死にたがりの悪役令嬢

わたちょ

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ダンジョンに行く悪役令嬢

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 待ち望んでいた日が来ました。
 そう魔王の復活の日です。学園所か国中が重い空気に包まれ慌ただしくなる中、私はついに来ましたわと心の中で叫んだのです。
 ……ですが、どうしてでしょう。
 物語が私の思惑とは違う方向に進んで行こうとしていますわ。私の計画ではゲーム通り魔道具を取りにダンジョンへ行くのに最初に私が選ばれるから、一人で行って負けた振りをして逃げ帰ることになっていたのに……。
それがまさか。
 さやかさんとレイザード様が一緒に行くと言いだしてくるなんて……。
 しかも何故かグリシーヌ先生が後ろ数メートルをピッタリと張り付いてきます。これは行くという事でしょうか。
 何故こう皆さん私の計画を邪魔しに来るのが好きなのでしょうか。
 でもここで負けるわけにはいきません。
 ここが最後なのですから。
「いいえ、ここは私一人で行きますわ。何があるか分かりませんもの」
みなさんを危険な目に合わせるようなことはできません。と口にします。だけど目の前にいる二人は笑顔で親指を立てました。
「大丈夫! 俺強いし。それに先生もいるみたいだし。先生かいるなら平気平気怪我一つすることないね」
「らしいから、大丈夫ですよ」
 キランと輝く彼らにいえ、何がと言いたいです。何が大丈夫だと言いたいのですかと。ダンジョンがどれだけ怖い所か理解していないようです。私からしてみれば子供の御遊び程度ですが、それでも彼らのレベルからしてみると怪我をするのは必須なのですよ。攻略はできますけれども。
「さっさと行くぞ」
「おーー!」
 あ、何を勝手なことを言いだしますの、あの先生は。私は帰れと言っているのですよ。
「私は一人で「駄目だよ」
「はい?」
 言われてさやかさんのほうを見ました。にこりと笑う彼女はその目に強い決意を見せています。
「一人でなんて絶対行かせないから。言ったでしょう私。あの人を支えられる私になりたいって。あの人の傍に居ても文句を言われないように私貴方を利用してやるんだから」
 えっと口に出してしまいました。
「あなたが魔王を封印するのについていて、そこで大いに役にたってやるの。魔王を封印できたのは私がいたからだって言わせてやるぐらいにさ。
 そしたら私も少しは注目されるでしょう。本当は封印するまでやれたらいいんだけど、さすがにそれは難しいだろうからね。出来る範囲で評価を上げていくわ」
 だから貴方が嫌がろうと私はついていくからと宣言されます。
 それを聞いてああ、強くなったなと思いました。そして賢くなったと。ちゃんと自分がどうすればいいのか何をするべきなのかを一人で考えられています。これなら不安になることもないです。セラフィード様を支えられる存在に彼女はなるでしょう。
 だからこそここは一人で行きたいのですが、困ったことにさやかさんを納得させるだけの理由がありません。貴方には次があるから待っていてなんて言えるわけもありませんし……。
 魔法で気絶させてもいいのですが、こちらの事をお構いなしにもうずっと先に進んでいるレイザード様と先生の問題もあります。あの二人を気絶させるのは難しいでしょう。レイザード様だけならいけないこともないのですが、先生がいますので……
 仕方ありません。ここは計画変更といたしましょう。
 セラフィード様たちにも英雄となって欲しかったのですが、名誉回復の方法はあと一つ残っています。
「ダンジョンってすごく危険なんだと思ってたんだけど、そうでもないの?」
 不思議そうにさやかさんが言います。ぽかんという顔をして歩いているのにそんな訳はないでしょうと私は云いたいのですが、実際そうなので何とも言えません。
 学園を出発してから約四時間。私たちがいるのは最後のダンジョンです。一つのダンジョンをそれぞれ半時間もかけずに攻略してしまいました。それも四つとも無傷で。
 罠がなかったわけではないのです。むしろありまくりです。これでもかというほどありました。ですがすべて先生が破壊してしまったのです。それも罠が発動する前に。一度入って罠が何処にあるか把握していた私だから先生が壊しているのが分かりましたが、初めて入ったさやかさんやレイザード様にはダンジョンがただの迷路のような洞窟に思えているでしょう。
