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第一章 出発(たびだち)
2-3 シルドラ
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「あー、えーと、ひょっとしてだけど、シルドラさん?」
ぼくはふとそれを思いついて、おそるおそるその物騒なほうきを抱えた女性に尋ねた。すると、彼女は背をピンと伸ばし、シュタッと音が聞こえそうな感じで敬礼した。この世界にもあるんだ、敬礼。
「はい、シルドラであります! 話はノスフィリアリ様から聞いているであります。お待ちしていたであります!」
「えっと、ノスフィリアリ様って?」
「ノスフィリアリ様はノスフィリアリ様であります。わたくしの敬愛するマスターであります!」
「あのさ、もしかしたらだけど、そのノスフィリアリさんって、ド・リヴィエール伯爵家でメイドをやっているタニア……さんのこと?」
「ノスフィリアリ様がメイドなど、とんでもないことだとわたくしは愚考するのでありますが、ノスフィリアリ様が、異論をはさめば消滅させる、とおおせでありましたので、伯爵家とやらの殲滅は思いとどまっているであります」
こっわー……。タニアがもう少しわかりにくい言い方をしていれば、とんでもないことになっていた可能性があるのか。でも、ぼくもその伯爵家の人間だということは知らないようだ。タニアがあえて伝えなかったのだろう。
いったんおちついてシルドラを観察する。背は高くて細身だ。力感は感じないが、バランスがとれているし、バネがありそう。タニアは、シルドラが斥候だと言ってたし、速さ、鋭さが武器なのだろうが、先ほどの剣筋は、パワーも十分感じさせた。魔力は相当に強く感じる。
あと、心の底から恐ろしいのが、シルドラが見た目は完璧な美人であると言うことだ。整っていながら無機質ではない、冷たさと愛嬌が絶妙にバランスされた、属性云々を超えた破壊力を備えた黒髪ロング美人。それが無表情でいきなり斬りつけてきたところは、いま思い返しても震えが来る。
「それで、いきなりぼくに斬りつけてきたのは?」
「どなたがアンリ様か、わからなかったであります。たまたま群れから離れた子供が目に入りましたので、アンリ様であれば斬りつけても避けてくれると考えたでありますよ。一人目でアンリ様を見つけるとは、わたくしの眼力もなかなかであります」
うーん、すこし得意そうなのはなぜだろう。それ眼力じゃないし、いろんな意味でただ運がよかっただけだと思うんだが。それに群れとか……。シルドラがぼくらを見る目について考えるのがとてもこわい。
「ちなみに、その一人目がぼくじゃなかったら?」
「わたくしは回復魔術と記憶改ざんの魔術を使えるであります」
「そういう問題じゃないからね!」
「そうでありますか?」
シルドラは、本当にわからない、という顔をしている。ああ、確かにタニアは、シルドラが壊れてる、って言ってたよ。でも、こういう風にわかりやすく壊れてるとは思わなかったよ。あの言い方だと、もっとカッコいい壊れかただと思うじゃない?
「それで、わたくしはどうすればよいでありますか? ノスフィリアリ様からは、すべてアンリ様の言うとおりにしろ、との命令でありましたが……」
あ、ほんとにそういう命令だったんだ。もう少し彼女に自律性を持たせた命令だと思っていたが、ほんとうにぼくの命令はすべてきいてくれるのか。服を脱いであれやこれやとか……いや、言わないよ?
「シルドラさんはふだんはどこにいるの?」
「シルドラと呼んでもらっていいでありますよ。わたしはどこにいてもいいでありますが、アンリ様のご都合に合わせるであります」
なんか、意味がわかりそうでわからないことを言っている。もう考えないことにしたい。考えたら負けの気がする。
そもそも、タニアはシルドラと相談、とか言っていたが、この感じだと、シルドラはぼくの考えを実行することしか考えていないようだ。これは、自分でシルドラの動かし方を考えろ、っていうことだね。タニアは、たぶんこれをわかってそういう指示を出していたんだろうな。あいかわらず、かなわない。
「じゃ、じゃあ、今日は寮でいろいろあるだろうからもういいとして、ふだんは寮のまわりにいてくれるかな。学舎の職員として働いているんでしょ?」
「そういうわけではないでありますが、了解であります。さっそく今晩にでも書類をでっちあげて職員になっておくであります」
……知性すらただよわせる完璧な美人がここまで壊れてるのって、こわい。
さて、寮の入り口近辺には……誰もいない。もうみんな、各自の部屋に行ってしまったようだ。ポーターの控え室に行けばいいのかな?
