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最終部「伝説! ヤリサーの姫編!!」
締めの1本「結論! ――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
時は過ぎてゆく――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
大学時代はもはや夢のような話に思えてくる。
……とはいっても、僕がヤリ学を卒業してからまだ2年だけどね。
大学を卒業し、某企業へと就職。
丸2年仕事をして、今年から3年目――会社とか業界にもよりけりかもだけど、そろそろ『新人』のカテゴリから脱して独り立ちして仕事ができなきゃ困るって感じになってきたかな、と自分でも思う。
仕事はやりがいはあるけど、やっぱり大変だ。
働きはじめてからわかったけど、学生の『忙しい』なんて大したことなかったよね……仕事量もそうだけど、責任の重さが違うよ、やっぱり。
……でも、楽しかったのは学生時代だなとも思う。それも間違いない。
僕の入学の翌年――
見事に真由美ちゃんが合格し、ヤリ学生となれた。
……サキ? あいつは見事に不合格だったよ……そして、前年同様に発狂して僕らに絡んで来たけど、流石にヤリマン狩りを嗾けたりすることもなく、ただただ泣き喚いていただけだった。あれはあれでうざかったけど。
で、心を本当に入れ替え、更に翌年にようやく合格。
性格も少し丸くはなっていたのには安心した――姫先輩には相変わらずべったりだったし、彼女の恋人である僕には結構とげとげしい態度だったけど。
まぁ今にして考えれば、僕の人生史上一番楽しい時間はあのサークルでの時間だった。
僕が3年になった時、姫先輩は4年生でほぼ引退状態――サークルの会長はなんと僕になった。
頼りない僕を支えてくれた真由美ちゃん。
サキも……まぁサークル活動自体は真面目にやってくれていたし、特に他校とのランパの際には大活躍だった。
……そんなこんなで、あっという間に大学生活は終わり、僕は卒業――社会人になったというわけだ。
ちなみに、今はもう真由美ちゃんもサキも卒業してそれぞれの生活を送っている。
先輩たちに軽く触れておくと、皆無事に就職したり大学院へと更なる進学をしたりだ。中には家業を継ぐ人もいたっけな。
我らが姫先輩はというと――意外というか当然というか悩ましいけど、『ランサー協会』……いや『ボウケン者ギルド』へと就職した。
僕が最初のランク試験を受けた時の試験官、碧さんが実はヤリ学のヤリサーのOGだったらしく、その伝手もあるらしい――まぁ姫先輩の能力なら伝手なんてなくてもどこにでも就職できたと思うけど、やっぱりヤリに関わりたいんだろうなぁ……。
……僕と姫先輩との関係についても触れておくべきか……。
――率直に言えば、もう僕たちは恋人関係にはないのだ……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「童妙寺! 今夜あたりどうだ?」
「あ、権藤さん!」
とある金曜日の昼過ぎ、僕の先輩というか上司というか……まぁそんな感じの立場にある権藤さんが声を掛けて来た。
忘れもしない、僕の初めてのランク試験の時――色々とあった人だ。
あの時の縁で就職できたわけじゃないけど、『そういえば……』と思って就職先の候補にあげたのは嘘じゃない。
結局、権藤さんと同じ会社に入ることができたわけだ。ある意味『縁』だよねー、これも。
「…………ですね、ちょっと行きますか!」
「おし、そうこなくっちゃな!」
権藤さんとも、学生時代に何度かランク試験で顔を合わせていたこともあり仕事以外でも絡むことが多い。
……ま、主に飲みに行ったりするんだけどね。
立ち位置的には、ヤリサーに入ったばかりの僕に対する本多先輩が近いかな。年齢や立場は全然違うけど。
それはともかく、権藤さんは面倒見のいい人で、僕に限らず若手が仕事で悩んでないかとか細やかに見ていてくれているみたいだ。僕以外の人も、結構権藤さんと飲みに行ったり悩み相談 (というか軽い愚痴吐きかな)をしている。
今日のところは僕と権藤さんの二人だ。
というのも――僕たちにはある『共通点』があるからだ。ま、そんなに飲みニケーションが必要な人が今はいないからってのもあるけど。
「俺は定時で上がるが、大丈夫そうか?」
「えーっと――はい、問題なしです! 他の人も――大丈夫って来ました!」
「おし、じゃあ定時後にまたな」
ここのところ忙しくてご無沙汰だったんだけど、幸いにして今日は大丈夫そうだ。
ま、どうしても今日中に……って超急ぎの仕事でもない限りは来週に回しても問題ないと思う――その辺りの判断も流石に社会人3年目ともなるとできるようになってきた、と自画自賛してみる。
それはともかくとして。
特に飛び込みの仕事もなく、無事に僕と権藤さんは定時後に合流。
目的とする『店』へと向かう。
僕たちが向かうのは、大人の夜の社交場――『ナイトクラブ』である!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「かぁーっ! たまらんなぁ!!」
店に入って早々、権藤さんは最初の一杯を。
もちろん僕もだけど。
「……子供のころは、週末の仕事終わりに呑む酒が美味しいとは想像もしてませんでしたねぇ……」
「まったくだな!」
大人になってみなきゃわからないよねー、こういうの。
大学生でお酒呑んでた時とは全然違うと僕は思う。味の感じ方も、呑む理由もだけど。……あ、お酒呑めない人はまた別だけどね。呑めないのに無理しちゃいけない。
で、目的のナイトクラブへとやって来たわけだけど……。
辺りをきょろきょろと見回す僕に、権藤さんはくっくっくと悪い笑みを浮かべる。
「お目当てがいなくて焦ってるのはわかるが、夜はまだ始まったばかりだ。落ち着け」
「う、うっす……」
いかんいかん……久しぶりだからって気が逸りすぎたか。
ここは大人の社交場。
単に飲み食いする場ではないのだ。
大人の出会いの場でもあるのだ!!
……その目的で来ている人もいないわけではない。まぁ僕たちがいつもくるこのナイトクラブは、大体知り合いばかりが来るから顔なじみがほとんどなんだけどね。
そのまま権藤さんと飲み食いしつつ、仕事……の内容自体は外で話せないので軽く愚痴ったりして時間が過ぎていった時だった。
「……っ!!」
「ふっ……どうやらお目当てが来たみたいだな」
店内がざわざわしだしてきた。
客が増えて騒がしくなってきた、というのではない。
明らかに『何か』が起きている――そして何が起きているのか、僕も権藤さんも理解していた。
なぜならば、このナイトクラブでこんな感じに盛り上がる原因は、一つしかないからだ。
「ご、権藤さん」
「ああ、行ってこい」
「うっす! ちょっと行ってきます!」
権藤さんと一緒に店に来たわけだし、一言断りを入れておく。
こうなることは予想していたのだろう、権藤さんは快く送り出してくれる。
――この盛り上がりの原因は、僕にも関係あるのだから……!!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
割と早めに店に入ったこともあり、僕たちは店の結構奥の方の席を取っていた。
時間が経つにつれて他のお客さんも増えてきている。
……その人たちが、新しく店に入って来た人の方へと向かっているようだ。
まるで芸能人が囲まれる時みたいだなー、なんて思うけど……まぁこの店の常連的には間違いではないだろう。
「おう、貞雄! 遅くなってすまんな」
「本多先輩!」
店にやってきたのは、本多先輩だった。
相変わらずの角刈りマッチョだ。むしろ、大学時代よりも一回り筋肉が盛り上がっているような気がしないでもない。
……ちなみに、何の仕事をしているのか、実は知らない……何となく聞くタイミングを逃したまま数年がすぎちゃったしね。
先輩とこうやって直接顔を合わせるのは……何ヶ月ぶりかな? メッセージのやり取りはしてるんだけど、時間が合わなくてなかなか会えなかったんだよね。
「俺のことは――まぁいいか。
おまえの目当ては、こっちだろう?」
ニヤリと笑い、僕の背中を押すように叩く。
思わずつんのめりそうになるけどぐっと堪え、顔を上げた先――本多先輩の後ろからついてきたその人物と目が合う。
「貞雄さん」
「姫先輩」
――そう、そこには姫先輩がいた。
……大学を卒業しても、相変わらず呼び方は『姫先輩』のままだ。
まぁ恋人時代でもその呼び方だったしね……実は何度か姫先輩にねだられて呼び方を変えようとしたのだが、どれもしっくりこなくて結局諦められた。
……うーん、でもこれからはちょっと考えなきゃいけないかなー?
なぜかというと――
「皆、悪いが今日はランパはなしだ!」
本多先輩が店のお客さんに向かって大声でそういう。
『えぇ~!』と不満の声は上がるが、誰も『なぜ』という問いかけはしない。
……やっぱり皆もわかってるよなー。
――ん? なぜナイトクラブで『ランパ』が出てくるって?
