死にたがりの悪役令嬢

わたちょ

文字の大きさ
1 / 48

悪役令嬢、思い出す

しおりを挟む
 あ、と気づいた時にはもう全てが手遅れだった。
 目の前では愛した人が別の女と手を繋ぎ抱きしめて口付ける。触れては離れる一瞬のキスなのにどちらも熱に潤み熱く蕩けた顔を。遠目から見ているのに好きだ。他の何を捨ててもお前だけは失いたくないんだと情熱的な愛の言葉を掛けるのが分かる。それに頬を染めた女が頷くのも。
 そんな衝撃的な場面を見ながらも私は何処か他人事だった。
 既視感のありまくる世界。
 何処かで見たことがあると思えばそれはゲームの画面の中でだった。前世で死ぬほどやり込んだ乙女ゲーム。愛と魔法の物語のスチル。それもヒロインとメイン攻略対象キャラ二人の思いが通じ合う一番の見せ場。
 それこそ何百回と見返したシーン。既視感があって当然むしろ既視感しかない。画面越しと生と云う違いはあっても何百回も見てきたのだから。
 まあ、とは言っても前世の記憶を思い出したのは今なのだけど。
 愛した人。ゲームのメイン攻略対象キャラだったセラフィードを探して学園内を歩いていた処、目障りな女の声が聞こえた。その声に嫌な予感を掻き立てられ急いで声のする場所まで向かってみたら、繰り広げられたのは先ほどの光景。
 茫然と固まった処で思い出したのが前世の記憶。しかもそこでやり込んだゲームの記憶だ。
 ああ、つんだなと現実味の沸かないぼんやりとした頭でも思った。
 ゲームの世界に転生してしまったんだと気付きそれと共に自分の最悪な状況にも気づいた。目の前で行われているのはヒロインとメイン攻略対象キャラのラブシーン。つまり乙女ゲームの世界に転生したというのに私はヒロインではなかったのだ。
 むしろ二人の恋仲を邪魔するキャラ、云ってしまえば悪役令嬢と云うキャラに転生していたのだった。
 まともに働かない頭がそれでも冷静に今後このゲームで起こる悪役令嬢に関する情報をまとめていく。
 この後婚約者であるメイン攻略対象キャラセラフィードがヒロインに口付ける場面を見てしまった悪役令嬢、つまりまあ私は元々きつかったヒロインへのあたりをさらに悪くし、執拗なまでに虐めていくのだ。その事にキレたセラフィードやヒロインの周りによってやらかしてきた悪事の証拠やら何やらを集められ、大衆の面前で公表されてしまう。学園での居場所を亡くしたうえ、実家がしていた悪事までもがばれて地位剥奪。一族路頭に迷う事に……。
 その後どうなったかまでは分からない。何せ悪役令嬢だから。言うなれば名前付きモブだから。ハッピーエンドの後のことなんて書かれたりしないから。
 まあでも悲壮な結果になったことは予想に固くない。
 ああ、なんてことだろう私の人生こんなにも簡単につんでしまった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

【完】出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~

夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。 しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。 しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。 夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。 いきなり事件が発生してしまう。 結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。 しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。 (こうなったら、私がなんとかするしかないわ!) 腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。 それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...