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後日談 第十八話 パーティー 1
後日談 第十八話 パーティー 1
今宵の祝賀会は、帝国とヘーゼルダイン王国の関係をより親密なものにする親善と友好の場だ。特筆すべきは、未来を担う若者たちの交流をという趣旨のもと、子ども達の出席が許されていることだ。だからとても賑々しいけれど、良家の令息令嬢なので子どもとはいってもとても礼儀正しく品がいい。
そしてメインは、海軍の友好と協力、帝国テレビとアディンセルテレビの提携なので、海軍の将校も大勢いる。真っ白な海軍の正装が美しい。その中に混じって、今は艶やかな濃グレーのタキシードのリチャードがいる。帝国テレビのお偉いさんたちとのやりとりを終えて、旧知の海軍将校たちと談笑している。
帝国のエリート軍人たちの中にいても、リチャードがいちばんかっこいい。
盛装したリチャードの姿を堪能しながら、ジョナサンは時々、壁の方に目をやる。
カールは、今はジョナサンを全く見ようとしない。まるでジョナサンなど、見えていないかのようだ。
ジョナサンではなくリチャードを睨みつけて、カールは壁際を伝って少しずつ移動している。
ジョナサンはその様子を時々見ている。
人々がひそひそとハインリヒのうわさを囁くのがいたたまれなくてそういう話題の人達から離れようとしているのかと、最初は思ったが、きつく唇を引き結んでリチャードを睨んでいて、その眸には憎悪の炎が燃えているのが遠目にもわかる。見るたびに少しずつ移動していた。何度か目線で追う度に、だんだんと動いている。
今、ジョナサンのそばにはクライヴとセドリックがぴったりと寄り添っている。ギルバートがバンケットスタッフからドリンクを取ってくれたり食事を取ってくれたりとせっせと世話を焼いてくれている。トイレは大丈夫かとか、リチャードに言いつけられたことを遂行しよう、ジョナサンが快適に過ごせるように、変なアルファが寄って来ないようにしっかりガードしなければと、一生懸命な息子たちの様子が健気で微笑ましい。
リチャードは、ロバートと一緒に旧知の帝国海軍の将校や帝国政府要人と話している。ヘーゼルダイン王国では、ベータになったリチャードを蔑むような輩もいたけれど、帝国の上流階級には、そういう下品なことをする者はいない。
「ジョナサンさん」
声をかけてきたのは、アガサとアリスだ。
パーティー・ドレスは初日のレセプションとはまったく違う、シックでシンプルなものだ。帝国の流行のものを買い求めたらしい。同じデザインで色違いにしている。とても洗練されていて似合っていると感想を言うと、嬉しそうに笑う。もう一着、同じデザインで色違いのドレスを、ツェツィーリアへのお土産にしたのだと、輝くような笑顔で語る。
「でも、着てもらえるのは来年かしら?」
「そうだね」
セシルはリチャードの弟と結ばれて、今、妊娠中なのだ。悪阻が酷い上に羊水過少で入院していて、今回の帝国訪問には同行できなかったのだ。だからジョナサンもリチャードも、セシルへのお土産をたくさん買った。アクセサリーや書籍から、帝国のベビー用品など、山のように買った。
「ところで、運命のつがいに会ったって、本当ですの?」
「うん。驚いたよ」
運命のつがいに出会えることは、奇跡と言っていい。砂漠の砂の中から一粒の砂金を拾うような、天文学的な確率なのだ。
「アリスとアガサは、運命のつがいを見たことがある?」
「ありませんよお。聞いたことならありますけど」
「聞いた?」
「だって有名ですもの」
ふたりが知っている運命のつがい、それは、この帝国の現皇帝と、ブリジットの生母である第二妃だ。帝国内外、知らない者など無い、有名な話である。知らなかったのはジョナサンくらいのものだろう。
そのジョナサン自身が、運命のつがいに出遭った。
拒絶したら引き下がったけれど、心の中では諦めきれないのだろう。離れた壁際からせつなげにジョナサンを見ている。近寄っては来ないけれど、視線が鬱陶しい。
ジョナサンは今日も、アルファフェロモン遮断剤を服用してきた。副作用のことを言ったらリチャードは心配そうにしていたけれど、つがいがいないオメガである以上、そしてどんなアルファも受け入れるつもりが無い以上、遮断剤もしくは抑制剤は、人混みでは必須だ。抑制剤は医師の診断や処方箋が無ければ入手できないし、体質に合わない場合は遮断剤よりももっと強い副作用が出たり、アナフィラキシーのようなショック症状があったりする。遮断剤の副作用はそこまで深刻ではないので、街中のドロゲリー(ドラッグストア)で買えるので旅行者でも入手できるのだ。
遮断剤を服用していれば、アルファフェロモンはいっさいわからない。たとえ、運命のつがいのフェロモンであっても。
ヘーゼルダイン王国と違って、帝国ではもしも街中などで突発的にヒートになってしまったオメガのフェロモンによってラットになったアルファがオメガを襲ってしまった場合、アルファが罪に問われる。だからアルファのためのオメガフェロモン遮断剤や自身のフェロモンが出ないようにする抑制剤も種類豊富で、状況や体質に合わせて使いこなすのが品位あるマナーであるとされる。
