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第一章 嵐狼
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アカシア迷宮街の中心部にある宿『アカシアの唄』に戻ると、ティアたちはアルフィが予約した二階西側の四人部屋で話しを始めた。二年前に、三人で愛し合い、ティアが初めてダグラスに抱かれた部屋だった。
二つある寝台のうち、奥にアルフィとティアが、手前にダグラスが座った。そして、寝台の足元にある長椅子に、左頬を大きく腫らしたランディが体を縮ませながら小さくなって腰を下ろしていた。ティアを強姦しようとしたことを聞き、ダグラスが力任せにランディを殴り飛ばしたのだった。
「あんたが気絶している間に、だいたいの話はティアから聞いたわ。指名依頼をしようというパーティメンバーを強姦するなんて、呆れてものも言えない。いったい、何を考えてるの?」
黒曜石の瞳に冷酷な光を浮かべながら、アルフィがランディを睨み付けた。一切の手加減をせずにダグラスが殴りつけたため、ランディはこの『アカシアの唄』に来るまでずっと気を失っていたのだった。彼がここにいるのは、ダグラスが嫌々ながらも担いできたからだった。
「すみません……。まさか、ティアさんがあの『紫音』だなんて知らなかったので……」
ビクつきながらアルフィとダグラスの顔を交互に見上げて、ランディは小声で呟くように言った。それを聞いて、アルフィが大きくため息をついた。
「まったく、あんたは……」
「アルフィ、ちょっと待ってくれ」
文句を言おうとしたアルフィの言葉を遮ると、濃茶色の瞳でランディを見つめながらダグラスが言った。
「お前、どこかで見た顔だと思っていたが、『嵐狼』じゃないか?」
「『嵐狼』って?」
初めて聞く言葉に、ティアがダグラスの顔を見上げながら訊ねた。
「こいつの二つ名だ。本名はたしか、ランディ=カイザードだったな? 冒険者ギルド皇都本部にも何人か盗賊クラスはいるが、クラスAなのは『嵐狼』だけだ」
「よくご存じで……。俺もなかなか有名人なんだな」
ダグラスの言葉に、ランディがニヤリと満足げに微笑んだ。ランクSパーティである<漆黒の翼>のダグラスにも名前が売れていたことが嬉しいらしい。
「確かに、『嵐狼』は女癖の悪さで有名だな。噂通りってわけか?」
「……」
持ち直した矜持をへし折られて、ランディが黙り込んだ。
「こいつが『嵐狼』だろうが何だろうが、関係ないわ。ティアを酔わせて強姦しようとしたことは変わらない。ダグラスに感謝することね。ダグラスがあんたをぶん殴ってなければ、あたしが氷漬けにしていたところよ」
「はい……」
情けない表情を浮かべながら、ランディがダグラスの顔を見上げた。ダグラスはムスッと不機嫌そうなままランディを睨み付けた。
「それで、あたしたちに指名依頼を出したことは聞いたわ。それを受けてやる義理なんてこれっぽっちもないんだけど、ティアの頼みだから仕方なく受けるわ」
「ありがとう、アルフィさん」
ホッとした表情を浮かべながら、ランディがアルフィの美貌を見つめた。その内心では、ティアもいいけどアルフィも悪くないと考えていた。
「依頼料は、そうね……。白金貨五千枚にするわ」
「ご……五千枚……」
不埒な考えを吹き飛ばして、ランディが驚愕のあまり言葉を失った。その様子を見て、ティアが笑い出した。
「あはは……。私の予想以上にアルフィを怒らせたみたいね。私の口添えくらいじゃ、アルフィの怒りを解くのは無理そうよ」
そう言うと、ティアは嬉しそうにアルフィに腕を絡ませた。アルフィが決める依頼料が高ければ高いほど、彼女の怒りが大きいということだ。逆に言えば、それだけティアを愛してくれているという証でもあった。
「ティア、強姦されそうになったとは聞いたけど、具体的に何をされたの?」
「え……それは……」
アルフィがティアを真っ直ぐに見つめた。その黒曜石の瞳には、ランディに対する激しい怒りが浮かんでいた。
「ちゃんと教えて。それによっては依頼料を変えるわ」
「酔わされて、気づいたら裸だった……」
恥ずかしそうに顔を赤らめながら、ティアが告げた。
「裸にされただけ? 他には……?」
「胸を揉まれて……」
ティアが言葉を途切れさせた。首筋まで赤く染め上げて、ティアはアルフィの視線を避けるように俯いた。
「それだけ……? きちんと言いなさい」
「あそこに……指を入れられた」
そう告げると、ティアは隠れるようにアルフィの豊かな胸に顔を埋めた。アルフィはティアの淡紫色の髪を優しく撫でると、ランディの顔を見つめてニヤリと笑った。
「依頼料を変えてあげるわ。白金貨一万枚ね」
「い、一万……」
アルフィが告げた金額を聞くと、ティアがピクンと肩を震わせてアルフィの背中に腕をまわして抱きついた。彼女にもアルフィの怒りの激しさが伝わったのだ。
「それが嫌なら、別のパーティを探しなさい。あたしのティアにそれだけのことをしておいて、命があるだけでも感謝しなさい」
アルフィの言葉を聞いて、ランディは心の底から後悔をした。<漆黒の翼>のリーダーであるアルフィは、ティアから知り合いだとは聞かされていたが、まさか女同士の関係にあるとは予想さえもしていなかった。
「ま、待ってくれ、アルフィさん!」
「……」
ランディの言葉に何も応えず、アルフィはジロリと彼を睨み付けた。
「白金貨三百枚を払う! 俺の全財産だ! 足りない分は俺の命で勘弁してくれ! 頼む、妹を……シャロンを助けてくれ!」
椅子から飛び降りると、ランディが土下座をして床に頭を付けた。アルフィの胸から顔を上げて、ティアはその様子を見つめていた。
「アルフィ、私はランディを許せない。でも、彼の妹さんには罪がないわ。私もアルフィと出会う前に誘拐されたことは話したでしょう? その時に、ひどい目にあったわ。だから、妹さんは助けてあげて……」
以前にアルバートを殺された上に誘拐され、処女を散らされたことを思い出すと、ティアは悲痛な表情を浮かべてアルフィの顔を見つめた。その瞳に映った苦悩を読み取り、アルフィがランディに向かって告げた。
「分かったわ。ティアがそこまで言うのなら、あんたの依頼は受ける。依頼料は白金貨三百枚とあんたの命よ。いいわね?」
「ありがとう、アルフィさん。ありがとう、ティアさん」
ランディが床に頭を擦りつけながら二人に感謝した。その様子を見ていたティアが、アルフィの耳元で囁いた。
「アルフィ、本当に殺すわけじゃないわよね?」
「もちろんよ。ただし、死んだ方がマシだと思うくらいこき使ってやるわ」
そう告げると、アルフィは人の悪そうな笑みを浮かべた。このアルフィの言葉の意味が、ランディを<漆黒の翼>に加入させて死ぬまで手足として働かせることだとティアが知るのは、後日のことだった。
二つある寝台のうち、奥にアルフィとティアが、手前にダグラスが座った。そして、寝台の足元にある長椅子に、左頬を大きく腫らしたランディが体を縮ませながら小さくなって腰を下ろしていた。ティアを強姦しようとしたことを聞き、ダグラスが力任せにランディを殴り飛ばしたのだった。
「あんたが気絶している間に、だいたいの話はティアから聞いたわ。指名依頼をしようというパーティメンバーを強姦するなんて、呆れてものも言えない。いったい、何を考えてるの?」
黒曜石の瞳に冷酷な光を浮かべながら、アルフィがランディを睨み付けた。一切の手加減をせずにダグラスが殴りつけたため、ランディはこの『アカシアの唄』に来るまでずっと気を失っていたのだった。彼がここにいるのは、ダグラスが嫌々ながらも担いできたからだった。
「すみません……。まさか、ティアさんがあの『紫音』だなんて知らなかったので……」
ビクつきながらアルフィとダグラスの顔を交互に見上げて、ランディは小声で呟くように言った。それを聞いて、アルフィが大きくため息をついた。
「まったく、あんたは……」
「アルフィ、ちょっと待ってくれ」
文句を言おうとしたアルフィの言葉を遮ると、濃茶色の瞳でランディを見つめながらダグラスが言った。
「お前、どこかで見た顔だと思っていたが、『嵐狼』じゃないか?」
「『嵐狼』って?」
初めて聞く言葉に、ティアがダグラスの顔を見上げながら訊ねた。
「こいつの二つ名だ。本名はたしか、ランディ=カイザードだったな? 冒険者ギルド皇都本部にも何人か盗賊クラスはいるが、クラスAなのは『嵐狼』だけだ」
「よくご存じで……。俺もなかなか有名人なんだな」
ダグラスの言葉に、ランディがニヤリと満足げに微笑んだ。ランクSパーティである<漆黒の翼>のダグラスにも名前が売れていたことが嬉しいらしい。
「確かに、『嵐狼』は女癖の悪さで有名だな。噂通りってわけか?」
「……」
持ち直した矜持をへし折られて、ランディが黙り込んだ。