 それは間違いですわよと言いたいけど言えません。
 言ったらこのダンジョンを一度攻略していることがばれてしまいます。先生が壊しまくっているのはそれを確認するためだと睨んでいます。と言うか確信しています。
 でなければ一つも気付かれないで破壊するなどと云う常人離れした技をする必要がありません。
……前から思っていましたがこの先生はいったい何者なのでしょうか。魔法の腕だけは過ぎるほどすごいと思っていましたが、予想していたのよりも段違いで強いではありませんか。ただのモブの癖して何なのですかその無駄な強さはと叫びたくなります。
 ですが、残念でしたわね。グリシーヌ先生。
 貴方が幾ら強くそしてこのダンジョンを一度攻略していたのだとしても、今日ばかりは私には勝てないのです。なぜなら私には前世の世界でこのゲーム、そしてこのダンジョンを何十回と攻略した記録があるのです。普通に進んだだけでは絶対に通ることのない隠しダンジョンの入り口を知っているのですよ。
 私、それとなく壁際の方を歩きます。三人の位置を確認します。前にいる二人に後ろに先生。もうそろそろ次の罠が見えてきます。先生がそれを破壊しようと魔法を発動させる瞬間、わざと不自然な壁の出っ張りを押しました。
 足元がぱくりと開きます。
 落ちていくのにわざとですがキャー―なんて悲鳴を上げました。
「トレーフルブラン!」
「トレーフルブランさん!」
 二人が穴に近づいて叫ぶのが聞こえます。手を伸ばしていますが届きません。先生は罠の対処で少し出だしが遅れています。
 落下していくのにやったわと思いました。魔法を使い着地します。そしてまた魔法を使って声を上まで届けます。
「ごめんなさい落ちてしみましたわ。でも大丈夫ですので安心してください。
 ただこの穴結構深いようなので上に上るのには時間がかかってしまいます。お願いですから先におくに進んでください」
「はあ?何言ってんだよ。あんたを置いていけるわけないだろう」
「そうですよ。それに私達だけで進んだって「足をけがしてしまいましたの。これでは上に登ってもダンジョン攻略や魔王封印は無理ですわ。
 幸い落ちるときに魔道具をそちらに置いてきてしまったようですし、お願いです私の代わりにさやか様、貴方が魔王を封印して」
「はい? ええ、そんなこと」
「お願い。今の私では魔王を封印するまでに時間がかかってしまいます。魔王が力をためてこの国を亡ぼす前に早く封印してください」
 必死さを籠めて叫ぶようにいました。そしたらわかったとさやかが言います。この国を守るよ。終わったら絶対に迎えに来るからねとも聞こえました。そして上からの声が途絶えます。
 それに私は笑ってしまいました。
 計画通り。向こうには先生もいますしあの二人は魔王を封印してくれるでしょう。私の方はここで待つことにしましょう。
 ここからいけないこともないむしろこの道の方が早く着くのですが行く気はありません。大人しく、ドス
…………聞こえてきた音に私からは冷汗が流れてしまいました。後ろを振り向きたくありません。今猛烈に耳栓が欲しいです。
「行くぞ。トレーフルブラン」
 でなければ先生の声が聞こえて……、ああ、振り向けばそこには先生が。
「ど、どうして」
「俺はお前に攻略させるつもりで来たんだ。途中でリタイヤはさせん。行くぞ」
 先生は私の手を掴んで引っ張っていきます。私怪我をと言えばどうせ嘘だろうと言われてしまいます。
「いやです、行きません! いや」
 もうこの際なりふり構っていられませんでした。どうせこの先生には全部ばれているのです。一人全力で抵抗しますが。
「いいから来いと言っているだろう」
 怒鳴られたかと思えば体が石のように固まりました。忘れもしませんあのパーティーの日と同じ現象、魔法をかけられたのです。
 そのまま担ぎ上げられて……。
 ダンジョンの最奥まで連れてこられてしまいました。近い道と言うだけあり最強の門番もいたのですが先生は私を抱えたままそれもあっさり倒してしまい……。
 先生は私を魔道具のある祭殿の前に降ろします。取れと言われます。
「いやです」
 私は最後の抵抗をしました。
「私はこれを取りません。さやかさんに取ってもらいます」
