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三章L:暫時、言を繰るえ
一話:歩けども、歩けども
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鬱屈とした森を歩く。
「暑い……」
俺は鎧をすっかり脱いで、背負って歩く。
「あ~……あっつ……」
ゼラは上品に手扇をしている。しかしケープは一日目の段階でとっぱらい、暑すぎるからと長い金髪を後ろでまとめ、それでも暑いからとスカートに何を狂ったかスリットを自作した。どう考えてもシスターの格好じゃない。はしたなくってよ」
「あんた急に口調変わるじゃない……それ何?心の声?」
「こんだけ暑くてジメジメしてたら心の声の一つや二つまろび出ますよ……」
「ブルルル……」
ビオサは同意するように首を力無く振った。
ここ二日、道なりに歩き続けてわかったことがある。低木が生えているせいか空気の逃げ道がないようで、昼間になるとこの森はかなり暑い。蒸し暑い。──以上だ。
どう考えたって二日の収穫じゃない。理由は明確。この森が、べらぼうに広いのだ。
二日かけて歩いても、抜けられない森なんてあってたまるか。どこかしらに文明の面影が感じられなくてはおかしい。しかしここには森と木と水しかない。
──あとたまに、クソ暑い日差しを届けてくる太陽。
「あー!!なんなのよ、ここはぁぁ!!! 全然前来た時と違うじゃない!!」
頭を掻きむしりながらゼラは叫ぶ。数日同じ風景を眺め、同じことをして、干し肉とパンと水だけで生活しているだけで、こうも人はおかしくなれるのか。
感心はしつつも、すぐ近くに狂人がいると精神衛生上良くない。ここは悪態をついて気を紛らわせよう。
「本当にこっちで合っているんですか? 行方不明者捜索しに行って、二人揃って仲良く遭難とかとんだお笑い草ですよ?」
「う、うるさいわね……。 そろそろ着くはずなのよ!」
ゼラはそう言って歩幅をさらに広げた。かなり余裕がなくなっているように見える。肉体的にも精神的にも、限界は近い。フラフラと軸がぶれて、転びそうになっている。
その様子を見たビオサもやれやれと首を振った。やっぱ知性があるぞこの馬。
さていい加減、私たちがなぜこんなところを延々と歩き続けているか説明すべきだろう。話は、焚き火跡からしばらく進んだところまで遡る。
「ああっ!!」
ゼラがいきなり頓狂な声を上げた。
「びっくりした……なんですか? 今更忘れ物ですか?」
「アタシ、知ってるのよ……この道!」
「……へ?」
「アンタ、アタシがシスター上がりなのは知ってるわよね? その頃あたしがいた孤児院がここの上にあるのよ!」
なんと、それは僥倖だ。食料を恵んで貰えるかもしれないし、何よりリンがそこに寄った可能性もある。
「なら、行きましょうか! 善は急げです!」
そんな事を言ってから、二日歩き続けてこのザマだ。実際は休み休み歩いているが、疲労は限界に近い。まして勾配や岩が増えてからは休みのペースが増えた。その上食料も半分ほどになってしまった。何かしらの進展がなければ引き返すしかない。
「本当にあるんですよね? 孤児院も何もかも捏造された、貴女の妄想だったりしませんか?」
「し、知らないわよ! ……そう……よね?」
ゼラは少ししゅんとして、目線を下げた。
……もう限界だろう。
「休みましょう、ゼラさん。 もう私も貴女も限界ですよ」
私はそう言った。ゼラは振り返り、胸ぐらを掴んできた。
「はぁ!? アンタはどうか知らないけど、アタシは頑丈だからなんともないわよ!!それに、まだ歩き始めたばっかりよ!? アンタなんかと一緒に……」
「──ゼラさん。見上げてください」
「あーもう! 見上げればいいんでしょ? 見上げれ……ば……!?」
頭上には満天の星空。私たちはたったこれくらいしか話していないのに、3日目の夜を迎えようとしていた。
「……火を焚いて食事にしましょうか」
「ええ……そうね」
黙々と準備に取り掛かる。干し肉を串に打つゼラ。もう顔つきが職人のそれだ。俺は火を起こし、念の為にバケツに水を汲む。
そして干し肉とパンを火にかけて、焼けるのをひたすらに待った。
「ここ、いつになったら抜けられるのかしら」
「まぁ……いつか村に出ますよ」
「左様。少なくとも村は近づいている」
私はそんな声を聞きながら、肉が火に満遍なく当たるように裏返し……って誰だコイツ。
「ぎゃあああああ!?!?」
先に声を上げたのはゼラ。そして手を上げたのもゼラ。右ストレートが急に隣に座っていた男の顔面に刺さった。
「ぐぅぅぅ!?」
男は数度バウンドした後、膝をほろって立ち上がる。
「良い香りがしたため立ち寄ったが……この世にはこうも苛烈な乙女がいるとはな。面白いでは無いか……!」
男は袖の辺りが、広く長い服を着ていた。袈裟のようなものがと思ったが、華美な白地に花柄。それに高そうな生地を使っている。恐らく催事用のドレスコードとみた。
そして、髪は束ねるほどほど長い。持っていた剣らしきものは細身で、鞘に収納されていた。
目の前の地面から、カランコロンと軽やかな木の音がする。その足音は近づいてきているようだった。
「いやはや、お初にお目にかかります。 それがしの名ガーベラ。 魔王国軍の右腕よ」
そう言って、不敵に笑った。
「暑い……」
俺は鎧をすっかり脱いで、背負って歩く。
「あ~……あっつ……」
ゼラは上品に手扇をしている。しかしケープは一日目の段階でとっぱらい、暑すぎるからと長い金髪を後ろでまとめ、それでも暑いからとスカートに何を狂ったかスリットを自作した。どう考えてもシスターの格好じゃない。はしたなくってよ」
「あんた急に口調変わるじゃない……それ何?心の声?」
「こんだけ暑くてジメジメしてたら心の声の一つや二つまろび出ますよ……」
「ブルルル……」
ビオサは同意するように首を力無く振った。
ここ二日、道なりに歩き続けてわかったことがある。低木が生えているせいか空気の逃げ道がないようで、昼間になるとこの森はかなり暑い。蒸し暑い。──以上だ。
どう考えたって二日の収穫じゃない。理由は明確。この森が、べらぼうに広いのだ。
二日かけて歩いても、抜けられない森なんてあってたまるか。どこかしらに文明の面影が感じられなくてはおかしい。しかしここには森と木と水しかない。
──あとたまに、クソ暑い日差しを届けてくる太陽。
「あー!!なんなのよ、ここはぁぁ!!! 全然前来た時と違うじゃない!!」
頭を掻きむしりながらゼラは叫ぶ。数日同じ風景を眺め、同じことをして、干し肉とパンと水だけで生活しているだけで、こうも人はおかしくなれるのか。
感心はしつつも、すぐ近くに狂人がいると精神衛生上良くない。ここは悪態をついて気を紛らわせよう。
「本当にこっちで合っているんですか? 行方不明者捜索しに行って、二人揃って仲良く遭難とかとんだお笑い草ですよ?」
「う、うるさいわね……。 そろそろ着くはずなのよ!」
ゼラはそう言って歩幅をさらに広げた。かなり余裕がなくなっているように見える。肉体的にも精神的にも、限界は近い。フラフラと軸がぶれて、転びそうになっている。
その様子を見たビオサもやれやれと首を振った。やっぱ知性があるぞこの馬。
さていい加減、私たちがなぜこんなところを延々と歩き続けているか説明すべきだろう。話は、焚き火跡からしばらく進んだところまで遡る。
「ああっ!!」
ゼラがいきなり頓狂な声を上げた。
「びっくりした……なんですか? 今更忘れ物ですか?」
「アタシ、知ってるのよ……この道!」
「……へ?」
「アンタ、アタシがシスター上がりなのは知ってるわよね? その頃あたしがいた孤児院がここの上にあるのよ!」
なんと、それは僥倖だ。食料を恵んで貰えるかもしれないし、何よりリンがそこに寄った可能性もある。
「なら、行きましょうか! 善は急げです!」
そんな事を言ってから、二日歩き続けてこのザマだ。実際は休み休み歩いているが、疲労は限界に近い。まして勾配や岩が増えてからは休みのペースが増えた。その上食料も半分ほどになってしまった。何かしらの進展がなければ引き返すしかない。
「本当にあるんですよね? 孤児院も何もかも捏造された、貴女の妄想だったりしませんか?」
「し、知らないわよ! ……そう……よね?」
ゼラは少ししゅんとして、目線を下げた。
……もう限界だろう。
「休みましょう、ゼラさん。 もう私も貴女も限界ですよ」
私はそう言った。ゼラは振り返り、胸ぐらを掴んできた。
「はぁ!? アンタはどうか知らないけど、アタシは頑丈だからなんともないわよ!!それに、まだ歩き始めたばっかりよ!? アンタなんかと一緒に……」
「──ゼラさん。見上げてください」
「あーもう! 見上げればいいんでしょ? 見上げれ……ば……!?」
頭上には満天の星空。私たちはたったこれくらいしか話していないのに、3日目の夜を迎えようとしていた。
「……火を焚いて食事にしましょうか」
「ええ……そうね」
黙々と準備に取り掛かる。干し肉を串に打つゼラ。もう顔つきが職人のそれだ。俺は火を起こし、念の為にバケツに水を汲む。
そして干し肉とパンを火にかけて、焼けるのをひたすらに待った。
「ここ、いつになったら抜けられるのかしら」
「まぁ……いつか村に出ますよ」
「左様。少なくとも村は近づいている」
私はそんな声を聞きながら、肉が火に満遍なく当たるように裏返し……って誰だコイツ。
「ぎゃあああああ!?!?」
先に声を上げたのはゼラ。そして手を上げたのもゼラ。右ストレートが急に隣に座っていた男の顔面に刺さった。
「ぐぅぅぅ!?」
男は数度バウンドした後、膝をほろって立ち上がる。
「良い香りがしたため立ち寄ったが……この世にはこうも苛烈な乙女がいるとはな。面白いでは無いか……!」
男は袖の辺りが、広く長い服を着ていた。袈裟のようなものがと思ったが、華美な白地に花柄。それに高そうな生地を使っている。恐らく催事用のドレスコードとみた。
そして、髪は束ねるほどほど長い。持っていた剣らしきものは細身で、鞘に収納されていた。
目の前の地面から、カランコロンと軽やかな木の音がする。その足音は近づいてきているようだった。
「いやはや、お初にお目にかかります。 それがしの名ガーベラ。 魔王国軍の右腕よ」
そう言って、不敵に笑った。
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