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第一章 嵐狼
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「あんた、いい女だな。どうだい、お茶でも飲まないか? 何なら、酒でもいいぜ」
突然、声をかけてきた男を見据えると、ティアは無視することに決め込んで足を速めた。だが、男はしつこく追いすがってきた。
「おいおい、シカトはねえだろ? お茶や酒が嫌なら、飯でも奢るぞ」
小さくため息をついて足を止めると、ティアは観察するように男を見返した。
年齢は二十歳過ぎくらいで、背はティアよりも頭半分ほど高かった。たぶん、百七十五セグメッツェくらいだろう。痩せ型だが、使い込まれた革鎧の下には鍛え上げられた筋肉が隠されているようだった。手足は長く動きも俊敏で、左腰に下げた剣は飾り物ではなさそうだった。薄茶色の髪を無造作に後ろで束ね、女性にもてそうな甘い容貌の中で碧い瞳が獲物を狙う鷹のように鋭い光を放っていた。
だが、おとなしく鷹の餌食になるつもりはティアにはなかった。
「悪いけど、急いでいるんです。他の方を当たってください」
そう告げて歩き出そうとすると、男が行く手を阻むようにティアの正面に回り込んできた。なかなか素早い足捌きだと、ティアは思わず感心した。
「そう冷たくするなって。美人が台無しだぞ。ところで、あんた何で二本も刀を差しているんだ? 二刀流だってか?」
ティアが左の腰に差している二本の刀に視線を送りながら、男が訊ねてきた。
「違います。単なるはったりです。言い寄ってくる男避けなんです」
「そうか。あんたくらい美人なら男が放っておかないだろう。俺がその刀の代わりになってやろうか?」
ティアの嫌味に気づかないのか、故意に無視しているのか、男が笑いながら告げた。
「結構です。それよりも通してくれませんか? 私、あそこの冒険者ギルドに行きたいんですけど……」
二十メッツェほど先の冒険者ギルド皇都本部に視線を移しながら、ティアが男に告げた。さすがにギルドの近くで騒動を起こす気にはなれなかった。
「へえ、あんた冒険者か。奇遇だな。俺も冒険者ギルドに向かうところだったんだ。一緒に行こうぜ。クラスはなんだ?」
「見ての通り、剣士クラスです」
「その若さからすると、クラスCかDくらいか? あんまり見かけない顔だが、固定パーティには入ってるのかい?」
男は道を空けると、ティアに並んで歩きながらしつこく話しかけてきた。ティアは再び小さくため息をつくと、ギルドに向かう足を速めた。ギルドの中には多くの冒険者がいるはずなので、男も諦めるだろうと考えたのだ。
「そんなところです。以前はパーティに入っていたんですが、ここ二年ほどは独りです。それで、知り合いがいるパーティを探しにギルドに行くところなんです」
「何なら、俺が探してやろうか? こう見えても、盗賊クラスAなんだ。探し物には自信があるぜ」
「盗賊クラスですか? 珍しいですね」
思わず興味を抱いて、ティアが左横を歩く男を見つめた。
どこの冒険者ギルドでも剣士クラスが圧倒的に多く、次いで槍士、弓士、魔道士、拳士クラスなどの攻撃職が人気だった。装備の消耗が激しい盾士クラスや回復役の術士クラスは、どちらかと言えば不遇職で人気も低かった。それ以上に少ないのが盗賊クラスだった。
盗賊クラスは本来、索敵、諜報、危険回避、情報収集などに優れたクラスなのだが、名前の印象が悪いのか八クラス中で最も人数が少なかった。ティアも実際に盗賊クラスと会ったのは初めてだった。
「天邪鬼なもんで、人と同じっていうのが嫌いなんだ。ちぇ、もうギルドに着いちまったか。さすがに荒くれた冒険者たちの前であんたを口説くわけにもいかねえな。今度、見かけたらまた声をかけるぜ。じゃあな」
笑顔でそう告げると、男はティアを置いて先にギルドに入って行った。しつこいが、どこか憎めない男だった。