 私の願いを伝えます。先生がそんな私に舌打ちをしました。ついでため息をつきます。失礼だとは思いませんでした。先生が私に魔道具を取らせるためにここまでしたのだと分かっていましたから。
「何がお前はしたい」
 先生が問います。私は黙ります。さやかさんの評価を上げたい。言うのは簡単です。ですが、その後に問われる言葉も分かっています。
「お前はそんなにセラフィードが大事なのか」
 私が言わなくとも先生は問いかけてきました。私はそれにも固く口を閉ざします。それは答えてはいけない質問です。思考の海に潜りそうになるのを先生を見つめることで脱出しました。
「もう考えたくもないか。やはりお前は妙だ。トレーフルブラン。
何故お前はそんなに死にたがる。お前が死にたい理由は何だ。もうないはずだろう」
 ぐらりと心が揺れます。また考えそうになってしまうのを追い払います。
「セラフィードの奴はお前を要らなくなったわけじゃない」
 先生の言葉が胸に刺さります。それは僅かな痛みをもたらしますが、それとは別に大きな安堵を私にもたらしてしまいます。
「お前を嫌い憎みながらも本質的な部分では決してお前を嫌っているわけでは奴はなかった。ただセラフィードの奴はお前にアイツ自身を見てほしかっただけだ」
 先生が言います。言葉がじんわりと広がります。何とか否定しなければいけません。貴方の言っていることを理解できないと言わなければ。そうしなければ、私は……。
「何を言っているのか分かりませんわ。
 私はいつでもセラフィード様を見ていました。もうずっと長い事見続けています」
 でた声はかすれていました。矢張り言わなければよかったととも思ってしまいます。でも言わなければ私は。
「いいや、違う。お前はアイツを見てなんていなかった。お前が見ていたのは王としてのアイツだ」
「違います」
「違わない。お前は王としてのアイツだけを支えようとしていた。アイツが王であるためだけに努力してそれ以外のアイツを見ていなかった」
「そんな」
「なら聞くが、お前はあいつの心が読めたか。何を考えているか分かったか。何故あそこまでお前を嫌っていたのかあの日までに理解できたか」
「……」
「わからなかっただろう。それはあいつをお前が王としてしかみていなかったからだ。
 もう一つお前はあいつを支えるなかでアイツの心を支えた時はあるか。これから支えようと考えていたか」
「え」
「ほらな。考えていなかったんだろう。王であるアイツも人なんだ。完璧で居続けようとすれば心だって疲弊する。それを支えることもセラフィード自身を見ているというならしてやるべきことだった
 お前はあいつを見ていなかった。
 だからあいつはお前に自分を見てほしかった。見てくれないからお前を嫌った。もしかしたら王妃じゃなくなったお前なら自分を見てくれると思っていたのかもな」
 否定を紡ごうとして紡げない。
 紡がなければいけないのに。認めてはいけない。認めてしまえば。
「セラフィードはお前を必要としていなかったんじゃない。お前を必要としていたんだ」
 心がぐらぐらぐらぐら揺れる
「なのになぜ死にたい」
 先生が問います。答えられません。答えなんて持っていないからです。私は死にたいのではないのです死ななけばいけないのです。
 しばらくの無言が続きます。
 その間にも心はゆらゆらと揺れます。その奥でどす黒いものが燃えています。嫌だ嫌だと燃えています。
 ふっと先生が息を吐きました。分厚い眼鏡越しに先生の黒い目が私を見ます。
「まあ、どうせもう死ねないがな」
 えっと思いました。揺れていた心が驚いて静かになります。何を言っているのだと思えば先生は指を鳴らし魔法を発動させました。
 魔方陣から大量の紙が降ってきます。ゆっくりと降りてくるそれをみつめ私の顔は青ざめていきます。どれもこれも見覚えのあるものばかり……。
「お前が作り上げたアイレッド家の不正の証拠だ。ブランリッシュの名前で王に届けるつもりだったようだが、残念だったな。全部回収させてもらった。ついでに不正元も捕まえておいた。アイレッド家と繋がっているように今さら偽装することはできん」
「……いつから」
「パーティーの後、正確には始業式の日からか。お前がアイツらの評価を上げようとせずにそのままにしていたから何か大きな仕掛けを用意していると思って探ってみたんだ。
