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Karte8: 風邪って他人にうつすと治るよね
第33話 お宅訪問?
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新年を迎えて数日。昨日まで降っていた雪も止み、青く澄み切った空が広がる冬晴れある日の午後。
「まったく。薬局の店員が風邪なんて聞いて呆れるよね」
「うるせぇー。最近寒かったんだから仕方ねぇだろ」
「はいはい。それだけ喋れたら大丈夫だね。お昼になっても来ないから心配したんだよ」
「悪かったよ」
「いま薬作るからちょっと待ってね」
「飲まなきゃダメか」
「一応、熱あるし咳も出てるからねぇ。あ、苦いのダメなら蜂蜜混ぜてあげようか?」
「子供じゃねぇぞ」
「じゃあ、とびっきり苦いやつを作ってあげるね」
ベッドで横になるエドを前に少し意地悪を言う私は薬局から持ってきた薬草を使って風邪薬の調薬を始めます。まさか新年最初の患者がエドだとは思わなかったよ。
お昼になっても薬局に来ないエドを心配し、彼の家まで様子を見に来たのは1時間ほど前。さほど苦しそうには見えなかったけど、昨夜から熱があって朝も起きれなかったらしいです。そういえば昨日、ちょっと元気がなかった気がするな。
「なぁ、ソフィー?」
「なに?」
「どうしても飲まないとダメか」
「そんなに苦手なの?」
「おまえが作る薬ってさ、薬草を粉にしたやつだろ。どう考えても苦いだろ」
「良薬は口に苦し、だよ――よしっ。完璧」
エドが駄々をこねてるうちに薬は完成。これだけ会話できるなら必要ないかもしれないけど、1回は飲んでもらうからね。
「これ飲んで寝れば明日には完全復活すると思うよ」
「拒否権行使ってのは?」
「認めません。ハイこれお水。ちゃんとシュガーシートも入れたから」
「わかったよ――――う、苦ぇー」
「子供用じゃないからねぇ。あとはゆっくり眠れば大丈夫だよ」
薬を飲み込んだ途端、苦虫を嚙み潰したような顔をするエド。そんな彼に少しだけ優しさを見せる私は薬箱に道具をしまいます。普通ならこのまま薬局へ戻るところだけど、今日はこのままエドの傍にいてあげようかな。
「帰らないのか?」
「今日はここに泊まるよ」
「そうか……はぁ⁉」
「ちょっと! 風邪ひいてるんだからちゃんと寝なきゃダメでしょ」
「帰れよ」
「熱発疹の時に言ったでしょ。全力で看病するって」
「うつったらどうするんだよ」
「風邪は他人にうつすと治るって言うよね」
心配するエドをよそに呑気なことを言う私はかばんから学術書を取り出します。年末にセント・ジョーズ・ワートへ行った際に買った医師向けの症例集だけど、結構読み応えあるんだよね。
「また医術書かよ。ほんと好きだな」
「追い出さないんだ」
「うつっても文句言うなよ」
「言わないよ。エドも寝た方が良いよ」
「おまえがいるのに寝れるかよ」
「女の子がいると緊張する?」
「するに決まってるだろ。ソフィーが無防備すぎるんだよ」
「エドは人畜無害だからね。無防備でいられるんだよ」
いまでこそこんな感じだけど、エドと知り合って最初の頃はそれなりに警戒してたと思うんだけどな。まぁ、すぐ誰かを傷付けたりしないってわかったけどね。
「眠れないなら帰ろうか?」
「いや、大丈夫だ」
「それなら良いけど」
「なんだよ」
「ねぇ、エドって一人で住んでるの?」
「おまえ、寝させるつもりねぇだろ。普段は一人だな。二人とも行商で国中を回ってるんだ」
「そうだったんだ」
「ああ。だから帰ってくるのは年に数回。この間帰ってきたのはハンスさんとこ行ってた時だから10月だな」
「ハンスさんのところって……え? あの時?」
なんか悪いことしたかな。年に数回しか会えないのに、その貴重な機会を奪っちゃったんだよね。
「ごめんね」
「なんで謝るんだよ。別に毎回会わなくても良いだろ」
「会えるなら会った方が良いよ。これは私の経験談だから」
「……そうだったな。ソフィーは会いたくても会えないんだよな。わるい」
「謝る必要ないよ。いまは師匠がいるし、エドやアリサさんもいるんだから全然寂しくないよ」