ティアは大きくため息をつくと、気を取り直してギルドの入口にある観音扉を開けた。
ギルドに入ると、真っ先に掲示板に貼られた依頼書を見るのは、冒険者の習性といってもよかった。それに漏れず、ティアも掲示板の方へ歩いて行った。その時、聞き覚えのある言葉が聞こえてきたため、ティアは思わずその声の方を振り向いた。
「<漆黒の翼>に指名依頼を出したいんだ。今、どこにいるのか教えてくれ」
ティアの視線の先には、先ほどの男が受付嬢に話しかけている姿があった。その内容に興味を抱き、ティアは掲示板を見ている振りをして聞き耳を立てた。
「<漆黒の翼>でしたら、今朝から依頼を受けて『アカシアの煉獄』に行っています。二、三日で戻ると思いますので、指名依頼の手続きをされますか?」
「ああ頼むよ。ところで、あんた美人だな。今度、お茶でもどうだい? 酒でもいいぜ」
(呆れた……、私に言ったことと同じことを言ってるわ)
男の誘いを上手に躱すことは、受付嬢の仕事の一つのようなものだ。彼女は慣れた素振りで愛想よく男に告げた。
「お誘いありがとうございます。ランディさんですね。盗賊クラスAですか、そのお歳で凄いですね。がんばって、一日も早くクラスSになってください。うちはギルマスがクラスSなので、私たちにも結婚するならクラスSにしろってうるさいんですよ」
「ちぇ、ギルドの受付嬢はよく教育されてるな」
男は苦笑いを浮かべながら、受付嬢が渡した依頼用紙に記入し始めた。
指名依頼は、その名の通り依頼人が冒険者パーティを名指しする依頼だ。パーティのランクによって一応の相場はあるが、基本的に依頼料は指名されたパーティ・リーダーが自由に決めることが出来た。その代わり、指名を受けたパーティは現在遂行中の依頼が終わり次第、必ず指名依頼に取りかからなければならない決まりがあった。
(アルフィはいくらの値段をつけるかしら?)
ティアやダグラスといった内輪には甘いが、外には厳しいアルフィのことだ。ぼったくられるだろうなと思い、ティアは心の中で男に同情した。
「これでいいかい?」
依頼書に記入を終えた男が、羊皮紙を受付嬢に手渡した。
「ありがとうございます。ランディ=カイザードさんですね。指名パーティは<漆黒の翼>で、期限はできるだけ早く。依頼内容は、誘拐された妹さんの救出ですか?」
「そうだ。犯人はすでに分かっている。だが、ちょいとやっかいな相手なんで、ランクSパーティの力を借りたいんだ」
ランディの言葉に、ティアは眉をひそめた。攻撃職ではないとは言え、盗賊クラスAが手を出せないほどの相手というのが気になった。まして、先ほどランディからは剣士クラスB程度の力を感じたのだった。誘拐犯程度であれば、一人で乗り込んで解決できる腕前はあるはずだ。その気になれば木龍でさえ倒すほどの力を持つアルフィとダグラスを必要とするほどの依頼とは考えられなかった。
「ご存じだと思いますが、<漆黒の翼>はランクSパーティです。指名依頼料は<漆黒の翼>のリーダーであるアルフィ=カサンドラさんが決定しますが、一般的な相場としては白金貨二百枚から四百枚です。失礼ですが、それで問題ありませんか?」
受付嬢が告げた金額を聞いて、ティアは驚いた。S級依頼の相場が白金貨百枚から二百枚であることを考えると、指名依頼はその倍額だった。
「問題ない。こう見えてもクラスAだ。そのくらいの蓄えはあるよ。それより、ギルマスにばれないように食事に行かないか?」
男の台詞に、ティアは呆れかえった。思わず受付嬢の顔を見ると、彼女も驚き呆れ果てていた。
「ランディさん、あまりしつこいとギルマスを呼び出しますよ」
「分かったよ。ここのギルマスはクラスSらしいから、勘弁してくれ」
ぴしゃりと告げた受付嬢の言葉に、ランディは両手を広げておどけたように笑った。
(どういう神経してるのかしら? 女たらしが服を着て歩いてるみたいだわ)
根が真面目なティアは、このように軽薄な男が大っ嫌いだった。ランディの依頼をアルフィが断ってくれないかと思ったが、誘拐された妹に罪はないと考え直して受付に向かって歩き出した。
