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一章
1 切っ掛けは突然に
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「アデラ・アリスン・ディア・ルースヴェルズ!君を、婚約破棄させてもらう!」
ここは、王城の中、王宮と言われる中のとある広場。
煌びやかな装飾と、出迎えてくれる華やかな音楽が、確かに一般道路の広場とかではなく、王城の中であることを知らせてくれている。
今日は、平民も貴族もなく、王立記念日として、誰もが出入りしている。
そう、平民…庶民ですら、今日ばかりは立ち入る事ができるのだ。今日はそういう日。
私の知っている人達が何人か見えるのもそのせいだ。パン屋のおじさんおばさんも、花屋のお姉さんも、雑貨屋のお兄さんだっている。声をかければ、絶対、私だって気づいて、にこやかに返事してくれるかもしれないこの場所で、何故か私は目の前の男性に糾弾されている。
確か、あの方は、ラルフ・ダスティン・ヴェラ・アーステイル。姓から解る通り、この国の王子様だ。ただし、第二王子、なんだけど。でも、私この方、好きじゃないんだよね。
イケメンではあるけど、キラキラしすぎていて、胃もたれしそう。
私は、どっちかいうと庶民派なんだよ…。
「あの、ラルフ様。発言しても?」
「あ?ああ…」
よく見れば、ラルフ様の隣には、見目麗しい…というか、可愛らしいといったほうが良いような方が彼の腕に絡むようにして私の方を見ている。
あれは、ファニー・フローレンス・ハートモード様?確か、ハートモード卿と言えば男爵の位だったはず。何故位の低い家系の者が、王子様にへばりついているのか理解に苦しむ。まあ、それはそれ。私は私の言いたい事を言うのみだ。
「では。…あの、私、アデラではありません。アデル・スペンサーです。人違いなんですけど!」
「…はあ⁉」
言ってやった。
言ってやりましたとも。
周りにいる人達は、何故か不思議な顔をしてざわついている。
そんなにアデラという令嬢とそっくりなんですかねえ?
私、庶民のはずだったんだけどなあ??
それにしても今日は散々である。ただでさえ、この場所に来るはずなんてなかったのに、幼馴染のイアンと、ネイトに強引に連れられて。そうだとしても、ただダンス三昧になるはずだったのだけど。
そう、私はアデル・スペンサー。ただの庶民。これをイアン達に言わせると、そんな訳がないだろう!と怒られるけど。
私は、生まれも育ちもスペンサー家のもの。ただ、母様や父様は、下位のとは言え、一応貴族らしいので最低限のマナーと知識は植え付けさせられている。それ故に、本来、唯の庶民だったらまず知る事がない行動をする事もあるし、この国の王族の名前やそれに関わる貴族の方々の名前を覚えてしまっていては、庶民とは…と、呆れられても仕方がないのかもしれない。
だって!仕方ないじゃない!
ちゃんと覚えないと、お菓子とか食べさせてもらえなかったし、イアン達と遊ぶことも許してくれなかったんだもの!
そう言ってはみても、後の祭りとはこの事で。すっかりどこかの令嬢と誤解されながら過ごして早十数年。私は見た目も美しく育ち、ぱっと見は、イアン達は私の従僕か何かのようにも見えなくもないらしく、時々王城近くを通ると、遠目にちらちらと道中を通る人達の目は、なんだか不思議なものを見ているようにすら感じていて。そんな視線が嫌で私は、この記念日も家でまったり過ごすつもりだったのだけれど、父様達によって、にこにこ笑みを浮かべながら家から追い出してしまったよね!
許すまじ父様!
「お前、何を言っている?その顔、その声、それにその特徴のある髪の色…どれも、ルースヴェルズ家特徴のもの。アデラ、ふざけるのも大概にしろ」
私の発言が信じられないのか、ラルフ様はイライラした顔で私を睨むように言う。
うわあ、そんな人殺しのような顔で睨まないでよね。
そうか、証明するものが必要かー。っていうか、イアン達はどうした!
私は思い出して辺りをキョロキョロするといたよ。いたのはネイトだけど!
