異世界ダイエット

Shiori

文字の大きさ
165 / 200

第百六十四話

しおりを挟む
 「それは、わかっちゃうのですか? 男の人が逃げちゃったり、女の子に対してナイショにしろ、しゃべったら殺すぞ、って脅迫したり、妊娠しても、俺の子供じゃないってしらばっくれたり、そういうことは、この世界には無いのですか?」
奈々実の質問に、モニークは目を瞠った。
「ナナミの生まれ育った世界では、そういうことがあったの?」
「もちろん、全部の男の人がそんな無責任で非道い人なわけではないと思いますけど、『ヤリ逃げ』なんていう言葉もあって、『ヤリ逃げ』することがゲームで勝つことみたいに思っているような男の人もいるし、エッチだけが目的な男の人に騙される女の人がいたり、性犯罪って言って、暴力をふるって無理矢理して女の人に怪我をさせたり、そういう事件は、残念ながらありました」
「そうね、この世界でも、女性に非道な振る舞いをする男性はいるでしょう。残念なことだけれど、愚かな人は男女問わずいるでしょうし、何度も言うように殿方の性衝動は原始的で野性的です。きちんと制御するのは、なかなか難しいようです。魔力と同じで」
魔力はある女性と無い女性がいるのだから、男性の性欲と同列には語れないのではないだろうか。
「ナナミの生まれ育った世界の場合は、単純に性行為がしたいだけのケースが多いから、『ヤリ逃げ』ということをするのではありませんか? この世界では、魔力が目的であることと、非道な性行為をすると男性側に代償作用がありますから、暴力や卑劣なやり方で女性を凌辱しても、男性は幸せになれません。この世界の摂理とは、そうした漠然とした作用を意味していると考えれば、わかりやすいと思います」
「代償作用?」
「そうです。例えば、魔力量が多い女性を自分の思い通りにして、労せず贅沢な人生を送りたい、という男がいたとしましょう。未成熟なほうが御しやすいと思って、未成年の少女をレイプしたとします。少女は大変な衝撃を受け、心も身体も傷つくでしょう。魔力回路が損傷して魔法が使えなくなったとします。そうした女性の苦痛、悲しみ、絶望は、すべて男性器に代償となって跳ね返るのですよ」
『痛み』、として跳ね返れば、切り落とさなければ歩くことも眠ることもできない状態になるし、『絶望』、として跳ね返れば、その後、どんな女性とも性行為ができず、自慰も射精もできず、快感を得ることが一切できなくなる。
「もちろん、個人差や心の状態によって変化があります。ですから、中には痛みに耐えて去勢せず悔い改めて少女に謝罪をし、罪を償うために死に物狂いの努力をした結果として少女の魔力が回復したケースもあるのです」
それでも、その男の人はいずれ、死を選ばざるをえなくなるという。
「どうしてですか?」
奈々実の疑問に、モニークは上品な顔に似合わない笑みを浮かべる。
「一生、どんな女性とも性行為ができず、自慰も射精もできず、快感も得られない。享楽的であればあるほど、男性が、その状態で人生を楽しいと思って生きて行けると思いますか?」
そうした摂理があっても男性の性衝動と魔力への欲望は抑えられず、魔力がある女性への非道なふるまいに及ぶ男性が後を絶たないので、アルヴィーンのような先進国では摂理を強権化して公的機関が断罪し、摂理の個人差を埋めている。ただしその場合、悔い改めて謝罪したり罪を償うことを自発的にする可能性が低くなってしまう。また、魔力がある女性に対する非道の場合だけを断罪して、魔力が無い女性への非道は放置するのでは不公平なので、すべてを取り締まることができない後進国では、公的に断罪するよりも摂理に従うことを余儀なくされている。
 江里香のように性的虐待のトラウマに苦しむ女性から見れば、この世界の摂理は理にかなっているのだろう。もといた世界の性的虐待や性犯罪の被害者の女性は、男性恐怖症になったり不感症になったりして性を肯定的に受け入れることができなくなったり、人間不信やうつ病などになって人生を楽しいと思えなくなった状態で苦しみながら生きている人がたくさんいるという調査報告がある。そういう女性達にしてみれば、男性に代償作用があることはすばらしいことで、是非ともそうあってほしいことだろうと思う。
 江里香がこの世界に転移したのは、そういったことと関係があるのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

捕まり癒やされし異世界

波間柏
恋愛
飲んでものまれるな。 飲まれて異世界に飛んでしまい手遅れだが、そう固く決意した大学生 野々村 未来の異世界生活。 異世界から来た者は何か能力をもつはずが、彼女は何もなかった。ただ、とある声を聞き閃いた。 「これ、売れる」と。 自分の中では砂糖多めなお話です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

期限付きの聖女

波間柏
恋愛
今日は、双子の妹六花の手術の為、私は病院の服に着替えていた。妹は長く病気で辛い思いをしてきた。周囲が姉の協力をえれば可能性があると言ってもなかなか縦にふらない、人を傷つけてまでとそんな優しい妹。そんな妹の容態は悪化していき、もう今を逃せば間に合わないという段階でやっと、手術を受ける気になってくれた。 本人も承知の上でのリスクの高い手術。私は、病院の服に着替えて荷物を持ちカーテンを開けた。その時、声がした。 『全て かける 片割れ 助かる』 それが本当なら、あげる。 私は、姿なきその声にすがった。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

気がつけば異世界

波間柏
恋愛
 芹沢 ゆら(27)は、いつものように事務仕事を終え帰宅してみれば、母に小さい段ボールの箱を渡される。  それは、つい最近亡くなった骨董屋を営んでいた叔父からの品だった。  その段ボールから最後に取り出した小さなオルゴールの箱の中には指輪が1つ。やっと合う小指にはめてみたら、部屋にいたはずが円柱のてっぺんにいた。 これは現実なのだろうか?  私は、まだ事の重大さに気づいていなかった。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

処理中です...