9 / 10
第一話
転校生は人気者⑧
しおりを挟む
翌日、蒼は暗い気持ちで登校していた。
いつもと変わらず、早い時間に来たため、教室には蒼一人。自分の席について、黒板の上にかけられた時計を眺めていた。時刻は七時四十五分。
校外で偶然会うという降って沸いたような幸運に舞い上がっていたが、現実はそう甘くないということを、冷静になってみて実感する。
今後また、二人きりになれたあの奇跡のような時間が訪れるとは限らないけど、こればかりは自分なりに努力するしかない。と、蒼は前向きに考え直した。
そんな下心とは別にして、あの猫のことを蒼は心配している。
瑚白が見た今日、その猫は河川敷にいない。悪い想像をすればきりがないし、誰か優しい人に引き取られてあの猫が幸せに暮らしていくことになったとしても、蒼と瑚白にその未来を知る術はない。
随分暗くなるまで、猫のことをじっと見ていた瑚白のことを思い出す。きっと、寂しく感じたに違いない。蒼自身も、ほんの少しの間面倒を見ただけのあの子猫ともう会えないと思うとなんだか切ないし、元気でいてほしいと未来を案じるほどには愛着がわいてしまっている。
今日はきっと落ち込んでいるだろうから、気分が明るくなる話でもできたらいいな。蒼は、なにか話題がないかと考えながら、瑚白が登校してくるのを待った。
「今日も早いね、蒼ちゃんは」
登校してきた樹が、こちらを向いて椅子に座る。
「ん、まあね」
蒼が時計を確認すると、八時を少し過ぎたところ。振り向いてみるが、瑚白はまだ来ていない。昨日はもう少し早くに来ていたのに。
「転校生、まだ来てないねー」
蒼の視線に気づき、樹も後ろを振り返って言った。
「そうだね……」
「蒼なんか暗くない? もしかして、もうフラれた?」
「フラれてないわ!」
無神経な樹に、蒼は思わず声を大きくする。
「まあ、そう怒りなさんな」
樹は、けけっと笑う。
始業の時刻を迎えても瑚白は登校せず、ホームルームで早瀬から、瑚白が体調不良で欠席だということがクラスに伝えられた。
蒼は心配になる。昨日、遅くまでずっと外にいたからだろうか。昼間は暖かくなってきたが、四月中旬の夜はまだまだ肌寒い。もしくは、転校して慣れない環境からくるストレス性の不調だろうか。それとも、あの猫との別れが、よほど精神的なダメージだったのだろうか。蒼はいてもたってもいられないが、どうすることもできない。ただ、一日中、瑚白のことを考えていて、授業が全く耳に入らなかった。
「蒼、今日ひまだよね?」
放課後、樹は断定的な言い方で蒼に聞いた。
「なんで決めつけるんだよ」
「予定あるの?」
「……ないけど」
河川敷へ行くつもりだった。欠席している瑚白の様子が気になって仕方がないが、家を訪問するわけにはいかないし、そもそも家は知らない。ただ、昨日、瑚白は河川敷に来たけど猫はいなかったという未来を見たと言っていた。つまり今日、瑚白が河川敷にいる時間が存在するはずだ。可能性は低いが、行ってみればもしかしたら会えるかもしれない。
その話を樹にしたくなかったため、思わず予定はないと言ってしまった。
「だよね。じゃあ、俺と一緒に来なさい。ポテトおごってやる」
「……うん」
「よし、いこうぜ。元気ない蒼ちゃんは面白くない」
樹が蒼の肩を抱く。蒼が一日中物思いに耽っていたため、どうやら心配してくれているようだ。
「俺が恋の相談に乗ってやろうではないか」
バンバンと肩を叩く樹は、やはり心配ではなく、面白がっているのかもしれない。
樹とよく訪れるファストフードは、山のふもと辺りにあった。
店内に入って、フライドポテトをおごってもらったのは約束通りだったが、あとは蒼の相談に乗るどころか、樹の下品な話を延々と聞かされ、そういうときに男はどう動くべきか、ということを、頼んでもいないのに詳細にレクチャーされた。(頼んではいないが、最後まで聞いた)
樹は自由奔放に喋っていたが、途中で電話がかかってくると、「俺帰るわ、蒼ちゃん元気になったよね?」と、またもや断定的に言い、にこっと笑うと足早に帰っていった。先ほど蒼にレクチャーしていたことを実践するに違いない。
蒼は溜め息を吐いて、残りのフライドポテト三本をまとめてつまんで口の中に放りこんだ。時刻は十七時。トレイを返却して店を出る。
バス停で待つ時間は五分ほどで済んだ。市バスに乗り、一般学校を超え、川を渡ったところのバス停で下車する。