「すみません、遅くなりました。アンリ・ド・リヴィエールです」
机に向かって書類を整理していたポーターさんが顔を上げ、そして立ち上がる。うお、すごい体格だ。警備を兼ねているからなのかもしれないけど、ちょっとした騎士よりも強そうな気がする。いや、まちがいなく強い。
「ようこそ、学舎へ。君とすごす三年間を楽しみにしているよ」
うわー、物腰がじつに優雅だ。誇りを持って仕事をしているしるしだな。
「よろしくお願いします。部屋の鍵を受け取りに来ました」
「ああ、きみが最後のひとりだね。きみは一階右奥一〇五号室だね。同室はマルコ・ロッシュくんだ。となりの一〇四号室もきみと同じクラスの生徒だね。ルカ・マリネリくんとリシャール・モンゴメリくんだ」
おっと、未来の超リア充くんがとなりか。
一礼してポーターの部屋を出ると、一〇五号室にむかった。
ノックにこたえてドアを開けてくれたマルコくんは、黒髪のひとの良さそうな少年だ。自己紹介すると、元気に答が返ってくる。
「マルコだ。よろしくね」
……ACBA。ん? 心の声だ。体力知力魔力俊敏、なんていう順番とは関係ないよ。でも、性格は良さそうだ。素直そうだし、押しつけがましくもない。ぼくにとって学園パートでよくある友情押し売り野郎がいちばん避けたかったのだ。つかず離れずケンカせずですごせるのがいちばんだよね。
荷物の整理をしながらマルコと雑談をしていると、ドアがノックされた。今度はぼくがドアを開ける。そこには隣室のルカくんと超リア充候補くんがいた。
「同じクラスだし、とりあえず挨拶を、と思ってね」
リシャールくんの切り出し方はなんともソツがない。ハラが立つほどさわやかだ。いや、いいヤツそうだというのは、すぐわかるんだけどね。
「よろしく」
何となくリシャールくんに連れられてきた感じのルカくんが続いてあいさつを口にする。うん、CBAB……いや、なんでもない。この辺でやめておこう。
ルカくんはちょっとジョルジュ兄様に似た雰囲気を持っている。能力的にもたぶん頭脳方面にベクトルが寄っている。取っつきにくい感じだが、じっくり話すとおもしろいやつなんじゃないかなる。
四人での雑談は、夕食の時間になるまで続いた。とりあえず、部屋の環境が悪くなさそうで安心した。
マルコとリシャールは騎士課程をめざしているらしい。二人ともフェリペ兄様があこがれだそうで、半端ないそのすごさについて、アツく語っていた。ストーカー一歩手前の情報量で、兄様が何人の女の子をフッたかも知っているようだ。リシャールくん、ぼくはきみの印象が少し変わりそうだよ。弟であることは、とりあえず今は黙っておこう。
ルカも、はじめこそ言葉少なだったが、徐々に積極的に話に入ってくるようになった。なんでも、総合課程か魔法課程か、狙うコースを決めかねているらしい。騎士にすでに狙いを定めている二人をうらやんでいた。
「何となく、魔法なんかいいような気がするけど」
ちょっとだけアドバイス。タニアが知ったら大目玉だろうな。でも、前を向いてどんどん進んでいこうとするヤツより、そこから一歩引いたヤツにどうしても親しみを感じてしまうのだ。許してもらおう。
「そういわれたのは初めてだよ。なんでそう思うの?」
根拠は魔力だが、もちろんそれは言わない。
「直感だよ。あんまりアテにされても困る」
「そっか。ぼくは魔法がいいな、と思っていたんだけど、あまりまわりはいい顔しなかったんだよね。でも、ちょっと勇気が出たな」
かわいいヤツじゃないか。
基本、人の輪に積極的に入っていくことはしないつもりだった。だが、その予定は初日から狂ってしまった。……まあ、いい。なにはともあれ、楽しい仲良しゲームのはじまりだ。これから少なくとも三年、ぼくはここで子供ごっこを楽しむ。
夜も更けて、マルコもぐっすり寝ている。子供の時間の終わりだ。剣をもって中庭に出る。寮の建物の外には出られないようになっているが、中庭は別だ。あまり広くはないが、素振りくらいは問題ない。
さすがに今日は誰もいない。なんといってもほかの生徒はみな普通の子供だ。今日は疲れて寝てるだろう。明日からはそうはいかないだろうから、シルドラに相談してみよう。
基本としてきた両手剣は持ちこむと目立つから、ここではサーベルでトレーニングしようと思っている。まあ、なにを使っても戦えるようにタニアに仕込まれたから、なんでもいいんだ。
構える。踏みこむ。横なぎに振る。続いて下から振り上げる。少ししっくりこない。
「少しキレが悪いでありますな」
「わあっっ!!」
大声を出してしまって、あわてて口を押さえる。振り向くと、シルドラが立っていた。昼間のメイドふうの服と違い、いまは身体にフィットした黒装束だ。
「シ、シルドラ! い、いったいどこから?」
「わたしは屋根で寝てたであります。いつアンリ様がわたしを必要とされるか、わからないでありますから。そしたら、中庭にひとが出る気配がしたので見ていたであります」
ダメだ、常識にとらわれるな。何でもアリの人はいるんだ、この世界は。
「それより、旅のせいでありますかな。鍛錬を何日かサボったナマりかたでありますよ」
非常識のかたまりから的確な指摘が来る。納得がいかない。
「今晩中に戻したほうがいいでありますな。お相手するであります」
ちょっとのつもりのトレーニングは、朝方まで続くことになった。
ぼくはふとそれを思いついて、おそるおそるその物騒なほうきを抱えた女性に尋ねた。すると、彼女は背をピンと伸ばし、シュタッと音が聞こえそうな感じで敬礼した。この世界にもあるんだ、敬礼。
「はい、シルドラであります! 話はノスフィリアリ様から聞いているであります。お待ちしていたであります!」
「えっと、ノスフィリアリ様って?」
「ノスフィリアリ様はノスフィリアリ様であります。わたくしの敬愛するマスターであります!」
「あのさ、もしかしたらだけど、そのノスフィリアリさんって、ド・リヴィエール伯爵家でメイドをやっているタニア……さんのこと?」
「ノスフィリアリ様がメイドなど、とんでもないことだとわたくしは愚考するのでありますが、ノスフィリアリ様が、異論をはさめば消滅させる、とおおせでありましたので、伯爵家とやらの殲滅は思いとどまっているであります」
こっわー……。タニアがもう少しわかりにくい言い方をしていれば、とんでもないことになっていた可能性があるのか。でも、ぼくもその伯爵家の人間だということは知らないようだ。タニアがあえて伝えなかったのだろう。
いったんおちついてシルドラを観察する。背は高くて細身だ。力感は感じないが、バランスがとれているし、バネがありそう。タニアは、シルドラが斥候だと言ってたし、速さ、鋭さが武器なのだろうが、先ほどの剣筋は、パワーも十分感じさせた。魔力は相当に強く感じる。
あと、心の底から恐ろしいのが、シルドラが見た目は完璧な美人であると言うことだ。整っていながら無機質ではない、冷たさと愛嬌が絶妙にバランスされた、属性云々を超えた破壊力を備えた黒髪ロング美人。それが無表情でいきなり斬りつけてきたところは、いま思い返しても震えが来る。
「それで、いきなりぼくに斬りつけてきたのは?」
「どなたがアンリ様か、わからなかったであります。たまたま群れから離れた子供が目に入りましたので、アンリ様であれば斬りつけても避けてくれると考えたでありますよ。一人目でアンリ様を見つけるとは、わたくしの眼力もなかなかであります」
うーん、すこし得意そうなのはなぜだろう。それ眼力じゃないし、いろんな意味でただ運がよかっただけだと思うんだが。それに群れとか……。シルドラがぼくらを見る目について考えるのがとてもこわい。
「ちなみに、その一人目がぼくじゃなかったら?」
「わたくしは回復魔術と記憶改ざんの魔術を使えるであります」
「そういう問題じゃないからね!」
「そうでありますか?」
シルドラは、本当にわからない、という顔をしている。ああ、確かにタニアは、シルドラが壊れてる、って言ってたよ。でも、こういう風にわかりやすく壊れてるとは思わなかったよ。あの言い方だと、もっとカッコいい壊れかただと思うじゃない?
「それで、わたくしはどうすればよいでありますか? ノスフィリアリ様からは、すべてアンリ様の言うとおりにしろ、との命令でありましたが……」
あ、ほんとにそういう命令だったんだ。もう少し彼女に自律性を持たせた命令だと思っていたが、ほんとうにぼくの命令はすべてきいてくれるのか。服を脱いであれやこれやとか……いや、言わないよ?
「シルドラさんはふだんはどこにいるの?」
「シルドラと呼んでもらっていいでありますよ。わたしはどこにいてもいいでありますが、アンリ様のご都合に合わせるであります」
なんか、意味がわかりそうでわからないことを言っている。もう考えないことにしたい。考えたら負けの気がする。
そもそも、タニアはシルドラと相談、とか言っていたが、この感じだと、シルドラはぼくの考えを実行することしか考えていないようだ。これは、自分でシルドラの動かし方を考えろ、っていうことだね。タニアは、たぶんこれをわかってそういう指示を出していたんだろうな。あいかわらず、かなわない。
「じゃ、じゃあ、今日は寮でいろいろあるだろうからもういいとして、ふだんは寮のまわりにいてくれるかな。学舎の職員として働いているんでしょ?」
「そういうわけではないでありますが、了解であります。さっそく今晩にでも書類をでっちあげて職員になっておくであります」
……知性すらただよわせる完璧な美人がここまで壊れてるのって、こわい。
さて、寮の入り口近辺には……誰もいない。もうみんな、各自の部屋に行ってしまったようだ。ポーターの控え室に行けばいいのかな?
「すみません、遅くなりました。アンリ・ド・リヴィエールです」
机に向かって書類を整理していたポーターさんが顔を上げ、そして立ち上がる。うお、すごい体格だ。警備を兼ねているからなのかもしれないけど、ちょっとした騎士よりも強そうな気がする。いや、まちがいなく強い。
「ようこそ、学舎へ。君とすごす三年間を楽しみにしているよ」
うわー、物腰がじつに優雅だ。誇りを持って仕事をしているしるしだな。
「よろしくお願いします。部屋の鍵を受け取りに来ました」
「ああ、きみが最後のひとりだね。きみは一階右奥一〇五号室だね。同室はマルコ・ロッシュくんだ。となりの一〇四号室もきみと同じクラスの生徒だね。ルカ・マリネリくんとリシャール・モンゴメリくんだ」
おっと、未来の超リア充くんがとなりか。
一礼してポーターの部屋を出ると、一〇五号室にむかった。
ノックにこたえてドアを開けてくれたマルコくんは、黒髪のひとの良さそうな少年だ。自己紹介すると、元気に答が返ってくる。
「マルコだ。よろしくね」
……ACBA。ん? 心の声だ。体力知力魔力俊敏、なんていう順番とは関係ないよ。でも、性格は良さそうだ。素直そうだし、押しつけがましくもない。ぼくにとって学園パートでよくある友情押し売り野郎がいちばん避けたかったのだ。つかず離れずケンカせずですごせるのがいちばんだよね。
荷物の整理をしながらマルコと雑談をしていると、ドアがノックされた。今度はぼくがドアを開ける。そこには隣室のルカくんと超リア充候補くんがいた。
「同じクラスだし、とりあえず挨拶を、と思ってね」
リシャールくんの切り出し方はなんともソツがない。ハラが立つほどさわやかだ。いや、いいヤツそうだというのは、すぐわかるんだけどね。
「よろしく」
何となくリシャールくんに連れられてきた感じのルカくんが続いてあいさつを口にする。うん、CBAB……いや、なんでもない。この辺でやめておこう。
