ナナイの青春生存戦略

しぼりたて柑橘類

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57.単純なアプローチでは無い

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 「な、無くなってた!?地球がか!?」 


 思わず聞き返すと、ユーはため息をついた。


 「……正確に言うなら、地球は残っていたゆー。……表面が全部焼け焦げた土くれを、ぼくは地球って呼びたくなかったんだゆー……」

 「まっ、待ってください。衝撃的な事実がいくつも出てきて整理が追いつきません……」


 冷や汗を額に浮かべつつ、コズハは頭を抱えた。そして、つぶさに聞き返す。

 
 「ユーちゃんはすぐに戻ったのですよね?だと言うのに、なぜ地球が滅んでいたのですか?」

 「ぼくが考えるに原因は2つあるゆー。1つ目にぼくが亜光速で惑星間飛行をしていたこと……2つ目にぼくの種族の時間感覚は人間と大きく違うことだゆー」

 「……まさか」

 「ぼくがだと思っているうちに、地球換算でざっと4000年が経っていたゆー」

 
 4000年の経過。現代から逆算すると紀元前2000年くらいから今に至る、途方もない時間経過。確か世界史の教科書の一番初めのページ辺り、古代エジプト文明があったのがその辺りの話だ。そこから一体いくつの文明が生まれ、滅んだというのだろう。

 
 「そんなに経ってりゃ……滅んでても不思議じゃねえな」

 「……ナナイ君。さすがにその反応は」

 「コズハの気遣いもありがたいけど、ナナイの言い分はもっともだゆー。ぼくは人間の寿命の短さも、文明の性質と発展度の違いも分かっていなかったんだゆー」

 「で、ですが……いえ。続けてください」
 

 コズハは言い留まって譲った。俺としても地球が滅んだ原因は気になったが、今聞いてはユーの話を中断させてしまうだろう。

 ユーはコズハに向かって頷くと、話を戻した。


 「それから母星に戻ってもぼくは、ナナイと地球にを忘れられなかったゆー。過ぎた時間を取り戻すことはできない、でもぼくを救ってくれたナナイに会えなかったことがすごく悔しかったゆー。
 だから……時間を戻す方法を探したんだゆー」


 「……なるほどな」


 俺はワンテンポ遅れて、違和感を覚えた。


 「……待て、探すところからか?じゃあコズハを治すのに使った『時間遡行機』ってまさか」
 
 「ああ、あれ作ったのはぼくだゆー」

 「……」


 なんでもなさそうな顔で、ユーは言ってのけた。例えるならば、朝食でも用意してくれたような気軽さで。

 声も失った俺に変わって、コズハがユーに問いかける。


 「しかし、あれは確か『体の時間を巻き戻す』ものでしたよね?ユーちゃんが行ったのだろう、『時間軸の遡行』とは別物なのでは無いですか?」

 「そうだゆー。あれはあくまで時間遡行をするために必要だった技術の1つでしかないゆー。
 素材、エンジン、機体の構造……ありとあらゆるものを理論ごと新規開拓し続けるうちに色んなものを生み出しては失敗し続けたゆー」


 少しだけ間を置いて、ユーは俺らに返した。


 「ぼくが研究していたのは『超光速飛行』だゆー。質量を持つ物体でも光速に耐えられるよう、物体自体にかかる時間を止める……このやり方を見つけるのに2万年くらいかかっちゃったゆー」
 
 「にっ、2万年……!?お前今何歳だよ!?」

 「ざっと5万6000歳だゆー。だから時間感覚って本当に捉えるのが難しいし、進めば進むほど戻っちゃうから、数十年単位で遡るっていうのはほぼ不可能だったんだゆー。
 だから、詳細な時代も分からないまま時間遡行した割には狙ってた時代に止まれてかなりラッキーだったゆー」

 「……お前はそれでも、『和唐ナナイ』の存在を辿ろうとしたってことか」

 「その通りだゆー!ナナイ、冴えてるゆー!」


 ユーは久しぶりに笑い、俺にピースサインを向けた。


 「……どこがだよ」

 
 思わず唇を噛んだ。

 ユーは最初に会った時、『どんな形になっても再会したい』と言っていた。それがどれだけ無謀なことだったのか、俺は知りもしなかった。たかだか80年しか生きられない生命体にもう一度会うため、2万年を費やしたのだ。

 ここまでユーが『和唐ナナイ』に人生を捧げているのに、俺はユーと会ったことを忘れているのだとしたら。俺は俺を許せない。


 俺が一人頭を抱えている横で、コズハはユーに問いかけた。

 
 「しかし不可解ですユーちゃんの功績は傍目から見ても偉業中の偉業。だと言うのに、なぜユーちゃんは同郷の方に追われているのですか?」

 「ゆっ!?え、えぇっとそこに関しては深ーいわけが……」

 
 コズハの問いかけに、ユーは声を上擦らせた。目を泳がせつつ背け、頭の横から生える触手をくねらせている。


 「……なにかやましい事情があるのですね?」

 「な、ないと言えば嘘になるけど、ちょっと口に出したくないと言うか……」

 「あるのか?やましい話が」

 「いやいや全然……!ここまで来た壮大な超科学に対しては全然面白くない話だゆー……!」

 「へぇ、その面白くない話、ぜひ聞かせていただきたいん


 聞き慣れない声に、思わず振り返る。
 
 俺のすぐ後ろ。先程見かけた白髪の男がちんまりと立っていた。
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