「こいつが『嵐狼』だろうが何だろうが、関係ないわ。ティアを酔わせて強姦しようとしたことは変わらない。ダグラスに感謝することね。ダグラスがあんたをぶん殴ってなければ、あたしが氷漬けにしていたところよ」
「はい……」
情けない表情を浮かべながら、ランディがダグラスの顔を見上げた。ダグラスはムスッと不機嫌そうなままランディを睨み付けた。
「それで、あたしたちに指名依頼を出したことは聞いたわ。それを受けてやる義理なんてこれっぽっちもないんだけど、ティアの頼みだから仕方なく受けるわ」
「ありがとう、アルフィさん」
ホッとした表情を浮かべながら、ランディがアルフィの美貌を見つめた。その内心では、ティアもいいけどアルフィも悪くないと考えていた。
「依頼料は、そうね……。白金貨五千枚にするわ」
「ご……五千枚……」
不埒な考えを吹き飛ばして、ランディが驚愕のあまり言葉を失った。その様子を見て、ティアが笑い出した。
「あはは……。私の予想以上にアルフィを怒らせたみたいね。私の口添えくらいじゃ、アルフィの怒りを解くのは無理そうよ」
そう言うと、ティアは嬉しそうにアルフィに腕を絡ませた。アルフィが決める依頼料が高ければ高いほど、彼女の怒りが大きいということだ。逆に言えば、それだけティアを愛してくれているという証でもあった。
「ティア、強姦されそうになったとは聞いたけど、具体的に何をされたの?」
「え……それは……」
アルフィがティアを真っ直ぐに見つめた。その黒曜石の瞳には、ランディに対する激しい怒りが浮かんでいた。
「ちゃんと教えて。それによっては依頼料を変えるわ」
「酔わされて、気づいたら裸だった……」
恥ずかしそうに顔を赤らめながら、ティアが告げた。
「裸にされただけ? 他には……?」
「胸を揉まれて……」
ティアが言葉を途切れさせた。首筋まで赤く染め上げて、ティアはアルフィの視線を避けるように俯いた。
「それだけ……? きちんと言いなさい」
「あそこに……指を入れられた」
そう告げると、ティアは隠れるようにアルフィの豊かな胸に顔を埋めた。アルフィはティアの淡紫色の髪を優しく撫でると、ランディの顔を見つめてニヤリと笑った。
「依頼料を変えてあげるわ。白金貨一万枚ね」
「い、一万……」
アルフィが告げた金額を聞くと、ティアがピクンと肩を震わせてアルフィの背中に腕をまわして抱きついた。彼女にもアルフィの怒りの激しさが伝わったのだ。
「それが嫌なら、別のパーティを探しなさい。あたしのティアにそれだけのことをしておいて、命があるだけでも感謝しなさい」
アルフィの言葉を聞いて、ランディは心の底から後悔をした。<漆黒の翼>のリーダーであるアルフィは、ティアから知り合いだとは聞かされていたが、まさか女同士の関係にあるとは予想さえもしていなかった。
「ま、待ってくれ、アルフィさん!」
「……」
ランディの言葉に何も応えず、アルフィはジロリと彼を睨み付けた。
「白金貨三百枚を払う! 俺の全財産だ! 足りない分は俺の命で勘弁してくれ! 頼む、妹を……シャロンを助けてくれ!」
椅子から飛び降りると、ランディが土下座をして床に頭を付けた。アルフィの胸から顔を上げて、ティアはその様子を見つめていた。
「アルフィ、私はランディを許せない。でも、彼の妹さんには罪がないわ。私もアルフィと出会う前に誘拐されたことは話したでしょう? その時に、ひどい目にあったわ。だから、妹さんは助けてあげて……」
以前にアルバートを殺された上に誘拐され、処女を散らされたことを思い出すと、ティアは悲痛な表情を浮かべてアルフィの顔を見つめた。その瞳に映った苦悩を読み取り、アルフィがランディに向かって告げた。
「分かったわ。ティアがそこまで言うのなら、あんたの依頼は受ける。依頼料は白金貨三百枚とあんたの命よ。いいわね?」
「ありがとう、アルフィさん。ありがとう、ティアさん」
ランディが床に頭を擦りつけながら二人に感謝した。その様子を見ていたティアが、アルフィの耳元で囁いた。
「アルフィ、本当に殺すわけじゃないわよね?」
「もちろんよ。ただし、死んだ方がマシだと思うくらいこき使ってやるわ」
そう告げると、アルフィは人の悪そうな笑みを浮かべた。このアルフィの言葉の意味が、ランディを<漆黒の翼>に加入させて死ぬまで手足として働かせることだとティアが知るのは、後日のことだった。
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