そりゃ――ここは『騎士クラブ』だからね!!
簡単に言えば、大人の『ヤリサー』なのだから。
…………何か、こう……いつの間にかすっかりと僕もヤリ用語の方に慣れ親しんでしまったよなぁとつくづく思う。別にいいけど。
僕と権藤さんが来た店は、ナイトクラブ――『社会人ヤリサー』の会場なのだ。
適当な相手を見繕ってランパするもよし、ただの飲み屋的な利用をしてもよし。……時々ヤリに関係ない一般の人がきて驚かれることがあるのはご愛敬。
そんなお店に、僕たちはやってきた。
そして、予め本多先輩たちにも連絡して久しぶりに顔を合わせたい、という話をしていたのだ。OKが返ってきて良かった。
「うふふ、貞雄さん。お会いしたかったです♪」
「僕もです、姫先輩」
と、本多先輩や他のヤリサーの面々をほったらかしにして、僕たちは熱い抱擁を交わした。
「お前らなぁ……一緒に住んでるんだから毎日顔を合わせているだろうに」
「そんな! 半日も貞雄さんに会っていないんですよ!?」
「全くです。本多先輩は何もわかってないですね!」
「…………はぁ……」
本多先輩は呆れ笑いを浮かべているが、それ以上は突っ込んでこない。
周りの面々からも囃し立てられている―― 一部、舌打ちしてるヤツとかもいるけど……。
そう、僕と姫先輩は今同棲している。
職場は二人とも違うので、もう半日も顔を見ていない――仕事中に頻繁に連絡を取れるわけもないので、本当に半日ぶりだ。
……長い半日だった……。
…………え? 僕と姫先輩は恋人じゃなくなったんじゃないかって?
そうだけど?
僕と姫先輩は今は婚約者なのだ。そりゃ、恋人じゃないよね?
もう両家顔合わせ済みだし、後はもういつ結婚しようかという段階だ。
……タイミングについては姫先輩とも相談しあって、僕の仕事が落ち着いてからということになっている。
もちろん、仕事なんて会社にいる限り続くわけだから、この場合は僕が仕事に慣れて安定したらというくらいの意味だ。
なので、社会人3年目の今年かあるいは来年くらいかなー、と二人で話はしている。
…………結婚式とか準備に時間かかるし、そろそろ決断しなきゃなとは思っているんだけどね。
「時間も時間だからな。今日は今更だが――貞雄と我らが姫の婚約祝いといこうじゃないか!」
本多先輩の宣言にナイトクラブが今日一番の盛り上がりを見せる。
……僕らの婚約祝い、そういやしてなかったなー。まぁ大分前から婚約してたから本当に今更だけど。
「リン先輩、貞雄先輩! 改めて婚約おめでとうございますー」
「うぅぅぅ……お姉……お嫁にいっちゃやだぁぁぁ……」
いつの間にかやってきたらしい真由美ちゃんにサキも加わり、
更に遅れて植井先輩らヤリ学ヤリサーのOBOGたちもやってきて――
僕たちの婚約祝いという名の『飲み会』は賑やかに始まったのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
……僕は夢を見ているんじゃないだろうか。
あるいは、実は僕は事故か病気で倒れ、元の世界によく似た異世界に転生してしまったのではないか。
そんなバカげたことを考えてしまう。
――なんてこと、昔にも考えたことがあったなー。
でも、昔よりもその想いは強い。
だって本当に信じられないくらい、今僕は幸せだと思うからだ。
けれども、昔よりもはっきりと今が『現実』だということは認識している。
というより『現実』と認識しなければならないのだ。
もう僕は学生じゃない。一社会人だ。
そしてまだ婚約だとはいえ、将来を誓い合った人がいる。
……要するに『責任』ってことだよね。自分の人生はもちろん、愛する人の人生にもきちんと責任をもっていかなければならない。
だから『夢』に思えるくらいの幸せな今を、はっきりと『現実』と認識しなければならないのだ。
「……僕もまだまだがんばらないとな」
色々とね。
僕は少し人だかりから離れた場所で、一人静かにグラスを口にする。
姫先輩は今皆に囲まれている。
……このサークルのメンバーのほとんどが男だから、当然男に囲まれているってのはちょっと気になるところはあるけどね……まぁ姫先輩にその気が全くないのがわかっているから安心して見ていられるけど。
皆に――男女関係なく囲まれ、慕われる姫先輩を見て僕はこう思うのだ。
――颶風院姫燐はヤリサーの姫であるッ!
