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散歩道
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その日は特別な出来事のない、よくある平日だった。
男は昼過ぎ、思い立って買い物に出かけた。いつも使う店が混んでいそうだったため、今日は少し離れた街まで足を伸ばすことにした。電車で数駅。名前は知っているが、実際に降りるのは初めての駅だった。
買い物自体はすぐに終わった。時計を見ると、まだ帰るには早い。せっかく来たのだからと、男は駅とは反対の方向へ歩き出した。知らない街を歩くのは嫌いではない。街にはスーパーやドラッグストア、本屋に整った住宅街とマンション、見慣れない看板、すれ違う人々の表情――どれもが、少しだけ日常から外れた感覚を与えてくれた。
やがて視界が開け、川が見えてきた。河川敷沿いには舗装された散歩道があり、ジョギングをする人や犬を連れた家族が思い思いに行き交っている。男も自然とその流れに乗り、川下へ向かって歩き始めた。
しばらく進むと、大きな橋が現れた。散歩道は橋の手前で緩やかにカーブしているが、その脇に、橋の下を通り抜けられる細い通路があるのが目に入った。正式な道ではなさそうだったが、立ち入りを禁じる看板もない。
それに男は川沿いを歩き、川のせせらぎを聞きたい気分になった。
ほんの出来心だった。
男は足を止め、暗がりになった橋の下を見つめる。なぜか、そちらの方が近道のように思えた。理由はない。ただ、そう感じただけだ。
一歩、影の中へ足を踏み入れる。
その瞬間、背後の川の音が、わずかに遠のいた気がした。
橋の下は思っていたよりも明るかった。コンクリートの柱の隙間から光が入り込み、足元もはっきり見える。男は少し拍子抜けしながら歩き続けた。湿った匂いはあるが、不快というほどでもない。散歩道の延長のようなものだろう、と軽く考えていた。道には空のペットボトルのゴミやタバコの吸い殻のような物も落ちていた。ゴミをポイ捨てする輩はいつの時代もいるのだと心に思った。
数十歩も進まないうちに、男は足を止めた。 前方で、地面が途切れていた。
大きな穴だった。工事中の掘削跡のようにも見えたが、柵もロープもなく、ただぽっかりと口を開けている。中は暗く、底が見えない。覗き込むと、吸い込まれそうな感覚に思わず一歩下がった。
「……なんだ、これ」
驚きはしたものの、恐怖というほどではなかった。幅はせいぜい二メートルほど。助走をつければ飛び越えられそうだ。落ちたらただでは済まないだろうが、無理な挑戦をする必要もない。
男は引き返すことにした。
踵を返し、来た道を振り向いた瞬間、眉をひそめた。
そこにも、大穴があった。
さっきまで何もなかったはずの場所に、同じように地面が崩れ、こちらは先ほどよりも明らかに広い。飛び越えるなど、考えるまでもない。
冗談だろ、と心の中で呟きながら、男は左右を見回した。左手にはコンクリートの斜面が続いているが、角度がきつく、とても登れそうにない。右手には川が流れている。対岸は遠く、泳ぐには現実的ではなかった。
それでも、向こう側には人がいる。
犬を連れて歩く老人、ジョギングをする若者。川の向こうには、マンションやスーパーが見え、見慣れた日常の風景が確かに存在していた。
「すみませんー!あのー!」
男は声を出した。思ったよりも落ち着いた声だった。 だが、誰もこちらを見ない。
もう一度呼ぼうと口を開いたとき、ようやく胸の奥に、言葉にできない違和感が広がり始めていた。
男はもう一度、今度は少し大きな声で呼びかけた。
川の反対を歩く人たちに向かって、助けを求めるつもりだった。
「すみませんー!!!」
声は確かに出ている。自分の耳にもはっきり届く。