 まさかそれが自分の家族を犯罪者にすることだとは思わなかったが。これが世に出回ることがあったならアイレッド家は終わり。お前の評価も一気に下がる。そうなればもしかしてパーティーの時にセラフィード達が言っていた事は本当だったんじゃないかと思うものも現れるはず。そのためのものだろう。
 しかも丁度よく魔王も復活してこれをさやかに封印させればさやかの評価は上がり、アイツを目にかけていたセラフィード達も人を見る目があるんじゃないかと思われる可能性もでてくる。
 一人で行きたかったのもこのためだな。
 無理でしたとか言って逃げてくるつもりだったんだろう。それでさやかに行かせるつもりだった。セラフィード達も連れていてくれたらアイツらは英雄になれる。その上でアイレッド家の不正が出回れば一気にセラフィードの方に心が傾く。そう云う計画をしていたんだろう。
 まあ俺から見ると浅はかな計画だと思うがな。
 お前は案外自分の評価が低いんだな。いや、自分のというよりは周りが自分をどれだけ思っているかに関してだけが低いのか。令嬢としての姿にだけ価値があると思っていると言えばいいのか。
 だがお前をお前としてみている者の方がずっと多い。」
 先生の言葉は半分以上頭の中に入ってきませんでした。
 ただもう無理なのだとそれだけは分かりました。もう死ねなくなったのだと……。でも私は、
「トレーフルブラン・アイレッド」
 先生が私の名を呼びます。
「何故お前は死にたががる」
 また問います。もう何度目の問いでしょう。何度言われても私は答えを返せないのに。
「疲れたのか」
 先生が言います。
 違います、だけどそうでもありました。もし今の私にも理由があるのだとしたらそれはその一つだけでしょう。
「当然だろう。お前はずっと間違えていたんだから」
 先生が言います。
「いいかトレーフルブラン。
 人は一人でも生きていくことはできる。だけど誰かを一人で支えることはできないんだ。一人分の重みしか人は支えられないから。人を支えるなら支えて支えられてそうやっていかなくてはならないんだ。
 相手を支えて相手に支えられて互いを支え合っていくのが本当の恋人だ。それなら長く傍に居れる。
 お前がしていたのは違う。
 アイツを支えてそれで自分を支えていたにすぎない。
 でももうその必要はないだろう」
 先生はふっと私から視線をそらしました。正式な入口のほうを見ます。何かと思い私も見ます。
「あ~~! トレーフルブランさんもういる!」
「なーーー、言ったろ。あの先生強いからどれだけ急いでも先にはつけないって」
「残念。私が一番に取ってやろうと思ってたのに。まあでも仕方ないか。私魔王封印できる自信ないし」
 騒がしい声が聞こえます。ぼろぼろになったさやかさんとレイザード様がこちらに手を振りながら笑顔で向かってきます。
「最近のお前は前と違い随分楽しそうに見える。まあ、あんな騒がしい奴らに捕まってしまえばそうなってしまうんだろう。だけどあの四人娘だっている。あいつらはお前の事をよく見ている。お前が魔王封印をしてほしいと呼び出された時も共についていくんだって準備していた。まあ、それは俺が止めたがな」
 二人を見る私にまだ死にたいのかと先生が聞きます。まだ疲れているのかと。
 ……彼らは自分の足で歩き始めました。まだまだですがいつか立派になるでしょう。その横にはさやかさんもいます。今の彼女なら彼らを支えられる人になります。私はもう彼らをセラフィード様を支え立派な王にしようと一人頑張らなくともいいのです。私が完璧な令嬢でいようとしなくともきっと彼らはこの国を守る立派な存在になってくれるでしょう。
 それは私の居場所をなくしてしまったようなものです。ですが気付けば私の周りには人がいて別の居場所ができていました。
 私にはもうないのです。死にたい理由なんて。私は。
 心の奥で重く黒いものが動きます。
「とれ
 最初の言葉をもう一度云われました。
「お前はお前だ。生きたいのなら生きろ」
 言われて目を見開きます。何を言っているのかと。
「誰のものでもないお前の人生を歩め。トレーフルブラン。
 辛くなったり悲しくなったり疲れたなら俺の部屋に来ていい。あそこなら誰にも見られない。気が済むまで休めばいい。
 だからお前はお前として生きろ。
 自分にも遠慮をするな」


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