時は過ぎてゆく――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
大学時代はもはや夢のような話に思えてくる。
……とはいっても、僕がヤリ学を卒業してからまだ2年だけどね。
大学を卒業し、某企業へと就職。
丸2年仕事をして、今年から3年目――会社とか業界にもよりけりかもだけど、そろそろ『新人』のカテゴリから脱して独り立ちして仕事ができなきゃ困るって感じになってきたかな、と自分でも思う。
仕事はやりがいはあるけど、やっぱり大変だ。
働きはじめてからわかったけど、学生の『忙しい』なんて大したことなかったよね……仕事量もそうだけど、責任の重さが違うよ、やっぱり。
……でも、楽しかったのは学生時代だなとも思う。それも間違いない。
僕の入学の翌年――
見事に真由美ちゃんが合格し、ヤリ学生となれた。
……サキ? あいつは見事に不合格だったよ……そして、前年同様に発狂して僕らに絡んで来たけど、流石にヤリマン狩りを嗾けたりすることもなく、ただただ泣き喚いていただけだった。あれはあれでうざかったけど。
で、心を本当に入れ替え、更に翌年にようやく合格。
性格も少し丸くはなっていたのには安心した――姫先輩には相変わらずべったりだったし、彼女の恋人である僕には結構とげとげしい態度だったけど。
まぁ今にして考えれば、僕の人生史上一番楽しい時間はあのサークルでの時間だった。
僕が3年になった時、姫先輩は4年生でほぼ引退状態――サークルの会長はなんと僕になった。
頼りない僕を支えてくれた真由美ちゃん。
サキも……まぁサークル活動自体は真面目にやってくれていたし、特に他校とのランパの際には大活躍だった。
……そんなこんなで、あっという間に大学生活は終わり、僕は卒業――社会人になったというわけだ。
ちなみに、今はもう真由美ちゃんもサキも卒業してそれぞれの生活を送っている。
先輩たちに軽く触れておくと、皆無事に就職したり大学院へと更なる進学をしたりだ。中には家業を継ぐ人もいたっけな。
我らが姫先輩はというと――意外というか当然というか悩ましいけど、『ランサー協会』……いや『ボウケン者ギルド』へと就職した。
僕が最初のランク試験を受けた時の試験官、碧さんが実はヤリ学のヤリサーのOGだったらしく、その伝手もあるらしい――まぁ姫先輩の能力なら伝手なんてなくてもどこにでも就職できたと思うけど、やっぱりヤリに関わりたいんだろうなぁ……。
……僕と姫先輩との関係についても触れておくべきか……。
――率直に言えば、もう僕たちは恋人関係にはないのだ……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「童妙寺! 今夜あたりどうだ?」
「あ、権藤さん!」
とある金曜日の昼過ぎ、僕の先輩というか上司というか……まぁそんな感じの立場にある権藤さんが声を掛けて来た。
忘れもしない、僕の初めてのランク試験の時――色々とあった人だ。
あの時の縁で就職できたわけじゃないけど、『そういえば……』と思って就職先の候補にあげたのは嘘じゃない。
結局、権藤さんと同じ会社に入ることができたわけだ。ある意味『縁』だよねー、これも。
「…………ですね、ちょっと行きますか!」
「おし、そうこなくっちゃな!」
権藤さんとも、学生時代に何度かランク試験で顔を合わせていたこともあり仕事以外でも絡むことが多い。
……ま、主に飲みに行ったりするんだけどね。
立ち位置的には、ヤリサーに入ったばかりの僕に対する本多先輩が近いかな。年齢や立場は全然違うけど。
それはともかく、権藤さんは面倒見のいい人で、僕に限らず若手が仕事で悩んでないかとか細やかに見ていてくれているみたいだ。僕以外の人も、結構権藤さんと飲みに行ったり悩み相談 (というか軽い愚痴吐きかな)をしている。
今日のところは僕と権藤さんの二人だ。
というのも――僕たちにはある『共通点』があるからだ。ま、そんなに飲みニケーションが必要な人が今はいないからってのもあるけど。
「俺は定時で上がるが、大丈夫そうか?」
「えーっと――はい、問題なしです! 他の人も――大丈夫って来ました!」
「おし、じゃあ定時後にまたな」
ここのところ忙しくてご無沙汰だったんだけど、幸いにして今日は大丈夫そうだ。
ま、どうしても今日中に……って超急ぎの仕事でもない限りは来週に回しても問題ないと思う――その辺りの判断も流石に社会人3年目ともなるとできるようになってきた、と自画自賛してみる。
