1 / 1
あの笑顔を忘れない「1ページ完結」
しおりを挟む「あの笑顔を忘れない」
あらすじ
5月の席替えの日。
彼女は僕の後ろの席になった。
窓の外には、春の象徴のように八重桜が優雅に咲いていた。
僕が外の桜を眺めていると後ろから肩を叩かれた。僕は驚き声を出してしまった。
僕の反応に彼女は
「触られるのやだったかな?ごめんね、」といった。
僕は慌てて
「そ、そんなことないです。急に触られたからびっくりしただけで、」
というと彼女はそんな慌てている僕を見て笑った。
その笑顔はまるで桜のように美しかった。
桜の花言葉を知っているだろうか、一般的には「優美な女性」などですが「別れ」という人もいるそうだ。
こんなふうに美しくて儚い、桜のようなこの笑顔を、彼女との記憶をーーーー僕は、二度と忘れない。
一章「花言葉」
僕の母親は、花屋をやっている。僕の名前の「葵」も花の名前だそうだ。アオイの花の花言葉は「野心」「大望」「豊かな実り」「気高く威厳に満ちた美」といった意味があるそうだ。
でも、僕の性格は名前とは正反対だ。野心もなければ、気高く威厳に満ちた美しさ――つまり、人を惹きつけるような魅力もない。そんな自分が、親には申し訳なく思えてしまう。
僕は花に関することが好きでずっと花言葉や写真を取っている。
僕の写真フォルダには花の写真がほとんど。
こんな僕はバスケ部に入っているまぁ万年ベンチだからいないのと一緒だけどバスケをするのは好きだ。名前のような人にはなれないかもしれないが頑張って生きていくつもりだ。
最近噂になってる人がいる、女子バスケ部の相澤桜だ――彼女だ。
入学式からいろいろな人から噂を聞いた。僕には縁のない人だ。例えるなら「高嶺の花」とでも言うのだろう。
まるで彼女は夜の満月のように静かに輝いている。
.....まぁ僕には関係ない話だけど。
二章「席替え」
5月の席替えの日、彼女は僕の後ろの席になった。窓の外に映る八重桜は春の象徴のように優雅に咲いている。
そんな桜に見とれていると後ろから肩を叩かれた。
驚きのあまり僕は思わず大きな声を出した。
そんな僕に彼女は
「触られるの嫌だったかな?ごめんね、」
そんな表情に僕は慌てて
「そ、そんなことないです。急に触られてびっくりしただけで、」
そう言うと彼女は笑いながら
「なら良かった、嫌われちゃったかと思った。」
唖然としている僕に彼女は言った
「あのさ武田くんって名前なんて読むの?あおい?それとも別の?」
彼女は不思議そうに聞いた。
僕は「あおいだよ、」と答えた。僕にしては頑張ったほうだ。
「やったー!当たった。ー私の勝ち~!」と嬉しそうにはしゃいでいる。
僕が思っているよりずっと普通の高校生って感じ。
僕の中でのイメージは、気が強くて関わりづらい人だと勝手に思っていた。
でも、実際に話してみると、思ったよりも話しやすくて、子供のような一面もあった。
三章「初めてのTalky」
それからも彼女はずっと話しかけてくれた。
彼女は頭もいいし運動もできる完璧な人だと思っていた、だが実際には忘れ物が多く僕に借りることが多々あった。
そんな一面に僕はどんどん惹かれていった。
だが彼女は学校一の美少女僕なんかには程遠い。
そう思っていた。その日の昼休み彼女からTalkyを教えてほしいと言ってきた。
僕は驚いた。しかしすぐにTalkyを交換した。
初めてのTalkyはとても緊張した。
あまり女の人とTalkyをしたことがない。しかも相手は学校一の美少女。適当に送れるわけがない。
色々考えた結果送った文は
「よろしくお願いします。女の子とあまりTalkyをしたことがなく文が多少変かもしれないですが、その際はご指摘いただけたら嬉しく思います。」
といった内容だ、彼女からの返事は
「そんなに緊張しなくていいよ。(笑)友だちと話している感じで話してくれると嬉しいから」
そう言ってくれた。そんな何気ない一言が嬉しかった。
四章「」
5月の風が、窓からそっと吹き込む。
サクラとのTalkyでのやり取りにも慣れてきたとはいえ、サクラと話すときはやっぱり少し緊張する。
「ねぇ、あおいくんってさ――海、好き?」
昼休み、ふいに彼女がそう言ってきた。
突然の質問に、一瞬考える。
「……うん。なんか懐かしい感じがするから。」
「わかる。 私も好き。波の音とか、ぼーっとできる時間とか」
彼女はうれしそうに笑って、つづけた。
「ねえ、今度の日曜日さ、行ってみない? 海。近いし、たまには、散歩とかもいいかなって」
「え、僕と?」
「他に誰がいるの?」と、呆れたように言った。
約束の日。
僕たちは駅で待ち合わせをして、電車で30分ほどの海辺の街へ向かった。
制服じゃない私服の彼女を見るのは初めてで、なんだか少しドキドキした。
「どう? 私服。変じゃない?」
緊張していたからか少しぎこちなく言った。
「……いや、すごく、似合ってるよ。」
サクラは驚いたように言った。
海に着いた頃には、日差しが少しやわらぎはじめていた。
波の音が心地よく響く。
僕たちは砂浜を歩きながら、たわいのない話をした。部活のこと、クラスのこと、好きな映画、嫌いな食べ物。
どんな話も不思議と弾んだ。
サクラが急に立ち止まって、海の方を見つめた。
「……前にも、一人でここ来たことがあるんだ。ちょっと落ち込んでた時期でさ。
でも、海って何も言わないのに、ちゃんと聞いてくれる感じがして――だから、今日来たかったんだと思う」
「そっか……一緒に来られて、よかった」
その言葉に、サクラは笑った。
まるで-
水に浮かぶ桜の花びらのように。
砂浜の端の堤防に座って、しばらく夕焼けを眺めていた。
空はゆっくりとオレンジ色に染まり、海はそれを反射して揺れていた。
「ねえ、あおいくんってさ、結構モテる方??」
「……うーん、恥ずかしいけど全然、、」
「そっか、もしかして今、気になってる人とかいたりして」
サクラがこちらの顔をのぞかせながら聞いてくる。
彼女の言葉に、心臓が破裂しそうだった。
僕は海の方に視線をそらしながら、そっと言った。
波音がふたりの間の空白を埋めるように響いていた。
「……たぶん、いる。」
「そっか、気になるなぁ~」
サクラは、波音に紛れるようにそう言いながら海に向かっていった。
気づけば、彼女との距離がとても近くなっていた。
帰り道、駅までの坂道を並んで歩いた。
サクラがふいに言った。
「今日、来てよかった。…なんかあおいくん一緒に話してて楽しかった。」
「……僕もだよ。なんか、すごく落ち着くし。サクラといると」
そのとき、彼女は僕の袖を少しだけ引きながら言った。
「じゃあ、またいつか、一緒に行こうね。次は、もっと遠くまで二人で。」
サクラの言葉に心臓が飛び出そうだった。
五章「告白」
僕は席が近くになってからどんどん彼女に惹かれていった。
話しやすく少し子供っぽい一面を持った彼女のことが好きになった。
彼女といると毎日が楽しい。
僕は今日勇気を出し告白して見ることにした。
しかし告白なんてしたことないそこで親友の「高田俊哉」に相談してみることにした。
「なぁ、俊哉。告白って、どう言えばいいんだと思う?」
「……は?お前誰に告白すんの?」
「……」
「マジかよ、お前が?」
「悪いかよ。」
「いや、悪くねーけど。てか、自分の言葉で伝えた方がよくね?」
「手紙とかの方が良いのかなって思ってさ。」
「いや、直接言った方がいいんじゃね? 俺も告白したことねーけど。」
「いいよな、モテるやつは。告白“される”側だから。」
「うるせーよ。」
「……ありがとな。」
そう言って、僕は俊哉のもとを離れた。
昼休みに、屋上に来てくれるよう彼女に伝えた。
ベタだけど、他に思いつかなかった。
昼休み。彼女は少し遅れて屋上にやってきた。
屋上のさっきまでうるさかった蝉の声や風の音がなくなったかのように静まり返った。
彼女は不思議そうな顔で、僕を見つめている。
――今しかない。
「つ、付き合ってください!」
「女の人に告白なんてしたことないから、うまく言えないけど……僕なりに、頑張りました。」
言い終わったあと、心臓の音だけが嫌なほどと大きく聞こえる。
彼女は一拍おいてから、言った。
「……無理です。」
――時が止まった。
視界から色が抜けていく。
でもその直後、彼女は続けた。
「……私からも言いたいことがあるので、言ってもいいですか?」
「……付き合ってくださいっ……//」
――思考が、停止した。
六章「花の名前を忘れた日」
今日はサクラといっしょに帰る。いつも早く終わる部活の時間がやけに長く感じる。
やっと部活が終わり昇降口で待っていると。サクラがこっちに向かってくるのが見えた。
相変わらずきれいな笑顔だ。僕はサクラといっしょに帰った。
帰る途中いつもは気にかけない古い神社や夕日のさす海岸いろいろな場所に行った。気づけばあたりは暗くなり始めていた。
帰り道途中で別れた。これが後悔することになるとは思わなかった。
翌日彼女は学校に来なかった。気になった。そこでサクラの親友の「瀬長霞」に聞いた。
「サクラは?今日どうしたんだ?」
あまりにも心配だったからか言い方が強くなってしまった。
霞は驚いたようにこっちを見つめている。
「どうしたんだよ、早く答えてくれ!」
霞は少し考えてから教室の端で教えてくれた。
「......サクラちゃん昨日事故にあったんだって」
視界が暗くなった。ナイフで刺されたように呼吸が苦しい、体の力が抜けた。世界から音がなくなった。
その日は部活もやらず家に帰り急いでサクラにTalkyでメッセージを送った。
いつもはすぐつく既読がいつになってもつかない。電話にも出ない。
夕日が沈む中霞に聞いたサクラがいる病院に走る。サクラに対する心配の中だんだんあたりが暗くなっていく。
病院についた頃には午後の七時になっていた。急いで病院の中に入り受付の人に聞いた。
「相澤桜って何号室ですか?」
「306号室です。」
僕は聞くなり走り出した。
頭の中に色々な後悔が浮かぶ。
306号室についた。
僕は慎重に病室の重いドアを開けた。
そこには、寝たままのサクラがいた。その周りにはサクラの両親、弟がいた。
視線が心臓を突き刺すようににこっちに向く。
空気が重い。
眠ったままのサクラを見て僕は泣いた声も出なかった。一人で泣いた。その場に座り込んで、
落ち着くとサクラの両親がこっちに来た。
僕のことをそっと立たせ椅子に座らせた。
その目は悲しくも僕を恨んでいるような目に感じた。しかし母親は
「大丈夫落ち着いて」といった
母親から話を聞いた。
サクラの容態
いつなったのか
生きることはできるのか。
サクラは僕と別れたとに事故にあったようだ。意識不明、目を覚ますかもわからないそうだ。
そのことを聞いて謝った必死に謝った謝った、、、
寝たままのサクラの顔にはあの日見た、窓に映った桜のような、太陽のような笑顔はもうどこにもない。
泣いているとサクラの体が動いた...
七章「瞳に映った花火」
サクラの体が動いてから数日後サクラはMRIを受けた。
「一過性脳虚血症」だそうだ。
この病気は脳の血管がつまりそれがまた流れ出すというものいつでも脳梗塞になる可能性がある。
余命というものはないがいつでも死んでしまう可能性があるのだ。
僕はこれを聞いて家で泣いた。目が赤くなり痛くなるまで、
だがサクラといろいろな思い出を作りたいと考えた。
もうすぐ夏休み、僕達はいろいろな場所に行った。
水族館、動物園、プラネタリウム、キャンプいろいろなところに行き色々なことをした。
その間も僕の頭から「一過性脳虚血症」は離れなかった。いつ症状が悪化するかの恐怖にかられていた。
しかし彼女はずっと楽しんでくれた。病気を感じさせないほどの明るい笑顔だった。
花火大会で見た浴衣姿のサクラの姿はとても美しかった。まるでサクラのようだった。
僕はサクラに桜の花の花言葉を教えた。
「サクラの花言葉って知ってるか?」
「えっ、知らない。」
「サクラには「優美な女性」という意味があるんだ。君にぴったりだと思う。」
桜の花言葉のもう一つ「別れ」のことは話さなかった
僕がそういうと花火が打ち上がった。
サクラは静かに言った。
「ありがとう。」
その目には涙が浮かんでいた。その瞳には花火が映っていた。
サクラは思いっきり笑った。
八章「再開」
サクラとは高校を卒業するまで同じクラスだった。ずっとサクラは病気を感じさせまいように明るく振る舞った。
だがその表情には希望があまりないように見えた。高校の卒業式の日桜は満開、花火大会の日に言った「花言葉」を思い出した。
「別れ」彼女は本当に桜のような人だった。
春の一時に咲いてすぐ散ってしまう美しくも儚い本当に桜のような人だった。
僕達は高校を卒業し僕達は別々の場所に行った。必然的に別れるようになってしまった。
だけど一日も忘れたことはない
社会人になって一年が過ぎた頃高校の同窓会が開かれた。
怖かった。彼女が僕のことを覚えているのか、彼女は...生きているのか。
いろいろな葛藤を抱えながら同窓会に向かった。
彼女は...来た。安心した。緊張が一気に吹っ飛んだ。
彼女は店につくなりこっちによってきた。
相変わらず可愛かった。
子供のような笑顔をのぞかせ話しかけてきた。
「覚えてるかな..?」
僕はまた慌てて言った。
「う、うん。覚えてるサクラでしょ。忘れないよ..」
僕の反応に彼女は言った。
「変わんないね。初めて会ったあの日から。」
その言葉に、胸がギュッと締め付けられた。
僕はきっと、ずっと彼女の笑顔に救われてきたのだと思った。
僕は高校を卒業してからなんて連絡したらいいのかわからず送れなかった。
それでも彼女は僕のことを覚えてくれていた。
僕はまたあの日みた笑顔に恋をした。
八章「最後の夏」
夜空に大輪の花が咲いた。
その音が響いたとき、サクラはゆっくりと目を開いた。
「…ついた?」
