超☆能力恋愛バトル

冬原桜

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第一話

転校生は人気者②

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「なに、蒼ちゃんあの子に恋しちゃったの」
 右手で転校生を指差しながら、樹は、クリスマスの朝を迎えた小さな子どものように輝かせた目を蒼へ向ける。
 蒼はこくりと頷くことしかできない。「へえ……」樹は少し考えて、
「蒼ちゃんの初恋のために、俺があの子のことを調べてあげよう」
「おい! ちょっと、何する気だよ!」
 胸ポケットから取り出したシルバーのモノクルを装着しようとした樹に、慌てて声をかける。
「何って、あの子のこと知りたいでしょ? 俺にできることはするじゃん。友達だろ?」
 樹の超能力は物体透視。透明レンズ越しに人を映し念じることで、物体の向こう側を視ることができる。
「蒼ちゃんの初恋の人のパンツの色はっと……」
「樹が知りたいだけだろそれは!」
 口元をだらしなく緩ませた樹のモノクルを取り上げようとするが、素早くかわされる。
「あれ」
 怪訝そうに呟いた樹の側頭部に、何かがぶつけられ、樹はモノクルを取り落としそうになる。蒼の足元まで転がってきたのは、丸められたプリントだ。蒼は拾い上げて、中に殴り書かれた字を読みあげる。
「馬鹿 最低 死ね 馬鹿 だって」
 蒼と樹が斜め後ろを振り向くと、双子が怖い目をしてこちらを見ている。姉の牧野まきの愛子あいこは口パクで「ばか」と伝えてくるし、妹の結子ゆいこは口元をへの字に曲げて引いている。
「ちっ、バリアか」
 樹が舌打ちして、つまらなさそうにモノクルを胸ポケットへしまった。
 双子の能力は、互いが半径二メートル以内にいることが発動条件で、姉の愛子は十秒先までの鮮明な未来予知、妹の結子は超能力を無効化する超能力バリアの力を持っている。どうやら樹が瑚白を透視しようとする未来を愛子に予知され、結子にバリアで防がれたようだ。



 しっかり一本煙草を吸い切った早瀬は、ようやく教壇に戻った。横に立つ瑚白は、まるでそこだけ時が止まっているかのように、じっとしている。
「席は……、そこだろうな」
 早瀬は右手に持ったボールペンで、後ろの方を指す。
「僕の横ですかね」
 机は横に六列、縦に四列。二十五人の生徒の内、一番後ろで一人だけ席が飛び出している人物が、穏やかに笑う。草間くさま礼也れいや――通称、王子は、クラス一女性人気が高いモテ男だ。一重で少し垂れた目は柔らかい雰囲気で、左の目元には泣きぼくろがあり、これが女性から見ると色気を感じるらしい。
「そう、そこね。流希るき、体育館裏倉庫から、机と椅子とってくれない」
 早瀬がかけた声に、廊下側一番後ろの席に座る一井いちい流希るきは、俯いたまま答えない。どうやら耳に入っていないようで、ノートに向かって一心不乱に何かを書いている。前の席の委員長が、流希の肩をたたくとようやく顔を上げた。早瀬の言葉をもう一度伝えると、頷く。
 流希は立ちあがると、右手に持った万年筆で、王子の横に大体一メートルくらいの正方形を書く。流希がその正方形を両手で押すと、空間が万年筆の線に沿って切り取られ、扉のように開いた。その先の真っ暗な空間に流希が手を伸ばす。暗闇から、皆と同じ机と椅子を取り出した。空間を閉じると、万年筆で切り取った線は跡形もなく消えた。
 流希の超能力はアポーツ。何もない空間を万年筆で切り取り、そこから任意の物体を取り出すことができる。流希の頭の中に物体の姿かたちと、それがある場所を詳細に思い描ける場合のみ有効だ。その能力はまるで四次元ポケット。
 流希は席に戻り、何事もなかったかのようにまたノートに向かってペンを走らせ始めた。
 用意された机と椅子の位置を、王子が整える。瑚白が席へ向かうと、王子は王子らしく椅子を引いてエスコートした。

 窓際前から二番目に座った蒼は、教室の後ろへ歩いていく瑚白を目で追いかける。隣に座った王子は、早速友好的な笑顔で瑚白に話しかけていた。
 蒼の口から自然と溜め息が漏れる。
「転校生に、初めての恋。少女漫画なら隣の席がお約束なのに……」
「ま、人生そんな甘くはねえわな」
 横から樹が笑う。「しかも隣はあの王子」と、余計なことまでつけ足してくる。
「でも、僕頑張るよ。すごく気になって仕方がない。あの子のことを知りたい。どうにかしてお近づきに……」

 蒼の脳内で、ふっと妄想が広がる。優しい風が吹く草原で、蒼は瑚白と向かい合っている。一歩、一歩、と二人の距離が近づき、微笑み合う。蒼が腕を首元に回すと、瑚白も距離を縮めるように蒼の腰にきゅっと手を回す。力はくすぐったいくらいに弱くて、温かい。彼女の色が、蒼の体の中に入ってくる。とても近い距離で、じっと見つめ合った後、瑚白が静かに目を閉じて……。

「おい、変な妄想してるだろ」
 恍惚とする蒼の横で、樹が気味悪そうに言った。
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