「ちょっとネイト!なんでそんなとこに隠れてるの⁉この王子様に説明してよ~!何なのこの状況」
「あ、うん、なんかごめんね?俺達が引っ張り出したばかりに…」
はははは、と乾いた声で私を慰めてくれるのは、一番の良識人で理解者であるネイト。
近所に住む、我が家とおなじ下位貴族の嫡男で末っ子でもある彼は、よく見れば可愛らしい顔立ちである。
金髪で筋肉中背、可も不可もない評判の彼は私にとって癒しでもある。なんたってつむじが可愛いんだ!何故つむじかって突っ込みは受け付けないけれど!
一息つきなおして、彼は背を正すと、ラルフ様に向かって言った。
「ラルフ様、発言をお許しください。」
「お前は?」
ラルフ様がネイトに向かって訝しげに言う。まあそうなるよね。
「ネイト・ラドフォードと申します。」
「ラドフォード…聞いたことがあるような…ああ、そういえばうちの軍事役人にそんな名前があったような」
「ああ、それは従兄弟ですね。わたくしめは、唯のしがない庶民に近い下位貴族の末弟にすぎません。それで、本題に移っても?」
「構わん」
ラルフ様がそう言うと、ネイトは続けて言った。
「では。この目の前の彼女は、確かにラルフ様の婚約者様とうり二つなのでしょうけれど、彼女は、ご本人ではありません。間違いなく、アデル・スペンサーという私の幼馴染であります。証拠は、おそらくそろそろ来るのではないでしょうか?」
「貴様も、彼女がアデラではないと?私のこの破棄を申し付けた事実を隠したいのではなく、か?」
「滅相もありません。ただ、そちらのご令嬢には一旦、ラルフ様から離れていただかない事には話は進むことができないと思いますが」
「何故?彼女は、私がここにいる事を許したのだ。それを覆せと?」
ラフル様は、ネイトの対応に少しずつイラついているように見える。
それもそうだ、ネイトは良識人であると同時に、貴族商人の家系という事もあって話術には長けていて、時にはイアンとの口喧嘩で勝つこともあるのだ。ラルフ様には、商人の家系だと言わなかったけれど、そこまでする必要はないと踏んでの事に違いない。でなければ、こうもやすやすとのらりくらりと、ラルフ様から距離をおく事などできないだろう。
そして、ネイトがこうして話を交わしてくれているという事は、イアンは本物のアデラ様を探しているはずだ。こんな茶番、さっさと終わりにしてほしいし、さっさとアデラ様連れてきてくれないかなー。
ここは、王城の中、王宮と言われる中のとある広場。
煌びやかな装飾と、出迎えてくれる華やかな音楽が、確かに一般道路の広場とかではなく、王城の中であることを知らせてくれている。
今日は、平民も貴族もなく、王立記念日として、誰もが出入りしている。
そう、平民…庶民ですら、今日ばかりは立ち入る事ができるのだ。今日はそういう日。
私の知っている人達が何人か見えるのもそのせいだ。パン屋のおじさんおばさんも、花屋のお姉さんも、雑貨屋のお兄さんだっている。声をかければ、絶対、私だって気づいて、にこやかに返事してくれるかもしれないこの場所で、何故か私は目の前の男性に糾弾されている。
確か、あの方は、ラルフ・ダスティン・ヴェラ・アーステイル。姓から解る通り、この国の王子様だ。ただし、第二王子、なんだけど。でも、私この方、好きじゃないんだよね。
イケメンではあるけど、キラキラしすぎていて、胃もたれしそう。
私は、どっちかいうと庶民派なんだよ…。
「あの、ラルフ様。発言しても?」
「あ?ああ…」
よく見れば、ラルフ様の隣には、見目麗しい…というか、可愛らしいといったほうが良いような方が彼の腕に絡むようにして私の方を見ている。
あれは、ファニー・フローレンス・ハートモード様?確か、ハートモード卿と言えば男爵の位だったはず。何故位の低い家系の者が、王子様にへばりついているのか理解に苦しむ。まあ、それはそれ。私は私の言いたい事を言うのみだ。
「では。…あの、私、アデラではありません。アデル・スペンサーです。人違いなんですけど!」
「…はあ⁉」
言ってやった。
言ってやりましたとも。
周りにいる人達は、何故か不思議な顔をしてざわついている。
そんなにアデラという令嬢とそっくりなんですかねえ?
私、庶民のはずだったんだけどなあ??