「割り込んですみません。<漆黒の翼>への指名依頼だと聞こえたので……。私も<漆黒の翼>を探しているんです。『アカシアの煉獄』にいるのであれば、私も連れて行ってくれませんか?」
ティアは男に近づくと、笑顔を浮かべながら訊ねた。
「ああ、あんたか。あんたみたいな美人と一緒に行くのは嬉しいけど、『アカシアの煉獄』が上級ダンジョンだって知ってるのか? とてもじゃないが、クラスCやDが入れるようなところじゃないぜ」
ランディの口ぶりは悪かったが、一応はティアのことを心配しているように思えた。
(軽薄だけど、根っからの悪人ではなさそうね)
そう思うと、ティアはランディの自尊心をくすぐるように告げた。
「初対面の私を気遣って頂いてありがとうございます。でも、ランディさんでしたか? 盗賊クラスAの実力があれば、上級ダンジョンでも無駄な戦闘をしないで進めるんじゃありませんか?」
盗賊クラスは索敵能力に優れており、敵の場所や数、強さなどをかなり遠くから察知することが出来る。まして、クラスAともなれば、その距離もかなりのものだとティアは思った。
「まあな。S級魔獣相手でも、逃げ出すことくらいはできるよ」
ティアのおだてに乗って、ランディが自慢げに胸を張りながら答えた。
「それなら安心ですね。『アカシアの煉獄』って聞いて、私一人で行くのは不安だったんです。一緒に行ってくれると助かります」
豊かな胸の前で両手の指を組み合わせ、ティアはやや首を傾げながら上目遣いでランディを見上げた。この仕草も、剣聖ラインハルトに教え込まれたものだった。ラインハルトは剣技だけではなく、女の武器も含めて使えるものは全て使えとティアに教えたのだ。
「あ、ああ……。分かった、一緒に行こう。そこまで頼まれたんじゃ仕方ねえ。俺が安全に<漆黒の翼>まで連れて行ってやるよ」
どうやら、ティアの武器はランディに効果があったようだった。いや、効果がありすぎたようだった。ランディは満面の笑顔を浮かべると、ティアの肩に腕をまわして歩き出した。
(ラインハルト様がおっしゃる以上に効き目があるわね。さて、どうしようかな?)
無理に拒むとランディが機嫌を損ねて同行を拒否することも考えられた。そうかと言って、冒険者ギルドの中で抜刀して脅しつけるわけにもいかなかった。
結局、ティアは馬舎亭のある西門まで、ランディに肩を組まれたまま歩いて行った。
突然、声をかけてきた男を見据えると、ティアは無視することに決め込んで足を速めた。だが、男はしつこく追いすがってきた。
「おいおい、シカトはねえだろ? お茶や酒が嫌なら、飯でも奢るぞ」
小さくため息をついて足を止めると、ティアは観察するように男を見返した。
年齢は二十歳過ぎくらいで、背はティアよりも頭半分ほど高かった。たぶん、百七十五セグメッツェくらいだろう。痩せ型だが、使い込まれた革鎧の下には鍛え上げられた筋肉が隠されているようだった。手足は長く動きも俊敏で、左腰に下げた剣は飾り物ではなさそうだった。薄茶色の髪を無造作に後ろで束ね、女性にもてそうな甘い容貌の中で碧い瞳が獲物を狙う鷹のように鋭い光を放っていた。
だが、おとなしく鷹の餌食になるつもりはティアにはなかった。
「悪いけど、急いでいるんです。他の方を当たってください」
そう告げて歩き出そうとすると、男が行く手を阻むようにティアの正面に回り込んできた。なかなか素早い足捌きだと、ティアは思わず感心した。
「そう冷たくするなって。美人が台無しだぞ。ところで、あんた何で二本も刀を差しているんだ? 二刀流だってか?」
ティアが左の腰に差している二本の刀に視線を送りながら、男が訊ねてきた。
「違います。単なるはったりです。言い寄ってくる男避けなんです」
「そうか。あんたくらい美人なら男が放っておかないだろう。俺がその刀の代わりになってやろうか?」
ティアの嫌味に気づかないのか、故意に無視しているのか、男が笑いながら告げた。
「結構です。それよりも通してくれませんか? 私、あそこの冒険者ギルドに行きたいんですけど……」
二十メッツェほど先の冒険者ギルド皇都本部に視線を移しながら、ティアが男に告げた。さすがにギルドの近くで騒動を起こす気にはなれなかった。
「へえ、あんた冒険者か。奇遇だな。俺も冒険者ギルドに向かうところだったんだ。一緒に行こうぜ。クラスはなんだ?」
「見ての通り、剣士クラスです」
「その若さからすると、クラスCかDくらいか? あんまり見かけない顔だが、固定パーティには入ってるのかい?」
男は道を空けると、ティアに並んで歩きながらしつこく話しかけてきた。ティアは再び小さくため息をつくと、ギルドに向かう足を速めた。ギルドの中には多くの冒険者がいるはずなので、男も諦めるだろうと考えたのだ。
「そんなところです。以前はパーティに入っていたんですが、ここ二年ほどは独りです。それで、知り合いがいるパーティを探しにギルドに行くところなんです」
「何なら、俺が探してやろうか? こう見えても、盗賊クラスAなんだ。探し物には自信があるぜ」
「盗賊クラスですか? 珍しいですね」
思わず興味を抱いて、ティアが左横を歩く男を見つめた。
どこの冒険者ギルドでも剣士クラスが圧倒的に多く、次いで槍士、弓士、魔道士、拳士クラスなどの攻撃職が人気だった。装備の消耗が激しい盾士クラスや回復役の術士クラスは、どちらかと言えば不遇職で人気も低かった。それ以上に少ないのが盗賊クラスだった。
盗賊クラスは本来、索敵、諜報、危険回避、情報収集などに優れたクラスなのだが、名前の印象が悪いのか八クラス中で最も人数が少なかった。ティアも実際に盗賊クラスと会ったのは初めてだった。
「天邪鬼なもんで、人と同じっていうのが嫌いなんだ。ちぇ、もうギルドに着いちまったか。さすがに荒くれた冒険者たちの前であんたを口説くわけにもいかねえな。今度、見かけたらまた声をかけるぜ。じゃあな」
笑顔でそう告げると、男はティアを置いて先にギルドに入って行った。しつこいが、どこか憎めない男だった。
ティアは大きくため息をつくと、気を取り直してギルドの入口にある観音扉を開けた。
ギルドに入ると、真っ先に掲示板に貼られた依頼書を見るのは、冒険者の習性といってもよかった。それに漏れず、ティアも掲示板の方へ歩いて行った。その時、聞き覚えのある言葉が聞こえてきたため、ティアは思わずその声の方を振り向いた。
「<漆黒の翼>に指名依頼を出したいんだ。今、どこにいるのか教えてくれ」
ティアの視線の先には、先ほどの男が受付嬢に話しかけている姿があった。その内容に興味を抱き、ティアは掲示板を見ている振りをして聞き耳を立てた。
「<漆黒の翼>でしたら、今朝から依頼を受けて『アカシアの煉獄』に行っています。二、三日で戻ると思いますので、指名依頼の手続きをされますか?」
「ああ頼むよ。ところで、あんた美人だな。今度、お茶でもどうだい? 酒でもいいぜ」
(呆れた……、私に言ったことと同じことを言ってるわ)
男の誘いを上手に躱すことは、受付嬢の仕事の一つのようなものだ。彼女は慣れた素振りで愛想よく男に告げた。
「お誘いありがとうございます。ランディさんですね。盗賊クラスAですか、そのお歳で凄いですね。がんばって、一日も早くクラスSになってください。うちはギルマスがクラスSなので、私たちにも結婚するならクラスSにしろってうるさいんですよ」
「ちぇ、ギルドの受付嬢はよく教育されてるな」
男は苦笑いを浮かべながら、受付嬢が渡した依頼用紙に記入し始めた。
指名依頼は、その名の通り依頼人が冒険者パーティを名指しする依頼だ。パーティのランクによって一応の相場はあるが、基本的に依頼料は指名されたパーティ・リーダーが自由に決めることが出来た。その代わり、指名を受けたパーティは現在遂行中の依頼が終わり次第、必ず指名依頼に取りかからなければならない決まりがあった。
(アルフィはいくらの値段をつけるかしら?)