「そっか」
「さすがに少し休んだ方が良いかな」
「休ませてくれないのは誰だよ」
「何か食べる? 作るよ」
「ほんと寝させる気ないな。いまは良い。ありがとな」
「お礼なんていらないよ。隣の部屋使っても良い?」
「好きに使ってくれ」
「ありがと。じゃあ、隣にいるから必要な時は呼んでね」
「そうさせてもらう」
「それじゃ、お大事にね」
読みかけの症例集を片手に隣室に移動する私。ドアを開けた瞬間、フワッと舞い上がった埃に思わず咽てしまいました。
「――うわ。これじゃ空き家同然だよ」
多分普段は使っていないんだろうな。壁際に机と椅子だけがあるだけで他に家具らしいものは何一つありません。壁一つ隔てたエドの部屋とは雲泥の差です。
「……本当に一人なんだ」
この様子だとエドのご両親は帰ってくると言っても立ち寄る程度なんだろうな。勝手な想像だけど、そう思うと少し切なくなります。
「考えてみればエドのことって意外と知らないよね」
出会ってもうすぐ1年になるけど、思えば村長さんの孫ってこと以外はエドのことをよく知らない。エドが風邪をひかなかったら一人暮らしだったことも知ることはなかったと思います。
そういえば最初の頃、エドとはよく喧嘩していたな。ドアを閉める音がうるさいとか患者さんへの接し方とか、ほんと些細なことで言い争っていたよね。でも喧嘩はしても互いのことを話す機会ってなかったな。
「――なにやってるんだろ。私」
毎日のように一緒にいるから知ってる気になっていた。私のことをちゃんと話したのだってオイスターモドキの時だったっけ。これじゃ雇い主失格だし、友人とか言う以前の問題じゃないの?
私は友人と言える相手はほとんどいません。それを隠すつもりはないし、隠す必要もないと思ってます。ジギタリス出身っていうのもあるけど、王都に来てからも師匠にベッタリだったから同年代で友人と言えるのはエドくらい。
「エドって、私のことどう思ってるんだろ」
いつもなら直接聞いてみようと思うけど、今日の私はそういう気になれずにいる。これは聞いて答えが得られるものじゃないよね。それに、
「――私って、エドのことどう思ってるんだろ」
ただの店番要員? 友人? それとも……?
エドの家に来たのは看病をするため。それなのに心の中にモヤっとした何かが生まれた私は日が沈み始めた窓の外を見つめました。
「まったく。薬局の店員が風邪なんて聞いて呆れるよね」
「うるせぇー。最近寒かったんだから仕方ねぇだろ」
「はいはい。それだけ喋れたら大丈夫だね。お昼になっても来ないから心配したんだよ」
「悪かったよ」
「いま薬作るからちょっと待ってね」
「飲まなきゃダメか」
「一応、熱あるし咳も出てるからねぇ。あ、苦いのダメなら蜂蜜混ぜてあげようか?」
「子供じゃねぇぞ」
「じゃあ、とびっきり苦いやつを作ってあげるね」
ベッドで横になるエドを前に少し意地悪を言う私は薬局から持ってきた薬草を使って風邪薬の調薬を始めます。まさか新年最初の患者がエドだとは思わなかったよ。
お昼になっても薬局に来ないエドを心配し、彼の家まで様子を見に来たのは1時間ほど前。さほど苦しそうには見えなかったけど、昨夜から熱があって朝も起きれなかったらしいです。そういえば昨日、ちょっと元気がなかった気がするな。
「なぁ、ソフィー?」
「なに?」
「どうしても飲まないとダメか」
「そんなに苦手なの?」
「おまえが作る薬ってさ、薬草を粉にしたやつだろ。どう考えても苦いだろ」
「良薬は口に苦し、だよ――よしっ。完璧」
エドが駄々をこねてるうちに薬は完成。これだけ会話できるなら必要ないかもしれないけど、1回は飲んでもらうからね。
「これ飲んで寝れば明日には完全復活すると思うよ」
「拒否権行使ってのは?」
「認めません。ハイこれお水。ちゃんとシュガーシートも入れたから」
「わかったよ――――う、苦ぇー」
「子供用じゃないからねぇ。あとはゆっくり眠れば大丈夫だよ」
薬を飲み込んだ途端、苦虫を嚙み潰したような顔をするエド。そんな彼に少しだけ優しさを見せる私は薬箱に道具をしまいます。普通ならこのまま薬局へ戻るところだけど、今日はこのままエドの傍にいてあげようかな。
「帰らないのか?」
