失格勇者の剣聖無双

来栖川

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勇者とギルド4

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テーブルを挟んで気まずそうな二人が座っている。セレンは顔を赤らめており、何度も話しを切り出そうとするが、何を話していいのかわからず、口をパクパクさせている。
「何やってんだい・・・あの二人は。」
あきれた様子で、ガルナはカウンター越しからやれやれと言った動作をする。レーナは肘を掛けながらガルナに訪ねた。
「母さん、あれはどういう状況でしょうか?」
世紀の膝枕事件から30分ほど立っているのにも関わらず、二人はまともに会話せず向かい合って座っている。セレンは栗色の長い髪の先をイジイジして、暫くすると口をパクパクさせている。モグラはと言うと、
「ありゃ宇宙でも見てるのかい?」
まさに無の境地に居るかのように真っ直ぐと前を見て居る。恐らくセレンは見ていない。どこか遠くを見つめているかのように固まったまま動かない。
 そうしていると厨房から声がした。
「ご飯出来ましたよって、まだやってるんですか?」
「ああ、どうしたもんかね。」
ガルナは割って入ろうとも考えたが、なんだかむず痒さもあり、修羅場でもあるので口を出さないでいた。ただ、フェルトはいい加減にして欲しいと言う気持ちが強く、朝食をテーブルに運んだ。
「モグラさん、朝食が出来ましたから手伝って下さい。お願いします!」
引きつった顔でモグラを見た。
「あ、ああ分かった。セレン嬢すまない手伝ってくる。」
「あ、あの!」
モグラが立ち上がると、セレンが何か言い始めようとしたので、首を横に振りそれを諫めた。
「朝食を食べながら話しをした方がいいな。それで問題ないだろうか?フェルト殿にも悪いのでな。」
「分かりました。」
レーナは一瞬だけ失礼ではないかとも思った。しかし、ようやくこの時間が終わると思うとそれでいいような気もしていた。7の鐘が鳴った。

暫くして食事を並べ終わると全員同じテーブルに着き食事が始まった。モグラはサンドイッチを手に取り口に運ぶとフェルトに上手いと言って、
「この食事も今日で最後でござるか。」
と言った。
「どういうことだ?」
「どういうことですか?」
レーナとセレンは思いもよらない言葉にガルナを見た。
「そうか今日で一週間だね。次はどこに行くんだい?」
「そうですね。ラテリシアの街に行こうかと・・・。」
「ちょっと待ってくれ!」
レーナは立ち上がり、話しを遮る。
「モグラ殿。それは本当の話しか?」
「ああ、本当でござる。元々路銀を稼ぐことが目的であったし、守衛殿にもその話はしている。15の鐘がなったら出て行くつもりだ。」
「そんな急に・・・。」
セレンの顔はみるみるうちに青くなった。ようやく会えたかも知れない人はすぐに遠くに行ってしまう。また、私を置いていってしまうのかと思い、彼女は俯きながらスカートの裾を強く持ちたくし上げる。
だが、ここで一番焦っていたのはレーナの方だった。
「申し訳ないのだがもう少しこの街に居てくれないだろうか。」
「如何致した?」
モグラを睨むように見る。
「まだ、魔物の襲撃の件は片付いていない。」
「それはもう説明したが・・・。」
「ガーグから話は聞いている。モグラ殿は剣聖なのだろう?」
あの騎士か。そう言いかけて、黙ってしまった。
「私は聖騎士だ。色々と確認することがある。それに貴方はオーガだ。領主様に情報を伝えなくてはならない。あの数の魔物だ。近くに魔族の遺体もあった。流石に見逃すわけにはいかない。」
モグラは「ふむ」と言うと腕を組み目を閉じて考える。考えるが向こうの言い分はもっともだった。流し目でセレンを見る。
(セレンは恐らく俺の正体に気付いている。聖女の眼は真理を読み解く力を持つ。それで無くとも俺達は子供の頃から兄弟のように孤児院で過ごしていた。ハッキリと言わないのは俺を気遣ってのことだろう。どうしたものか?)
モグラがそう考えているとガルナはふとあることに気が付いた。というよりもこの1週間、スタンピードがあったとき以外、モグラは宿屋にいたのだ。
「そういや、あんた路銀って言ってたけど金はあるのかい?」
「?魔物を討伐・・・」
モグラはハッとした。
(していない!?)
ガタっと机に手をつき立ち上がる。そう、モグラは抜けていた。といより、モグラにとってこの10年間は師匠と過ごした地獄など生ぬるく感じるような日々だった為、まともに休暇を取っていなかった。休みは年末年始の行事や祭りの日などの手伝いを兼ねたものだったので休み=里の手伝いという形だった。そんな人間にとって、街で過ごす日々や魔物のスタンピードなどはただ呼吸をするに等しかった。財布を取り出し中身を確認する。銅貨10枚がちゃりちゃりとテーブルに落ちると皆口をそろえてこう言った。
「これじゃ無理!」
「無理ですよ。」
「流石にこれじゃ・・・。」
「剣聖殿・・・マジですか。」
呆れかえったという空気が広がる。勇ましいオーガはその空気に耐えきれず涙目になり、ついに机に伏してシクシクと泣き始めてしまった。
「というか母さん、宿代はもらってるんだよね?」
「もちろんさ。銀貨1枚と銅貨2枚。食事はいつも手伝ってくれるから出してたけど、まさか金がないなんて思うわけないだろう?」
ガルナは頭を抱えていた。
「ちょっと待って下さい。モグラさん?門番にお金支払ったんですよね。」
フェルトはおかしいと思った。通常、外部の者が街に入るためには通行料を支払う。ギルドに所属する者やこの街で暮らす者、近辺の村人や農民などは出入り自由だが、身分証は最低限提示する義務がある。
「いや、手紙を見せたら入って良いって言われて・・・。」
「そう言えばオーガですものね。」
街を救った英雄が実は金欠でしたということで、なんとも言えない空気が漂い数分間、時が止まったかのように沈黙した。ガルナは少し考えるとしょうが無いねと言った。
「一カ月間あの部屋を貸してあげるよ。」
「良いのですか!」
モグラは立ち上がって喜んだ。ガルナはこういうとこは変わってないねと思いながら、続けた。
「ただしタダじゃ無い。この一カ月で宿代と路銀を稼ぐこと、暇なときは宿の手伝いをすることこれが条件だ。これ以上はまけないよ。」
つまりしっかり稼げるようになるまで面倒を見ると言うことだ。モグラは目をつぶりかたじけないというと、頭が机に着くくらいに深々と頭を下げた。ガルナはセレンにウインクをした。すると声には出せなかったが、涙をこらえ頷いた。聖女が大結界を張ってからの10年間、魔物の活動は落ち着いていた。だが、彼女は時々、どこか遠くを見つめていた。時々その姿を目にしていたガルナは何かしてやれないかと思い、夕食を一緒に食べたり、街中で会話を交わすなどしていたが、こういうことをしたいんじゃ無い、もっと聖女様には笑っていて欲しい、元気を出して欲しい、といつも思っていた。夫が死んで弔うことが出来た彼女にとってセレンのその姿は見ていられないほどの苦痛だった。弔いとは死者との最後の会話なのだから・・・。
「それで剣聖殿はどうするのだ?」
それならと良いセレンは立ち上がった。
「ギルドに行って依頼をこなしましょう!」
満面の笑みで彼女は言った。

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