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インフィニットワールド・オンライン
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「せあっ!」
薄暗い洞窟の闇を青い閃光が貫き、コバルトブルーの輝きに包まれた剣が全長3メートルを超える巨大蜘蛛の腹に突き刺さった。
《片手剣》スキルの基本突進技《ソニックスラスト》により、巨大蜘蛛はファーストアタックを当てた『騎士』カルに標的を定めた。
青みがかった黒髪に青い目、幼さが残るも精悍な顔立ちをしたアバターで、全身を白の全身鎧で覆い、右手にパワー重視の幅広の剣を、左手に盾を装備した姿はまさに『騎士』そのものだ。鎧は軽い素材で作られているため、スピードはさほど制限されない。
巨大蜘蛛は右前足を大きく振りかぶり、カルに向かって勢いよく振り下ろす。だが、タイミングを読んでいたカルは相手の左側に跳ぶことでその攻撃を躱し、隙だらけの脇腹に右手の剣を叩き込む。だが相手をのけぞらせるには少々ダメージが足りず、相手はさらに左の足を二本振り上げてカルを狙う。
攻撃直後の前傾姿勢では回避できないと判断し、とっさに左手の盾で受け止める。重い衝撃が盾を二連続で叩き、防ぎきれなかったダメージを少し受けるが、大した量ではない。
攻撃の勢いを利用してバックステップで距離をとり、剣を左下段に構えると、刀身が水色の輝きを纏う。
その剣を素早く斜めに切り上げる。システムアシストによって先ほどの通常攻撃とは比べ物にならないスピードで腕が動き、きれいな斜め60度の切り上げから、右下段に剣を移動させ、左右対称に切り上げる。流れるような動きで左中段に構え、水平切り。
片手剣中級三連撃技《トライアングル・アーク》。
三つの斬撃の軌道が描いた正三角形が強くフラッシュし、蜘蛛の巨体が大きくノックバックする。
その隙をついて、反対側から二刀流の『自由戦士』クレスが飛び出し、両手に持った剣で十字を描くように一発ずつ強力な斬撃を叩き込む。
『戦士』の上位派生職業である『自由戦士』の中でも、クレスは二刀流を使う攻撃特化型で、その容姿は茶色の髪に炎のように赤い目が印象的な、若手エリート剣士といった雰囲気のアバターだ。防具らしい防具は革の胸当てに膝あて、籠手のみという機動力重視の装備に、《双剣》カテゴリに分類される一対の細身の剣を持っている。
《二刀流》スキルの十字二連重攻撃技《サザンクロス》が与えた大ダメージで敵のタゲがクレスに移る直前に、カルは剣を地面に突き立てて叫ぶ。
「《ヘイトレッド・ハウル》‼」
ヘイト増幅技《ヘイトレッド・ハウル》により、その叫び声がモンスターの怒りを掻き立て、巨大蜘蛛は再び深紅の双眸をカルに向ける。
射程の長い糸吐き攻撃を連続バックステップで回避すると、着地と同時に右足を引いて体を前に傾け、切っ先を前にして腰だめに剣を構える。畳んだ腕を後ろに引き絞ると、《ソニックスラスト》の発動モーションが完成し、刀身がコバルトブルーの輝きに包まれる。
そのまま右足で踏み切ると、システムアシストによってカルのアバターはまたしても物理法則を超えたスピードで動き、アバターと敵との距離およそ2メートルをコンマ1秒で駆け抜ける。
「おおおっ!」
突進の勢いを余さず乗せた高速の突きが顔面にヒットし、このダンジョンのボスである巨大蜘蛛『キングミストスパイダー』、通称『霧蜘蛛王』の頭上に表示されるHPバーが残り9割を切る。カルよりレベルが10も高いボスモンスターのHPをここまで早く削れるのは、ひとえにクレスの高い火力があってこそだろう。
