死にたがりの悪役令嬢

わたちょ

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断罪される悪役令嬢

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 ガヤガヤと楽しそうな声がしてきます。
 少女達を見送ってから数十分後。私もパーティーをやっている会場まできました。受付の方が私を見て驚いた顔をします。そうでしょうとも。何せパーティーだというのに私の隣には誰もいないのです。婚約者がいるのにパーティーに共に来ないなど貴族の世界ではありえないことです。しかも私の隣にいるべきであるセラフィード様はもう中にいて今頃はさやかさんの傍にいるころでしょうから。
 まあ、空しくなんてありませんわ。
 どうせ向こうは向こうで針の筵でしょうから。目の前に開いている扉。一歩踏み込めば集まる視線。突端に霧散する楽しそうな気配。周りが戸惑い固まるのが分かる。
 そんな中を私は優雅に歩く。最後まで無様な姿は見せない。それが私の役目。私がトレーフルブラン・アイレッドである限り完璧な令嬢でいて見せます。
 ざわざわと人の声がしだしました。私の名前がそこらかしこから聞こえます。トレーフルブラン様と四人の少女が私を見つめました。微笑みましょう。何も心配はいらないわと安心させるように余裕のある笑みを贈るのです。ちょっと探せばセラフィード様、グリーシン様、ゲール様、ブランリッシュ。そしてさやかさんの姿が見つかります。
 ギラギラとした目で四人は私を睨み付けてきます。囲まれたさやかさんは何処か戸惑う様子を見せながら四人を見ていますわ。ああ、そんなに殺気立ったらさやかさんが怖がるでしょうにその事が分からないのでしょうか。愚かなお人たち。それにあの四人の周りはパーティーに相応しくない雰囲気が漂っていますわ。折角のパーティーを台無しにして周りの迷惑を考えてほしいものですわね。
 まあそうなるようにしていた私も同罪なのですがね。でも断罪されるなら人の多い所でなくては格好がつきませんよね。
 コツコツと足音を立てて四人の元へ行きます。四人はさやかさんを後ろに下がらせました。彼女はとても困った表情をしながらも口を閉ざしました。仕方ないかと云う眼差しで四人と私を見つめます。私はそんな彼女に向かい微笑み、迷いなく四人に向かいました。
「今晩は。セラフィード様」
 会場内すべてに響くようあいさついたします。決して大声を出すわけではないのですよ。でも腹から声を張り上げれば自然とざわめきが止んでいる会場には響きますの。ごくりと唾を飲み込む音が響きました。返ってくるのは冷たい視線。
「よく来たな」
 こんばんはの挨拶もありませんでした。まあ、あるとも思ってはいなかったのですが、周りの印象と云うものを考えてほしい所です。
「それは来ますわ。だって楽しいパーティーですもの。皆様とも沢山お話したいですから」
「そうか。だが俺たちがお前に話すことなど一つだけだ」
「あら、なんですの」
 にっこりと笑います。冷たい目だけが降り注ぎますが気にはしませんわ。ハラハラと見守る周り。会場にいる全員の視線が私たちに向いていました。
 丸い円を書くように距離を開けて周囲に人が集まっていました。各々距離を開けながら関心がないふりを装って私たちを見ていますが、すぐにそんな事も出来なくなるでしょう。
 それに気付いているのか張り上げた声でセラフィード様は話します。
「今日俺たちはお前がしてきた悪事の全てを暴くためにここに来ている」
「はい? 何の事です。私何も悪いことなどしていないのですが」
 小首を傾げて口元に浮かべる笑み。白々しく見えるように演出して見せます。苛立ったようにセラフィード様が床を足蹴にしました。
「ふん、とぼけるか。だがそんな事をしても無駄だ。お前の悪事の全ての証拠を揃えている」
 ギラギラとした目で私を睨み上げたセラフィードは会場にいる生徒たちに目を向けました。そして声を張り上げます。
突きつけられる一本の指。
「ここにいる皆。よく聞いてくれ。ここにいる女、トレーフルブラン・アイレッドは自分が気に入らないからという理由で他人を陥れ卑劣な方法で人を傷つける最低な人物である。俺は今日この場でこの女の正体を暴き罪を裁く」
 セラフィード様の声に周りがざわつきます。
 そんなトレーフルブラン様が最低な人物などと……。セラフィード様は何を言っていますの。ついに何処かおかしくなってしまったのでは。まさかさやか様と付き合うためにトレーフルブラン様を陥れようとしているんでは……。トレーフルブラン様がお可哀想ですわ。
 ん~~困りましたわね。結構格好良く言えていたと思うのですが限界まで落ちている評価のせいで信じてもらえませんわ。周りから如何にかしてやってください。可哀想。頑張ってくださいというような応援の視線を感じてしまいます。ちょっとうまくいくか不安になってきますが。彼らを信じましょう。この場に来て準備不足などということはないでしょうから。
 予定通りに進めましょう。
「まあ。何を言いだすかと思えばそのような戯言を。一体何の根拠があって言っているのですか。幾らセラフィード様とはいえそんな根も葉もない事を言うのはおやめになってください」
「ふん。お前が何を言おうともう無駄なのだ。言っただろう。全ての証拠がそろっていると。そうだろう。グリーシン。ゲール。ブランリッシュ」
「ああ、その通りだ。これ以上貴方の思い通りになることはない」
「そうですとも。貴方も年貢の納め時なのです」
「はい。姉上がやってきた悪事は今日ここで全て暴かれるのです」
 三人の目が私を射抜きます。その三つの目の何と歪んでいること。勝利を確信して私を追い落とすことができるのを喜んでいます。きっと彼らの頭の中には跪いて涙を流し悔しがる私がいるのでしょう。おあいにく様です。死ぬ時もそんな姿は見せません。
 そして、もう一つ。
 見つめてくる目。この目だけはどうしていいのか分かりません。憎いものを追い落とす目であり、正義を貫く目です。兄弟だというのにどうしてそのような目で見るのでしょう。どうして私が悪いと信じて疑うことがないのでしょうか。考えた所で分かりません。また考える必要もないのです。
 それはもうずっと前に考えるのをやめてしまったことなのですから。最後の時と云うのでつい気になってしまいますがもう止めましょう。他にやることがあるのです。
 だから私は笑います。
「そう証拠があるのですか。それはどう云うものなのですか。お教えくださいな」
 美しく笑って見せれば四人の動きが固まる。驚いたように私を見る。証拠を抑えてあると云ったぐらいで私が認めるとは思っていなかっただろうに随分な反応だ。
「いつまでもその余裕な態度でいられると思うなよ。トレーフルブラン」
「そうですか。で、早く証拠を見せてくださいな」
「証拠はこれだ」
 ばさりとセラフィード様の後ろの机にかけられていた布が取り外されます。そこに置かれていますのはノートや本、筆、キーホルダーなどの小物。結構な数ありました。周りはあっと息を飲みます。
「これらはすべてさやかの持ち物であったが何か月も前から盗品の被害にあいなくなっていたものだ」
「へぇ。それが見つかったんですか。良かったですわね」
「とぼけるな。これらの品はすべてお前が持っていたそうではないか。そうだな。ブランリッシュ」
「はい。その通りです。姉上の部屋に隠されていました。家の召使いたちにも確認させましたので間違いないです。必要とあれば証人としてこの場に連れてくることも可能です」
 おや。ちゃんと自分以外の承認も作りましたのね。いいことですわ。周りからはえ、そんな。トレーフルブラン様がそんな事をするはずありませんわ。自作自演ではないのと云った声が聞こえている。うーーん。まだ足りないようですね。でも一歩にはなったと思います。
「あら、不思議ですわね。私そんなもの一つも知りませんのに。見たこともございませんわ」
「ふざけるな! すべてお前の部屋にあったものだぞ! お前以外の誰が置くというのだ」
「さあ? 私には分りかねますわ。それで他には? すべてと云ったのですからこれで終わりではないでしょう。もっとあるのでしょう」
 不快に顔を歪める四人。これで認めると思われては甘いですわ。まだまだ。
「では次の証拠だ。グリーシン、あれを」
「はい。此方を見てください」
 グリーシン様が周りに見えるよう見せつけたのは一本の短剣。煌びやかな装飾をなされながらも実用的なつくりとなっている一目で高価な品と分かるものですわ。
「この短剣にお前は見覚えがあるな」
「ええ。そうですわね。こちらは元は長剣と対となっていた品でセラフィード様に長剣を、私に短剣をと陛下から下賜されたものですから」
「そうだ。その短剣がさやかの机の中に入っていた。俺たちが気付かなければ危うくさやかは手を切る所だったのだぞ」
 ええ!? まさか。作り話でしょう。ありえないですわ。やっぱりセラフィード様が陥れようとしているのでは。
