29 / 30
可愛いふたり
風邪を引いたら
しおりを挟む「あーほんっと、やっちまったーだよ」
「何がー?」
「いやあ風邪引くなんて…せっかくの水族館」
「寒いからしゃーないよ、水族館は今度な」
ヒロが私の言葉に笑いながら
私の部屋のキッチンをゴソゴソ。
いつも料理を作るのは私なのに
今日は大サービスとか言っちゃって
ヒロは張り切って
私の家のキッチンに立った。
あれは今朝のこと。
デート前
シャワーに入ったら
どんなに熱いお湯を出しても
鳥肌が立つほど冷たく感じた。
シャワーを早々に切り上げて
熱を測ると38度を超えていた。
「風邪をひいて熱がある」
「デート取りやめ、ごめんね」
そうLINEしたら
その一時間後に
インターホンがなった。
玄関の扉を開いてみると
買い物袋を両手に提げたヒロだった。
私が慌てて髪をなでると
ヒロは笑って
「いや、まずマスクだろ」
そう言って買い物袋の中をガサゴソ。
いかつい黒のマスクを
私の耳にかけてくれた。
「ねーヒロ、何故に黒マスク」
「なんか、お前風邪!!って感じじゃん」
「うわー…病原菌扱い」
「あったりまえー♪」
デートがなくなったのに
ヒロはいつも通りのテンションで
なんだかとても安心した。
「あれー?こっからどうやんだっけ…」
後ろ頭を片手でガシガシ。
慣れない料理に悪戦苦闘。
ベッドから見る、
キッチンのヒロの後ろ姿が幸せで
口元まで布団で隠して微笑んだ。
・ ・ ・
「えーー…と」
「はい」
「何を作ったの?」
「ちゃ、チャーハン」
「いや、雑炊作るって言ってたじゃん」
「な、なんか水が、すぐに蒸発してってさ!あれぇ、どこいっちゃうんだよ水って感じじゃね?でも味は雑炊なはず!」
「雑炊味のチャーハンって何」
ヒロは必死の弁解をしながら
照れくさそうに笑う。
私もつられて笑った。
本当はね、料理なんて何でもいいの。
少しでも一緒に居られることが嬉しい。
二人で笑い合えることが幸せ。
私は、ヒロが
作ってくれた自称雑炊を口に運ぶ。
「あ、美味しい」
正座して私の顔を見つめるヒロに
私は笑いかけた。
「あーーーーーよかったあーーーー」
ほっとしたように姿勢を崩して
ヒロは言葉を繋げる。
「さっきまで審査待ちの料理人の気分だった。俺絶対料理人にはならねー」
「おいしいよ?“自称雑炊”で売り出せば絶対いけるよ」
「…それ単に失敗作を世間に公表しろって言ってんの?」
私たちの会話はいつも終わりがない。
いつも笑って話して
喧嘩というものもまだ知らない。
これが付き合いはじめて
まだ一年にも満たないからと
言われてしまえば何も言えないけれど
私は、ヒロが好きで
ヒロも、私が好きで
とても幸せなんだ。
ずっとこのまま
一緒にいられたらいいなあ
隣で笑うヒロを見つめながら
私はそんな事を思った。
「ふぅーごちそうさま、美味しゅう御座いました」
「お粗末様で御座いました」
ヒロが時代劇の家老みたいに
あぐらをかいたまま頭を下げる。
「ご家老みたい」
「家老!?じじいじゃん」
「若いご家老さんだっているんじゃないの?」
「だって字からして、ろうって老いるじゃん」
「あ、そっか」
いつも通りの私たち。
あんなに具合が悪かったのに
なんだかすっかりいいみたい。
「あ、薬飲まないと」
「買ってきたよ」
「おー、気が利く、ありがとう」
「なあ、病院行かなくて大丈夫?」
「んー…」
私は少し考えて
「私の1番の薬はヒロみたい。もうすっかり気分いいよ」
こう答え、薬を口の中に放り込んだ。
コップ一杯の水を飲み干して
コップをサイドボードに置いた、
その時にはもう、ヒロの顔が
私の目の前にあって
あっという間に唇が奪われた。
触れるだけの、可愛いキス。
「やだ……風邪、移っちゃうよ」
「だって、よくなったって言ったから」
ヒロは、不敵に笑む。
「私、病原菌じゃなかった?」
「菌でも好きだよ」
「えー、適当に言ってない?」
ふふ、っと笑ってもう1つ
ヒロは私にキスをくれた。
「…風邪引くと死にそうになってるくせに」
「そしたらお前に看病してもらうからいいよ」
たったそれだけの言葉が嬉しいのは
ヒロが紡ぐ言葉の端々に
【お前、俺の特別な】
そんな想いが見え隠れするから。
風邪引いたら苦しいけど
側にヒロが居てくれるなら
これはこれですっごく
幸せなことなのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる