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第3章 火焔の女王
10.悪魔の顎
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「ひぃいッ……! だめぇッ……! あッ、あッ、いやぁあッ……!」
全身の細胞を灼き溶かすほどの壮絶な快感に、長い黒髪を舞い乱しながら玉藻が悶え啼いた。星々の煌めきを映す黒瞳は官能の愉悦に蕩け、真っ赤に染まった目尻からは滂沱の涙が白い頬を伝って流れ落ちた。せわしなく熱い喘ぎを漏らす口元からは、ネットリとした白濁の涎が長い糸を引いて垂れ落ちた。
両腕を背中で緊縛され、豊かな乳房は妖糸によってX字型に縄掛けされて絞り出されていた。その中心では薄紅色の媚芯が痛いほどツンと突き勃ち、溢れ出た蜜液は白い内股をビッショリと濡らしていた。
長大な逸物で粒だった天井部分を三度擦り上げられ、背後から一気に最奥まで貫かれると、凄まじい快絶に腰骨が灼き溶けて脳髄をもトロトロに熔解させられた。その女を狂わせる三浅一深の動きを、すでに一時間以上も続けられているのだ。淫魔と言えども、その終わりのない悪魔の律動に堪えられるはずがなかった。
「あッ、あッ、だめぇえッ……! また、イクッ……! イクぅうッ……!」
ビックンッビックンッと激しく裸身を震撼させると、総身を大きく仰け反らせながら玉藻は絶頂を極めた。プシャアッという音とともに、秘唇から蜜液が迸って虚空に弧を描いた。
それが何度目の絶頂なのかなど、すでに数えることさえできなかった。快美の火柱に全身を灼かれ、意識さえも真っ白に染まった。
だが、ガクガクッと痙攣を続けている玉藻の細腰を引き寄せると、男は平然と悪魔のリズムを再開した。パンッパンッと肉がぶつかり合う音が、永遠とも言える時間を刻み続けた。
「ひぃいいッ……! もう……許してぇッ……! 死んで……しまいますッ……!」
涙と涎で美しい貌をくしゃくしゃに歪めながら、玉藻が哀願の言葉を叫んだ。三千年を生きる大淫魔といえども、これほどまでに壮絶な凌辱を受けるのは初めての経験だった。
「九尾狐ともあろう者が、この程度で何を弱音を吐いておる?」
男……『闇の王』夜叉は悪魔の律動を続けながら、背中から左手を廻して玉藻の左乳房を掴んだ。そして、激しく揉みしだきながら、突き勃った媚芯を指でコリコリと扱き上げた。同時に右手で叢をかき分けると、薄皮を剥き上げた真紅の真珠を指先で弧を描くように転がした。
「いやぁあッ……! それ、だめぇッ……! また、イクッ……! イグぅうッ……!」
「もう、イキたくないッ……! 死ぬッ……! 許してぇッ……! イグッ! イグぅうッ!」
「イクの……止まらないッ! 狂うッ……! 狂っちゃうッ! いやぁあッ……イグぅうッ!」
美しい裸身を大きく仰け反らせると、玉藻はビックンッビックンッと凄絶に震撼した。プシャアアッという音を立てて黄金の水が噴出し、潮流となって虚空に迸った。
限界を遥かに超える凄まじい官能の奔流に、玉藻はガクガクッと総身を震わせるとグッタリと硬直を解き放って崩れ落ちた。
(たすけて……咲希……)
その意識を最後に、ガックリと首を折って玉藻は失神した。黄金に縁取られた漆黒の棺の中で、涙と涎と汗に塗れた裸身がビクンッビクンッと痙攣を続けていた。
三十回以上の絶頂と十回を超える極致感を極めさせられ、三千年を生きる大淫魔は生まれて初めて超烈な快絶に意識を失ったのだった。
(咲耶ッ……! 起きてる、咲耶ッ……!)
自分の中にいる女神に、咲希は必死で呼びかけた。夜叉はおろか、目の前にいる迦美羅でさえ咲希一人には荷が重すぎる相手だった。
『狼狽えるでない、咲希……。此奴の相手は、お前に任せる』
(何、言ってるのッ? SA係数一万を超える相手に、あたしが勝てるはずないでしょッ!)
咲耶の言葉に驚愕して、咲希が叫んだ。咲希のSA係数は、二一五〇しかないのだ。
『心配するな。今のお前であれば、此奴になら十分に勝てる。私は夜叉との戦いのために、神気を温存しておきたいのじゃ。夜叉がそれほどの相手だと言うことは、咲希も知っておろう……』
そう言われると、咲希には何も言えなかった。以前に玉藻から聞いた夜叉と咲耶の壮絶な戦いが脳裏に蘇った。二千年前、二人の戦いの影響で地形が変わり、大島が隆起したのだった。
(分かったわ! やってみる! 迦美羅《カーミラ》を斃せば、将成は元に戻るわよね?)
正眼に構えた<咲耶刀>を握り直すと、全身に神気を漲らせながら咲希が訊ねた。
『断言はできぬが、たぶん大丈夫じゃろう。迦美羅の妖気がなくなれば、それを押しとどめている建御雷神の神気も不要になるはずじゃ……』
(分かったッ! 見ていて、咲耶ッ……!)
咲耶の言葉に頷くと、咲希が迦美羅に向かって叫んだ。
「将成の血を啜って下僕にしようとし、玉藻を夜叉に差し出したあなたを、あたしは絶対に許せないッ! 二度と二人に手出しできないように、あたしがあなたを斃すわッ!」
そう告げた瞬間、咲希の全身が神々しい神気の火焔に包まれた。直視できないほどの光輝が咲希の体を取り巻き、螺旋を描きながら昇華した。
「へえ……。人の身にしては、なかなかの神気ね。でも、私と戦うにはまだまだ力不足よ……」
ニヤリと楽しげな笑みを浮かべると、迦美羅はおもむろに右手を開いて高々と頭上に掲げた。その手の平に真紅の妖気が収斂し、凄まじいエネルギーが渦となって凝集した。
「これが受けられるかしら……?」
迦美羅が右手を大きく振り落とした。その瞬間、手の平から放たれた妖気の火球が、直径二メートルを超える奔流となって咲希に襲いかかった。
『避けるのじゃ、咲希ッ……!』
(分かってるッ!)
瞬時に両脚に神気を集めると、咲希は大きく左へ翔んだ。灼熱の奔流が、咲希の体をかすめて大地へと激突した。
ズッドーンッ……!
大気を震撼させ、大地を激震させるほどの轟音が響き渡った。直前まで咲希が立っていた場所に、直径五メートルを超える巨大な陥没が生じた。直撃していたら、咲希の体など跡形もないほどに消滅させる破壊力だった。
(あんなの喰らったら、洒落にならないわ……)
底が見えない巨大な穴を視線の片隅に捉えて、咲希の背筋に冷や汗が流れた。
『油断するでないぞ、咲希……。今のは奴にとって遊びのようなものじゃ……』
(あれで遊びって、冗談でしょッ? 遊びで地面に大穴開けられたら、堪らないわよッ!)
迦美羅の攻撃で降りそそぐ粉塵を神気の結界で防ぎながら、咲希が顔を引き攣らせた。
「よく避けたわね。これなら、どうかしら……?」
そう告げると、迦美羅は妖気を纏った両手を二回ずつ大きく振った。
先ほどの攻撃と同等の威力を持った火焔の奔流が、同時に四本襲いかかってきた。それも逃げ道を塞ぐかのように、咲希の前後左右を等間隔で攻撃してきた。
「ハァアッ……!」
大きく膝を曲げると、裂帛の気合いとともに咲希は真上へと翔んだ。その高さは人間の身体能力を遥かに超越し、十メートルにも及んだ。足元で起こった四つの爆発が、長い漆黒の髪を激しく舞い上げた。その灼熱の爆風の中で、咲希は上段に構えた<咲耶刀>を一気に振り落とした。
収斂された神気が巨大な神刃となって、迦美羅に襲いかかった。
「くッ……!」
迦美羅が咲希から見て右手に跳び退った。光輝の神刃が赤茶色の髪を数本斬り裂きながら、迦美羅の背後で大地に激突した。迦美羅の攻撃を凌駕する爆音が響き渡り、大地を激しく鳴動させた。
「思っていたより、やるわね……」
「あなたこそ……」
半顔を灼かれた女と長い漆黒の髪の美少女が、お互いの力量を認め合って微笑を浮かべた。大地を揺るがす爆発によって降りそそぐ粉塵を、強固な結界で防ぎながら将成が二人の激闘を平然と見据えていた。
「……ッ!」
口の中に異物感を感じて、玉藻は意識を取り戻した。同時に、驚愕のあまり眼を見開いた。星々の煌めきを映す黒瞳の目の前に、鬱蒼と茂る漆黒の叢があった。太く長大な男根を咥えさせられていたのだ。
(何なんですの、これは……!)
暴れようとして体を動かしたが、両腕は背中で拘束されていた。それどころか、腰骨が熱く痺れて下半身が麻痺したように重かった。夜叉によって激しい凌辱を受けた記憶が、玉藻の脳裏に蘇った。その凄まじい蹂躙によって、足腰に力が入らなかった。
「おッ……? 目を覚ましたぜ、こいつ……」
「分かるのか?」
玉藻の口を犯している男が嗤いを浮かべながら、背後にいるもう一人の男に訊ねた。
「俺のを締め付けてきやがった……」
その言葉で、玉藻は自分の中で脈打つ男の存在に気づいた。それほど全身が綿のように疲れ切っていたのだ。
(この二人……夜叉ではありませんわ……。まさか、四天王の……)
玉藻の疑惑に答えるかのように、右手の方から夜叉の声が響き渡った。
「火允、無名《ムナ》……、休ませずに犯せ。気が狂うまで犯し抜いてやるがいい。ただし、絶対に精は出すな。淫魔にとって、男の精は何よりの滋養だからな」
主の命令に応えるかのように、二人の男が激しく腰を動かし出した。喉の奥まで長大な男根で塞がれ、その苦しさに玉藻は眉間に縦皺を刻みながら涙を流した。それと同時に、腰骨を灼き尽くすほどの愉悦が背筋を舐め上げ、四肢の先端まで甘く痺れさせた。下半身を犯している男が、三浅一深の動きで玉藻を責めだしたのだ。
「んくッ……んあッ……ぐッ……んはッ……!」
巨大な逸物を咥えさせられている玉藻の唇から、涎とともに堪えようもない喘ぎが漏れ始めた。夜叉によって刻まれた灼熱の塊が、瞬く間に再燃して全身を灼き溶かし始めたのだ。
(淫魔の私が、こんなに昂ぶらされるなんて……)
己の体を襲う快感の奔流に流されそうになり、玉藻は必死で抗った。だが、一度火がついた女体を押しとどめることは、淫魔であろうと不可能であった。
「くッ……はッ……あッ……んあッ……んくぅッ……!」
こみ上げる愉悦に抗いきれず、玉藻は総身をビクンッビクンッと痙攣させながら絶頂を極めた。脳髄がトロトロに蕩かされ、全身が熱く燃え上がって指先まで甘く痺れた。
(こんな簡単に……あッ、だめッ……! いやッ……! だめぇえッ……!)
絶頂に達したばかりの女体を休む間もなく責められ、玉藻はすぐさま次の歓悦の階段を駆け上らされた。
玉藻の口を犯している男……火允が、両手の人差し指を耳穴に差し込んで来た。耳たぶを擦られながら耳穴を穿られ、脳髄を直接弄られるような快感に玉藻はグンッと白い顎を突き上げた。それと同時に激しく腰を叩きつけている男……無名が両手で玉藻の豊かな乳房を揉みしだき始めた。そして、硬く突き勃った媚芯を指先で摘まみ上げると、コリコリと扱きながら捏ね回した。その間も、一時も休むことなく三浅一深の動きで玉藻を責め続けた。
(ひッ……! だめッ……いやッ……! こんなの、おかしくなるッ……! いやッ、また……! だめぇえッ……!)
総身を大きく仰け反らせると、ビックンッビックンッと激しく痙攣しながら玉藻は再び絶頂を極めた。だが、二人がかりの壮絶な責めは、玉藻に官能の愉悦を噛みしめる暇さえ与えてくれなかった。
(だめッ……! ずっと、イカされ続けて……ひぃいッ……! 頭が……溶けるッ! 狂ってしまうッ……! いやぁあッ……! また、イクッ……! イグぅうッ……!)
永遠とも思える凄まじい凌辱に、玉藻は随喜の涙が止まらずに悶え狂った。途切れることのない凄絶な快感に全身の痙攣は止まらなくなり、秘唇から溢れ出る蜜液は失禁したかのように白い内股をビッショリと濡らした。
淫魔である玉藻は、男であれ女であれ、相手が絶頂を極めさえすればその精気を吸収して己の糧に変えることができた。だが、夜叉は言うに及ばず、火允や無名でさえも一度も精を放たなかったのだ。それに対して、玉藻は休む間もなく数十回も歓悦の頂点を極めさせられた。これは一滴の水さえ飲まずに、フルマラソンを何回も続けて走らされることと同じであった。三千年を生きる大淫魔とは言え、これほどまでの凌辱はかつて一度も受けたことがなかった。
(もう、許してッ! 私、毀れてしまう……! 助けて、咲希……!)
その思考を最後に、玉藻はガクリと首を折って再び失神した。
絶世の美貌は涙と涎に塗れ、豊かな胸の中心には痛々しいほど媚芯がそそり勃っていた。秘唇から溢れ出た蜜液は白い内股を塗らして、豪華な棺の中に淫らな模様を描いた。
ビクンッビックンッと痙攣を続ける美しい裸身を、火允と無名が代わる代わる犯し抜いていた。
「ハァアッ……!」
裂帛の気合いとともに、咲希は左腰に構えた<咲耶刀>を右上へと斬り上げた。眼にも留まらぬ速度で放った居合抜きから、白銀に輝く神刃が放たれ火焔の奔流を両断した。二つに割れた業火の潮流が咲希の体を避けて、轟音とともに背後で大地に激突した。その衝撃によって舞い上がる粉塵と襲いかかる熱風を、咲希は光輝の結界によって防いだ。
「ハァ……ハァ……ハァア……!」
この果てしない攻防は、すでに一時間以上は続いていた。迦美羅が放った火焔の奔流を咲希が斬り裂き、咲希の神刃を迦美羅が防いだ。二人の実力はほぼ伯仲していた。美しい貌から滝のような汗を流し、肩で大きく息を切らせながら咲希は目の前に立つ迦美羅を見据えた。迦美羅も激しい疲労に塗れた表情で、咲希を見つめ返した。
「ここまで……やるとはね……」
「あなた……こそ……」
お互いに言葉を交わすことも辛いほど、全身が綿のように疲れ切っていた。だが、勝負を投げ出すことができない想いがそれぞれにあった。その想いの重さがこの勝敗を決する鍵であることを、お互いが知っていた。
愛する将成を元に戻すこと、そして、大切な玉藻を救い出すこと……。その二つの想いが、今の咲希を支えているすべてであった。
一方、迦美羅は誰よりも信頼する夜叉の命令を忠実にこなすことがすべてであった。迦美羅にとって、夜叉は主であり、恩人であり、最愛の男であった。その事実は、千八百年前から今もずっと変わらない不変の真理であった。
迦美羅は今からおよそ千八百年前に、オーストリアで生を受けた。彼女が生まれたのは、現在のオーストリア共和国を形成する九つの連邦州の一つであるシュタイアーマルクという自然豊かな土地だった。
幼い頃から美貌に恵まれたカーミラは、カルンスタインの伯爵と結婚して伯爵夫人と呼ばれた。だが、カルンスタイン伯爵との蜜月はあまりにも短かった。結婚して三ヶ月後に、カルンスタイン伯爵は落馬によって帰らぬ人となってしまったのである。まだ十八歳であったカーミラは、悲嘆のあまり絶望した。
そのカーミラを支えてくれたのは、カルンスタイン伯爵の親友であったヴォルデンベルグ男爵だった。愛する夫を失ったカーミラにとって、伯爵家を背負っていく重圧を支えてくれたヴォルデンベルグ男爵の存在は日に日に大きくなっていった。そして、ある仮面舞踏会が開催された夜に、カーミラはヴォルデンベルグ男爵と一夜を共に過ごした。その日を境にカーミラの心は、ヴォルデンベルグ男爵に大きく傾いた。
だが、ヴォルデンベルグ男爵には妻子だけでなく、多数の愛人がいた。彼女たちに対する激しい嫉妬は、カーミラを狂気へと誘った。カーミラは様々な策を弄してヴォルデンベルグ男爵の愛人たちを暗殺し、その血でワインを作った。そして、ヴォルデンベルグ男爵と愛を交わす夜には必ず、彼にそのワインを飲ませたのだった。
ある時、愛妾の一人からワインの中身を聞かされた男爵は、驚愕し激怒した。そして、ワインを携えて寝室に入ってきたカーミラを、ヴォルデンベルグ男爵は怒りにまかせて首を絞めて殺害した。薄幸で短い生を終えたカーミラは、カルンスタイン礼拝堂の近くにある墓地に埋葬された。田舎町であったカルンスタインは、カーミラの所業とその非業の死の噂で持ちきりになった。
咲耶との壮絶な戦いによる傷が癒えた夜叉がカルンスタインを訪れたのは、カーミラの殺されてから半年後だった。カーミラの噂に興味を持った夜叉は、ある夜に彼女の墓を暴いた。そこには死後半年を経過しているにも拘わらず、生前と同じ美しさを保っているカーミラが眠っていた。夜叉はその偉大な妖気を纏わせた乱杭歯を、カーミラの首筋に食い込ませた。その瞬間、カーミラの心臓は再び鼓動を始め、赤光を放つ瞳で夜叉を見つめて微笑んだ。
夜叉の手を借りてヴォルデンベルグ男爵に復讐を遂げたカーミラは、乱杭歯が光る口元に微笑を浮かべながら告げた。
「私の新たな生は夜叉様に捧げます。貴方様を主と仰ぎ、この命ある限り貴方様の忠実な僕となります」
その言葉通り、カーミラはその美しい肢体を夜叉に捧げた。カーミラにとって夜叉は、何物にも代えがたい最愛の主となった。
その夜を境として、カーミラは夜叉四天王の一人、迦美羅として新たな人生をスタートさせた。
「そろそろ、この茶番にも飽きてきたわ。たかが人間風情が、偉大なる夜叉様の僕である私と肩を並べるなど僭越この上ないッ! 今から、私の真の力を見せて上げるわッ!」
そう告げると、迦美羅は両手を高々と頭上に掲げた。その手の平から膨大な妖気を噴出させた。その凄まじい妖気が螺旋を描きながら収斂していき、巨大な火球と化した。その直径は今までで最大であり、優に五十センチを超えていた。
『気をつけるのじゃ、咲希……』
(分かってる……!)