今宵の祝賀会は、帝国とヘーゼルダイン王国の関係をより親密なものにする親善と友好の場だ。特筆すべきは、未来を担う若者たちの交流をという趣旨のもと、子ども達の出席が許されていることだ。だからとても賑々しいけれど、良家の令息令嬢なので子どもとはいってもとても礼儀正しく品がいい。
そしてメインは、海軍の友好と協力、帝国テレビとアディンセルテレビの提携なので、海軍の将校も大勢いる。真っ白な海軍の正装が美しい。その中に混じって、今は艶やかな濃グレーのタキシードのリチャードがいる。帝国テレビのお偉いさんたちとのやりとりを終えて、旧知の海軍将校たちと談笑している。
帝国のエリート軍人たちの中にいても、リチャードがいちばんかっこいい。
盛装したリチャードの姿を堪能しながら、ジョナサンは時々、壁の方に目をやる。
カールは、今はジョナサンを全く見ようとしない。まるでジョナサンなど、見えていないかのようだ。
ジョナサンではなくリチャードを睨みつけて、カールは壁際を伝って少しずつ移動している。
ジョナサンはその様子を時々見ている。
人々がひそひそとハインリヒのうわさを囁くのがいたたまれなくてそういう話題の人達から離れようとしているのかと、最初は思ったが、きつく唇を引き結んでリチャードを睨んでいて、その眸には憎悪の炎が燃えているのが遠目にもわかる。見るたびに少しずつ移動していた。何度か目線で追う度に、だんだんと動いている。
今、ジョナサンのそばにはクライヴとセドリックがぴったりと寄り添っている。ギルバートがバンケットスタッフからドリンクを取ってくれたり食事を取ってくれたりとせっせと世話を焼いてくれている。トイレは大丈夫かとか、リチャードに言いつけられたことを遂行しよう、ジョナサンが快適に過ごせるように、変なアルファが寄って来ないようにしっかりガードしなければと、一生懸命な息子たちの様子が健気で微笑ましい。
リチャードは、ロバートと一緒に旧知の帝国海軍の将校や帝国政府要人と話している。ヘーゼルダイン王国では、ベータになったリチャードを蔑むような輩もいたけれど、帝国の上流階級には、そういう下品なことをする者はいない。
「ジョナサンさん」
声をかけてきたのは、アガサとアリスだ。
パーティー・ドレスは初日のレセプションとはまったく違う、シックでシンプルなものだ。帝国の流行のものを買い求めたらしい。同じデザインで色違いにしている。とても洗練されていて似合っていると感想を言うと、嬉しそうに笑う。もう一着、同じデザインで色違いのドレスを、ツェツィーリアへのお土産にしたのだと、輝くような笑顔で語る。
「でも、着てもらえるのは来年かしら?」
「そうだね」
セシルはリチャードの弟と結ばれて、今、妊娠中なのだ。悪阻が酷い上に羊水過少で入院していて、今回の帝国訪問には同行できなかったのだ。だからジョナサンもリチャードも、セシルへのお土産をたくさん買った。アクセサリーや書籍から、帝国のベビー用品など、山のように買った。
「ところで、運命のつがいに会ったって、本当ですの?」
「うん。驚いたよ」
運命のつがいに出会えることは、奇跡と言っていい。砂漠の砂の中から一粒の砂金を拾うような、天文学的な確率なのだ。
「アリスとアガサは、運命のつがいを見たことがある?」
「ありませんよお。聞いたことならありますけど」
「聞いた?」
「だって有名ですもの」
ふたりが知っている運命のつがい、それは、この帝国の現皇帝と、ブリジットの生母である第二妃だ。帝国内外、知らない者など無い、有名な話である。知らなかったのはジョナサンくらいのものだろう。
そのジョナサン自身が、運命のつがいに出遭った。
拒絶したら引き下がったけれど、心の中では諦めきれないのだろう。離れた壁際からせつなげにジョナサンを見ている。近寄っては来ないけれど、視線が鬱陶しい。
ジョナサンは今日も、アルファフェロモン遮断剤を服用してきた。副作用のことを言ったらリチャードは心配そうにしていたけれど、つがいがいないオメガである以上、そしてどんなアルファも受け入れるつもりが無い以上、遮断剤もしくは抑制剤は、人混みでは必須だ。抑制剤は医師の診断や処方箋が無ければ入手できないし、体質に合わない場合は遮断剤よりももっと強い副作用が出たり、アナフィラキシーのようなショック症状があったりする。遮断剤の副作用はそこまで深刻ではないので、街中のドロゲリー(ドラッグストア)で買えるので旅行者でも入手できるのだ。
遮断剤を服用していれば、アルファフェロモンはいっさいわからない。たとえ、運命のつがいのフェロモンであっても。
ヘーゼルダイン王国と違って、帝国ではもしも街中などで突発的にヒートになってしまったオメガのフェロモンによってラットになったアルファがオメガを襲ってしまった場合、アルファが罪に問われる。だからアルファのためのオメガフェロモン遮断剤や自身のフェロモンが出ないようにする抑制剤も種類豊富で、状況や体質に合わせて使いこなすのが品位あるマナーであるとされる。
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