橋の横の階段を下りる。猫がいた橋は一丁先だが、河川敷を歩いていくことにした。道は真っ直ぐで見通しがいいし、前方に意識を向けていれば、遠くだとしても瑚白がいたらわかる。バスで迂回している間にすれ違ってしまうことは避けたかった。
目を凝らすが、人の姿はない。前方にも気を配りつつ、地面や川の向こうにも時折視線をやる。万が一にもあの子猫が移動していたら必ず見つけなければ。
もしここであの子猫ともう一度会うことができたら、瑚白との接点を取り戻せるのではないか、という邪な雑念があった。
小心な蒼にとって、子猫の世話をするという大義名分のもと瑚白と会える環境は、二日で失うのは大変惜しいものだった。
注意深く視線を動かすが、瑚白の姿もなければ、猫の姿もない。幾人かの、ランニング中の男女が横を通り過ぎていっただけだ。
あっという間に一丁先の橋の下までついてしまう。瑚白の隣で、しゃがんで箱の中の猫を覗いていたところ。そこには、昨日いた猫はおらず、ブランケットの入った箱も見当たらなかった。瑚白もいない。彼女はもう来たのだろうか、それともまだ来ていないのだろうか。
蒼は念のため、その橋の下を通りすぎ、さらに向こうの橋まで歩いたが、猫とも瑚白とも会えることはなく、結局何も情報を得ることはできなかった。
蒼は来た道をとぼとぼと戻る。日が落ちて夜がやってきている。やはり猫は諦めるしかなさそうだ。瑚白とお近づきになる方法は、また別に考えよう。蒼は未練がましく視線を周囲にきょろきょろとやりながら時間をかけて歩いたが、蒼の期待に応えるような奇跡は起きなかった。
いつもと変わらず、早い時間に来たため、教室には蒼一人。自分の席について、黒板の上にかけられた時計を眺めていた。時刻は七時四十五分。
校外で偶然会うという降って沸いたような幸運に舞い上がっていたが、現実はそう甘くないということを、冷静になってみて実感する。
今後また、二人きりになれたあの奇跡のような時間が訪れるとは限らないけど、こればかりは自分なりに努力するしかない。と、蒼は前向きに考え直した。
そんな下心とは別にして、あの猫のことを蒼は心配している。
瑚白が見た今日、その猫は河川敷にいない。悪い想像をすればきりがないし、誰か優しい人に引き取られてあの猫が幸せに暮らしていくことになったとしても、蒼と瑚白にその未来を知る術はない。
随分暗くなるまで、猫のことをじっと見ていた瑚白のことを思い出す。きっと、寂しく感じたに違いない。蒼自身も、ほんの少しの間面倒を見ただけのあの子猫ともう会えないと思うとなんだか切ないし、元気でいてほしいと未来を案じるほどには愛着がわいてしまっている。
今日はきっと落ち込んでいるだろうから、気分が明るくなる話でもできたらいいな。蒼は、なにか話題がないかと考えながら、瑚白が登校してくるのを待った。
「今日も早いね、蒼ちゃんは」
登校してきた樹が、こちらを向いて椅子に座る。
「ん、まあね」
蒼が時計を確認すると、八時を少し過ぎたところ。振り向いてみるが、瑚白はまだ来ていない。昨日はもう少し早くに来ていたのに。
「転校生、まだ来てないねー」
蒼の視線に気づき、樹も後ろを振り返って言った。
「そうだね……」
「蒼なんか暗くない? もしかして、もうフラれた?」
「フラれてないわ!」
無神経な樹に、蒼は思わず声を大きくする。
「まあ、そう怒りなさんな」
樹は、けけっと笑う。
始業の時刻を迎えても瑚白は登校せず、ホームルームで早瀬から、瑚白が体調不良で欠席だということがクラスに伝えられた。
蒼は心配になる。昨日、遅くまでずっと外にいたからだろうか。昼間は暖かくなってきたが、四月中旬の夜はまだまだ肌寒い。もしくは、転校して慣れない環境からくるストレス性の不調だろうか。それとも、あの猫との別れが、よほど精神的なダメージだったのだろうか。蒼はいてもたってもいられないが、どうすることもできない。ただ、一日中、瑚白のことを考えていて、授業が全く耳に入らなかった。
「蒼、今日ひまだよね?」
放課後、樹は断定的な言い方で蒼に聞いた。
「なんで決めつけるんだよ」
「予定あるの?」
「……ないけど」
河川敷へ行くつもりだった。欠席している瑚白の様子が気になって仕方がないが、家を訪問するわけにはいかないし、そもそも家は知らない。ただ、昨日、瑚白は河川敷に来たけど猫はいなかったという未来を見たと言っていた。つまり今日、瑚白が河川敷にいる時間が存在するはずだ。可能性は低いが、行ってみればもしかしたら会えるかもしれない。