今までの火球は直径十センチから二十センチ程度に妖気が凝集したものだった。それが直径二メートルほどの火焔の奔流に変わって咲希を襲ったのだ。その倍以上の火球であれば、どれ程の威力になるのか容易に想像がついた。
「ハァアッ……!」
裂帛の気合いとともに、迦美羅が両手を一気に振り落とした。灼熱の火球が膨大な妖気の潮流に変わり、凄まじい速度で咲希に襲いかかった。その直径は優に十メートルを超えていた。
「くッ……!」
咲希は咄嗟に<咲耶刀>を左腰にある神鞘に納刀した。そして、両脚を大きく前後に開くと、腰を落として居合抜きの体勢をとった。
「ハッ……!」
短い気合いとともに、全身の神気を<咲耶刀>に集結させて神速の居合抜きを放った。白銀に輝く<咲耶刀>の刀身から、超烈な神刃が放たれ光輝の刃となって飛翔した。
ズッドーンッ……!
妖気の奔流と光輝の神刃が激突し、轟音とともに大地が削られて巨大な陥没が形成された。その凄絶な衝撃波はしのぎを削り合い、二人のほぼ中央で互いの破壊力を拮抗させた。バチバチと凄まじい放電を放つ妖気と神気の衝突は、龍虎が争うようにその威力が互いに相博させた。
「ハァアッ……!」
居合を放った姿勢で<咲耶刀>を両手で握り直すと、咲希は右上段から一気に袈裟懸けに斬り落とした。新たな神刃が<咲耶刀>から放たれ、空中で激突している二つの衝撃波を後押しするように翔破した。
「……ッ!」
驚愕と共に、迦美羅が赤光を放つ瞳を大きく見開いた。超絶な白銀の神刃が、火焔の奔流を併呑して迦美羅に襲いかかった。
「ぎゃああッ……!」
白い乱杭歯が光る口元を大きく開いて、迦美羅が絶叫した。神速で迫る神刃が、左肩から右腰にかけて迦美羅の体を両断した。
迦美羅の美しい肢体に、斜めに線が入った。その線に沿って迦美羅の上半身が、ズレ落ちていった。ドサリと音を立てて半身を地面に激突させた迦美羅が、驚愕の表情を浮かべながら咲希を見上げた。
『首を刎ねるのじゃ、咲希……! 心臓を斬り裂き、首を刎ねねば吸血鬼は復活するぞッ!』
(分かった……!)
咲耶の言葉に頷くと、とどめを刺すべく咲希は右手で<咲耶刀>を構えながら迦美羅に近づいた。
「まさか……人間に……斃される……とは……」
半顔を灼かれた表情を苦悶に歪めながら、迦美羅が咲希を見据えた。<咲耶刀>を右上段に構えながら、咲希が迦美羅を見下ろして訊ねた。
「玉藻はどこにいるの……?」
その言葉に、迦美羅は凄惨な微笑を浮かべた。
「フッ、ハッハハッ……! あの女狐なら今頃は夜叉様だけでなく、火允や無名に輪姦されているはずよ。淫魔といえど、あの三人に犯されて正気を保っていられるかしら……?」
「何ですってッ……!」
迦美羅の言葉に驚愕して、黒曜石の瞳を見開きながら咲希が叫んだ。夜叉だけでなく、四天王の火允と無名までもが玉藻を凌辱しているなど予想さえしていなかった。
「どこにいるの、玉藻はッ……?」
「私が教えるとでも思っているの? おめでたい娘ね……?」
白い乱杭歯を光らせながら、迦美羅が嘲笑った。その時、咲耶の声が響き渡った。
『咲希、此奴の首を刎ねるのじゃッ!』
(でも、玉藻の居場所を聞き出さないと……)
咲耶の言葉に抗うように、咲希が悲痛な表情を浮かべながら告げた。
『九尾狐は恐らく夜叉の結界の中じゃ……。そこに九尾狐を送り込んだとすれば、此奴は夜叉の結界と繋がっておる。此奴を殺せば、その結界への道が開かれるはずじゃ……!』
「……ッ!」
咲希は、咲耶の言葉を信じて頷いた。普段はへっぽこ女神でも、こういう時の咲耶は誰よりも頼りになることを咲希は知っていた。
「玉藻を助けるために、あなたを殺すわッ!」
「ふん……。お前が夜叉様に敵うとでも……ッ!」
迦美羅の言葉を遮るように、咲希が<咲耶刀>を一閃させた。微笑を浮かべた迦美羅の首が、鮮血を噴出させながら宙に舞った。
「……ッ!」
次の瞬間、首を失った迦美羅の肢体が崩れ落ち、漆黒の靄に包まれた。その濃厚な闇霧に向かって、咲耶が叫んだ。
『咲希、あの闇霧の中に跳び込むのじゃッ! あれが夜叉の結界へと続く道じゃッ!』
「分かったわッ……!」
咲耶の言葉に大きく頷くと、咲希は躊躇いもなくその闇霧の中へ身を躍らせた。
その先にいまだかつて経験したことのない地獄が待っていることを、咲希は予想さえもしていなかった。
全身の細胞を灼き溶かすほどの壮絶な快感に、長い黒髪を舞い乱しながら玉藻が悶え啼いた。星々の煌めきを映す黒瞳は官能の愉悦に蕩け、真っ赤に染まった目尻からは滂沱の涙が白い頬を伝って流れ落ちた。せわしなく熱い喘ぎを漏らす口元からは、ネットリとした白濁の涎が長い糸を引いて垂れ落ちた。
両腕を背中で緊縛され、豊かな乳房は妖糸によってX字型に縄掛けされて絞り出されていた。その中心では薄紅色の媚芯が痛いほどツンと突き勃ち、溢れ出た蜜液は白い内股をビッショリと濡らしていた。
長大な逸物で粒だった天井部分を三度擦り上げられ、背後から一気に最奥まで貫かれると、凄まじい快絶に腰骨が灼き溶けて脳髄をもトロトロに熔解させられた。その女を狂わせる三浅一深の動きを、すでに一時間以上も続けられているのだ。淫魔と言えども、その終わりのない悪魔の律動に堪えられるはずがなかった。
「あッ、あッ、だめぇえッ……! また、イクッ……! イクぅうッ……!」
ビックンッビックンッと激しく裸身を震撼させると、総身を大きく仰け反らせながら玉藻は絶頂を極めた。プシャアッという音とともに、秘唇から蜜液が迸って虚空に弧を描いた。
それが何度目の絶頂なのかなど、すでに数えることさえできなかった。快美の火柱に全身を灼かれ、意識さえも真っ白に染まった。
だが、ガクガクッと痙攣を続けている玉藻の細腰を引き寄せると、男は平然と悪魔のリズムを再開した。パンッパンッと肉がぶつかり合う音が、永遠とも言える時間を刻み続けた。
「ひぃいいッ……! もう……許してぇッ……! 死んで……しまいますッ……!」
涙と涎で美しい貌をくしゃくしゃに歪めながら、玉藻が哀願の言葉を叫んだ。三千年を生きる大淫魔といえども、これほどまでに壮絶な凌辱を受けるのは初めての経験だった。
「九尾狐ともあろう者が、この程度で何を弱音を吐いておる?」
男……『闇の王』夜叉は悪魔の律動を続けながら、背中から左手を廻して玉藻の左乳房を掴んだ。そして、激しく揉みしだきながら、突き勃った媚芯を指でコリコリと扱き上げた。同時に右手で叢をかき分けると、薄皮を剥き上げた真紅の真珠を指先で弧を描くように転がした。
「いやぁあッ……! それ、だめぇッ……! また、イクッ……! イグぅうッ……!」
「もう、イキたくないッ……! 死ぬッ……! 許してぇッ……! イグッ! イグぅうッ!」
「イクの……止まらないッ! 狂うッ……! 狂っちゃうッ! いやぁあッ……イグぅうッ!」
美しい裸身を大きく仰け反らせると、玉藻はビックンッビックンッと凄絶に震撼した。プシャアアッという音を立てて黄金の水が噴出し、潮流となって虚空に迸った。
限界を遥かに超える凄まじい官能の奔流に、玉藻はガクガクッと総身を震わせるとグッタリと硬直を解き放って崩れ落ちた。
(たすけて……咲希……)
その意識を最後に、ガックリと首を折って玉藻は失神した。黄金に縁取られた漆黒の棺の中で、涙と涎と汗に塗れた裸身がビクンッビクンッと痙攣を続けていた。
三十回以上の絶頂と十回を超える極致感を極めさせられ、三千年を生きる大淫魔は生まれて初めて超烈な快絶に意識を失ったのだった。
(咲耶ッ……! 起きてる、咲耶ッ……!)
自分の中にいる女神に、咲希は必死で呼びかけた。夜叉はおろか、目の前にいる迦美羅でさえ咲希一人には荷が重すぎる相手だった。
『狼狽えるでない、咲希……。此奴の相手は、お前に任せる』
(何、言ってるのッ? SA係数一万を超える相手に、あたしが勝てるはずないでしょッ!)
咲耶の言葉に驚愕して、咲希が叫んだ。咲希のSA係数は、二一五〇しかないのだ。
『心配するな。今のお前であれば、此奴になら十分に勝てる。私は夜叉との戦いのために、神気を温存しておきたいのじゃ。夜叉がそれほどの相手だと言うことは、咲希も知っておろう……』
そう言われると、咲希には何も言えなかった。以前に玉藻から聞いた夜叉と咲耶の壮絶な戦いが脳裏に蘇った。二千年前、二人の戦いの影響で地形が変わり、大島が隆起したのだった。
(分かったわ! やってみる! 迦美羅《カーミラ》を斃せば、将成は元に戻るわよね?)
正眼に構えた<咲耶刀>を握り直すと、全身に神気を漲らせながら咲希が訊ねた。
『断言はできぬが、たぶん大丈夫じゃろう。迦美羅の妖気がなくなれば、それを押しとどめている建御雷神の神気も不要になるはずじゃ……』
(分かったッ! 見ていて、咲耶ッ……!)
咲耶の言葉に頷くと、咲希が迦美羅に向かって叫んだ。
「将成の血を啜って下僕にしようとし、玉藻を夜叉に差し出したあなたを、あたしは絶対に許せないッ! 二度と二人に手出しできないように、あたしがあなたを斃すわッ!」
そう告げた瞬間、咲希の全身が神々しい神気の火焔に包まれた。直視できないほどの光輝が咲希の体を取り巻き、螺旋を描きながら昇華した。
「へえ……。人の身にしては、なかなかの神気ね。でも、私と戦うにはまだまだ力不足よ……」
ニヤリと楽しげな笑みを浮かべると、迦美羅はおもむろに右手を開いて高々と頭上に掲げた。その手の平に真紅の妖気が収斂し、凄まじいエネルギーが渦となって凝集した。
「これが受けられるかしら……?」
迦美羅が右手を大きく振り落とした。その瞬間、手の平から放たれた妖気の火球が、直径二メートルを超える奔流となって咲希に襲いかかった。
『避けるのじゃ、咲希ッ……!』
(分かってるッ!)
瞬時に両脚に神気を集めると、咲希は大きく左へ翔んだ。灼熱の奔流が、咲希の体をかすめて大地へと激突した。
ズッドーンッ……!
大気を震撼させ、大地を激震させるほどの轟音が響き渡った。直前まで咲希が立っていた場所に、直径五メートルを超える巨大な陥没が生じた。直撃していたら、咲希の体など跡形もないほどに消滅させる破壊力だった。
(あんなの喰らったら、洒落にならないわ……)
底が見えない巨大な穴を視線の片隅に捉えて、咲希の背筋に冷や汗が流れた。
『油断するでないぞ、咲希……。今のは奴にとって遊びのようなものじゃ……』
(あれで遊びって、冗談でしょッ? 遊びで地面に大穴開けられたら、堪らないわよッ!)
迦美羅の攻撃で降りそそぐ粉塵を神気の結界で防ぎながら、咲希が顔を引き攣らせた。
「よく避けたわね。これなら、どうかしら……?」
そう告げると、迦美羅は妖気を纏った両手を二回ずつ大きく振った。
先ほどの攻撃と同等の威力を持った火焔の奔流が、同時に四本襲いかかってきた。それも逃げ道を塞ぐかのように、咲希の前後左右を等間隔で攻撃してきた。
「ハァアッ……!」
大きく膝を曲げると、裂帛の気合いとともに咲希は真上へと翔んだ。その高さは人間の身体能力を遥かに超越し、十メートルにも及んだ。足元で起こった四つの爆発が、長い漆黒の髪を激しく舞い上げた。その灼熱の爆風の中で、咲希は上段に構えた<咲耶刀>を一気に振り落とした。
収斂された神気が巨大な神刃となって、迦美羅に襲いかかった。
「くッ……!」
迦美羅が咲希から見て右手に跳び退った。光輝の神刃が赤茶色の髪を数本斬り裂きながら、迦美羅の背後で大地に激突した。迦美羅の攻撃を凌駕する爆音が響き渡り、大地を激しく鳴動させた。
「思っていたより、やるわね……」
「あなたこそ……」
半顔を灼かれた女と長い漆黒の髪の美少女が、お互いの力量を認め合って微笑を浮かべた。大地を揺るがす爆発によって降りそそぐ粉塵を、強固な結界で防ぎながら将成が二人の激闘を平然と見据えていた。
「……ッ!」
口の中に異物感を感じて、玉藻は意識を取り戻した。同時に、驚愕のあまり眼を見開いた。星々の煌めきを映す黒瞳の目の前に、鬱蒼と茂る漆黒の叢があった。太く長大な男根を咥えさせられていたのだ。
(何なんですの、これは……!)
暴れようとして体を動かしたが、両腕は背中で拘束されていた。それどころか、腰骨が熱く痺れて下半身が麻痺したように重かった。夜叉によって激しい凌辱を受けた記憶が、玉藻の脳裏に蘇った。その凄まじい蹂躙によって、足腰に力が入らなかった。
「おッ……? 目を覚ましたぜ、こいつ……」
「分かるのか?」
玉藻の口を犯している男が嗤いを浮かべながら、背後にいるもう一人の男に訊ねた。
「俺のを締め付けてきやがった……」
その言葉で、玉藻は自分の中で脈打つ男の存在に気づいた。それほど全身が綿のように疲れ切っていたのだ。
(この二人……夜叉ではありませんわ……。まさか、四天王の……)
玉藻の疑惑に答えるかのように、右手の方から夜叉の声が響き渡った。
「火允、無名《ムナ》……、休ませずに犯せ。気が狂うまで犯し抜いてやるがいい。ただし、絶対に精は出すな。淫魔にとって、男の精は何よりの滋養だからな」
主の命令に応えるかのように、二人の男が激しく腰を動かし出した。喉の奥まで長大な男根で塞がれ、その苦しさに玉藻は眉間に縦皺を刻みながら涙を流した。それと同時に、腰骨を灼き尽くすほどの愉悦が背筋を舐め上げ、四肢の先端まで甘く痺れさせた。下半身を犯している男が、三浅一深の動きで玉藻を責めだしたのだ。
「んくッ……んあッ……ぐッ……んはッ……!」
巨大な逸物を咥えさせられている玉藻の唇から、涎とともに堪えようもない喘ぎが漏れ始めた。夜叉によって刻まれた灼熱の塊が、瞬く間に再燃して全身を灼き溶かし始めたのだ。
(淫魔の私が、こんなに昂ぶらされるなんて……)
己の体を襲う快感の奔流に流されそうになり、玉藻は必死で抗った。だが、一度火がついた女体を押しとどめることは、淫魔であろうと不可能であった。
「くッ……はッ……あッ……んあッ……んくぅッ……!」
こみ上げる愉悦に抗いきれず、玉藻は総身をビクンッビクンッと痙攣させながら絶頂を極めた。脳髄がトロトロに蕩かされ、全身が熱く燃え上がって指先まで甘く痺れた。
(こんな簡単に……あッ、だめッ……! いやッ……! だめぇえッ……!)
絶頂に達したばかりの女体を休む間もなく責められ、玉藻はすぐさま次の歓悦の階段を駆け上らされた。
玉藻の口を犯している男……火允が、両手の人差し指を耳穴に差し込んで来た。耳たぶを擦られながら耳穴を穿られ、脳髄を直接弄られるような快感に玉藻はグンッと白い顎を突き上げた。それと同時に激しく腰を叩きつけている男……無名が両手で玉藻の豊かな乳房を揉みしだき始めた。そして、硬く突き勃った媚芯を指先で摘まみ上げると、コリコリと扱きながら捏ね回した。その間も、一時も休むことなく三浅一深の動きで玉藻を責め続けた。
(ひッ……! だめッ……いやッ……! こんなの、おかしくなるッ……! いやッ、また……! だめぇえッ……!)
総身を大きく仰け反らせると、ビックンッビックンッと激しく痙攣しながら玉藻は再び絶頂を極めた。だが、二人がかりの壮絶な責めは、玉藻に官能の愉悦を噛みしめる暇さえ与えてくれなかった。
(だめッ……! ずっと、イカされ続けて……ひぃいッ……! 頭が……溶けるッ! 狂ってしまうッ……! いやぁあッ……! また、イクッ……! イグぅうッ……!)
永遠とも思える凄まじい凌辱に、玉藻は随喜の涙が止まらずに悶え狂った。途切れることのない凄絶な快感に全身の痙攣は止まらなくなり、秘唇から溢れ出る蜜液は失禁したかのように白い内股をビッショリと濡らした。
淫魔である玉藻は、男であれ女であれ、相手が絶頂を極めさえすればその精気を吸収して己の糧に変えることができた。だが、夜叉は言うに及ばず、火允や無名でさえも一度も精を放たなかったのだ。それに対して、玉藻は休む間もなく数十回も歓悦の頂点を極めさせられた。これは一滴の水さえ飲まずに、フルマラソンを何回も続けて走らされることと同じであった。三千年を生きる大淫魔とは言え、これほどまでの凌辱はかつて一度も受けたことがなかった。
(もう、許してッ! 私、毀れてしまう……! 助けて、咲希……!)
その思考を最後に、玉藻はガクリと首を折って再び失神した。
絶世の美貌は涙と涎に塗れ、豊かな胸の中心には痛々しいほど媚芯がそそり勃っていた。秘唇から溢れ出た蜜液は白い内股を塗らして、豪華な棺の中に淫らな模様を描いた。
ビクンッビックンッと痙攣を続ける美しい裸身を、火允と無名が代わる代わる犯し抜いていた。
「ハァアッ……!」
裂帛の気合いとともに、咲希は左腰に構えた<咲耶刀>を右上へと斬り上げた。眼にも留まらぬ速度で放った居合抜きから、白銀に輝く神刃が放たれ火焔の奔流を両断した。二つに割れた業火の潮流が咲希の体を避けて、轟音とともに背後で大地に激突した。その衝撃によって舞い上がる粉塵と襲いかかる熱風を、咲希は光輝の結界によって防いだ。
「ハァ……ハァ……ハァア……!」
この果てしない攻防は、すでに一時間以上は続いていた。迦美羅が放った火焔の奔流を咲希が斬り裂き、咲希の神刃を迦美羅が防いだ。二人の実力はほぼ伯仲していた。美しい貌から滝のような汗を流し、肩で大きく息を切らせながら咲希は目の前に立つ迦美羅を見据えた。迦美羅も激しい疲労に塗れた表情で、咲希を見つめ返した。
「ここまで……やるとはね……」
「あなた……こそ……」
お互いに言葉を交わすことも辛いほど、全身が綿のように疲れ切っていた。だが、勝負を投げ出すことができない想いがそれぞれにあった。その想いの重さがこの勝敗を決する鍵であることを、お互いが知っていた。
愛する将成を元に戻すこと、そして、大切な玉藻を救い出すこと……。その二つの想いが、今の咲希を支えているすべてであった。
一方、迦美羅は誰よりも信頼する夜叉の命令を忠実にこなすことがすべてであった。迦美羅にとって、夜叉は主であり、恩人であり、最愛の男であった。その事実は、千八百年前から今もずっと変わらない不変の真理であった。
迦美羅は今からおよそ千八百年前に、オーストリアで生を受けた。彼女が生まれたのは、現在のオーストリア共和国を形成する九つの連邦州の一つであるシュタイアーマルクという自然豊かな土地だった。
幼い頃から美貌に恵まれたカーミラは、カルンスタインの伯爵と結婚して伯爵夫人と呼ばれた。だが、カルンスタイン伯爵との蜜月はあまりにも短かった。結婚して三ヶ月後に、カルンスタイン伯爵は落馬によって帰らぬ人となってしまったのである。まだ十八歳であったカーミラは、悲嘆のあまり絶望した。
そのカーミラを支えてくれたのは、カルンスタイン伯爵の親友であったヴォルデンベルグ男爵だった。愛する夫を失ったカーミラにとって、伯爵家を背負っていく重圧を支えてくれたヴォルデンベルグ男爵の存在は日に日に大きくなっていった。そして、ある仮面舞踏会が開催された夜に、カーミラはヴォルデンベルグ男爵と一夜を共に過ごした。その日を境にカーミラの心は、ヴォルデンベルグ男爵に大きく傾いた。
だが、ヴォルデンベルグ男爵には妻子だけでなく、多数の愛人がいた。彼女たちに対する激しい嫉妬は、カーミラを狂気へと誘った。カーミラは様々な策を弄してヴォルデンベルグ男爵の愛人たちを暗殺し、その血でワインを作った。そして、ヴォルデンベルグ男爵と愛を交わす夜には必ず、彼にそのワインを飲ませたのだった。
ある時、愛妾の一人からワインの中身を聞かされた男爵は、驚愕し激怒した。そして、ワインを携えて寝室に入ってきたカーミラを、ヴォルデンベルグ男爵は怒りにまかせて首を絞めて殺害した。薄幸で短い生を終えたカーミラは、カルンスタイン礼拝堂の近くにある墓地に埋葬された。田舎町であったカルンスタインは、カーミラの所業とその非業の死の噂で持ちきりになった。
咲耶との壮絶な戦いによる傷が癒えた夜叉がカルンスタインを訪れたのは、カーミラの殺されてから半年後だった。カーミラの噂に興味を持った夜叉は、ある夜に彼女の墓を暴いた。そこには死後半年を経過しているにも拘わらず、生前と同じ美しさを保っているカーミラが眠っていた。夜叉はその偉大な妖気を纏わせた乱杭歯を、カーミラの首筋に食い込ませた。その瞬間、カーミラの心臓は再び鼓動を始め、赤光を放つ瞳で夜叉を見つめて微笑んだ。
夜叉の手を借りてヴォルデンベルグ男爵に復讐を遂げたカーミラは、乱杭歯が光る口元に微笑を浮かべながら告げた。
「私の新たな生は夜叉様に捧げます。貴方様を主と仰ぎ、この命ある限り貴方様の忠実な僕となります」
その言葉通り、カーミラはその美しい肢体を夜叉に捧げた。カーミラにとって夜叉は、何物にも代えがたい最愛の主となった。
その夜を境として、カーミラは夜叉四天王の一人、迦美羅として新たな人生をスタートさせた。
「そろそろ、この茶番にも飽きてきたわ。たかが人間風情が、偉大なる夜叉様の僕である私と肩を並べるなど僭越この上ないッ! 今から、私の真の力を見せて上げるわッ!」
そう告げると、迦美羅は両手を高々と頭上に掲げた。その手の平から膨大な妖気を噴出させた。その凄まじい妖気が螺旋を描きながら収斂していき、巨大な火球と化した。その直径は今までで最大であり、優に五十センチを超えていた。
『気をつけるのじゃ、咲希……』
(分かってる……!)
今までの火球は直径十センチから二十センチ程度に妖気が凝集したものだった。それが直径二メートルほどの火焔の奔流に変わって咲希を襲ったのだ。その倍以上の火球であれば、どれ程の威力になるのか容易に想像がついた。
「ハァアッ……!」
裂帛の気合いとともに、迦美羅が両手を一気に振り落とした。灼熱の火球が膨大な妖気の潮流に変わり、凄まじい速度で咲希に襲いかかった。その直径は優に十メートルを超えていた。
「くッ……!」
咲希は咄嗟に<咲耶刀>を左腰にある神鞘に納刀した。そして、両脚を大きく前後に開くと、腰を落として居合抜きの体勢をとった。
「ハッ……!」
短い気合いとともに、全身の神気を<咲耶刀>に集結させて神速の居合抜きを放った。白銀に輝く<咲耶刀>の刀身から、超烈な神刃が放たれ光輝の刃となって飛翔した。
ズッドーンッ……!
妖気の奔流と光輝の神刃が激突し、轟音とともに大地が削られて巨大な陥没が形成された。その凄絶な衝撃波はしのぎを削り合い、二人のほぼ中央で互いの破壊力を拮抗させた。バチバチと凄まじい放電を放つ妖気と神気の衝突は、龍虎が争うようにその威力が互いに相博させた。
「ハァアッ……!」
居合を放った姿勢で<咲耶刀>を両手で握り直すと、咲希は右上段から一気に袈裟懸けに斬り落とした。新たな神刃が<咲耶刀>から放たれ、空中で激突している二つの衝撃波を後押しするように翔破した。
「……ッ!」
驚愕と共に、迦美羅が赤光を放つ瞳を大きく見開いた。超絶な白銀の神刃が、火焔の奔流を併呑して迦美羅に襲いかかった。
「ぎゃああッ……!」
白い乱杭歯が光る口元を大きく開いて、迦美羅が絶叫した。神速で迫る神刃が、左肩から右腰にかけて迦美羅の体を両断した。
迦美羅の美しい肢体に、斜めに線が入った。その線に沿って迦美羅の上半身が、ズレ落ちていった。ドサリと音を立てて半身を地面に激突させた迦美羅が、驚愕の表情を浮かべながら咲希を見上げた。
『首を刎ねるのじゃ、咲希……! 心臓を斬り裂き、首を刎ねねば吸血鬼は復活するぞッ!』
(分かった……!)
咲耶の言葉に頷くと、とどめを刺すべく咲希は右手で<咲耶刀>を構えながら迦美羅に近づいた。
「まさか……人間に……斃される……とは……」
半顔を灼かれた表情を苦悶に歪めながら、迦美羅が咲希を見据えた。<咲耶刀>を右上段に構えながら、咲希が迦美羅を見下ろして訊ねた。
「玉藻はどこにいるの……?」
その言葉に、迦美羅は凄惨な微笑を浮かべた。
「フッ、ハッハハッ……! あの女狐なら今頃は夜叉様だけでなく、火允や無名に輪姦されているはずよ。淫魔といえど、あの三人に犯されて正気を保っていられるかしら……?」
「何ですってッ……!」
迦美羅の言葉に驚愕して、黒曜石の瞳を見開きながら咲希が叫んだ。夜叉だけでなく、四天王の火允と無名までもが玉藻を凌辱しているなど予想さえしていなかった。
「どこにいるの、玉藻はッ……?」
「私が教えるとでも思っているの? おめでたい娘ね……?」
白い乱杭歯を光らせながら、迦美羅が嘲笑った。その時、咲耶の声が響き渡った。
『咲希、此奴の首を刎ねるのじゃッ!』
(でも、玉藻の居場所を聞き出さないと……)
咲耶の言葉に抗うように、咲希が悲痛な表情を浮かべながら告げた。
『九尾狐は恐らく夜叉の結界の中じゃ……。そこに九尾狐を送り込んだとすれば、此奴は夜叉の結界と繋がっておる。此奴を殺せば、その結界への道が開かれるはずじゃ……!』
「……ッ!」
咲希は、咲耶の言葉を信じて頷いた。普段はへっぽこ女神でも、こういう時の咲耶は誰よりも頼りになることを咲希は知っていた。
「玉藻を助けるために、あなたを殺すわッ!」
「ふん……。お前が夜叉様に敵うとでも……ッ!」
迦美羅の言葉を遮るように、咲希が<咲耶刀>を一閃させた。微笑を浮かべた迦美羅の首が、鮮血を噴出させながら宙に舞った。
「……ッ!」
次の瞬間、首を失った迦美羅の肢体が崩れ落ち、漆黒の靄に包まれた。その濃厚な闇霧に向かって、咲耶が叫んだ。
『咲希、あの闇霧の中に跳び込むのじゃッ! あれが夜叉の結界へと続く道じゃッ!』
「分かったわッ……!」
咲耶の言葉に大きく頷くと、咲希は躊躇いもなくその闇霧の中へ身を躍らせた。
その先にいまだかつて経験したことのない地獄が待っていることを、咲希は予想さえもしていなかった。
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