それはともかくとして。
特に飛び込みの仕事もなく、無事に僕と権藤さんは定時後に合流。
目的とする『店』へと向かう。
僕たちが向かうのは、大人の夜の社交場――『ナイトクラブ』である!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「かぁーっ! たまらんなぁ!!」
店に入って早々、権藤さんは最初の一杯を。
もちろん僕もだけど。
「……子供のころは、週末の仕事終わりに呑む酒が美味しいとは想像もしてませんでしたねぇ……」
「まったくだな!」
大人になってみなきゃわからないよねー、こういうの。
大学生でお酒呑んでた時とは全然違うと僕は思う。味の感じ方も、呑む理由もだけど。……あ、お酒呑めない人はまた別だけどね。呑めないのに無理しちゃいけない。
で、目的のナイトクラブへとやって来たわけだけど……。
辺りをきょろきょろと見回す僕に、権藤さんはくっくっくと悪い笑みを浮かべる。
「お目当てがいなくて焦ってるのはわかるが、夜はまだ始まったばかりだ。落ち着け」
「う、うっす……」
いかんいかん……久しぶりだからって気が逸りすぎたか。
ここは大人の社交場。
単に飲み食いする場ではないのだ。
大人の出会いの場でもあるのだ!!
……その目的で来ている人もいないわけではない。まぁ僕たちがいつもくるこのナイトクラブは、大体知り合いばかりが来るから顔なじみがほとんどなんだけどね。
そのまま権藤さんと飲み食いしつつ、仕事……の内容自体は外で話せないので軽く愚痴ったりして時間が過ぎていった時だった。
「……っ!!」
「ふっ……どうやらお目当てが来たみたいだな」
店内がざわざわしだしてきた。
客が増えて騒がしくなってきた、というのではない。
明らかに『何か』が起きている――そして何が起きているのか、僕も権藤さんも理解していた。
なぜならば、このナイトクラブでこんな感じに盛り上がる原因は、一つしかないからだ。
「ご、権藤さん」
「ああ、行ってこい」
「うっす! ちょっと行ってきます!」
権藤さんと一緒に店に来たわけだし、一言断りを入れておく。
こうなることは予想していたのだろう、権藤さんは快く送り出してくれる。
――この盛り上がりの原因は、僕にも関係あるのだから……!!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
割と早めに店に入ったこともあり、僕たちは店の結構奥の方の席を取っていた。
時間が経つにつれて他のお客さんも増えてきている。
……その人たちが、新しく店に入って来た人の方へと向かっているようだ。
まるで芸能人が囲まれる時みたいだなー、なんて思うけど……まぁこの店の常連的には間違いではないだろう。
「おう、貞雄! 遅くなってすまんな」
「本多先輩!」
店にやってきたのは、本多先輩だった。
相変わらずの角刈りマッチョだ。むしろ、大学時代よりも一回り筋肉が盛り上がっているような気がしないでもない。
……ちなみに、何の仕事をしているのか、実は知らない……何となく聞くタイミングを逃したまま数年がすぎちゃったしね。
先輩とこうやって直接顔を合わせるのは……何ヶ月ぶりかな? メッセージのやり取りはしてるんだけど、時間が合わなくてなかなか会えなかったんだよね。
「俺のことは――まぁいいか。
おまえの目当ては、こっちだろう?」
ニヤリと笑い、僕の背中を押すように叩く。
思わずつんのめりそうになるけどぐっと堪え、顔を上げた先――本多先輩の後ろからついてきたその人物と目が合う。
「貞雄さん」
「姫先輩」
――そう、そこには姫先輩がいた。
……大学を卒業しても、相変わらず呼び方は『姫先輩』のままだ。
まぁ恋人時代でもその呼び方だったしね……実は何度か姫先輩にねだられて呼び方を変えようとしたのだが、どれもしっくりこなくて結局諦められた。
……うーん、でもこれからはちょっと考えなきゃいけないかなー?
なぜかというと――
「皆、悪いが今日はランパはなしだ!」
本多先輩が店のお客さんに向かって大声でそういう。
『えぇ~!』と不満の声は上がるが、誰も『なぜ』という問いかけはしない。
……やっぱり皆もわかってるよなー。
――ん? なぜナイトクラブで『ランパ』が出てくるって?
そりゃ――ここは『騎士クラブ』だからね!!
簡単に言えば、大人の『ヤリサー』なのだから。
…………何か、こう……いつの間にかすっかりと僕もヤリ用語の方に慣れ親しんでしまったよなぁとつくづく思う。別にいいけど。
僕と権藤さんが来た店は、ナイトクラブ――『社会人ヤリサー』の会場なのだ。
適当な相手を見繕ってランパするもよし、ただの飲み屋的な利用をしてもよし。……時々ヤリに関係ない一般の人がきて驚かれることがあるのはご愛敬。
そんなお店に、僕たちはやってきた。
そして、予め本多先輩たちにも連絡して久しぶりに顔を合わせたい、という話をしていたのだ。OKが返ってきて良かった。
「うふふ、貞雄さん。お会いしたかったです♪」
「僕もです、姫先輩」
と、本多先輩や他のヤリサーの面々をほったらかしにして、僕たちは熱い抱擁を交わした。
「お前らなぁ……一緒に住んでるんだから毎日顔を合わせているだろうに」
「そんな! 半日も貞雄さんに会っていないんですよ!?」
「全くです。本多先輩は何もわかってないですね!」
「…………はぁ……」
本多先輩は呆れ笑いを浮かべているが、それ以上は突っ込んでこない。
周りの面々からも囃し立てられている―― 一部、舌打ちしてるヤツとかもいるけど……。
そう、僕と姫先輩は今同棲している。
職場は二人とも違うので、もう半日も顔を見ていない――仕事中に頻繁に連絡を取れるわけもないので、本当に半日ぶりだ。
……長い半日だった……。
…………え? 僕と姫先輩は恋人じゃなくなったんじゃないかって?
そうだけど?
僕と姫先輩は今は婚約者なのだ。そりゃ、恋人じゃないよね?
もう両家顔合わせ済みだし、後はもういつ結婚しようかという段階だ。
……タイミングについては姫先輩とも相談しあって、僕の仕事が落ち着いてからということになっている。
もちろん、仕事なんて会社にいる限り続くわけだから、この場合は僕が仕事に慣れて安定したらというくらいの意味だ。
なので、社会人3年目の今年かあるいは来年くらいかなー、と二人で話はしている。
…………結婚式とか準備に時間かかるし、そろそろ決断しなきゃなとは思っているんだけどね。
「時間も時間だからな。今日は今更だが――貞雄と我らが姫の婚約祝いといこうじゃないか!」
本多先輩の宣言にナイトクラブが今日一番の盛り上がりを見せる。
……僕らの婚約祝い、そういやしてなかったなー。まぁ大分前から婚約してたから本当に今更だけど。
「リン先輩、貞雄先輩! 改めて婚約おめでとうございますー」
「うぅぅぅ……お姉……お嫁にいっちゃやだぁぁぁ……」
いつの間にかやってきたらしい真由美ちゃんにサキも加わり、
更に遅れて植井先輩らヤリ学ヤリサーのOBOGたちもやってきて――
僕たちの婚約祝いという名の『飲み会』は賑やかに始まったのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
……僕は夢を見ているんじゃないだろうか。
あるいは、実は僕は事故か病気で倒れ、元の世界によく似た異世界に転生してしまったのではないか。
そんなバカげたことを考えてしまう。
――なんてこと、昔にも考えたことがあったなー。
でも、昔よりもその想いは強い。
だって本当に信じられないくらい、今僕は幸せだと思うからだ。
けれども、昔よりもはっきりと今が『現実』だということは認識している。
というより『現実』と認識しなければならないのだ。
もう僕は学生じゃない。一社会人だ。
そしてまだ婚約だとはいえ、将来を誓い合った人がいる。
……要するに『責任』ってことだよね。自分の人生はもちろん、愛する人の人生にもきちんと責任をもっていかなければならない。
だから『夢』に思えるくらいの幸せな今を、はっきりと『現実』と認識しなければならないのだ。
「……僕もまだまだがんばらないとな」
色々とね。
僕は少し人だかりから離れた場所で、一人静かにグラスを口にする。
姫先輩は今皆に囲まれている。
……このサークルのメンバーのほとんどが男だから、当然男に囲まれているってのはちょっと気になるところはあるけどね……まぁ姫先輩にその気が全くないのがわかっているから安心して見ていられるけど。
皆に――男女関係なく囲まれ、慕われる姫先輩を見て僕はこう思うのだ。
――颶風院姫燐はヤリサーの姫であるッ!
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