ティアやダグラスといった内輪には甘いが、外には厳しいアルフィのことだ。ぼったくられるだろうなと思い、ティアは心の中で男に同情した。
「これでいいかい?」
依頼書に記入を終えた男が、羊皮紙を受付嬢に手渡した。
「ありがとうございます。ランディ=カイザードさんですね。指名パーティは<漆黒の翼>で、期限はできるだけ早く。依頼内容は、誘拐された妹さんの救出ですか?」
「そうだ。犯人はすでに分かっている。だが、ちょいとやっかいな相手なんで、ランクSパーティの力を借りたいんだ」
ランディの言葉に、ティアは眉をひそめた。攻撃職ではないとは言え、盗賊クラスAが手を出せないほどの相手というのが気になった。まして、先ほどランディからは剣士クラスB程度の力を感じたのだった。誘拐犯程度であれば、一人で乗り込んで解決できる腕前はあるはずだ。その気になれば木龍でさえ倒すほどの力を持つアルフィとダグラスを必要とするほどの依頼とは考えられなかった。
「ご存じだと思いますが、<漆黒の翼>はランクSパーティです。指名依頼料は<漆黒の翼>のリーダーであるアルフィ=カサンドラさんが決定しますが、一般的な相場としては白金貨二百枚から四百枚です。失礼ですが、それで問題ありませんか?」
受付嬢が告げた金額を聞いて、ティアは驚いた。S級依頼の相場が白金貨百枚から二百枚であることを考えると、指名依頼はその倍額だった。
「問題ない。こう見えてもクラスAだ。そのくらいの蓄えはあるよ。それより、ギルマスにばれないように食事に行かないか?」
男の台詞に、ティアは呆れかえった。思わず受付嬢の顔を見ると、彼女も驚き呆れ果てていた。
「ランディさん、あまりしつこいとギルマスを呼び出しますよ」
「分かったよ。ここのギルマスはクラスSらしいから、勘弁してくれ」
ぴしゃりと告げた受付嬢の言葉に、ランディは両手を広げておどけたように笑った。
(どういう神経してるのかしら? 女たらしが服を着て歩いてるみたいだわ)
根が真面目なティアは、このように軽薄な男が大っ嫌いだった。ランディの依頼をアルフィが断ってくれないかと思ったが、誘拐された妹に罪はないと考え直して受付に向かって歩き出した。
「割り込んですみません。<漆黒の翼>への指名依頼だと聞こえたので……。私も<漆黒の翼>を探しているんです。『アカシアの煉獄』にいるのであれば、私も連れて行ってくれませんか?」
ティアは男に近づくと、笑顔を浮かべながら訊ねた。
「ああ、あんたか。あんたみたいな美人と一緒に行くのは嬉しいけど、『アカシアの煉獄』が上級ダンジョンだって知ってるのか? とてもじゃないが、クラスCやDが入れるようなところじゃないぜ」
ランディの口ぶりは悪かったが、一応はティアのことを心配しているように思えた。
(軽薄だけど、根っからの悪人ではなさそうね)
そう思うと、ティアはランディの自尊心をくすぐるように告げた。
「初対面の私を気遣って頂いてありがとうございます。でも、ランディさんでしたか? 盗賊クラスAの実力があれば、上級ダンジョンでも無駄な戦闘をしないで進めるんじゃありませんか?」
盗賊クラスは索敵能力に優れており、敵の場所や数、強さなどをかなり遠くから察知することが出来る。まして、クラスAともなれば、その距離もかなりのものだとティアは思った。
「まあな。S級魔獣相手でも、逃げ出すことくらいはできるよ」
ティアのおだてに乗って、ランディが自慢げに胸を張りながら答えた。
「それなら安心ですね。『アカシアの煉獄』って聞いて、私一人で行くのは不安だったんです。一緒に行ってくれると助かります」
豊かな胸の前で両手の指を組み合わせ、ティアはやや首を傾げながら上目遣いでランディを見上げた。この仕草も、剣聖ラインハルトに教え込まれたものだった。ラインハルトは剣技だけではなく、女の武器も含めて使えるものは全て使えとティアに教えたのだ。
「あ、ああ……。分かった、一緒に行こう。そこまで頼まれたんじゃ仕方ねえ。俺が安全に<漆黒の翼>まで連れて行ってやるよ」
どうやら、ティアの武器はランディに効果があったようだった。いや、効果がありすぎたようだった。ランディは満面の笑顔を浮かべると、ティアの肩に腕をまわして歩き出した。
(ラインハルト様がおっしゃる以上に効き目があるわね。さて、どうしようかな?)
無理に拒むとランディが機嫌を損ねて同行を拒否することも考えられた。そうかと言って、冒険者ギルドの中で抜刀して脅しつけるわけにもいかなかった。
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