surgicalmask

幸介~アルファポリス版~

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第二話 喜んで欲しくて

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「結月ちゃん」


「はい?」


「今週末の件ね、先生がね」


看護師さんが


点滴のパックを替えながら


途切れ途切れに言った。



今週末、と言えば


あれしかない。



とくん、とくん


命の音が一際


大きく聴こえる。


看護師さんの次の一言が


待ちきれない。




「OKって!」


「ホント!?」


「うん、よく頑張ってるし、数値も落ち着いてるからーって」


「やっ……たっ!」


私は小さくガッツポーズを決める。



縁、私、やったよ!


まだ授業中の縁を想いながら


私は窓外の青空を見上げた。




【surgicalmask~第2話喜んで欲しくて】




「ゆーーづーーき♪」


いつもの様に病室を覗き込む縁。


私がベッドの上に居ないと分かると


後頭部をかいて


「あれぇー?検査中かな…」


なんて、呟く。


ゆっくりとベッド方へ歩み寄る彼に


私は隠れていたカーテンを飛び出して


縁に後ろから抱きついた。


「おわっ、結月、びっくりしたっ」


「えへへ、おかえりー♪」


すぐに方向転換をして


私の頭を当たり前に優しく撫でながら


縁の目は「ただいま」と笑う。



「寝てなくていいの?」


「今日は調子がいい♪」


「機嫌もいいね?何かあった?」


早速、疑問符を投げ掛けられて


私は待ってましたとばかり


声を弾ませた。





「今週末、縁の誕生日でしょ?」


「うん、何?祝ってくれる?」


「あのねー…」


「うん」


「外出許可とれたよっ!」



一瞬の間をためて


縁は満面の笑みを浮かべた。



「マジ!?うわ、すっげ結月、すげー!」


この笑顔


この笑顔が見たかった



ずっと週末の縁の誕生日の為に


外出許可が出るように頑張ってた。



喜んで欲しくて


治療……頑張った。



「結月、頑張ったな」


ほんの少し目を潤ませて


縁は飛び跳ねるように


私を抱き上げる。




細くなった身体。


すぐに足は床を離れた。



剣道部で鍛えた縁の身体に比べて


私のそれはどこもかしこも


骨が浮いてとてもみすぼらしい。



ダイエット


痩せたい


そんな事を言っていた頃の自分を


殴り飛ばしたい。



多少ふくよかなのは


健康の証だったのに。



縁はそれでも


痩せこけた私を


本当に愛しそうに


抱き締めて



「結月ーっ、誕生日にお前と出かけられるなんて、最高の誕生日プレゼント!マジ嬉しい、ほんっっとありがとう」


そう言ってくれた。


マクスから覗く縁の目は


とても、とても優しい色。


縁の優しさが嬉しくて


思わず涙が零れた。




涙に気がついた縁は


心配そうに私の額に


彼の額をコチンとぶつける。



「なんで泣く…?体辛くなった?」



私を心配して


眉間にたくさん皺をためる縁が


愛しすぎる。



至近距離の

マスクとマスク。


このマスク二枚の距離が


もどかしい。


こんなものさえなければ


すぐにでも、キス出来るのに。



触れたい。



手のひらだけじゃなく


服で覆われた部分じゃなく


唇で繋がりたい。



恋人同士の当たり前


そんな小さな願いすら叶わない。



マスクは私の生命を守る。


そして縁との…距離。




「縁…」


「ん?」


「私の彼氏でいてくれてありがとう」


こんなに体が弱くて


デートも好きにいけない


キスだってうがい必至


こんな私…何度自分を嘆いたか



縁は、目を丸くして笑った。



「何言ってんの、俺の方が彼女でいてくれてありがとうじゃん」


まるで当たり前のこと


そう言うみたいに縁は告げて


私の頭を穏やかに撫でた。



「大好き同士っていいね」


「だな!両想い最高っ」




ああ、私は縁が好きだ。


手放したくない。



「ねえ縁」


「んー?」


「デートどこ行きたい?」


「結月と一緒ならどこだっていいよ」



その言葉に


ときめく。



心にまた喜びの花が咲いたみたい。




一緒に生きたい


縁と生きたい



負けない。


必ず勝つんだ。




縁はいつの日も


私の生きる希望だった。


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