 うむ。これに対しては疑惑に思う方の方が多いですわね。私もそう思いますは。使う品を間違ってしまったようですね。
「まさかそのような事あり得るはずありませんわ」
「ありえないも何も実際にあったのだ。調べたがこれはお前が持っているはずの短刀で間違いなかった。と云う事はだ、これをさやかの机の中に仕掛けることができるのもお前だけという事になる。そうだな、ゲール」
「ええ、それは古くから王家に伝わるもの。この世に二つとない品です。お望みなら何度だって鑑定士なおしてもいいですよ。鑑定士をいくらでも呼びましょう」
「分かっただろう。これを入れられるのはお前一人なのだ」
「そのようですわね。おかしいこと」
「何がおかしいだ。おま「それで次の証拠は何ですの」
「う、次は目撃証拠だ。お前はさやかに何か起きる度その事件現場にいたそうだな。複数の者からお前の姿を目撃しているそうだ」
「それをまとめたものならこちらにあります。トレーフルブラン嬢はすべての事件現場で目撃されているほかに随分早いうちからその現場にいたそうですよ」
 まあ、それは……。私も見ましたわ、あの階段の事件の時に……。た、確かに、私も。俺は小川の事件の時に見たけど……。でもな。ええでもですわ……。
 まだ足りないでもだいぶ後押しにはなったようですね。
「それが? その場所にいたからと云って何になるというのですか。何の証拠だと」
「分からんのか。さやかが襲われる事件が起きた場所も時間もすべてまちまちだった。だというのにお前は事件が起きてすぐに現場に現れている。おかしいじゃないか。何故そんな毎度のごとく現れることができる。そんな事ができるのは事件が起きる現場を知っていたものだけだ。お前は知っていたんだろう事件がいつどこで起きるのかを」
「私が事件が起きる現場を知っていた? どうしてですの」
「それはお前がそうするように指示をしていたからだ!」
「私が? 何を馬鹿なことをおっしゃいますの。そんな証拠が何処にあるというのです」
 ふっとわたくしの一言にセラフィード様が笑いました。他の四人も勝ち誇った顔をします。
「言っただろう、トレーフルブラン」
「何をですか」
「いいか。お前の悪事の証拠はすべて揃えているんだ」
 セラフィード様がそう云いますと周りは一際ざわめきました。まさかという声が聞こえてきます。
「お前が指示出しさやかを襲わせた証拠もここにある」
 そんな……。ありえませんわあのトレーフルブラン様がなんて。だけど……あのご様子……。うん。善い感じですわね。
「これこそお前の悪事の動かぬ証拠だ!」
 セラフィード様が取り出したのは一枚の紙。
「ここに何と書いているか分かるか」
 その紙を皆に見えるよう上にあげてから私の眼前に突き付けてきます。私はそれを読み上げます。
「さやかを小川に突き落とせ。さもないとここに書いてある秘密をばらすぞ。ですわね」
 そこから下は見えないがきっと秘密とやらを書いているのでしょう。
「この字に見覚えは」
「ありますわ。私の字ですもの」
 ええと周りからは悲壮な声が上がりました。
 でも、そんなと云うような声があちらこちらから聞こえます。
「これと同じものが何枚と見つかっている。お前が生徒たちを脅して襲わせていたんだな」
「さあ? どうでしょう。字だけでしたら証拠としては弱いんではないですか。誰かが私を真似て書いただけかも知れません」
「まだとぼけるか。だがそう云うならいいだろう。もっと確かな証拠を言ってやる。
 まず第一にこの紙。この紙は特殊な作りで売っている店は一つしかない。調べてみたがこの学園でこの紙を購入していたのはお前だけだ。そしてこの紙にはわずかに染みついている匂いがある。それもお前のものだ。お前の香は確か特別なものでこの世に一つしかなかったな。そして第二にこの紙を貰った生徒が紙を入れられたと思う現場でお前の姿を見たそうだ。他に人通りもいない時間で調べてみたがその時間その場所にいたのはその生徒とその生徒が目撃したお前だけだった。
 以上の事実がお前を犯人だと示している」
 ガヤガヤと一層騒がしくなる周り。
 そんな。うそでしょう。憧れていたのに……。聞こえてくる声に笑みが浮かぶ。上々ですわ。ちゃんと証拠を用意してくれましたわね。
 これからは私のターンです。
 私も完璧な悪役令嬢になって見せましょう。
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