それにしても今日は散々である。ただでさえ、この場所に来るはずなんてなかったのに、幼馴染のイアンと、ネイトに強引に連れられて。そうだとしても、ただダンス三昧になるはずだったのだけど。
そう、私はアデル・スペンサー。ただの庶民。これをイアン達に言わせると、そんな訳がないだろう!と怒られるけど。
私は、生まれも育ちもスペンサー家のもの。ただ、母様や父様は、下位のとは言え、一応貴族らしいので最低限のマナーと知識は植え付けさせられている。それ故に、本来、唯の庶民だったらまず知る事がない行動をする事もあるし、この国の王族の名前やそれに関わる貴族の方々の名前を覚えてしまっていては、庶民とは…と、呆れられても仕方がないのかもしれない。
だって!仕方ないじゃない!
ちゃんと覚えないと、お菓子とか食べさせてもらえなかったし、イアン達と遊ぶことも許してくれなかったんだもの!
そう言ってはみても、後の祭りとはこの事で。すっかりどこかの令嬢と誤解されながら過ごして早十数年。私は見た目も美しく育ち、ぱっと見は、イアン達は私の従僕か何かのようにも見えなくもないらしく、時々王城近くを通ると、遠目にちらちらと道中を通る人達の目は、なんだか不思議なものを見ているようにすら感じていて。そんな視線が嫌で私は、この記念日も家でまったり過ごすつもりだったのだけれど、父様達によって、にこにこ笑みを浮かべながら家から追い出してしまったよね!
許すまじ父様!
「お前、何を言っている?その顔、その声、それにその特徴のある髪の色…どれも、ルースヴェルズ家特徴のもの。アデラ、ふざけるのも大概にしろ」
私の発言が信じられないのか、ラルフ様はイライラした顔で私を睨むように言う。
うわあ、そんな人殺しのような顔で睨まないでよね。
そうか、証明するものが必要かー。っていうか、イアン達はどうした!
私は思い出して辺りをキョロキョロするといたよ。いたのはネイトだけど!
「ちょっとネイト!なんでそんなとこに隠れてるの⁉この王子様に説明してよ~!何なのこの状況」
「あ、うん、なんかごめんね?俺達が引っ張り出したばかりに…」
はははは、と乾いた声で私を慰めてくれるのは、一番の良識人で理解者であるネイト。
近所に住む、我が家とおなじ下位貴族の嫡男で末っ子でもある彼は、よく見れば可愛らしい顔立ちである。
金髪で筋肉中背、可も不可もない評判の彼は私にとって癒しでもある。なんたってつむじが可愛いんだ!何故つむじかって突っ込みは受け付けないけれど!
一息つきなおして、彼は背を正すと、ラルフ様に向かって言った。
「ラルフ様、発言をお許しください。」
「お前は?」
ラルフ様がネイトに向かって訝しげに言う。まあそうなるよね。
「ネイト・ラドフォードと申します。」
「ラドフォード…聞いたことがあるような…ああ、そういえばうちの軍事役人にそんな名前があったような」
「ああ、それは従兄弟ですね。わたくしめは、唯のしがない庶民に近い下位貴族の末弟にすぎません。それで、本題に移っても?」
「構わん」
ラルフ様がそう言うと、ネイトは続けて言った。
「では。この目の前の彼女は、確かにラルフ様の婚約者様とうり二つなのでしょうけれど、彼女は、ご本人ではありません。間違いなく、アデル・スペンサーという私の幼馴染であります。証拠は、おそらくそろそろ来るのではないでしょうか?」
「貴様も、彼女がアデラではないと?私のこの破棄を申し付けた事実を隠したいのではなく、か?」
「滅相もありません。ただ、そちらのご令嬢には一旦、ラルフ様から離れていただかない事には話は進むことができないと思いますが」
「何故?彼女は、私がここにいる事を許したのだ。それを覆せと?」
ラフル様は、ネイトの対応に少しずつイラついているように見える。
それもそうだ、ネイトは良識人であると同時に、貴族商人の家系という事もあって話術には長けていて、時にはイアンとの口喧嘩で勝つこともあるのだ。ラルフ様には、商人の家系だと言わなかったけれど、そこまでする必要はないと踏んでの事に違いない。でなければ、こうもやすやすとのらりくらりと、ラルフ様から距離をおく事などできないだろう。
そして、ネイトがこうして話を交わしてくれているという事は、イアンは本物のアデラ様を探しているはずだ。こんな茶番、さっさと終わりにしてほしいし、さっさとアデラ様連れてきてくれないかなー。
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