だが、誰一人として立ち止まらない。視線すら向けない。まるで、こちらの存在そのものが見えていないかのようだった。
胸の奥がざわついた。
おかしい、と思う。だが同時に、きっと偶然だ、とも考えていた。タイミングが悪かっただけだ。もう一度叫べばいい。そう自分に言い聞かせる。
そのとき、スマートフォンがポケットの中で震えた。通知音に、男は少しだけ安心した。画面を開く。
だが、表示されていたのは圏外の表示と、止まったままの時刻だった。数分前から、まったく動いていない。
再び周囲を見回す。
穴の縁に近づくと、足元の小石が転がり落ち、音もなく闇に消えていった。どれほど深いのか、想像するのをやめた。
「落ち着け……」
自分に言い聞かせるように呟き、男は橋の柱に手をついた。
まずはこの大穴を乗り越えようと考えた。
この程度なら助走を付けて飛べば行けるはずだ。恐らく。
男は後ろの方に目を向けた。目の前の大穴より大きい大穴ギリギリの場所からここまでの距離は充分だ。それに男は飛び越える自信はあったのだ。だが唯一の不安は失敗すればこの大穴に落ちて生命を失うというリスクがあることだ。
死ぬという今までの日常生活で味わうことのない事象がいざ目の前にあることになると、こなせるようなことでもこれ程の恐怖感を与えるものだと初めて理解した。
しかし、やるしかない。
男は助走を付けてスプリンターの選手のようにクラウチングスタートの構えを取った。素人の真似事だがこれが一番速く走れると思ったのだ。
「はぁー………すぅー………ふぅー……」
自分の呼吸でタイミングを合わせる。スタートしたら後は駆け抜けるように飛ぶだけ。頭で分かっていても死への恐怖がチラつき中々踏ん切りが付けられない。
だが腹を括りスタートしなければここから抜け出せない。
「よし……!今だ!」
男はスタートした。脚に力を込めて大穴向かって全速力で走った。いい感じにスピードは乗っていた。
そして大穴の手前で勢いよく飛んだ。だが、思った以上に飛んでいなかった。
男の脚は大穴の先の地面ギリギリのところに着きそうだった。
そして、脚が地面に付いた瞬間一瞬後ろに重力を感じた。
まるで大穴に引きずり込まれるように落ちそうになった。
しかし、男は脚先に全ての力を込めた。火事場の馬鹿力のように前のめりに腹から落ちるように反対側に着いた。
死の淵から生還するかのように男は大穴を越えた。
着地と同時に体が小さく揺れ、土の感触が指先に伝わる。
しばらくその場に倒れ込み、胸の動きを整えた。
「…………生きてる…」
大穴を越えた安堵もつかの間、男は歩みを進めた。
河川敷の道は、いつの間にか幅がだんだんと狭くなっていた。
最初は普通の舗装路だったのに、今や足を踏み外せば川に落ちるような平均台のような細さになってきていた。
両脇は川と繋がっておりその川の水流が流れてきていた。落ちれば確実に水に落ちる。しかし、男の足元の感覚は異常だった。
細い足場に歩を進めるたび、体が揺れる。わずかにバランスを崩すだけで、川の水面に転がり落ちそうになった。だが転がり落ちても水浸しになる程度だと気楽に考えていた。
しかし、川面を覗き込んだ瞬間、男は凍りついた。
水の中で蠢くのは、見慣れた魚ではない。赤く光る鋭い歯を持った細長い大きな魚が、数匹、口をパクパクさせながらゆっくりとこちらを見ていたのであった。
まさか――いや、確かに見える。
日本の河川にはいない、獰猛なピラニアのような魚。しかもサイズもそのピラニアよりも大きかったのだ。
落ちれば終わり。自分の体は、あの歯に食い裂かれるのだ。
心臓が飛び出るように脈打つ。急に降りてきた恐怖がより歩を拒み出させる。
息を整えようとしても、体が硬直して思うように動かない。
手をついてバランスを取り、足を慎重に置く――しかし、小さな石や段差が、恐怖のトリガーになった。
走るしかない。
博打の一手だと思ったがこの状況を打開するにはそれしかなかった。
細くなった道が途切れるのはもう目の前だ。だが、道は細く、両脇には鋭い牙の群れが待つ川。
一歩間違えれば、死が確定する。
男は息を呑み、思い切って足を踏み出した。
細くなった道をただ駆け抜け、一心不乱に広域になってる道にただ走った。
心の奥で「落ちる!」と思った瞬間、身体を地面に転がり込ませるように着地した。
体がアザや擦り傷だらけになったが即座に体を起こす。汗で手が滑る。足元には小さな石が散らばり、痛みもあったが死の恐怖を乗り越えたのだ。
そんな男の目の前に鎮座されてるかのように川沿いを抜けられる階段が見えた。
即座に男は階段を駆け抜け、暗い闇の中から日差しの中に戻ったように、階段を駆け上がったら男は膝をつき、深く息をついた。
まだ太陽は高く、ジョギングする人々も、犬連れの家族も、何事もなかったかのように目の前を行き交う。
だが、ズボンの裾を見ると、一部が欠けて血の跡のように破れていた。
あの魚の歯の痕――現実だったのだ。
男はジョギングしている人に声を張った。
「おい!!危ない! ここは――!」
男は起きたことを全て話した。奈落の大穴を飛び越えたことピラニアのような魚に食い殺されそうになったことを。
しかし通りかかった人々は笑いながら言った。
「冗談でしょう?お兄さん疲れてるんじゃない…?」
道行く人にまた声を掛けた。
「そんなこと起こるわけないでしょこんな近所で」
誰も耳を傾けない。
ふと振り返ると、異空間だったはずの橋下の場所は、補修工事中の普通の河川敷になっていた。
あの道も、大穴も、獰猛な魚も、存在していない――はずだった。
だが、ズボンの裾だけが、確かに現実の証として残っている。
男は違和感を拭いきれなかった。あの異空間がただの幻ではなかったことを、再び噛みしめた。
男はその脚で街の最寄り駅まで歩を進め、街を去っていた。
駅のホームにある掲示板に「ここ最近付近で行方不明者発生」の貼り紙があった。一部が風に流されて揺れていた。
男は昼過ぎ、思い立って買い物に出かけた。いつも使う店が混んでいそうだったため、今日は少し離れた街まで足を伸ばすことにした。電車で数駅。名前は知っているが、実際に降りるのは初めての駅だった。
買い物自体はすぐに終わった。時計を見ると、まだ帰るには早い。せっかく来たのだからと、男は駅とは反対の方向へ歩き出した。知らない街を歩くのは嫌いではない。街にはスーパーやドラッグストア、本屋に整った住宅街とマンション、見慣れない看板、すれ違う人々の表情――どれもが、少しだけ日常から外れた感覚を与えてくれた。
やがて視界が開け、川が見えてきた。河川敷沿いには舗装された散歩道があり、ジョギングをする人や犬を連れた家族が思い思いに行き交っている。男も自然とその流れに乗り、川下へ向かって歩き始めた。
しばらく進むと、大きな橋が現れた。散歩道は橋の手前で緩やかにカーブしているが、その脇に、橋の下を通り抜けられる細い通路があるのが目に入った。正式な道ではなさそうだったが、立ち入りを禁じる看板もない。
それに男は川沿いを歩き、川のせせらぎを聞きたい気分になった。
ほんの出来心だった。
男は足を止め、暗がりになった橋の下を見つめる。なぜか、そちらの方が近道のように思えた。理由はない。ただ、そう感じただけだ。
一歩、影の中へ足を踏み入れる。
その瞬間、背後の川の音が、わずかに遠のいた気がした。
橋の下は思っていたよりも明るかった。コンクリートの柱の隙間から光が入り込み、足元もはっきり見える。男は少し拍子抜けしながら歩き続けた。湿った匂いはあるが、不快というほどでもない。散歩道の延長のようなものだろう、と軽く考えていた。道には空のペットボトルのゴミやタバコの吸い殻のような物も落ちていた。ゴミをポイ捨てする輩はいつの時代もいるのだと心に思った。
