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二章R:その道は魔女の導き

二話:手綱があるのは振り回されるためである

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  「一体……貴女は……!?」


 そこまで言ったところで、衝撃の事実に気がついた。






 この子息止めたままだ。
 フードの下から覗く彼女の膨れたほっぺが真っ赤になっていた。

 「息!呼吸してっ!」



 私の訴えかけに、ようやくハッとしたようだ。
 

 「ぶっ──はぁぁぁっ!?」

 「ぎゃっ! うわっ!?」



 彼女吐息のあまりの風圧に吹き飛ばされてしばらく転がる。

 「ぐへっ!」

 後ろに木があり、ぶつかって止まった。ゆっくりと起き上がり、目を開く。

 木漏れ日で多少明るかったはずの目の前が、真っ暗だった。おかしいな、変なところを打ってしまっただろうか?
 私は何度も目を擦るが、依然真っ暗なままだ。一体どうしたのだろう?
 ……うん?なんだか獣臭がするような……。




 「あ、あのう……どこか変ですか? 」



 上から声が降ってきた。急いで上を向く。暗闇に慣れ始めた目が、私の頭上にいたローブ姿の魔女さんを写した。
 座り込んだ私のはるか頭上にその顔はある。やっぱり私より相当背が高いのだ。かっこいい!

 私はちょっと目を輝かせて言う。

 「全然!! このとおり無傷だよ!」


 両手を広げてそう言った。
 しかし彼女は急に座り込み、目を押えた。

 「よ、よかったぁぁぁぁ……うぅ……よかった!良かったよぉ!!」
  
 そしてわんわん泣き始めた……。
 
  「ちょ、ちょっと!? 落ち着いて!落ち着いてください!!」


 私は彼女の背中をさすり、必死に慰めた。


 

 「ずびっ……ずずずっ……うぅ……ありがとうございますぅ……」

 もっていた布切れを絞れるくらいまで濡らしたところで、ようやく落ち着いた。


 「落ち着いた?」

 「はいっ!」


 フードの下から笑顔が覗いた。良かったちょっと安心してくれたようだ。ところで先程受けた傷は大丈夫だろうか?
 気になった私は聞いてみた。

 「ちょっとローブ脱いでもらっても大丈夫?」

 「は!? へ!?  な、なんでっ!? なんでです!!?」


 魔女さんはその長い手足を器用に使って後ずさりした。確かに今は私の言い方が悪かった。 


 「ごめんね!! ただ怪我大丈夫かなって思ってさ!」

「そういうことじゃないんです!そういうことじゃないんです!! ごめんなさいっ!!」

 挙句の果てに木の上のしがみついてしまった。

 「どういうことー!? 膏薬などはありませんが! 塩と布切れぐらいならあるよー!! 手当てさせてー!!」


 木の上まで届くぐらい私が必死に叫ぶと、魔女さんは器用に木から降りてきた。そして顔を俯きながら言う。

 「私……このローブ以外に着るものなくてですね……?これを脱いだら……その……あの……ですね……?」

 「それは……ごめんね……」

 まさかそこまで研究に没頭しているだなんて思わなかった。それでなのかな……彼女からここまで連れてきた栗毛の彼みたいな匂いがする……。それじゃあ仕方ないよね。
 私はマントを外し、魔女さんに手渡す。

  
 「余計なお世話かもだけど、これちぎって切れてるところに巻くだけで治りが違うと思うよ」


 「え!? わ、わたしにぃ!?  もったいないですっ!」

 「いいんだよ。受け取って」

 「だ、ダメっ!ダメですぅ!もったいなくてもらえません!」


 私にマントを押し返してきた。……それなら!


 「それじゃあ……魔女さん。 私と取引しよう」

 「と、取引ですかぁ……!?」

 「……貴女の持っている魔王にまつわる情報を教えて 」

「なっ……!?」





 私のその一言に動揺をしたのか、また俯き始めた。きっと揺れているはずだ。彼女は魔王について……一体何を知っているのだろうか。私は彼女に向き合って、なるべくまっすぐ見つめる。



 「……らない……」


 「らない?」


 「なんっっっにも知らないんですうぅぅぅ!!! ごめんなさいっっ!!! 」


 「えええぇ!?」


 きっと何か知っているのだろうと思っていたけれど……出鼻をくじかれた気分だ。最初の当ては外れてしまったようだ。魔女の話はやはり迷信なのだろう。


 「そ、そっか……ごめんね! めちゃくちゃな事聞いて……」

 私はそう言って頭を下げた。
 あたりはまだ明るい。村に戻ろうにも人目がある。しばらく待ってからになるだろう。彼女には……本当に申し訳ないことをしてしまった。 
 少し遠目の茂みに移動しようとすると、


 [──グイッ]


 「……?」


 鎧の裾を引かれた。その手は妙に角張っていたし、モコモコと毛深かった。
 

  「わたしを……なぐらないんですか?」

  「え……?」


 そう言って上目遣いで見てくる彼女の目は、横一文字の瞳孔をしていた。


  「どうしてって……殴る理由がないじゃん……」 

 「優しいんですね、あなた」

 「まあ人並みには……多分……」

 「わたし……こんなに優しくして貰えたの初めてですっ……うぅっ 」

 「泣かないでください! こっちも悲しくなります!」

 「悲しいんじゃないんれすぅ!!!」

 「なんだろう……泣きたくなってきた……」



 そんな全然進まない話を3回くらい繰り返した後である。


 「ずずずっ……あの……勇者様なんですよね……そのペンダント」

 そう言われた。そういえば私はペンダントを下げていた。金色の十字っぽい紋章の入ったペンダントを手のひらに乗せる。

 「そうなんだよ……まあまだ正式な勇者では無いんだけど……」


 私がそう言うと、魔女さんは私の両手を上から握った。
 
 「痛っ!?」

 「あ、あの! 私をお供にしてください!!」 


 よく分からない子が、私の仲間になってくれたようだ。
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