ルカくんはちょっとジョルジュ兄様に似た雰囲気を持っている。能力的にもたぶん頭脳方面にベクトルが寄っている。取っつきにくい感じだが、じっくり話すとおもしろいやつなんじゃないかなる。
四人での雑談は、夕食の時間になるまで続いた。とりあえず、部屋の環境が悪くなさそうで安心した。
マルコとリシャールは騎士課程をめざしているらしい。二人ともフェリペ兄様があこがれだそうで、半端ないそのすごさについて、アツく語っていた。ストーカー一歩手前の情報量で、兄様が何人の女の子をフッたかも知っているようだ。リシャールくん、ぼくはきみの印象が少し変わりそうだよ。弟であることは、とりあえず今は黙っておこう。
ルカも、はじめこそ言葉少なだったが、徐々に積極的に話に入ってくるようになった。なんでも、総合課程か魔法課程か、狙うコースを決めかねているらしい。騎士にすでに狙いを定めている二人をうらやんでいた。
「何となく、魔法なんかいいような気がするけど」
ちょっとだけアドバイス。タニアが知ったら大目玉だろうな。でも、前を向いてどんどん進んでいこうとするヤツより、そこから一歩引いたヤツにどうしても親しみを感じてしまうのだ。許してもらおう。
「そういわれたのは初めてだよ。なんでそう思うの?」
根拠は魔力だが、もちろんそれは言わない。
「直感だよ。あんまりアテにされても困る」
「そっか。ぼくは魔法がいいな、と思っていたんだけど、あまりまわりはいい顔しなかったんだよね。でも、ちょっと勇気が出たな」
かわいいヤツじゃないか。
基本、人の輪に積極的に入っていくことはしないつもりだった。だが、その予定は初日から狂ってしまった。……まあ、いい。なにはともあれ、楽しい仲良しゲームのはじまりだ。これから少なくとも三年、ぼくはここで子供ごっこを楽しむ。
夜も更けて、マルコもぐっすり寝ている。子供の時間の終わりだ。剣をもって中庭に出る。寮の建物の外には出られないようになっているが、中庭は別だ。あまり広くはないが、素振りくらいは問題ない。
さすがに今日は誰もいない。なんといってもほかの生徒はみな普通の子供だ。今日は疲れて寝てるだろう。明日からはそうはいかないだろうから、シルドラに相談してみよう。
基本としてきた両手剣は持ちこむと目立つから、ここではサーベルでトレーニングしようと思っている。まあ、なにを使っても戦えるようにタニアに仕込まれたから、なんでもいいんだ。
構える。踏みこむ。横なぎに振る。続いて下から振り上げる。少ししっくりこない。
「少しキレが悪いでありますな」
「わあっっ!!」
大声を出してしまって、あわてて口を押さえる。振り向くと、シルドラが立っていた。昼間のメイドふうの服と違い、いまは身体にフィットした黒装束だ。
「シ、シルドラ! い、いったいどこから?」
「わたしは屋根で寝てたであります。いつアンリ様がわたしを必要とされるか、わからないでありますから。そしたら、中庭にひとが出る気配がしたので見ていたであります」
ダメだ、常識にとらわれるな。何でもアリの人はいるんだ、この世界は。
「それより、旅のせいでありますかな。鍛錬を何日かサボったナマりかたでありますよ」
非常識のかたまりから的確な指摘が来る。納得がいかない。
「今晩中に戻したほうがいいでありますな。お相手するであります」
ちょっとのつもりのトレーニングは、朝方まで続くことになった。
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