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第二百十七話
奈々実にメールを送る江里香の手元を、コーンウェルとその夫人とティモシーは熱心に見つめる。
「それは、お嬢さんが生まれ育った世界の言語なのかな?」
「あ、はい、そうです」
魔法でスマホを量産できて、この世界の人達が使えたとして、言語はどうなるのだろう。そう考えるとやっぱり、異世界というのはいろいろとツッコミどころがあるな、と江里香は考える。そもそも江里香も奈々実もこの世界の言語を普通にしゃべれていたのがおかしいし、スマホでは日本語でメールのやりとりをしているのだが、どちらに対しても違和感が無いのだ。
メールの内容は、いつ、実際に通話をしてみるか、ということだ。コーンウェル先生と、無事にお会いできたこと、イングリッド殿下の御前で通話をする前に、一度、試験的に通話をしてみたいとコーンウェル先生が言っていること、先生の奥様がゴールドのマジカル・スターの持ち主で、制御も安定しているということなど、江里香は目にも止まらない速さで親指を動かして文章を入力していく。フリック入力のあまりの速さに、コーンウェルたちは目を白黒させている。
メールを送信して、奈々実からの返信待ちの間、江里香はいろいろと質問してみた。
「ゴールドのマジカル・スターの持ち主は、どのくらいいるものなのですか?」
江里香の質問にエリザベスは、知らない、と素っ気なかった。代わってティモシーが答える。
「まあ、百万人に一人か、もしくは一千万人に一人というくらいでしょう。この帝都には現在、コーンウェル夫人を含めて三人、帝都の外に一人、存在が確認されています」
なんかはぐらかしてない? と江里香は思った。百万分の一と一千万分の一だと、ずいぶんな違いがある。だからわざと言ってみた。
「その言い方だと、アルヴィーンの全人口は四百万人くらいですか? それとも四千万人くらいってことでしょうか?」
「いいえ、先ほどの数字はあくまで魔力がある女性を分母にした場合です」
ティモシーも下級とはいえ公務員、それも辺境まで偵察に赴く、いうなれば諜報員である。自国の人口や国力に関することを軽々しく喋るようなことはしない。魔力のある女性と無い女性の比率が江里香にはわからないけれど、それでも、魔力の無い女性や男性も含めたすべてのアルヴィーンの人口はベルチノアなんか比べ物にならないことはわかる。
「その比率は、アルヴィーン以外の国でもだいたい同じですか?」
江里香の次の質問に、ティモシーは少し考えた。
「どうでしょう・・・、我が国は他国に比べて魔力がある女性が多いとは言われていますけどねえ。まあ、正確にはわかりませんが、とにかくゴールド・スターの持ち主というのは少ないことは少ないと思いますよ」
実際、ゴールドのマジカル・スターというものを見ることすらもなく生涯を終える人間だってめずらしくはない。ゴールドの魔力量というのは、見たことのない人々にとっては都市伝説と言っていいようなものなのだ。江里香はあらためて、奈々実が得た魔力の強大さが如何に稀少なのかを思い知らされる。パトリシア女帝が赤、第二王女イングリッドがシルバーのマジカル・スターである。奈々実との違いは、きちんと制御できているということ。制御できているかできないかは、やっぱり重要なことだ。制御さえきちんとできていれば、黄色のマジカル・スターの女性二人で、小さな地方都市のインフラに必要な魔力を賄える。この帝都は、シルバーのマジカル・スターの女性十人の魔力量で賄えるが、いつでも完璧に制御できる女性ばかりではないし、魔力量が増減変化する女性もいるから、魔力を安定して提供してくれる女性というのは、国家にとっては大切な存在だ。そして、血晶石のように魔力を溜めておける魔石の活用が、安定した社会生活にはとても重要だ。
「シルバーまでなら、この帝都だけでも三桁の数の女性がいます。安定して制御できているかできていないかの差は、まあ、ありますがね。社会に貢献しているシルバー・スターの女性には、一代限りの爵位が授けられ、特別公務員として遇されます」
またはぐらかされた。三桁の数字だって、百なのか九百九十九なのかでは、全然違う。
一代限りの爵位というのは、もといた世界のイギリスのナイト爵のようなものだろうか。
「ゴールド・スターの女性には、なんにもないのですか?」