葵はサクラの手をそっと握り、息を整えながら笑った。
「花火の日に、間に合ってよかった」
車の窓の外では、夏の夜を彩る光が次々と咲いては散っていく。
だがサクラの視線は、外ではなく――葵だけを見つめていた。
「桜、伝えたいことがあるんだ」
葵は震える手で、小さな箱を取り出した。
中には、細い指輪が一つ。
「ずっと、言えなかったけど……結婚しよう。
君がどんな未来を迎えるとしても、俺は君と家族になりたい
出産のあとになってごめん。」
一瞬、サクラの目に戸惑いが浮かぶ。けれど、それはすぐに涙に変わった。
「……ずるいよ、葵。こんなときに……でもね、私も、なりたかった。あなたのお嫁さんに」
僕はそっと指輪を彼女の薬指にはめた。ぴたりと収まったその瞬間、サクラは微笑んだ。
「うん……これで、ちゃんと家族になれたね」
そのとき、赤ん坊の泣き声が車の中の静けさを破った。
小さく、でも力強く泣く命。
「……桜、見て。彩芽だよ。君が命を懸けて産んでくれた、僕たちの子だ」
サクラは、彩芽を抱いて、白い腕でそっと包んだ。
「……あたたかい。……この子、私たちの光だね」
葵は涙をこらえながら頷く。
「『彩芽』って名にした。これからの僕達の「希望」アヤメの花言葉は「希望」
「ふふ……嬉しい。……きっとこの子、名前、似合う子になるよ」
花火が夜空に咲き誇る。
「……ねぇ葵くん。あのときの笑顔、忘れないでね」
彼女の顔に浮かんだのは、優しい、穏やかな笑顔だった。
まるで――永遠を知っていたかのような。
「彩芽」の泣き声が、夜に重なる。
葵はその小さな命を抱きしめながら、車の窓から夜空を見上げた。
「……ああ、忘れないよ。あの笑顔を、ずっと」
夜空に、最後の花火が、音もなく咲いていた。
それからまもなくして
...サクラは死んだ。
9章「あの笑顔を忘れない。」
サクラが死んでから七年が経った。
サクラの死と向き合いながら、ゆっくりとだけど笑顔で生きている。
二人の生活も慣れてきたところだ、子供の彩芽(あやめ)も三歳になった頃だ。
彩芽の名前の由来はアヤメ(アイリス)だ。花言葉は希望これから彩芽僕達の希望となって生きていく。
僕もあの日の言葉を胸に、変わらない日常の中で少しずつ前を向けるようになった。
なぜなら、あのときサクラが見せてくれた笑顔――
涙の中に浮かべた、あの強くて、優しくて、儚くて、
それでも僕を信じてくれた“あの笑顔”が、
今もずっと僕の中で生き続けているからだ。
どんなに辛いことがあっても、僕は忘れない。
あの笑顔を。僕の心を救ってくれた、たったひとつの光を。
そして、これから先もずっと守っていく。
あの笑顔を――忘れないために、生きていく。
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の大きな勘違い
神々廻
恋愛
この手紙を読んでらっしゃるという事は私は処刑されたと言う事でしょう。
もし......処刑されて居ないのなら、今はまだ見ないで下さいまし
封筒にそう書かれていた手紙は先日、処刑された悪女が書いたものだった。
お気に入り、感想お願いします!
好きな人がいるならちゃんと言ってよ
しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話
5年経っても軽率に故郷に戻っては駄目!
158
恋愛
伯爵令嬢であるオリビアは、この世界が前世でやった乙女ゲームの世界であることに気づく。このまま学園に入学してしまうと、死亡エンドの可能性があるため学園に入学する前に家出することにした。婚約者もさらっとスルーして、早や5年。結局誰ルートを主人公は選んだのかしらと軽率にも故郷に舞い戻ってしまい・・・
2話完結を目指してます!
侯爵様の懺悔
宇野 肇
恋愛
女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。
そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。
侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。
その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。
おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。
――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる