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第三章 雄飛
7-8 エマニュエル(前)
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ベアトリーチェの魔法と剣術の「補習」は順調らしい。それはそうだろう。これまで基礎の基礎以上のことをすべて自分の力で手探りで積み上げようとしていたところを、少なくとも努力の方向をはっきりと教えてもらえるようになったのだから。
「もうね、ここに来るのが楽しみでしかたがないの。気がつくと夕食の時間になってて、慌てて寮に戻ったり」
ベアトリーチェ自身も大興奮だ。それは理解できる。もともと学ぶことに貪欲な彼女が、その成果を日々感じられるようになっているわけだしね。たぶん、ジルもセバスチャンさんも、彼女に新しい世界を見せてあげているんだろう。
「ベアト、一番の目的は時間の節約だ、ってことを忘れずにね」
「わかってる。でも,魔法や剣術に引きずられてるんじゃないかな、ほかの勉強もすっごく順調なの」
とことん、学ぶことが好きなんだね、彼女は。ものすごい勢いでいろんなものが自分の中に入ってくるのが楽しくてしょうがないんだろう。手の抜きかたばかり考えていたぼくの前世の毎日からは想像ができない。
「さすがに大魔法使いになれる器とは思わんが、ええ感覚をしとる。魔法課程でも十分上位の成績で卒業できたじゃろ」
ベアトリーチェは、いまはセバスチャンと剣術の修練中だ。
「しかしおまえさんも、結局かわいい女の子には甘いの。男じゃったら、ここまでやらんじゃろ?」
声には出ていないが、ジルの口元は「ニヒヒヒ」と笑っている。
「そんなことないからね?! 可愛い子に恩を売っとこうとか、そんなこと全然考えてないからね?」
「ええからええから。みなまで言わんでも、わしはよくわかっとる」
だめだ。このジジイにはなにを言っても通じそうにない。
「真面目な話をするとさ、ベアトリーチェの友達に頼まれたんだよ。彼女が無理しすぎないようにしてくれって。その子なんだけどさ、ちょっと気になるんだ」
「なんじゃ、また別の女に手をだすつもりかの?」
「そうじゃなくて!! そもそもがなかなか魔力の高そうな子ではあるんだけど、どうも他人の考えていることを感じる力があるらしいんだ。そういう魔法ってある?」
ジルの顔つきが魔法オタクのそれに変わった。
「ふむ、そういう力は魔法としては存在しないが、魔力を使って自分の意識を他人に同調させることはできるぞい。簡単ではないし、できる人間は多くはないがの。その娘にそれができる、ということはどうしてわかったんじゃ?」
「ベアトリーチェの考えていることがいつもじゃないけどわかる、というのは本人が言ってた。相手のことを強く思うと、ぼんやり浮かんでくることがあるらしいよ」
「思い込みだという可能性はないかの?」
「ないと思う。ほかにもかなり謎の多い子でね、ぼくがマッテオを殺したあたりの時期には、ぼくからわずかに殺気と血の臭いを感じていたらしい。そのために、初等課程の魔法の選択授業、あとから参加してきたんだ」
「おまえさんはうまく殺気を消していたと思っていたんじゃが……それでおまえさんは、わしになにかさせようと言うんかの?」
「あのね、できればジルの目でその子を見てくれたりしたら嬉しいんだけど」
「むう、一度授業にもどると、そのままなし崩しで授業計画に組み込まれてしまうでの、できれば避けたいんじゃがのお」
「あんた教官でしょうが! 授業するの、仕事でしょうが!」
「だってわし、頼まれて魔法科の主任やっとるんじゃぞ? べつに稼がなきゃ生きていけんわけでもなし、やめろというならいつでもやめてやるわい」
「じゃあなんで、とっととやめないんすか?」
「この歳で引きこもると、若い娘を近くで見れんようになるからにきまっとるじゃろ」
やっぱりそういうことか。このジジイ、仕事より金、金より魔法、魔法より女のピュアなクズだ。
「授業をすれば、いっぱい女の子が目の前にいるじゃないですか」
「それじゃつまらんわ。わしを慕って頼ってくるのがいいんじゃ」
「なにわけのわからないワガママ言ってるんですか。とにかく頼みましたよ」
「その「とにかく」の意味がわからんのじゃが、まあええ。おまえさんの話にも興味がないわけじゃなし、一度やってみよう。報酬は後払いじゃ」
どうごますか、おいおい考えておこう。
そうこうしているうちに、エマニュエル・バッターノが学舎をやめるまで残り一週間を切った。
たしかに、親元の薬問屋は商売の拡大にかなり前のめりに突っこんでいるし、そのためにギエルダニアと断続的に接触はしている。だが、あくまでもまっとうな道は外していない。後ろぐらい情報は出てこないのだ。だから、エマニュエルが学舎をやめてまで果たすべき役割がまったく見えてこない。
「こうなると、話全体がエマニュエルさん主導だと考えた方がいいのかもしれません。間違った方向に誘導してしまって申し訳ありませんでした」
リュミエラがほんとうに申し訳なさそうに頭を下げる。ただ、親元が絡んでいることを指摘したのは彼女だから、そんなに方向狂ってないんだけどね。完璧主義なんだろうか?
「エマニュエルの意向の下に親元がいろいろ動いてきたってこと? 。十二、三歳の子供をどんだけ当てにしてんだよ、その薬問屋?」
ビットーリオがため息をつきながら言った。
「もうね、ここに来るのが楽しみでしかたがないの。気がつくと夕食の時間になってて、慌てて寮に戻ったり」
ベアトリーチェ自身も大興奮だ。それは理解できる。もともと学ぶことに貪欲な彼女が、その成果を日々感じられるようになっているわけだしね。たぶん、ジルもセバスチャンさんも、彼女に新しい世界を見せてあげているんだろう。
「ベアト、一番の目的は時間の節約だ、ってことを忘れずにね」
「わかってる。でも,魔法や剣術に引きずられてるんじゃないかな、ほかの勉強もすっごく順調なの」
とことん、学ぶことが好きなんだね、彼女は。ものすごい勢いでいろんなものが自分の中に入ってくるのが楽しくてしょうがないんだろう。手の抜きかたばかり考えていたぼくの前世の毎日からは想像ができない。
「さすがに大魔法使いになれる器とは思わんが、ええ感覚をしとる。魔法課程でも十分上位の成績で卒業できたじゃろ」
ベアトリーチェは、いまはセバスチャンと剣術の修練中だ。
「しかしおまえさんも、結局かわいい女の子には甘いの。男じゃったら、ここまでやらんじゃろ?」
声には出ていないが、ジルの口元は「ニヒヒヒ」と笑っている。
「そんなことないからね?! 可愛い子に恩を売っとこうとか、そんなこと全然考えてないからね?」
「ええからええから。みなまで言わんでも、わしはよくわかっとる」
だめだ。このジジイにはなにを言っても通じそうにない。
「真面目な話をするとさ、ベアトリーチェの友達に頼まれたんだよ。彼女が無理しすぎないようにしてくれって。その子なんだけどさ、ちょっと気になるんだ」
「なんじゃ、また別の女に手をだすつもりかの?」
「そうじゃなくて!! そもそもがなかなか魔力の高そうな子ではあるんだけど、どうも他人の考えていることを感じる力があるらしいんだ。そういう魔法ってある?」
ジルの顔つきが魔法オタクのそれに変わった。
「ふむ、そういう力は魔法としては存在しないが、魔力を使って自分の意識を他人に同調させることはできるぞい。簡単ではないし、できる人間は多くはないがの。その娘にそれができる、ということはどうしてわかったんじゃ?」
「ベアトリーチェの考えていることがいつもじゃないけどわかる、というのは本人が言ってた。相手のことを強く思うと、ぼんやり浮かんでくることがあるらしいよ」
「思い込みだという可能性はないかの?」
「ないと思う。ほかにもかなり謎の多い子でね、ぼくがマッテオを殺したあたりの時期には、ぼくからわずかに殺気と血の臭いを感じていたらしい。そのために、初等課程の魔法の選択授業、あとから参加してきたんだ」
「おまえさんはうまく殺気を消していたと思っていたんじゃが……それでおまえさんは、わしになにかさせようと言うんかの?」
「あのね、できればジルの目でその子を見てくれたりしたら嬉しいんだけど」
「むう、一度授業にもどると、そのままなし崩しで授業計画に組み込まれてしまうでの、できれば避けたいんじゃがのお」
「あんた教官でしょうが! 授業するの、仕事でしょうが!」
「だってわし、頼まれて魔法科の主任やっとるんじゃぞ? べつに稼がなきゃ生きていけんわけでもなし、やめろというならいつでもやめてやるわい」
「じゃあなんで、とっととやめないんすか?」
「この歳で引きこもると、若い娘を近くで見れんようになるからにきまっとるじゃろ」
やっぱりそういうことか。このジジイ、仕事より金、金より魔法、魔法より女のピュアなクズだ。
「授業をすれば、いっぱい女の子が目の前にいるじゃないですか」
「それじゃつまらんわ。わしを慕って頼ってくるのがいいんじゃ」
「なにわけのわからないワガママ言ってるんですか。とにかく頼みましたよ」
「その「とにかく」の意味がわからんのじゃが、まあええ。おまえさんの話にも興味がないわけじゃなし、一度やってみよう。報酬は後払いじゃ」
どうごますか、おいおい考えておこう。
そうこうしているうちに、エマニュエル・バッターノが学舎をやめるまで残り一週間を切った。
たしかに、親元の薬問屋は商売の拡大にかなり前のめりに突っこんでいるし、そのためにギエルダニアと断続的に接触はしている。だが、あくまでもまっとうな道は外していない。後ろぐらい情報は出てこないのだ。だから、エマニュエルが学舎をやめてまで果たすべき役割がまったく見えてこない。
「こうなると、話全体がエマニュエルさん主導だと考えた方がいいのかもしれません。間違った方向に誘導してしまって申し訳ありませんでした」
リュミエラがほんとうに申し訳なさそうに頭を下げる。ただ、親元が絡んでいることを指摘したのは彼女だから、そんなに方向狂ってないんだけどね。完璧主義なんだろうか?
「エマニュエルの意向の下に親元がいろいろ動いてきたってこと? 。十二、三歳の子供をどんだけ当てにしてんだよ、その薬問屋?」
ビットーリオがため息をつきながら言った。
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