幸介による短編恋愛小説集

幸介~アルファポリス版~

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あなた目線恋愛小説

ブランコ

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あなたは五年も



付き合っていた彼と別れました。



「一生一緒にいようね」


確かにそんな幼い約束もしたし



「君を絶対幸せにするから」


確かにそんな甘い言葉もあったのに



すれ違う日々が増え



彼が浮気をしているんじゃないかと疑い


本当かどうかも曖昧なまま


喧嘩の日々ばかりが増えていって



最後はLINEで大喧嘩。



「もういい」



五年も付き合ったのに



そんな言葉で終止符は打たれました。




何が悪かったのか


誰が悪かったのか


彼か私か


ここ数日、そんなことばかり


考えては涙を流しています。





「また泣いてんのー?よく泣くね」



ブランコに座っていたあなたに



声をかけてきたのは同級生の男の子…



名を、真樹と言います。



あなたは慌てて涙を拭いました。




「なに、悪い?」


「いやー?泣いたら?」


「真樹くんが邪魔したんだし」


「ごめんごめん、続きどーぞ」



ジェスチャーで「泣いていいよ」の



合図をすると



しまりのない顔で笑った真樹は



隣のブランコに腰をかけようとしましたが



何か思いとどまってあなたの後ろへ回りました。




「よっ、と」


「わっ、ちょっ何?」



真樹は


あなたが乗っているブランコの板に



足をかけ踏むと、力強く漕ぎ始めました。



初冬の冷たい風が



耳元を通り抜けていきます。




泣いて熱くなった頬が冷めていくと




あなたはある事が気になりだしました。




「ねぇー…近いー…」



「えー?何があ?」



「体…近い」



「んー?いいんじゃん、今彼氏持ちじゃないでしょ」



「あー、地味に傷付く…」



「いーじゃん、ブランコ漕いでくれる男いるんだから!」



あなたは、真樹の顔を見上げました。



真樹もあなたを見下ろしていました。




目がぴったりと合いました。




真樹は、何とも無垢な表情で



微笑みました。




“ こんな表情するんだ…”

 

不覚にも“ かわいい”なんて



思ってしまったあなたの顔は



ほんの少しだけ色付きました。




あなたはゆっくりと



視線を前へと戻しました。




真樹が勢いよく漕ぐと



足が脇腹の当たりを掠めていきます。



でもくすぐったいのは



脇腹ではなく心の方でした。






高く、高く漕がれるブランコ。



高く揺られる視界には



二人が住む街と青空と



それから



そのずっと向こうには



彼氏とよく行った海が見えました。





彼と付き合っていた頃



海を見ながら



くだらない話をして笑いました。



手を繋いで砂浜も散歩しました。



薄紫色の空と



大空を映す鏡のような海を背に



彼と甘いKissをしました。




春、夏、秋、冬…



季節を五回も繰り返して



「結婚」



その二文字を疑いもしなかったのに。




どうして。



どうして…?




あなたは



切なくて悲しくなって



大粒の涙を零しました。




背中が震えています。



あなたの涙に



真樹は気付いているはずなのに



何も言葉はありませんでした。




ただ、ただ



キィキィとブランコを高く高く



揺らしました。



スピードがつくたびに



風が強く、頬を掠めます。




「さっむいなあー」



真樹は独り言のように呟きます。



「なあ、暖かくなったらさー」



真樹はあなたに語りかけます。



独りじゃないよと言うように。




「俺と二人で登山しに行かない?」



「登山…?」



「俺、海より山の方が好きなんだ、お前は?」



「どっちでもいいやー」



涙を拭ってあなたはそう言います。



「じゃあ登山行こ?」



真樹がお伺いを立てるように



僅かに弱気に言いました。



あなたは少しだけ悩んで



頭上の真樹を眺めて言いました。




「海は…彼と別れて寂しい思い出になっちゃった…。山もそうなったら私、嫌だなあ」



すると真樹は


きょとんと目を据えて、やがて笑いました。




「俺、お前と離れねえもん」



「恋人でもないのに、変なの」



あなたはなんだかおかしくなって


泣き腫らした目でクスッと笑います。



すると真樹は



見たことも無いような



真剣な表情になりました。




そして、言ったのです。




「付き合っていなくても、俺はずっとお前の側にいるから、安心していいよ」





それは、真樹からあなたへの



「好き」の心のプレゼントでした。




単純に「好き」と言われるより




ずっとずっと嬉しい想いに




凍てついていた心は温まっていきます。





雪が降り始めました。



しんしんと


空からゆっくりと舞い落ちる雪は




あなたと真樹の間に




そっと溶けていきます。




「なー、今から登山行く?」



「登山どんだけ好きなの?」



「すごーく好き」



「今から行ったら遭難しちゃう」



「遭難したら、くっつけるね、くっついてもいい?」




真樹の切り返しに




あなたは顔を高揚させて



「やーだっ」



にっこりと微笑みました。





あなたと彼氏の心の器は



いっぱいになる前に壊れて



果ててしまったけれど



信じて下さい。



あなたと真樹の心の器は


ちょろちょろと流るる流水のように


ゆっくり、ゆっくりと溜まっていくのです。



ゆっくり、ゆっくりと溜まって



笑い合い、共に歩んだ先には



雪解けの季節が、待っていることでしょう。

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