(アルファ版)新米薬師の診療録

織姫みかん

文字の大きさ
14 / 52
Karte3:薬師って残酷な生き物なんです

第15話 ハツカネズミ

しおりを挟む
 親愛なるソフィー

 手紙ありがとう。どうやらエルダーでの生活は順調のようだね。薬局の経営は一筋縄じゃいかないけど元気にしているようで安心したよ。
 以前の手紙で知らせてくれたけど、店員だけでなく採集者も雇えたんだね。凄いじゃないか。二人の為にも早く薬局の経営が軌道に乗ることを祈っているよ。
 気付けばキミがエルダーに行って半年近く経つんだね。冬が来るまでには一度会いに行くよ。キミがどんな薬師になっているかいまから楽しみだ。期待しているよ。
                                                              
                           ソフィア・ローレンへ

 追伸 コウノトリの件はすまなかったね。まさか本当に信じているとは思ってなかったよ。

 バートさんのお店に滋養ポーションを卸すようになって暫く経った晩夏のある昼下がり。外は相変わらず日差しがきつく、風通しを良くした室内でさえ額から汗が流れます。
 「ソフィー殿、ひとつ気になっていることがあるのだが」
 「なんですか?」
 「ここで飼っているハツカネズミなのだが」
 窓を全開にした調薬室で薬草棚の整理をしていると一緒に作業をしていたアリサさんが不意に尋ねてきました。
 「彼らに名前とか付けないのか?」
 「名前ですか?」
 「見たところ10匹近くいるようだが、個々に名前はないのか」
 「付けない方が自分の為ですよ」
 アリサさんが言っているのは調薬室の隅で一匹ずつケージに入れられたハツカネズミのことです。さすがに採集者のアリサさんでも彼らがウチにいる理由は分からないみたいですね。出来れば知ってほしくはないけど、薬局で働いているからにはいずれ知ることになるだろうから話しちゃおうかな。
 「ここにいるネズミは全て実験用なんですよ」
 「実験……用?」
 「アリサさん。薬師が使う薬草には本来、毒を持っているものも含まれていることは知ってますよね」
 「え? ああ。代表的な奴で言えば“アヤカシキャロット”が該当するな」
 「どうやって除毒処理の成否を確かめると思いますか?」
 「それは……まさか」
 「そのまさかです。除毒処理をしたものをそこの“動物”に与えて確かめるんです。なんともなければそのまま薬の材料に。死ねば――“アヤカシキャロット”なら投与後15分以内に死ねば再度処理が必要と判断します」
 ネズミなどの小動物を使う理由は少ない投与量で確実に“反応”を示してくれるから。しかも耐性を持ってしまったら意味がないので試せるのは一個体一回だけ。一度でも投与してしまったら仮に生存してもその個体は使えない。薬師にもよるけど本当の毒を与えて処分することもある。
 「ソフィー殿はどうしてるんだ。やはり、処分するのか」
 「そうですね。野生に返すことも出来ませんから処分します」
 「生かすという選択はないのか」
 「生かしてしまうと愛着がわきます。そうなるとほかの個体を使うことが、動物を実験台に用いることが出来なくなります」
 「だから名前も付けないのか」
 「付けたらそれこそ愛情を注いでしまいますから」
 アリサさんには私が冷酷な魔女のように見えているんだろうな。怒りを押し殺すように私を見つめている。
 「私だって罪悪感が無いわけじゃありません。出来ればこんなことしたくない。でも代わりの手段がないんです。アリサさんが代わりを務めますか?」
 「そ、それは――」
 「そういうことなんですよ。人間に使う薬の材料です。本来なら人間相手に試すのが筋です。でもそれは出来ない。そうでしょ?」
 「…………」
 「それに、患者さんが集中したら治療の優先順位を決める必要があります。結果として失われる命があったとしても、それを承知の上で選別しなければいけない。薬師って残酷な生き物なんですよ」
 私が薬師を目指すと言った時に師匠から言われた最初の言葉です。残酷になる覚悟がなければ薬師にはなれません。
 「例えとはいえ、アリサさんを例にしたのは間違ってました。すみませんでした」
 「それは気にしてない。アタシこそ悪かった。ソフィー殿の気持ちも知らずに興味本位で訊いてしまった」
 「いずれ話そうとは思ってましたから。さ、片付けを再開しましょう」
 部屋中を漂う気まずい空気をかき消そうと深呼吸をして薬草棚の整理を再開する私。いずれ言わなきゃとは思っていたけど、いざ口にするとやっぱり心が沈んだ気分がする。裏庭で薪を割ってくれているエドにはもう少し時間を空けて話した方が自分のためによさそうです。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

処理中です...