【ブルー・ウィッチ・シリーズ】 復讐の魔女

椎名 将也

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第24章 パートナー

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 惑星ファラオの衛星エレクトラ。
 その表面はごつごつとした岩肌に覆われ、海は存在しない。一酸化炭素と窒素が主体の居住不可能な星である。
 その衛星の山岳部に覆われた平地に、GPS百五十メートル級恒星間宇宙艇<スピリッツ>が駐留していた。

「アラン、エレナ=マクドリア大尉とフレア=レイ准尉に連絡を取れる?」
 パイロット・シートから予備シートに座るアランを振り返って、テアが訊ねた。
 彼女はジェシカに告げたとおり、彼女たち二人のAクラス・ESPの協力を得るつもりであった。
「アルカディア要塞に戻っていればいいんだが……」

 アルカディア要塞は、アランの叔父であるアルカディア公マルク=ブラインズの居城であり、テアが記憶を失っている間にアランの愛情に触れた場所であった。
(アルカディア要塞……)
 テアはその名前を聞いた瞬間、胸が締め付けられた。そこは、彼女がアランの愛情から逃げ出した場所でもあったのだ。

「そんなことしなくても、俺がテアに同調シンクロすればいいんじゃないか?」
 ナビ・シートに座るシュンが言った。彼は、<銀河系最強の魔女>さえも戦慄させるESPである。その彼がテアにシンクロすれば、Aクラス・ESPが二人同調するよりも強大な能力を得ることが可能だった。

「あなたにはお願いがあるの」
「お願い?」
 テアの言葉に、シュンが怪訝な顔をした。
「あれから色々考えたんだけど……。やはり、ジェシカをフォローしてあげて」
「……! 何を今さらッ! ジェシカが発ってから三日も発つんだぞ。今から行ったって間に合うかよ!」
 シュンが怒りを込めて、テアを睨み付けた。彼はジェシカ一人をSHLに行かせることに、一人で猛反対をしたのだった。

「ごめん、シュン……。あなたの言いたいことは分かってる。でも、イヤな予感がするのよ。私には予知能力はないけれど、何て言うか、胸騒ぎが止まらないのよ」
「何だと……」
 シュンが驚いた。普通の人間の言葉ではない。<銀河系最強の魔女>と呼ばれるESPの言葉である。言い知れぬ不安が彼の心を覆い尽くした。

「お願い、シュン。ロザンナ王女はアランの協力があれば何とか出来るわ。ジェシカの側に行ってやって。敵は<テュポーン>よ。彼女は優秀なSHだけど、もし、ΣナンバークラスのESPが敵にいたら危ないわ」
「バカ野郎ッ! だったら、何でジェシカを一人で行かせたんだ!」
 そう叫ぶと、シュンはナビ・シートを立った。

「ありがとう、シュン。私はアランを連れてアルカディア要塞にテレポートするわ。あなたはこの<スピリッツ>を使って!」
「ジェシカに何かあったら、お前を許さないからな!」
 シュンのダーク・ブラウンの瞳が、テアを真っ直ぐに見つめた。

「シュン、一つだけ聞かせて……」
 テアが彼の視線を正面から受け止めながら言った。プルシアン・ブルーの瞳が真剣な光を浮かべる。
「何だ?」
「あなたは……、本気なの?」
「当たり前だ! 冗談で、二百万人の生命と引き替えに出来るかッ!」
 シュンが即答した。彼の激しい口調に、テアは素晴らしい笑みを浮かべて応えた。

「私もジェイを本気で愛していたわ。私にはジェイを守れなかったけど、あなたは絶対にジェシカを守り抜いてね……」
 そう告げると、テアの全身はESP波特有の光彩に包まれた。
『あなたは、ジェシカ=アンドロメダのパートナーなのよ……』
 テレポートする瞬前に、テアのテレパシーがシュンの脳裏に響きわたった。
「テア……」
 シュンがどういう意味か訊ねようとした時には、テアとアランの姿は<スピリッツ>から消えていた。

 一人残されたシュンは、<スピリッツ>のバイオ・コンピューターに命じた。
「目標、パルテノン星域のSHL艦隊! 最大戦速で<ミューズ>を追えッ!」
 <銀河系最強の魔女>の愛機が、新たな主を乗せて、衛星エレクトラの重力影響圏を脱出し、HDに入った。