江里香が黙っていたので、リシャールが訊ねる。彼にとっても、先進国の社会制度は興味深いし、そういう形で魔力のある女性を優遇したり保護することは、国家のためには有益だと思う。
リシャールの質問には、ティモシーではなくコーンウェルが答えた。
「一代限りの爵位はシルバーの魔力の女性と同じですよ。ただ、ゴールド・スターの魔力はあまりにも強大ですから、貢献のつもりが逆に作用してしまうこともあるのですよ」
シルバーの魔力ではできないようなことを、ゴールドの魔力の女性であればできてしまう。そして、あまりにも強大な魔力を一度に大量に使うことは、反動も大きいし、状況によっては制御しきれず、暴発させてしまう危険性もある。善意で魔力を使っても、誤解されてしまうこともある。
「この国が今のような超巨大国家になる遥か前のことですが、現在のシエストレムの王のような暴君の圧政に、民が苦しめられていた時代があったそうです。人々を救うため、一人のゴールド・スターの女性が王城に雷を落とし、王や王に阿るしか能の無い佞臣たちを一掃したと伝えられているのですが・・・」
その先は、聞かなくてもわかるような気がする、と江里香は思った。言い伝えや昔話によくあるパターンだろうと思った。
しかし、ちがった。
「・・・その女性は、王や佞臣たちを殺したわけではありません。ですが、殺したのだと、権力者を皆殺しにしたのだと思い込んだ民衆は、女性の持つ魔力に恐怖しました。助けた人々に恐れられ、忌み嫌われた女性は、絶望して姿を消したと伝えられています」
人間、という小さな存在が、隕石の落下にも匹敵する力を持つのだ。ゴールド・スターの魔力をその身に持つことは、必ずしも幸せなことではないのかもしれない。
「殺したのでなかったら、その暴君や佞臣はどうなったのでしょうか」
そんな質問はしなければよかったと、後から死ぬほど悔やんだ。
「身体から魂を抜き、この世界ではない世界へ飛ばしたと伝えられています。実際、身体は崩壊した王宮の瓦礫の中から見つかったと伝えられています。そしてお嬢さん」
コーンウェルは江里香を正面から見て、ゆっくりと言った。
「貴女のように異世界からこの世界に来る人は・・・、全員が、ではありませんが、そうやって違う世界に飛ばされた魂の転生であると言われています」
「それは、お嬢さんが生まれ育った世界の言語なのかな?」
「あ、はい、そうです」
魔法でスマホを量産できて、この世界の人達が使えたとして、言語はどうなるのだろう。そう考えるとやっぱり、異世界というのはいろいろとツッコミどころがあるな、と江里香は考える。そもそも江里香も奈々実もこの世界の言語を普通にしゃべれていたのがおかしいし、スマホでは日本語でメールのやりとりをしているのだが、どちらに対しても違和感が無いのだ。
メールの内容は、いつ、実際に通話をしてみるか、ということだ。コーンウェル先生と、無事にお会いできたこと、イングリッド殿下の御前で通話をする前に、一度、試験的に通話をしてみたいとコーンウェル先生が言っていること、先生の奥様がゴールドのマジカル・スターの持ち主で、制御も安定しているということなど、江里香は目にも止まらない速さで親指を動かして文章を入力していく。フリック入力のあまりの速さに、コーンウェルたちは目を白黒させている。
メールを送信して、奈々実からの返信待ちの間、江里香はいろいろと質問してみた。
「ゴールドのマジカル・スターの持ち主は、どのくらいいるものなのですか?」
江里香の質問にエリザベスは、知らない、と素っ気なかった。代わってティモシーが答える。
「まあ、百万人に一人か、もしくは一千万人に一人というくらいでしょう。この帝都には現在、コーンウェル夫人を含めて三人、帝都の外に一人、存在が確認されています」
なんかはぐらかしてない? と江里香は思った。百万分の一と一千万分の一だと、ずいぶんな違いがある。だからわざと言ってみた。
「その言い方だと、アルヴィーンの全人口は四百万人くらいですか? それとも四千万人くらいってことでしょうか?」
「いいえ、先ほどの数字はあくまで魔力がある女性を分母にした場合です」
ティモシーも下級とはいえ公務員、それも辺境まで偵察に赴く、いうなれば諜報員である。自国の人口や国力に関することを軽々しく喋るようなことはしない。魔力のある女性と無い女性の比率が江里香にはわからないけれど、それでも、魔力の無い女性や男性も含めたすべてのアルヴィーンの人口はベルチノアなんか比べ物にならないことはわかる。
「その比率は、アルヴィーン以外の国でもだいたい同じですか?」
江里香の次の質問に、ティモシーは少し考えた。
「どうでしょう・・・、我が国は他国に比べて魔力がある女性が多いとは言われていますけどねえ。まあ、正確にはわかりませんが、とにかくゴールド・スターの持ち主というのは少ないことは少ないと思いますよ」
実際、ゴールドのマジカル・スターというものを見ることすらもなく生涯を終える人間だってめずらしくはない。ゴールドの魔力量というのは、見たことのない人々にとっては都市伝説と言っていいようなものなのだ。江里香はあらためて、奈々実が得た魔力の強大さが如何に稀少なのかを思い知らされる。パトリシア女帝が赤、第二王女イングリッドがシルバーのマジカル・スターである。奈々実との違いは、きちんと制御できているということ。制御できているかできないかは、やっぱり重要なことだ。制御さえきちんとできていれば、黄色のマジカル・スターの女性二人で、小さな地方都市のインフラに必要な魔力を賄える。この帝都は、シルバーのマジカル・スターの女性十人の魔力量で賄えるが、いつでも完璧に制御できる女性ばかりではないし、魔力量が増減変化する女性もいるから、魔力を安定して提供してくれる女性というのは、国家にとっては大切な存在だ。そして、血晶石のように魔力を溜めておける魔石の活用が、安定した社会生活にはとても重要だ。
「シルバーまでなら、この帝都だけでも三桁の数の女性がいます。安定して制御できているかできていないかの差は、まあ、ありますがね。社会に貢献しているシルバー・スターの女性には、一代限りの爵位が授けられ、特別公務員として遇されます」
またはぐらかされた。三桁の数字だって、百なのか九百九十九なのかでは、全然違う。
一代限りの爵位というのは、もといた世界のイギリスのナイト爵のようなものだろうか。
「ゴールド・スターの女性には、なんにもないのですか?」
江里香が黙っていたので、リシャールが訊ねる。彼にとっても、先進国の社会制度は興味深いし、そういう形で魔力のある女性を優遇したり保護することは、国家のためには有益だと思う。
リシャールの質問には、ティモシーではなくコーンウェルが答えた。
「一代限りの爵位はシルバーの魔力の女性と同じですよ。ただ、ゴールド・スターの魔力はあまりにも強大ですから、貢献のつもりが逆に作用してしまうこともあるのですよ」
シルバーの魔力ではできないようなことを、ゴールドの魔力の女性であればできてしまう。そして、あまりにも強大な魔力を一度に大量に使うことは、反動も大きいし、状況によっては制御しきれず、暴発させてしまう危険性もある。善意で魔力を使っても、誤解されてしまうこともある。
「この国が今のような超巨大国家になる遥か前のことですが、現在のシエストレムの王のような暴君の圧政に、民が苦しめられていた時代があったそうです。人々を救うため、一人のゴールド・スターの女性が王城に雷を落とし、王や王に阿るしか能の無い佞臣たちを一掃したと伝えられているのですが・・・」
その先は、聞かなくてもわかるような気がする、と江里香は思った。言い伝えや昔話によくあるパターンだろうと思った。
しかし、ちがった。
「・・・その女性は、王や佞臣たちを殺したわけではありません。ですが、殺したのだと、権力者を皆殺しにしたのだと思い込んだ民衆は、女性の持つ魔力に恐怖しました。助けた人々に恐れられ、忌み嫌われた女性は、絶望して姿を消したと伝えられています」
人間、という小さな存在が、隕石の落下にも匹敵する力を持つのだ。ゴールド・スターの魔力をその身に持つことは、必ずしも幸せなことではないのかもしれない。
「殺したのでなかったら、その暴君や佞臣はどうなったのでしょうか」
そんな質問はしなければよかったと、後から死ぬほど悔やんだ。
「身体から魂を抜き、この世界ではない世界へ飛ばしたと伝えられています。実際、身体は崩壊した王宮の瓦礫の中から見つかったと伝えられています。そしてお嬢さん」
コーンウェルは江里香を正面から見て、ゆっくりと言った。
「貴女のように異世界からこの世界に来る人は・・・、全員が、ではありませんが、そうやって違う世界に飛ばされた魂の転生であると言われています」
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