感情のない君と愛を知らない僕

詩乃

文字の大きさ
1 / 1

彼女との出会い

しおりを挟む
 「ありがとう。」
 そう言って笑った彼女の顔は、何かを無理矢理に押し込めたような感じがして、
 「無理してないですか。」
 と、言葉が口から自然と出てきた。
 その言葉から彼女と僕の関係は始まった。

 秋、というには暑すぎる9月末。僕はすっかり着なれた制服を着て図書室に向かっていた。図書室は僕がいる校舎とは繋がっていないため、一度階段を下りなければならない。ただ、僕の入っている島崎#しまさき#高校は私立のため、本の種類が異様なほど揃っている。その図書室が入っている校舎は文系クラスの文系棟とは繋がっている。僕たち理系クラスの理系棟はなぜか繋がっていない。理系だって本は借りるんだと、声を大にして言いたい。まあ僕も行っているのはテスト前だけなのだが。そして僕は図書室で借りた本を図書室の下、自習室で勉強しているので図書室に行っていないと言われたらそうだとも言える。ただ今日は図書室内にある自習スペースで勉強しようと思う。そのスペースは学年毎に使えるところが決まっており、机の上にある札とネクタイの色が同じところしか使えない。僕たち1年はネクタイの色が蒼。だから蒼のところしか使えないわけだ。そしてその広さは学年が上がる毎に広くなっていく。今のところは6人がけの机一つ分だ。実際1年はあまり使っていないので僕が独り占めすることになるだろう、と思いながら「読書の秋」というポスターが貼ってある扉を勢いよく開ける。ポスターのはためきがおさまると、自習スペースが見えた。その場所には僕の思考とは裏腹に、一人の女の子がいた。ネクタイは蒼。黙々と本を読み進めている。僕は本棚から本を数冊取り出して、彼女の邪魔をしないように勉強を始める。互いに互いを気にせず、自分のしたいことをする。僕は集中して問題を解き進めていると、
 (キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン 完全下校まであと10分です 校内の生徒は直ちに下校の準備をしてください。)
 もうそんな時間か。ずいぶん長く勉強したな。そう思い、片付けようと立ち上がると、彼女も本を片付けに立ち上がった。僕は参考書をもとあった場所に戻し、机に戻ると一冊の本が置いてあった。それは貸出用のバーコードがなく、彼女が座っていた座席のところに置いてあったため、置き忘れたのだろうと思った。扉の方をふと見ると彼女が出ていくところだった。
 「待ってください。この本。」
 彼女を追いかけて本を渡す。すると彼女ははにかみながら
 「ありがとう。」
 と言った。そして冒頭に戻る。無理して笑ったような顔を見て、僕が自然と
 「無理してないですか。」
 と聞くと、彼女は唐突に無表情になり、
 「なんで」
 と微かに呟いた。僕が「え?」と聞き返すと、
 「何でばれたの。私に感情が無いこと。」
 僕は無理している感じだと思っただけなのだが、なにか誤解が生まれているようだ。僕がその事を伝えると、
 「そうだったの… まぁいいわ。言ってしまったものは仕方がない。そんな知ってしまった貴方にお願いがあるの。手伝ってくれないかしら。私に感情が芽生えるように。」
 僕は突拍子もないことに巻き込まれてしまったようだ。僕はそのお願いを受け入れることを伝えると同時に、1つ質問をした。
 「君の名前は何て言うの?」
 少しの空白。その後に、
 「私は加藤 咲#かとうさき#。貴方は?」
 「僕は山手 貴明#やまてたかあき#よろしく。」
 その後、僕達は2つ約束を決めた。1つは、この事を誰にも言わないこと。1つは、平日の放課後、図書室で会うこと。この日から僕達は毎日図書室で待ち合わせをする仲となった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

卒業パーティーのその後は

あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。  だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。   そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

妻が通う邸の中に

月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。

処理中です...