「テア=スクルトとロザンナ王女の戦闘は、中断されたようです」
 ヴィジフォーンの中で、赤い髪の女性が告げた。
「中断? どういう事だ?」
「例の<パルテノン>を破壊したESPとジェシカ=アンドロメダが、闘いに介入しました。二人は傷を負ったテア=スクルトを助け、惑星イリスからテレポートしたようです」
「そうか……」
 ジュピターは無表情で呟くように言った。

「ジェシカとそのESPがテアに同調シンクロすると、ロザンナ一人では荷が重いな。ソルジャー=スコーピオン、ご苦労だが惑星イリスに飛んでくれ。念のため、Aクラス・ESPを四、五人連れていくがいい」
「はい、すぐに飛び立ちます」
 そう告げると、ソルジャー=スコーピオンは通信を切った。

 しばらく考えに沈むように、ジュピターはブラック・アウトしたスクリーンを見つめていた。
「ジョウ、本当にテアを殺すの?」
 ジュピターの横で通信を聞いていたソルジャー=スピカが訊ねた。青い瞳に、深い哀しみを浮かべている。
「あのDNA戦争の悲劇を繰り返してはならないんだ。現在、銀河系が三分されていることは、正常な状態ではない。誰かがこれを再統一しなければならないんだ。今のままでは、遅かれ早かれ大戦争が起こることは避けられない」

 ジュピターは愛する妻の方を向いて話し出した。現在、GPS、SHL、FPの国力を比率に換算すると、四九:三七:一四である。どの二カ国が軍事的な同盟を結んでも、残りの一カ国を凌駕することが可能である。確かに、不安定きわまりないと言える。その上、ジュピターが指摘するように、三カ国の関係は必ずしも友好であるとは言い切れなかった。

「誰にも管理されない戦争は、絶対に起こしてはならない。無秩序な闘いはDNA戦争だけで充分だ。それならば、出来るだけ少ない犠牲で戦争をコントロールすることが重要だ。GPS総帥ユーリ=フランコは信頼できる男だ。彼の器量ならば、銀河を安心して任せられる」
「……」
 ソルジャー=スピカは、ジュピターの言葉を黙って聞いていた。

「SHL、そしてFPをGPSが統合するためには、我々の力が必要なのだ。これは聖戦ではない。歴史を裏から動かすのは、我々のような死人こそ相応しいと思わないか?」
「ジョウ……」
 ジュピターことジョウ=クェーサーと、その妻エマ=トスカは、歴史上すでに死んだ人間であった。

「しかし、あのDNA戦争を知らないテアに、それを理解しろと言っても無駄だろう。まして、あの娘は愛する恋人を我々に殺されたのだから……」
「ジェイ=マキシアンのことですね……」
 ソルジャー=スピカが悲しそうに呟いた。

「エマ、お前も知っている通り、ジェイは私が後継者として選んだ男だ。彼にΣナンバーのESPを与え、GPSに潜入させたのはこの私だ。このクロス・プロジェクトを発動する際に、彼は貴重な戦力となるはずだった」
「……」
「だが、奴は私を裏切った……」
 驚くべき事実をジュピターは告げた。

「ジェイは優しい子でした。たぶん、たとえそれがコントロールされているとしても、戦争で大勢の人間が不幸になるのを見かねたのでしょう」
「だが、彼の裏切りでクロス・プロジェクトは完全ではなくなった。我々の側につくはずのテアが、敵に廻ってしまった」
 ジュピターは強い意志を秘めた瞳で、ソルジャー=スピカを見つめた。

「テアがあくまで我々と闘うと言うのならば、私は全てを賭けてあの娘の前に立ちはだかるつもりだ!」
「それで、<あれ>を造らせたのですか?」
 ソルジャー=スピカが訊ねた。彼女の言葉に怒りが秘められた。

「……! 知っていたのか?」
 ジュピターが驚いた。<あれ>については、その研究に携わる者以外、極秘にしていたのである。もちろん、<テュポーン>副総統である妻にも知らせていない。
「この間、あなたがあの研究室に入った時、偶然に見てしまったわ」
「……」
「テアを敵に廻すのは仕方ない。でも、<あれ>をあの娘に差し向けるのは絶対に止めて下さい! 私たちは神ではないのよ!」
 いつも冷静な彼女が、激烈な感情を秘めた瞳でジュピターを睨み付けた。

「あなたがもし<あれ>をテアに向けるならば、私はあなたのもとを去ります!」
「……」
 あまりに激しい妻の決意に、ジュピターは言葉を失った。
「わかった。約束しよう。いくら私でも、愛する妻と娘の両方を敵に廻したくないからな」
 ジュピターが笑って言った。しかし、その笑いはどこか冷めていた。
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