のオーダーが来たから気になってたんだよぉ。ってことは君たちも? いやぁ都会の子はみんなかっこいいね!」
エイラスは澄ました顔で礼を言い、ジブは曖昧に笑った。トニーは白けた顔で地面を見つめたままだった。
「ようこそ! ミガルへ。首都第三騎士団様、御一行!」
市場に響き渡る声でグルーザグが言い、敬礼をした。首都第三の彼らは周囲の好奇の視線を浴びながらミガル寄宿舎へと向かうことになった。
ミガル地方第三騎士団、訓練場。着崩した色黒の兵士たちが並ぶ中、ガヨたちは訓練の真ん中に集められていた。
「ミガルの諸君! 彼らが首都第三の方々だよ」
グルーザグが両手を広げながら団員たちの前を歩く。
日焼けした彼らは腕組みをしたり、ポケットに手を突っ込んだまま値踏みするようにじろじろ見たり、意味深に笑ったりと、およそ温かい雰囲気ではなかった。
ガヨが一歩前に出ると、それに呼応するように泣きぼくろの男も一歩踏み込んだ。顎を突き出し、見下ろすようにしている。
「首都の騎士団様……」
泣きぼくろの男が声を発すると、周りの団員たちもじわじわと距離を詰め始めた。ガヨとカタファは、いつも通り立ったまま、エイラスは足を少し広げて拳を作る。トニーはぐっと顎を引いた。エンバー佇んだまま、だったが足の指先に力を込めた。
じり、と砂利を踏む音が響く中、ジブは腰に隠している小型ナイフを掴んだ。
泣きぼくろの男がにやりと笑った。
「遠いところ! 良く来たなぁ!」
叫ぶように言うと、周りの団員がわっとガヨたちを囲った。
「王子様みてぇな顔! 白身魚しか食わないのか?」
「燃える赤髪! 槍投げのジブってのはお前か?!」
「久しぶりぃ! ガヨちゃんっ! カタファちゃんっ!」
「でけぇー! 説明不要ッ!」
それぞれに言葉をかけながらガヨたちがもみくちゃになっているところをするりと抜け出したトニーは、訓練場の端に逃げようと横目に団員たちの塊を見ていると、どんと何かにぶつかった。
「君は逃げるのがうまいねえ。でもだめだよ。」
笑顔のグルーザグだった。彼はトニーの首根っこを掴むと、よいしょと軽くトニーを押し入れた。白い制服がもみくちゃの中に消えていくのをグルーザグは手を降って見守った。
外部から来た者は、もみくちゃにする。それはミガル騎士団でのお決まりの挨拶だった。場を借りて、物理的に接触し、不躾ともとれる素直な言葉を投げかける。それは様々な種族が混在するミガルで心理的な壁を強制的に取り除く一種の儀式だった。
散々もみくちゃにされた後、ガヨら一行は騎士団が用意した宿舎に泊まることになった。それぞれに部屋が用意されていて、ガヨ、カタファ、エンバーは先に移動していた。首都第三に用意された区画に向かう途中でジブはいつものようにトニーのまわりをひっついて回った。
「大丈夫だった? トニー」
「別に、問題ない」
後ろを歩くエイラスがこちらを見ていたのは分かっていたが無視した。いけ好かない腹黒野郎にかける言葉などないのだ。
「トニー疲れたー。俺は大変だった」
ジブが後ろから両腕を回して抱きつく。そうだな、と面倒くさそうな表情を隠さずにいたトニーだったが、急に歩くのを止め、ジブの腕を払った。そして鎖骨の辺りをとんとんと叩いた。
「どうかしましたか?」
エイラスがトニーに話しかけた。トニーは返事をせずに首回りやポケットと焦った様子でまさぐっている。
「ない」
眉を落とし、瞳を小刻みに揺らす。焦りのうかがえる声だった。
「何がないの? 俺、一緒に探すよ?」
ジブがトニーの前に出て顔を覗き込んだ。しかしトニーはジブと目も合わさずに踵を返すと、そのまま走り去ってしまった。
「……」
エイラスとジブは目を合わせた。だがエイラスはすぐにふっと笑ってジブに言った。
「ジブ、トニー以外のことって覚えてます? ……例えばトニーが身に着けていたものとか」
「は? そんなの」
ジブは言葉に詰まった。トニーの様子から探しているものはネックレスだとは分かった。が、どういうデザインなのかを覚えていなかった。普段は襟や下に隠れていて、脱ぎ着する際は必ず小さな小袋に入れている。だからか、あまり実物を見たことがなく、銀色のチェーンだったことしか覚えていない。
「もっと周りを見ないと。お兄さんばかり見ていてはだめですよ。ここは俺に任せて。ジブはここで。おやすみなさい」
勝ち誇ったような笑みをしたエイラスは、悠々と足を伸ばして去っていった。
魔動車の導入で予定より早くミガルに着いた。
日没前、宿場に入る前に海を見ようと言い出したのはジブだった。
「海だよ。トニー、海!」
運転席から降りたトニーをジブが攫うようにして先導し、小さな丘の上に立った。海を指差してトニーの視線を誘導しているが、もう1本の手はしっかりと腰に回していた。
「まぶしい……」
枯れたの後ろにいたガヨは、トニーが眉をひそめて目を細くしているだろう姿が思い浮かんだ。海風に茶色う神を揺らすトニーは海の美しさに感嘆を漏らすような詩人肌な男ではない。
そう思うガヨの横をするりとエイラスが通り抜け、ジブの腕に自身の腕が重なることを厭わず、トニーの肩を抱いた。
「輝く水面が美しいですね。ああ、あそこ。今、魚が跳ねましたよ」
エイラスは少し屈み、指先を揃えて1点を指し示す。トニーはその方向を見て、また跳ねたな、と反応した。トニーの視線を奪ったエイラスを、ジブは射殺すような目で見るが、当の本人は揺れる白金の髪を整えるだけで見向きもしない。あそこの二人の関係性はなかなか悪いが、ガヨ自身も慣れ始めていた。
「……暑い!」
少ない言葉に不快感を載せてトニーは両手を振り上げて2人を振りほどくと、振り返って早足でカタファとエンバーのいる桟橋へと逃げる。ガヨもそれに着いて行った。
桟橋には両手を頭の後ろで組んだカタファと、立ち竦むエンバーが並んでいる。
「この潮の匂いを嗅ぐと、海だって思ってわくわくするんだよな。俺、内陸出身だからさ。エンバーは?」
「初めて嗅いだ。独特な匂いだ」
海をまっすぐに見つめるエンバーにカタファが声をかけていたところだった。トニー、ガヨも並んで夕焼けの海を見た。
「そうか。初めて見た海の感想は?」
ガヨの問いかけに、エンバーは揺らめく水面から目を離さず、返事をした。
「光がちらついて目を突き刺すようだ。だが、終わらない波に日の光が溶けていくようで……不思議だ」
カタファがエンバーの背中を軽く叩いた。
「これからたくさん、色んなものを見ような」
エンバーは瞬間的にカタファを見て、ああ、と小さく同意をするとまた海を眺めた。その様子をトニーは小さく微笑みながら見ていた。
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「行こう。チェックインに間に合わなくなる」
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ーーこれは誰の願いだろうか。
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「ミガル騎士団は海の魔物たちと戦う事が多いので、投擲や魔法を得意とする団員が多いんだそうです」
ボタンを開け、やや着崩した制服姿のエイラスがタブレットを見ながら言った。
「市民出身が多いよな、確か」
首都では目立つカタファの緋色のバンダナと灰色の髪も、多種多様な肌と髪色が混在するミガルでは馴染んでいる。
「市民どころか外海出身者も多い。商業が盛んなこともあって貴族よりも商人の方が発言権があるそうだ」
夏服のシャツを第一ボタンまで閉めたガヨは辺りを見回しながら言った。
ミガルの騎士団長との待ち合わせ時間が迫っていたからだった。
その時、ばしんと乾いた音が響いた。ガヨが振り向くと、エンバーの背中を躊躇なく叩く男がいる。
「君、でかいねぇ! 何食ったらそんなに大きくなるのかなぁ?」
浅黒く日焼けした肌と逞しく発達した胸筋を見せびらかすように開けた胸元が目に飛び込む。軽いウェーブのかかった黒髪を額の真ん中で分け、後ろ髪を雑に一本にまとめている。
突然、現われた男に結構な音を立てて叩かれているがエンバーはその男を見下ろしたまま微動だにしていない。
「ミガル騎士団長、服が乱れているようです」
ははは、と笑いながら背中を叩き続ける男にガヨは近づいた。
「おお! ガヨくん、この前会った時はまだうぶな小僧だったのに、分隊長でしょ? すっかり偉くなっちゃったねぇ!」
今度の標的はガヨになった。ばしばしと背中を叩かれる度にガヨが小さな声で止めてください、と言っているが効果は全くない。
「グルーザグさん、そのくらいにして」
今度はカタファが近づくと、グルーザグは、ぐわっと両手を広げてカタファを抱き寄せ、同じようにばしんばしんと背中を叩く。ぐえ、とカタファの小さな悲鳴は背中を叩く音にかき消された。
エイラス、ジブ、トニーは遠巻きに見守っていたが、グルーザグは白い制服を着たトニーを見つけ、にんまり微笑んだ。そしてずかずかと近づくと、ほうほうと呟きながら物珍しげに上から下までしげしげと目を向ける。
「ははぁ。アンタが最近入った新人さん? 白い制服のオーダーが来たから気になってたんだよぉ。ってことは君たちも? いやぁ都会の子はみんなかっこいいね!」
エイラスは澄ました顔で礼を言い、ジブは曖昧に笑った。トニーは白けた顔で地面を見つめたままだった。
「ようこそ! ミガルへ。首都第三騎士団様、御一行!」
市場に響き渡る声でグルーザグが言い、敬礼をした。首都第三の彼らは周囲の好奇の視線を浴びながらミガル寄宿舎へと向かうことになった。
ミガル地方第三騎士団、訓練場。着崩した色黒の兵士たちが並ぶ中、ガヨたちは訓練の真ん中に集められていた。
「ミガルの諸君! 彼らが首都第三の方々だよ」
グルーザグが両手を広げながら団員たちの前を歩く。
日焼けした彼らは腕組みをしたり、ポケットに手を突っ込んだまま値踏みするようにじろじろ見たり、意味深に笑ったりと、およそ温かい雰囲気ではなかった。
ガヨが一歩前に出ると、それに呼応するように泣きぼくろの男も一歩踏み込んだ。顎を突き出し、見下ろすようにしている。
「首都の騎士団様……」
泣きぼくろの男が声を発すると、周りの団員たちもじわじわと距離を詰め始めた。ガヨとカタファは、いつも通り立ったまま、エイラスは足を少し広げて拳を作る。トニーはぐっと顎を引いた。エンバー佇んだまま、だったが足の指先に力を込めた。
じり、と砂利を踏む音が響く中、ジブは腰に隠している小型ナイフを掴んだ。
泣きぼくろの男がにやりと笑った。
「遠いところ! 良く来たなぁ!」
叫ぶように言うと、周りの団員がわっとガヨたちを囲った。
「王子様みてぇな顔! 白身魚しか食わないのか?」
「燃える赤髪! 槍投げのジブってのはお前か?!」
「久しぶりぃ! ガヨちゃんっ! カタファちゃんっ!」
「でけぇー! 説明不要ッ!」
それぞれに言葉をかけながらガヨたちがもみくちゃになっているところをするりと抜け出したトニーは、訓練場の端に逃げようと横目に団員たちの塊を見ていると、どんと何かにぶつかった。
「君は逃げるのがうまいねえ。でもだめだよ。」
笑顔のグルーザグだった。彼はトニーの首根っこを掴むと、よいしょと軽くトニーを押し入れた。白い制服がもみくちゃの中に消えていくのをグルーザグは手を降って見守った。
外部から来た者は、もみくちゃにする。それはミガル騎士団でのお決まりの挨拶だった。場を借りて、物理的に接触し、不躾ともとれる素直な言葉を投げかける。それは様々な種族が混在するミガルで心理的な壁を強制的に取り除く一種の儀式だった。
散々もみくちゃにされた後、ガヨら一行は騎士団が用意した宿舎に泊まることになった。それぞれに部屋が用意されていて、ガヨ、カタファ、エンバーは先に移動していた。首都第三に用意された区画に向かう途中でジブはいつものようにトニーのまわりをひっついて回った。
「大丈夫だった? トニー」
「別に、問題ない」
後ろを歩くエイラスがこちらを見ていたのは分かっていたが無視した。いけ好かない腹黒野郎にかける言葉などないのだ。
「トニー疲れたー。俺は大変だった」
ジブが後ろから両腕を回して抱きつく。そうだな、と面倒くさそうな表情を隠さずにいたトニーだったが、急に歩くのを止め、ジブの腕を払った。そして鎖骨の辺りをとんとんと叩いた。
「どうかしましたか?」
エイラスがトニーに話しかけた。トニーは返事をせずに首回りやポケットと焦った様子でまさぐっている。
「ない」
眉を落とし、瞳を小刻みに揺らす。焦りのうかがえる声だった。
「何がないの? 俺、一緒に探すよ?」
ジブがトニーの前に出て顔を覗き込んだ。しかしトニーはジブと目も合わさずに踵を返すと、そのまま走り去ってしまった。
「……」
エイラスとジブは目を合わせた。だがエイラスはすぐにふっと笑ってジブに言った。
「ジブ、トニー以外のことって覚えてます? ……例えばトニーが身に着けていたものとか」
「は? そんなの」
ジブは言葉に詰まった。トニーの様子から探しているものはネックレスだとは分かった。が、どういうデザインなのかを覚えていなかった。普段は襟や下に隠れていて、脱ぎ着する際は必ず小さな小袋に入れている。だからか、あまり実物を見たことがなく、銀色のチェーンだったことしか覚えていない。
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