「今日はここに泊まるよ」
「そうか……はぁ⁉」
「ちょっと! 風邪ひいてるんだからちゃんと寝なきゃダメでしょ」
「帰れよ」
「熱発疹の時に言ったでしょ。全力で看病するって」
「うつったらどうするんだよ」
「風邪は他人にうつすと治るって言うよね」
心配するエドをよそに呑気なことを言う私はかばんから学術書を取り出します。年末にセント・ジョーズ・ワートへ行った際に買った医師向けの症例集だけど、結構読み応えあるんだよね。
「また医術書かよ。ほんと好きだな」
「追い出さないんだ」
「うつっても文句言うなよ」
「言わないよ。エドも寝た方が良いよ」
「おまえがいるのに寝れるかよ」
「女の子がいると緊張する?」
「するに決まってるだろ。ソフィーが無防備すぎるんだよ」
「エドは人畜無害だからね。無防備でいられるんだよ」
いまでこそこんな感じだけど、エドと知り合って最初の頃はそれなりに警戒してたと思うんだけどな。まぁ、すぐ誰かを傷付けたりしないってわかったけどね。
「眠れないなら帰ろうか?」
「いや、大丈夫だ」
「それなら良いけど」
「なんだよ」
「ねぇ、エドって一人で住んでるの?」
「おまえ、寝させるつもりねぇだろ。普段は一人だな。二人とも行商で国中を回ってるんだ」
「そうだったんだ」
「ああ。だから帰ってくるのは年に数回。この間帰ってきたのはハンスさんとこ行ってた時だから10月だな」
「ハンスさんのところって……え? あの時?」
なんか悪いことしたかな。年に数回しか会えないのに、その貴重な機会を奪っちゃったんだよね。
「ごめんね」
「なんで謝るんだよ。別に毎回会わなくても良いだろ」
「会えるなら会った方が良いよ。これは私の経験談だから」
「……そうだったな。ソフィーは会いたくても会えないんだよな。わるい」
「謝る必要ないよ。いまは師匠がいるし、エドやアリサさんもいるんだから全然寂しくないよ」
「そっか」
「さすがに少し休んだ方が良いかな」
「休ませてくれないのは誰だよ」
「何か食べる? 作るよ」
「ほんと寝させる気ないな。いまは良い。ありがとな」
「お礼なんていらないよ。隣の部屋使っても良い?」
「好きに使ってくれ」
「ありがと。じゃあ、隣にいるから必要な時は呼んでね」
「そうさせてもらう」
「それじゃ、お大事にね」
読みかけの症例集を片手に隣室に移動する私。ドアを開けた瞬間、フワッと舞い上がった埃に思わず咽てしまいました。
「――うわ。これじゃ空き家同然だよ」
多分普段は使っていないんだろうな。壁際に机と椅子だけがあるだけで他に家具らしいものは何一つありません。壁一つ隔てたエドの部屋とは雲泥の差です。
「……本当に一人なんだ」
この様子だとエドのご両親は帰ってくると言っても立ち寄る程度なんだろうな。勝手な想像だけど、そう思うと少し切なくなります。
「考えてみればエドのことって意外と知らないよね」
出会ってもうすぐ1年になるけど、思えば村長さんの孫ってこと以外はエドのことをよく知らない。エドが風邪をひかなかったら一人暮らしだったことも知ることはなかったと思います。
そういえば最初の頃、エドとはよく喧嘩していたな。ドアを閉める音がうるさいとか患者さんへの接し方とか、ほんと些細なことで言い争っていたよね。でも喧嘩はしても互いのことを話す機会ってなかったな。
「――なにやってるんだろ。私」
毎日のように一緒にいるから知ってる気になっていた。私のことをちゃんと話したのだってオイスターモドキの時だったっけ。これじゃ雇い主失格だし、友人とか言う以前の問題じゃないの?
私は友人と言える相手はほとんどいません。それを隠すつもりはないし、隠す必要もないと思ってます。ジギタリス出身っていうのもあるけど、王都に来てからも師匠にベッタリだったから同年代で友人と言えるのはエドくらい。
「エドって、私のことどう思ってるんだろ」
いつもなら直接聞いてみようと思うけど、今日の私はそういう気になれずにいる。これは聞いて答えが得られるものじゃないよね。それに、
「――私って、エドのことどう思ってるんだろ」
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