その話を樹にしたくなかったため、思わず予定はないと言ってしまった。
「だよね。じゃあ、俺と一緒に来なさい。ポテトおごってやる」
「……うん」
「よし、いこうぜ。元気ない蒼ちゃんは面白くない」
樹が蒼の肩を抱く。蒼が一日中物思いに耽っていたため、どうやら心配してくれているようだ。
「俺が恋の相談に乗ってやろうではないか」
バンバンと肩を叩く樹は、やはり心配ではなく、面白がっているのかもしれない。
樹とよく訪れるファストフードは、山のふもと辺りにあった。
店内に入って、フライドポテトをおごってもらったのは約束通りだったが、あとは蒼の相談に乗るどころか、樹の下品な話を延々と聞かされ、そういうときに男はどう動くべきか、ということを、頼んでもいないのに詳細にレクチャーされた。(頼んではいないが、最後まで聞いた)
樹は自由奔放に喋っていたが、途中で電話がかかってくると、「俺帰るわ、蒼ちゃん元気になったよね?」と、またもや断定的に言い、にこっと笑うと足早に帰っていった。先ほど蒼にレクチャーしていたことを実践するに違いない。
蒼は溜め息を吐いて、残りのフライドポテト三本をまとめてつまんで口の中に放りこんだ。時刻は十七時。トレイを返却して店を出る。
バス停で待つ時間は五分ほどで済んだ。市バスに乗り、一般学校を超え、川を渡ったところのバス停で下車する。
橋の横の階段を下りる。猫がいた橋は一丁先だが、河川敷を歩いていくことにした。道は真っ直ぐで見通しがいいし、前方に意識を向けていれば、遠くだとしても瑚白がいたらわかる。バスで迂回している間にすれ違ってしまうことは避けたかった。
目を凝らすが、人の姿はない。前方にも気を配りつつ、地面や川の向こうにも時折視線をやる。万が一にもあの子猫が移動していたら必ず見つけなければ。
もしここであの子猫ともう一度会うことができたら、瑚白との接点を取り戻せるのではないか、という邪な雑念があった。
小心な蒼にとって、子猫の世話をするという大義名分のもと瑚白と会える環境は、二日で失うのは大変惜しいものだった。
注意深く視線を動かすが、瑚白の姿もなければ、猫の姿もない。幾人かの、ランニング中の男女が横を通り過ぎていっただけだ。
あっという間に一丁先の橋の下までついてしまう。瑚白の隣で、しゃがんで箱の中の猫を覗いていたところ。そこには、昨日いた猫はおらず、ブランケットの入った箱も見当たらなかった。瑚白もいない。彼女はもう来たのだろうか、それともまだ来ていないのだろうか。
蒼は念のため、その橋の下を通りすぎ、さらに向こうの橋まで歩いたが、猫とも瑚白とも会えることはなく、結局何も情報を得ることはできなかった。
蒼は来た道をとぼとぼと戻る。日が落ちて夜がやってきている。やはり猫は諦めるしかなさそうだ。瑚白とお近づきになる方法は、また別に考えよう。蒼は未練がましく視線を周囲にきょろきょろとやりながら時間をかけて歩いたが、蒼の期待に応えるような奇跡は起きなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい
沢尻夏芽
恋愛
自他共に認める陰キャ・真城健康(まき・けんこう)は、高校入学前に宝くじで10億円を当てた。
それを知る、陽キャ幼馴染の白駒綾菜(しらこま・あやな)はどうも最近……。
『様子がおかしい』
※誤字脱字、設定上のミス等があれば、ぜひ教えてください。
現時点で1話に繋がる話は全て書き切っています。
他サイトでも掲載中。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
転生ヒロインは悪役令嬢(♂)を攻略したい!!
弥生 真由
恋愛
何事にも全力投球!猪突猛進であだ名は“うり坊”の女子高生、交通事故で死んだと思ったら、ドはまりしていた乙女ゲームのヒロインになっちゃった!
せっかく購入から二日で全クリしちゃうくらい大好きな乙女ゲームの世界に来たんだから、ゲーム内で唯一攻略出来なかった悪役令嬢の親友を目指します!!
……しかしなんと言うことでしょう、彼女が攻略したがっている悪役令嬢は本当は男だったのです!
※と、言うわけで百合じゃなくNLの完全コメディです!ご容赦ください^^;
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
なお、スピンオフもございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる