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Karte3:薬師って残酷な生き物なんです
第15話 ハツカネズミ
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親愛なるソフィー
手紙ありがとう。どうやらエルダーでの生活は順調のようだね。薬局の経営は一筋縄じゃいかないけど元気にしているようで安心したよ。
以前の手紙で知らせてくれたけど、店員だけでなく採集者も雇えたんだね。凄いじゃないか。二人の為にも早く薬局の経営が軌道に乗ることを祈っているよ。
気付けばキミがエルダーに行って半年近く経つんだね。冬が来るまでには一度会いに行くよ。キミがどんな薬師になっているかいまから楽しみだ。期待しているよ。
ソフィア・ローレンへ
追伸 コウノトリの件はすまなかったね。まさか本当に信じているとは思ってなかったよ。
バートさんのお店に滋養ポーションを卸すようになって暫く経った晩夏のある昼下がり。外は相変わらず日差しがきつく、風通しを良くした室内でさえ額から汗が流れます。
「ソフィー殿、ひとつ気になっていることがあるのだが」
「なんですか?」
「ここで飼っているハツカネズミなのだが」
窓を全開にした調薬室で薬草棚の整理をしていると一緒に作業をしていたアリサさんが不意に尋ねてきました。
「彼らに名前とか付けないのか?」
「名前ですか?」
「見たところ10匹近くいるようだが、個々に名前はないのか」
「付けない方が自分の為ですよ」
アリサさんが言っているのは調薬室の隅で一匹ずつケージに入れられたハツカネズミのことです。さすがに採集者のアリサさんでも彼らがウチにいる理由は分からないみたいですね。出来れば知ってほしくはないけど、薬局で働いているからにはいずれ知ることになるだろうから話しちゃおうかな。
「ここにいるネズミは全て実験用なんですよ」
「実験……用?」
「アリサさん。薬師が使う薬草には本来、毒を持っているものも含まれていることは知ってますよね」
「え? ああ。代表的な奴で言えば“アヤカシキャロット”が該当するな」
「どうやって除毒処理の成否を確かめると思いますか?」
「それは……まさか」
「そのまさかです。除毒処理をしたものをそこの“動物”に与えて確かめるんです。なんともなければそのまま薬の材料に。死ねば――“アヤカシキャロット”なら投与後15分以内に死ねば再度処理が必要と判断します」
ネズミなどの小動物を使う理由は少ない投与量で確実に“反応”を示してくれるから。しかも耐性を持ってしまったら意味がないので試せるのは一個体一回だけ。一度でも投与してしまったら仮に生存してもその個体は使えない。薬師にもよるけど本当の毒を与えて処分することもある。
「ソフィー殿はどうしてるんだ。やはり、処分するのか」
「そうですね。野生に返すことも出来ませんから処分します」
「生かすという選択はないのか」
「生かしてしまうと愛着がわきます。そうなるとほかの個体を使うことが、動物を実験台に用いることが出来なくなります」
「だから名前も付けないのか」
「付けたらそれこそ愛情を注いでしまいますから」
アリサさんには私が冷酷な魔女のように見えているんだろうな。怒りを押し殺すように私を見つめている。
「私だって罪悪感が無いわけじゃありません。出来ればこんなことしたくない。でも代わりの手段がないんです。アリサさんが代わりを務めますか?」
「そ、それは――」
「そういうことなんですよ。人間に使う薬の材料です。本来なら人間相手に試すのが筋です。でもそれは出来ない。そうでしょ?」
「…………」
「それに、患者さんが集中したら治療の優先順位を決める必要があります。結果として失われる命があったとしても、それを承知の上で選別しなければいけない。薬師って残酷な生き物なんですよ」
私が薬師を目指すと言った時に師匠から言われた最初の言葉です。残酷になる覚悟がなければ薬師にはなれません。
「例えとはいえ、アリサさんを例にしたのは間違ってました。すみませんでした」
「それは気にしてない。アタシこそ悪かった。ソフィー殿の気持ちも知らずに興味本位で訊いてしまった」
「いずれ話そうとは思ってましたから。さ、片付けを再開しましょう」
部屋中を漂う気まずい空気をかき消そうと深呼吸をして薬草棚の整理を再開する私。いずれ言わなきゃとは思っていたけど、いざ口にするとやっぱり心が沈んだ気分がする。裏庭で薪を割ってくれているエドにはもう少し時間を空けて話した方が自分のためによさそうです。
手紙ありがとう。どうやらエルダーでの生活は順調のようだね。薬局の経営は一筋縄じゃいかないけど元気にしているようで安心したよ。
以前の手紙で知らせてくれたけど、店員だけでなく採集者も雇えたんだね。凄いじゃないか。二人の為にも早く薬局の経営が軌道に乗ることを祈っているよ。
気付けばキミがエルダーに行って半年近く経つんだね。冬が来るまでには一度会いに行くよ。キミがどんな薬師になっているかいまから楽しみだ。期待しているよ。
ソフィア・ローレンへ
追伸 コウノトリの件はすまなかったね。まさか本当に信じているとは思ってなかったよ。
バートさんのお店に滋養ポーションを卸すようになって暫く経った晩夏のある昼下がり。外は相変わらず日差しがきつく、風通しを良くした室内でさえ額から汗が流れます。
「ソフィー殿、ひとつ気になっていることがあるのだが」
「なんですか?」
「ここで飼っているハツカネズミなのだが」
窓を全開にした調薬室で薬草棚の整理をしていると一緒に作業をしていたアリサさんが不意に尋ねてきました。
「彼らに名前とか付けないのか?」
「名前ですか?」
「見たところ10匹近くいるようだが、個々に名前はないのか」
「付けない方が自分の為ですよ」
アリサさんが言っているのは調薬室の隅で一匹ずつケージに入れられたハツカネズミのことです。さすがに採集者のアリサさんでも彼らがウチにいる理由は分からないみたいですね。出来れば知ってほしくはないけど、薬局で働いているからにはいずれ知ることになるだろうから話しちゃおうかな。
「ここにいるネズミは全て実験用なんですよ」
「実験……用?」
「アリサさん。薬師が使う薬草には本来、毒を持っているものも含まれていることは知ってますよね」
「え? ああ。代表的な奴で言えば“アヤカシキャロット”が該当するな」
「どうやって除毒処理の成否を確かめると思いますか?」
「それは……まさか」
「そのまさかです。除毒処理をしたものをそこの“動物”に与えて確かめるんです。なんともなければそのまま薬の材料に。死ねば――“アヤカシキャロット”なら投与後15分以内に死ねば再度処理が必要と判断します」
ネズミなどの小動物を使う理由は少ない投与量で確実に“反応”を示してくれるから。しかも耐性を持ってしまったら意味がないので試せるのは一個体一回だけ。一度でも投与してしまったら仮に生存してもその個体は使えない。薬師にもよるけど本当の毒を与えて処分することもある。
「ソフィー殿はどうしてるんだ。やはり、処分するのか」
「そうですね。野生に返すことも出来ませんから処分します」
「生かすという選択はないのか」
「生かしてしまうと愛着がわきます。そうなるとほかの個体を使うことが、動物を実験台に用いることが出来なくなります」
「だから名前も付けないのか」
「付けたらそれこそ愛情を注いでしまいますから」
アリサさんには私が冷酷な魔女のように見えているんだろうな。怒りを押し殺すように私を見つめている。
「私だって罪悪感が無いわけじゃありません。出来ればこんなことしたくない。でも代わりの手段がないんです。アリサさんが代わりを務めますか?」
「そ、それは――」
「そういうことなんですよ。人間に使う薬の材料です。本来なら人間相手に試すのが筋です。でもそれは出来ない。そうでしょ?」
「…………」
「それに、患者さんが集中したら治療の優先順位を決める必要があります。結果として失われる命があったとしても、それを承知の上で選別しなければいけない。薬師って残酷な生き物なんですよ」
私が薬師を目指すと言った時に師匠から言われた最初の言葉です。残酷になる覚悟がなければ薬師にはなれません。
「例えとはいえ、アリサさんを例にしたのは間違ってました。すみませんでした」
「それは気にしてない。アタシこそ悪かった。ソフィー殿の気持ちも知らずに興味本位で訊いてしまった」
「いずれ話そうとは思ってましたから。さ、片付けを再開しましょう」
部屋中を漂う気まずい空気をかき消そうと深呼吸をして薬草棚の整理を再開する私。いずれ言わなきゃとは思っていたけど、いざ口にするとやっぱり心が沈んだ気分がする。裏庭で薪を割ってくれているエドにはもう少し時間を空けて話した方が自分のためによさそうです。
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