数十歩も進まないうちに、男は足を止めた。 前方で、地面が途切れていた。
大きな穴だった。工事中の掘削跡のようにも見えたが、柵もロープもなく、ただぽっかりと口を開けている。中は暗く、底が見えない。覗き込むと、吸い込まれそうな感覚に思わず一歩下がった。
「……なんだ、これ」
驚きはしたものの、恐怖というほどではなかった。幅はせいぜい二メートルほど。助走をつければ飛び越えられそうだ。落ちたらただでは済まないだろうが、無理な挑戦をする必要もない。
男は引き返すことにした。
踵を返し、来た道を振り向いた瞬間、眉をひそめた。
そこにも、大穴があった。
さっきまで何もなかったはずの場所に、同じように地面が崩れ、こちらは先ほどよりも明らかに広い。飛び越えるなど、考えるまでもない。
冗談だろ、と心の中で呟きながら、男は左右を見回した。左手にはコンクリートの斜面が続いているが、角度がきつく、とても登れそうにない。右手には川が流れている。対岸は遠く、泳ぐには現実的ではなかった。
それでも、向こう側には人がいる。
犬を連れて歩く老人、ジョギングをする若者。川の向こうには、マンションやスーパーが見え、見慣れた日常の風景が確かに存在していた。
「すみませんー!あのー!」
男は声を出した。思ったよりも落ち着いた声だった。 だが、誰もこちらを見ない。
もう一度呼ぼうと口を開いたとき、ようやく胸の奥に、言葉にできない違和感が広がり始めていた。
男はもう一度、今度は少し大きな声で呼びかけた。
川の反対を歩く人たちに向かって、助けを求めるつもりだった。
「すみませんー!!!」
声は確かに出ている。自分の耳にもはっきり届く。
だが、誰一人として立ち止まらない。視線すら向けない。まるで、こちらの存在そのものが見えていないかのようだった。
胸の奥がざわついた。
おかしい、と思う。だが同時に、きっと偶然だ、とも考えていた。タイミングが悪かっただけだ。もう一度叫べばいい。そう自分に言い聞かせる。
そのとき、スマートフォンがポケットの中で震えた。通知音に、男は少しだけ安心した。画面を開く。
だが、表示されていたのは圏外の表示と、止まったままの時刻だった。数分前から、まったく動いていない。
再び周囲を見回す。
穴の縁に近づくと、足元の小石が転がり落ち、音もなく闇に消えていった。どれほど深いのか、想像するのをやめた。
「落ち着け……」
自分に言い聞かせるように呟き、男は橋の柱に手をついた。
まずはこの大穴を乗り越えようと考えた。
この程度なら助走を付けて飛べば行けるはずだ。恐らく。
男は後ろの方に目を向けた。目の前の大穴より大きい大穴ギリギリの場所からここまでの距離は充分だ。それに男は飛び越える自信はあったのだ。だが唯一の不安は失敗すればこの大穴に落ちて生命を失うというリスクがあることだ。
死ぬという今までの日常生活で味わうことのない事象がいざ目の前にあることになると、こなせるようなことでもこれ程の恐怖感を与えるものだと初めて理解した。
しかし、やるしかない。
男は助走を付けてスプリンターの選手のようにクラウチングスタートの構えを取った。素人の真似事だがこれが一番速く走れると思ったのだ。
「はぁー………すぅー………ふぅー……」
自分の呼吸でタイミングを合わせる。スタートしたら後は駆け抜けるように飛ぶだけ。頭で分かっていても死への恐怖がチラつき中々踏ん切りが付けられない。
だが腹を括りスタートしなければここから抜け出せない。
「よし……!今だ!」
男はスタートした。脚に力を込めて大穴向かって全速力で走った。いい感じにスピードは乗っていた。
そして大穴の手前で勢いよく飛んだ。だが、思った以上に飛んでいなかった。
男の脚は大穴の先の地面ギリギリのところに着きそうだった。
そして、脚が地面に付いた瞬間一瞬後ろに重力を感じた。
まるで大穴に引きずり込まれるように落ちそうになった。
しかし、男は脚先に全ての力を込めた。火事場の馬鹿力のように前のめりに腹から落ちるように反対側に着いた。
死の淵から生還するかのように男は大穴を越えた。
着地と同時に体が小さく揺れ、土の感触が指先に伝わる。
しばらくその場に倒れ込み、胸の動きを整えた。
「…………生きてる…」
大穴を越えた安堵もつかの間、男は歩みを進めた。
河川敷の道は、いつの間にか幅がだんだんと狭くなっていた。
最初は普通の舗装路だったのに、今や足を踏み外せば川に落ちるような平均台のような細さになってきていた。
両脇は川と繋がっておりその川の水流が流れてきていた。落ちれば確実に水に落ちる。しかし、男の足元の感覚は異常だった。
細い足場に歩を進めるたび、体が揺れる。わずかにバランスを崩すだけで、川の水面に転がり落ちそうになった。だが転がり落ちても水浸しになる程度だと気楽に考えていた。
しかし、川面を覗き込んだ瞬間、男は凍りついた。
水の中で蠢くのは、見慣れた魚ではない。赤く光る鋭い歯を持った細長い大きな魚が、数匹、口をパクパクさせながらゆっくりとこちらを見ていたのであった。
まさか――いや、確かに見える。
日本の河川にはいない、獰猛なピラニアのような魚。しかもサイズもそのピラニアよりも大きかったのだ。
落ちれば終わり。自分の体は、あの歯に食い裂かれるのだ。
心臓が飛び出るように脈打つ。急に降りてきた恐怖がより歩を拒み出させる。
息を整えようとしても、体が硬直して思うように動かない。
手をついてバランスを取り、足を慎重に置く――しかし、小さな石や段差が、恐怖のトリガーになった。
走るしかない。
博打の一手だと思ったがこの状況を打開するにはそれしかなかった。
細くなった道が途切れるのはもう目の前だ。だが、道は細く、両脇には鋭い牙の群れが待つ川。
一歩間違えれば、死が確定する。
男は息を呑み、思い切って足を踏み出した。
細くなった道をただ駆け抜け、一心不乱に広域になってる道にただ走った。
心の奥で「落ちる!」と思った瞬間、身体を地面に転がり込ませるように着地した。
体がアザや擦り傷だらけになったが即座に体を起こす。汗で手が滑る。足元には小さな石が散らばり、痛みもあったが死の恐怖を乗り越えたのだ。
そんな男の目の前に鎮座されてるかのように川沿いを抜けられる階段が見えた。
即座に男は階段を駆け抜け、暗い闇の中から日差しの中に戻ったように、階段を駆け上がったら男は膝をつき、深く息をついた。
まだ太陽は高く、ジョギングする人々も、犬連れの家族も、何事もなかったかのように目の前を行き交う。
だが、ズボンの裾を見ると、一部が欠けて血の跡のように破れていた。
あの魚の歯の痕――現実だったのだ。
男はジョギングしている人に声を張った。
「おい!!危ない! ここは――!」
男は起きたことを全て話した。奈落の大穴を飛び越えたことピラニアのような魚に食い殺されそうになったことを。
しかし通りかかった人々は笑いながら言った。
「冗談でしょう?お兄さん疲れてるんじゃない…?」
道行く人にまた声を掛けた。
「そんなこと起こるわけないでしょこんな近所で」
誰も耳を傾けない。
ふと振り返ると、異空間だったはずの橋下の場所は、補修工事中の普通の河川敷になっていた。
あの道も、大穴も、獰猛な魚も、存在していない――はずだった。
だが、ズボンの裾だけが、確かに現実の証として残っている。
男は違和感を拭いきれなかった。あの異空間がただの幻ではなかったことを、再び噛みしめた。
男はその脚で街の最寄り駅まで歩を進め、街を去っていた。
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