「よし、ユイは攻撃魔法の詠唱、イリアは発動と同時に輪唱魔法を!」
十分なヘイトが溜まってきたと見るや、クレスが後ろで待機していた『魔術士』ユイと『歌姫』イリアに指示を送る。
「オッケー!」
「了解!」
アニメのマスコットキャラクターのような可愛らしい容姿のアバターを、いかにも魔術師然としたローブで包んだユイは、目の色を兄のカルと一緒にし、オレンジ色の髪を肩のあたりで切りそろえている。先端に朱色の丸い石をはめ込んだワンドを持っており、左手首には魔法系職業専用の『リストシールド』を装備している。
凛とした印象にどこか可憐さを感じさせるアバターで、青みを帯びた緑の眼に空色の髪をツインテールにまとめ、青を基調としたチュニックとミニスカートに身を包んだイリアは、手に武器こそ持っていないが、腰のベルトには柄頭に細い鎖のついた投擲用の短剣を刺している。
「レーセ・フロット・クィータ……」
クレスの指示に返事をした後、ユイは攻撃魔法のスペルワード唱え始める。その間に、カルとクレスは更に攻撃を叩き込んでいく。
「エイーグ・リンド・フール!《ヘイルニードル》!」
全部で十ワードに及ぶ詠唱を完了し、技名を唱えると、詠唱していた魔法が発動し、霧蜘蛛王の上から無数のとがった大粒の雹が降り注ぐ。現在ユイが使える魔法の中で威力の合計が最も高い魔法《ヘイルニードル》。攻撃範囲はやや広いが、大型モンスターである『キングミストスパイダー』の背中は魔法の効果範囲よりも広く、全ての雹がその背中に突き刺さる。
《ヘイルニードル》が発動すると同時に、イリアが輪唱魔法の詠唱を始める。彼女の職業である『歌姫』はスペルワードではなく歌で魔法の詠唱を行う。わずか二小節ほどの短い歌だが、リズムやメロディを少しでも間違えると詠唱が失敗してしまうため、それなりに難しい。
だが、イリアはわずかなミスもなく詠唱歌を歌い終え、両手を前にかざして魔法を発動する。
次の瞬間、攻撃が終了したばかりのユイの魔法が再び発動し、霧蜘蛛王のHPを容赦なく削っていく。
輪唱魔法は、味方の魔法が発動すると同時に詠唱を開始することで、その魔法を連続でもう一度発動できるというものだ。歌魔法は詠唱が難しいが、その分強力で便利な魔法が多い。
連続で発動した魔法とカルたちの追撃により、霧蜘蛛王のHPバーは残り3分の2を切っている。『キングミストスパイダー』は水属性への耐性が高い割には氷属性への耐性はほとんどないため、《ヘイルニードル》はかなりの高ダメージが狙えるのだ。
HPが3分の2を下回ったことで、彼らの目の前で霧蜘蛛王は八本の足を弛め、ジャンプの体勢に入る。この時、体が前傾姿勢なら飛びつき攻撃、水平なら垂直に飛び上がって着地で広範囲に振動派を発生させる。
今回は、体を水平に保ったままだ。つまり…
「振動派攻撃、来るぞ!着地のタイミングはカウントする、合図と同時にジャンプしろ!」
クレスが指示を出し、カルたちは各々の返事を返す。
力をためていた霧蜘蛛王がいきなり洞窟の天井近くまで飛び、それとほぼ同時にクレスのカウントダウンが始まる。
「3、2、1、今だ!」
クレスの合図と同時にカルたちは一斉に高くジャンプ、直後に同心円状に振動派エフェクトが足下を駆け抜けていくが、全員食らうことなくやり過ごし、着地と同時にクレスが叫ぶ。
「カル、全力攻撃一本! ユイとイリアは追撃準備!ここからはスピード勝負だぞ!」
「ああ! 行こう、クレス!」
指示を出しながら自らも突っ込んでいくクレスの視線の先で、赤い眼をより一層強く光らせた霧蜘蛛王が立ち上がった。
HPが減って凶暴性の増したボスは攻撃の頻度が上がり、のけぞりにくくなる。だが、クレスの的確な指示の下、更に追撃を重ね、一分ほどで霧蜘蛛王のHPバーは残り二割以下のレッドゾーンに達した。
そして、瀕死のバーサク状態開始の合図に、霧蜘蛛王は大きく息を吸い込み、ただでさえ大きい体をさらに膨らませていく。毒ガス攻撃の溜めだが、この時に攻撃してもダメージを与えられない。
「毒ガス攻撃、来るぞ! 範囲がバカみたいに広いから、よけるのは無理だ! ユイ、突風魔法の詠唱をして待機、合図したら発動して霧を払ってくれ! イリアは霧が晴れたら全体に解毒と回復の魔法を! カルは俺と敵の目の前でタゲをとり続けろ!」
クレスの指示が飛び、カルは何度目とも知れない《ヘイトレッド・ハウル》を発動し、ユイはスペルワードを唱え始める。
そのタイミングで、霧蜘蛛王は息を吸い込み終わり、一拍おいて口と尻の先端から毒々しい紫色のガスを噴出した。瞬く間にパーティー全員が巻き込まれ、毒状態に陥る。
毒ガスは、吸わなくても毒状態にされてしまう上、吸い込むと地味に臭い。アバターは呼吸をしなくても平気なので吸わなくてもいいのだが、この状況で呼吸をしようとするプレイヤーはまずいないだろう。
「ユイ、今だ!」
「《ブロウウィンド》!」
ガスの噴出が終わった直後にクレスが合図を出し、ユイが突風を起こす魔法を使ってガスを払う。
直後にイリアの歌声が響き、パーティー全員を緑色の光が包み、毒状態が回復する。
「よし、一気に決めるぞ!」
「ああ!」
「おー!」
「うん!」
クレスの言葉に三者三様の返事をして、カルたちは最後の大暴れを始めた巨大蜘蛛に向かって攻撃を始めた。
三分足らずの戦闘の末に、『キングミストスパイダー』は討伐され、黒く石化して爆散するというボス特有の死亡エフェクトと共に消滅した。
リザルトウィンドウに獲得経験値とアイテムやコインが表示され、同時にクエスト『霧蜘蛛討伐』のクエストログも更新される。
「終わった~!」
真っ先にそう言って座り込むユイに苦笑してから、カルはクレスと軽くハイタッチを交わす。
「お疲れ様」
「うん、クレスもお疲れ」
ボスとの戦闘までが面倒なクエストがやっと一段落付き、疲れた様子のイリアともハイタッチ。
「お疲れ、イリア」
「お疲れ様、クレス。ようやくここまで終わったね……」
「うん、このダンジョン攻略でレベルが3上がるくらい戦ったよ……」
ダンジョンの探索だけで既に一時間近くが経過している。ボス戦は三分足らずで終わったが、入り組んでいるうえに時々霧が出て現在位置がランダムに変わる仕掛けに惑わされ、ボスの部屋にたどり着くまで数十分かかってしまったのだ。
「とりあえず、外に出よう。ボスを倒したから、入り口まで一気に戻れる」
クレスが示す先には、円形に青く光る床がある。これはワープゲートといって、ダンジョンんの入口や特別な全く違うマップに移動するために使われる。ボス部屋にあるのはたいてい脱出用で、この部屋にあるのもそうだ。
青く光る床に足を踏み入れると、全身が床と同じ青い光に包まれる。数秒間の浮遊感の後、体を包む光が消えると、そこはもう洞窟の外だった。
既に辺りは夕暮れの光に包まれており、遠くの山脈の向こうに夕日が沈もうとしていた。
「あー、疲れたぁ~。お兄ちゃん、早く街に戻って休もうよ。あたし、お腹空いちゃった」
「そうだな。街に戻って討伐成功の報告をしたら、どこかで晩ごはんにしよう」
「あ、それなら私、最近おいしいお店を見つけたの。ちょっと高いけど、行ってみない?」
「お、いいな、行こう。ついでに入手したアイテムの分配もするか」
四人で談笑しながら帰路につく。
こんな状況であっても、彼らは純粋に「ゲーム」を楽しんでいた。
薄暗い洞窟の闇を青い閃光が貫き、コバルトブルーの輝きに包まれた剣が全長3メートルを超える巨大蜘蛛の腹に突き刺さった。
《片手剣》スキルの基本突進技《ソニックスラスト》により、巨大蜘蛛はファーストアタックを当てた『騎士』カルに標的を定めた。
青みがかった黒髪に青い目、幼さが残るも精悍な顔立ちをしたアバターで、全身を白の全身鎧で覆い、右手にパワー重視の幅広の剣を、左手に盾を装備した姿はまさに『騎士』そのものだ。鎧は軽い素材で作られているため、スピードはさほど制限されない。
巨大蜘蛛は右前足を大きく振りかぶり、カルに向かって勢いよく振り下ろす。だが、タイミングを読んでいたカルは相手の左側に跳ぶことでその攻撃を躱し、隙だらけの脇腹に右手の剣を叩き込む。だが相手をのけぞらせるには少々ダメージが足りず、相手はさらに左の足を二本振り上げてカルを狙う。
攻撃直後の前傾姿勢では回避できないと判断し、とっさに左手の盾で受け止める。重い衝撃が盾を二連続で叩き、防ぎきれなかったダメージを少し受けるが、大した量ではない。
攻撃の勢いを利用してバックステップで距離をとり、剣を左下段に構えると、刀身が水色の輝きを纏う。
その剣を素早く斜めに切り上げる。システムアシストによって先ほどの通常攻撃とは比べ物にならないスピードで腕が動き、きれいな斜め60度の切り上げから、右下段に剣を移動させ、左右対称に切り上げる。流れるような動きで左中段に構え、水平切り。
片手剣中級三連撃技《トライアングル・アーク》。
三つの斬撃の軌道が描いた正三角形が強くフラッシュし、蜘蛛の巨体が大きくノックバックする。
その隙をついて、反対側から二刀流の『自由戦士』クレスが飛び出し、両手に持った剣で十字を描くように一発ずつ強力な斬撃を叩き込む。
『戦士』の上位派生職業である『自由戦士』の中でも、クレスは二刀流を使う攻撃特化型で、その容姿は茶色の髪に炎のように赤い目が印象的な、若手エリート剣士といった雰囲気のアバターだ。防具らしい防具は革の胸当てに膝あて、籠手のみという機動力重視の装備に、《双剣》カテゴリに分類される一対の細身の剣を持っている。
《二刀流》スキルの十字二連重攻撃技《サザンクロス》が与えた大ダメージで敵のタゲがクレスに移る直前に、カルは剣を地面に突き立てて叫ぶ。
「《ヘイトレッド・ハウル》‼」
ヘイト増幅技《ヘイトレッド・ハウル》により、その叫び声がモンスターの怒りを掻き立て、巨大蜘蛛は再び深紅の双眸をカルに向ける。
射程の長い糸吐き攻撃を連続バックステップで回避すると、着地と同時に右足を引いて体を前に傾け、切っ先を前にして腰だめに剣を構える。畳んだ腕を後ろに引き絞ると、《ソニックスラスト》の発動モーションが完成し、刀身がコバルトブルーの輝きに包まれる。
そのまま右足で踏み切ると、システムアシストによってカルのアバターはまたしても物理法則を超えたスピードで動き、アバターと敵との距離およそ2メートルをコンマ1秒で駆け抜ける。
「おおおっ!」
突進の勢いを余さず乗せた高速の突きが顔面にヒットし、このダンジョンのボスである巨大蜘蛛『キングミストスパイダー』、通称『霧蜘蛛王』の頭上に表示されるHPバーが残り9割を切る。カルよりレベルが10も高いボスモンスターのHPをここまで早く削れるのは、ひとえにクレスの高い火力があってこそだろう。
「よし、ユイは攻撃魔法の詠唱、イリアは発動と同時に輪唱魔法を!」
十分なヘイトが溜まってきたと見るや、クレスが後ろで待機していた『魔術士』ユイと『歌姫』イリアに指示を送る。
「オッケー!」
「了解!」
アニメのマスコットキャラクターのような可愛らしい容姿のアバターを、いかにも魔術師然としたローブで包んだユイは、目の色を兄のカルと一緒にし、オレンジ色の髪を肩のあたりで切りそろえている。先端に朱色の丸い石をはめ込んだワンドを持っており、左手首には魔法系職業専用の『リストシールド』を装備している。
凛とした印象にどこか可憐さを感じさせるアバターで、青みを帯びた緑の眼に空色の髪をツインテールにまとめ、青を基調としたチュニックとミニスカートに身を包んだイリアは、手に武器こそ持っていないが、腰のベルトには柄頭に細い鎖のついた投擲用の短剣を刺している。
「レーセ・フロット・クィータ……」
クレスの指示に返事をした後、ユイは攻撃魔法のスペルワード唱え始める。その間に、カルとクレスは更に攻撃を叩き込んでいく。
「エイーグ・リンド・フール!《ヘイルニードル》!」
全部で十ワードに及ぶ詠唱を完了し、技名を唱えると、詠唱していた魔法が発動し、霧蜘蛛王の上から無数のとがった大粒の雹が降り注ぐ。現在ユイが使える魔法の中で威力の合計が最も高い魔法《ヘイルニードル》。攻撃範囲はやや広いが、大型モンスターである『キングミストスパイダー』の背中は魔法の効果範囲よりも広く、全ての雹がその背中に突き刺さる。
《ヘイルニードル》が発動すると同時に、イリアが輪唱魔法の詠唱を始める。彼女の職業である『歌姫』はスペルワードではなく歌で魔法の詠唱を行う。わずか二小節ほどの短い歌だが、リズムやメロディを少しでも間違えると詠唱が失敗してしまうため、それなりに難しい。
だが、イリアはわずかなミスもなく詠唱歌を歌い終え、両手を前にかざして魔法を発動する。
次の瞬間、攻撃が終了したばかりのユイの魔法が再び発動し、霧蜘蛛王のHPを容赦なく削っていく。
輪唱魔法は、味方の魔法が発動すると同時に詠唱を開始することで、その魔法を連続でもう一度発動できるというものだ。歌魔法は詠唱が難しいが、その分強力で便利な魔法が多い。
連続で発動した魔法とカルたちの追撃により、霧蜘蛛王のHPバーは残り3分の2を切っている。『キングミストスパイダー』は水属性への耐性が高い割には氷属性への耐性はほとんどないため、《ヘイルニードル》はかなりの高ダメージが狙えるのだ。
HPが3分の2を下回ったことで、彼らの目の前で霧蜘蛛王は八本の足を弛め、ジャンプの体勢に入る。この時、体が前傾姿勢なら飛びつき攻撃、水平なら垂直に飛び上がって着地で広範囲に振動派を発生させる。
今回は、体を水平に保ったままだ。つまり…
「振動派攻撃、来るぞ!着地のタイミングはカウントする、合図と同時にジャンプしろ!」
クレスが指示を出し、カルたちは各々の返事を返す。
力をためていた霧蜘蛛王がいきなり洞窟の天井近くまで飛び、それとほぼ同時にクレスのカウントダウンが始まる。
「3、2、1、今だ!」
クレスの合図と同時にカルたちは一斉に高くジャンプ、直後に同心円状に振動派エフェクトが足下を駆け抜けていくが、全員食らうことなくやり過ごし、着地と同時にクレスが叫ぶ。
「カル、全力攻撃一本! ユイとイリアは追撃準備!ここからはスピード勝負だぞ!」
「ああ! 行こう、クレス!」
指示を出しながら自らも突っ込んでいくクレスの視線の先で、赤い眼をより一層強く光らせた霧蜘蛛王が立ち上がった。
HPが減って凶暴性の増したボスは攻撃の頻度が上がり、のけぞりにくくなる。だが、クレスの的確な指示の下、更に追撃を重ね、一分ほどで霧蜘蛛王のHPバーは残り二割以下のレッドゾーンに達した。
そして、瀕死のバーサク状態開始の合図に、霧蜘蛛王は大きく息を吸い込み、ただでさえ大きい体をさらに膨らませていく。毒ガス攻撃の溜めだが、この時に攻撃してもダメージを与えられない。
「毒ガス攻撃、来るぞ! 範囲がバカみたいに広いから、よけるのは無理だ! ユイ、突風魔法の詠唱をして待機、合図したら発動して霧を払ってくれ! イリアは霧が晴れたら全体に解毒と回復の魔法を! カルは俺と敵の目の前でタゲをとり続けろ!」
クレスの指示が飛び、カルは何度目とも知れない《ヘイトレッド・ハウル》を発動し、ユイはスペルワードを唱え始める。
そのタイミングで、霧蜘蛛王は息を吸い込み終わり、一拍おいて口と尻の先端から毒々しい紫色のガスを噴出した。瞬く間にパーティー全員が巻き込まれ、毒状態に陥る。
毒ガスは、吸わなくても毒状態にされてしまう上、吸い込むと地味に臭い。アバターは呼吸をしなくても平気なので吸わなくてもいいのだが、この状況で呼吸をしようとするプレイヤーはまずいないだろう。
「ユイ、今だ!」
「《ブロウウィンド》!」
ガスの噴出が終わった直後にクレスが合図を出し、ユイが突風を起こす魔法を使ってガスを払う。
直後にイリアの歌声が響き、パーティー全員を緑色の光が包み、毒状態が回復する。
「よし、一気に決めるぞ!」
「ああ!」
「おー!」
「うん!」
クレスの言葉に三者三様の返事をして、カルたちは最後の大暴れを始めた巨大蜘蛛に向かって攻撃を始めた。
三分足らずの戦闘の末に、『キングミストスパイダー』は討伐され、黒く石化して爆散するというボス特有の死亡エフェクトと共に消滅した。
リザルトウィンドウに獲得経験値とアイテムやコインが表示され、同時にクエスト『霧蜘蛛討伐』のクエストログも更新される。
「終わった~!」
真っ先にそう言って座り込むユイに苦笑してから、カルはクレスと軽くハイタッチを交わす。
「お疲れ様」
「うん、クレスもお疲れ」
ボスとの戦闘までが面倒なクエストがやっと一段落付き、疲れた様子のイリアともハイタッチ。
「お疲れ、イリア」
「お疲れ様、クレス。ようやくここまで終わったね……」
「うん、このダンジョン攻略でレベルが3上がるくらい戦ったよ……」
ダンジョンの探索だけで既に一時間近くが経過している。ボス戦は三分足らずで終わったが、入り組んでいるうえに時々霧が出て現在位置がランダムに変わる仕掛けに惑わされ、ボスの部屋にたどり着くまで数十分かかってしまったのだ。
「とりあえず、外に出よう。ボスを倒したから、入り口まで一気に戻れる」
クレスが示す先には、円形に青く光る床がある。これはワープゲートといって、ダンジョンんの入口や特別な全く違うマップに移動するために使われる。ボス部屋にあるのはたいてい脱出用で、この部屋にあるのもそうだ。
青く光る床に足を踏み入れると、全身が床と同じ青い光に包まれる。数秒間の浮遊感の後、体を包む光が消えると、そこはもう洞窟の外だった。
既に辺りは夕暮れの光に包まれており、遠くの山脈の向こうに夕日が沈もうとしていた。
「あー、疲れたぁ~。お兄ちゃん、早く街に戻って休もうよ。あたし、お腹空いちゃった」
「そうだな。街に戻って討伐成功の報告をしたら、どこかで晩ごはんにしよう」
「あ、それなら私、最近おいしいお店を見つけたの。ちょっと高いけど、行ってみない?」
「お、いいな、行こう。ついでに入手したアイテムの分配もするか」
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