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第五章 魔女の顎
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「ここは……?」
キャサリンは見慣れぬ部屋に寝かされていた。シュテルネン学園の学生寮ではなかった。ベッドも大きく、調度品も見るからに高級そうだった。
体を起こそうとすると、右肩から背中にかけて激痛が走った。
「気がついたか? まだ動かない方がいい。今、部下が回復ポーションを取りに行っている」
寝台の横に一人の女性が座っていた。豪奢な金髪を背中まで流し、スミレ色の瞳に強い意志を秘めてキャサリンを見つめていた。
キャサリンはその女性を知っていた。だが、彼女は驚きのあまり、その名を口に出来なかった。その様子を見て微笑むと、その女性が告げた。
「キャサリン=フォン=マーバラ嬢、お初にお目にかかる。私はスカーレット=フォン=ロイエンタール。フレデリックの姉だ」
「元帥……閣下……」
憧れの女性と言葉を交わし、かつ状況も分からないキャサリンは驚きのあまり、言葉が出てこなかった。
「この度はフレデリックのために大変ご迷惑をかけた。弟に代わり、謝罪する」
スカーレットがキャサリンに頭を下げた。ロイエンタール大公家第一公女であり、ユピテル皇国唯一の元帥であるスカーレットに謝罪され、キャサリンはパニックに陥った。
「いえ……、とんでもございません」
そう告げた瞬間に、キャサリンは思い出したように訊ねた。
「フレディ……フレデリック……様は?」
キャサリンの脳裏に、馬車の襲撃が蘇った。勢い込んで体を起こそうとするが、激痛でとても起き上がれなかった。
「安静にしていた方がいい。動くと傷口が開く」
スカーレットはキャサリンを寝かしつけると、優しく紅い髪を撫でた。
「生き残った御者から聞いた。フレデリックを護ろうとしてくれたそうだな。ありがとう」
「フレディ……フレデリック様は無事ですか?」
「必ず助け出す。あなたは心配しないで治療に専念してくれ」
その言葉で、キャサリンはフレデリックが拉致されたことを知った。
「お護りできず……申し訳ありませんでした」
キャサリンは自分の力不足を強く嘆いた。
「後は私に任せろ。皇国元帥に喧嘩を売ったことを後悔させてやる」
そう告げると、スカーレットは席を立った。
キャサリンは驚いてスカーレットを見つめた。そして、畏怖とも言える感情を覚えて震撼した。
スカーレットの全身から、凄まじい威圧が放たれていた。
皇国騎士団十五万人を叱咤する元帥が、静かだが激しい怒りを放っていた。そのスミレ色の瞳は見る者を焼き尽くさんばかりに紫炎が輝き、豪奢な金髪は風もないのに獅子の鬣のように靡いていた。
フレデリックを誘拐した犯人は、決して敵に回してはいけない相手を激怒させてしまったのだ。
「スカーレット様……お願いします。フレディを……助けてください」
キャサリンは固唾を飲み、かろうじてそれだけを告げた。背中の痛みさえも忘れてしまうほどの威圧だった。
スカーレットはキャサリンの言葉に力強く頷くと、双頭の銀龍の刺繍が入った真紅のマントを翻した。そして、不意に足を止めてキャサリンを振り返った。
「卒業したら、私のところへ来い」
そう告げると、スカーレットは病室を後にした。
キャサリンは、憧れの女性からの言葉に感動を覚えた。そして、スカーレットが必ずフレデリックを助け出してくれることを確信した。
「フレディ……」
(少しでも早く傷を癒やして、スカーレット様とともにフレディを迎えに行こう)
キャサリンは固く心に誓った。
キャサリンは見慣れぬ部屋に寝かされていた。シュテルネン学園の学生寮ではなかった。ベッドも大きく、調度品も見るからに高級そうだった。
体を起こそうとすると、右肩から背中にかけて激痛が走った。
「気がついたか? まだ動かない方がいい。今、部下が回復ポーションを取りに行っている」
寝台の横に一人の女性が座っていた。豪奢な金髪を背中まで流し、スミレ色の瞳に強い意志を秘めてキャサリンを見つめていた。
キャサリンはその女性を知っていた。だが、彼女は驚きのあまり、その名を口に出来なかった。その様子を見て微笑むと、その女性が告げた。
「キャサリン=フォン=マーバラ嬢、お初にお目にかかる。私はスカーレット=フォン=ロイエンタール。フレデリックの姉だ」
「元帥……閣下……」
憧れの女性と言葉を交わし、かつ状況も分からないキャサリンは驚きのあまり、言葉が出てこなかった。
「この度はフレデリックのために大変ご迷惑をかけた。弟に代わり、謝罪する」
スカーレットがキャサリンに頭を下げた。ロイエンタール大公家第一公女であり、ユピテル皇国唯一の元帥であるスカーレットに謝罪され、キャサリンはパニックに陥った。
「いえ……、とんでもございません」
そう告げた瞬間に、キャサリンは思い出したように訊ねた。
「フレディ……フレデリック……様は?」
キャサリンの脳裏に、馬車の襲撃が蘇った。勢い込んで体を起こそうとするが、激痛でとても起き上がれなかった。
「安静にしていた方がいい。動くと傷口が開く」
スカーレットはキャサリンを寝かしつけると、優しく紅い髪を撫でた。
「生き残った御者から聞いた。フレデリックを護ろうとしてくれたそうだな。ありがとう」
「フレディ……フレデリック様は無事ですか?」
「必ず助け出す。あなたは心配しないで治療に専念してくれ」
その言葉で、キャサリンはフレデリックが拉致されたことを知った。
「お護りできず……申し訳ありませんでした」
キャサリンは自分の力不足を強く嘆いた。
「後は私に任せろ。皇国元帥に喧嘩を売ったことを後悔させてやる」
そう告げると、スカーレットは席を立った。
キャサリンは驚いてスカーレットを見つめた。そして、畏怖とも言える感情を覚えて震撼した。
スカーレットの全身から、凄まじい威圧が放たれていた。
皇国騎士団十五万人を叱咤する元帥が、静かだが激しい怒りを放っていた。そのスミレ色の瞳は見る者を焼き尽くさんばかりに紫炎が輝き、豪奢な金髪は風もないのに獅子の鬣のように靡いていた。
フレデリックを誘拐した犯人は、決して敵に回してはいけない相手を激怒させてしまったのだ。
「スカーレット様……お願いします。フレディを……助けてください」
キャサリンは固唾を飲み、かろうじてそれだけを告げた。背中の痛みさえも忘れてしまうほどの威圧だった。
スカーレットはキャサリンの言葉に力強く頷くと、双頭の銀龍の刺繍が入った真紅のマントを翻した。そして、不意に足を止めてキャサリンを振り返った。
「卒業したら、私のところへ来い」
そう告げると、スカーレットは病室を後にした。
キャサリンは、憧れの女性からの言葉に感動を覚えた。そして、スカーレットが必ずフレデリックを助け出してくれることを確信した。
「フレディ……」
(少しでも早く傷を癒やして、スカーレット様とともにフレディを迎えに行こう)
キャサリンは固く心に誓った。
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