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胸きゅん*ちょっと大人な物語
いたずら
しおりを挟む「シャワーを浴びておいで」
貴方は私にそう告げた。
さっきまでテレビを見ていたのに。
突然、真剣な表情になった貴方に
私は驚いて聞き返した。
「え?」
「シ・ャ・ワ・ー」
命令するように
一文字一文字区切って
貴方の口から発された言葉。
ドキッと胸が高鳴ったかと思うと
ドキドキドキドキ
心臓は駆け足で脈打った。
「付き合っても……いないのに」
「ん?」
小さな私の声…聞こえるはずもないか。
「な、んでもない」
私は貴方が好きで
大好きで
だから
「行ってくる…ね」
貴方の言うことは、聞きたい。
もし、「そういうこと」なら
願ったり叶ったりだよ。
脱衣所で服を脱ぎ捨てる。
衣擦れの音がやけに響いた。
それだけで、恥ずかしい。
そっとシャワールームへ入り
温度調節を捻ってお湯を出した。
お湯はホースを通って
温かな雨のように私へと降り注ぐ。
泡立てたネットで身体を洗う。
隅々まで洗う。
どこに顔を埋められてもいいように
どこへキスを落とされても平気なように
そんなこと思いながら
身体を洗う自分に
次第に顔が紅潮していく。
一人で照れて馬鹿みたい。
私は上向きで
シャワーを頭にかぶった。
シャワールームの扉を開く。
マットに一歩踏み出て
バスタオルをとった。
身体を拭きながら
ふと思う。
ホテルでもないから
着替えは何も無い。
裸、で出ていく?
それとも今まで着てた服?
悩んで、悩んで
元々着ていた服に袖を通した。
脱いでこなかったの、とか
聞かれたら
寒かったからって答えればいい。
どうせ脱がせるんでしょって
おどけて笑えばいい。
洗面所の鏡に姿を映す。
しまった。
メイク道具…彼のいる部屋だ。
しっかりメイクがとれかけて
私としたことがナチュラルになっている。
恥ずかしい。
彼にこんな顔
見せたことあったかな。
嫌われたり、しないかな。
マイナス思考に拍車がかかる。
メイク道具がない以上
このまま出ていくしか…ないんだけど。
ひたっ、ひたっと
素足で踏むフローリングの床。
ダークブラウンの床板に
白い足が出るさまは
思っていたよりとても綺麗だった。
貴方は私に背を向け
ソファーにもたれて
テレビを見ながら麦酒を呑んでる。
どうやって声をかけるべき?
明るく「お待たせー」って?
それとも無言で隣に座る?
心臓が……壊れそう。
思いあぐねて私は
貴方の横に立ち
貴方に声をかけた。
「あがったよ」
貴方はゆっくりと私を見上げる。
濡れた髪から雫がひとつぶ落ちた。
「おいで」
貴方は私をソファーへと導く。
私は導かれるまま
貴方の隣に腰を下ろした。
テレビに映り込むスポーツ
目にも耳にも入らない…。
急ぎ足の鼓動だけが
耳に響いてた。
真正面を向きながらも
貴方の視線を感じた。
じっと私を見てる。
見られてる。
でも
なかなか、触れてこない。
どういうことだろう。
前に垂れた髪の毛を
耳にかけながら
貴方の顔を見上げた。
すると貴方は
肘をソファの背もたれにつき
頬杖しながらくすくすと笑ってる。
「え、な、なんで笑ってるの?」
「なんでそんなに緊張しているの?」
「え、だ、だって」
「うん、だって?」
「シャワー、って」
「言ったねぇ、気持ちよかった?」
「え、うん、え?」
「よかったねぇ」
「うん」
…うん?
私が首をかしげると
貴方は余計にクスクス笑って
やがて視線をテレビへとまた向けた。
あーあ
私はまんまと貴方に
遊ばれたみたい。
なあーんだ。
ドキドキしたのにな。
ホッとした反面
少しだけ、寂しくて
うつむき加減…唇を尖らせる。
すると貴方が意地悪く言った。
「何か、あると思った?」
「……いじわる」
「正直に言ってごらんよ」
「……うん」
「何があると思ったの?」
「……言わせないでよ」
「ふーん」
気のない返事をしたかと思うと
突然貴方は腰を浮かせて
私の唇へとキスをくれた。
突然……のことに
目も閉じられないほどだった。
ちゅっ、という音が耳に残る。
「え…、今の何?」
「反応が可愛いからついいじめたくなっちゃって…ごめんね」
そう言ってコクリ、と麦酒を口に含む。
貴方は、スマートだ。
そして、意地悪だ。
「ねえ」
「ん?」
「貴方がどう思おうと私は…貴方が好きだよ」
震える声でそう伝えた。
すると貴方は
まさか私が「好き」と言うなんて
思ってもみなかったのだろう。
色素の薄い目を大きく開いて
私を見つめてからこう言った。
「とんだ仕返しだね、心臓跳ねたよ」
「そうでしょ?」
私は貴方と顔を見合わせて、
笑い声を響かせた。
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