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間章
第11話 頼みの綱
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降り注ぐ雨粒。暗闇の空と同化した雲を突き破って降下する機影。
地上に伸びる長いアスファルトにエンジンを落としながら――タイヤが雨水を弾き――着陸する。
悪天候でとにかく揺れまくった機内。起きているのもしんどいほどに。イヤホンを耳にし、愉快なロックをかけて現実逃避するように眠りに落ちていた。
エンジンの轟音とともに感じるタイヤとアスファルトの摩擦が、"彼"を完全なる眠りの世界から徐々に引き離していく――――。
「おい、テツ! 成田に着いたぞ、早く起きろ!」
呼びかける聞き慣れた声。
急かすように体を揺すられたこともあり、それはテツ――金田鉄生の意識が完全に現実へと戻された瞬間だった。
アイマスクを上げてイヤホンを外し、揺すられた方向を見ると、通路側に立つ眉間にシワを寄せた顔。辺りの乗客が続々と棚から荷物を整え、次々と降りているのを確認すると、真上の棚に手を伸ばし――。
「急いでくれ! 高谷と元濱はもう先に降りたんだよ!」
いきなり怒鳴ったその声に一瞬驚く。
「うぇ!? そんなんならもっと早く起こせよ!」
「僕は窓際の席だったから、席立つ前に二人は先に行ってしまったんだ!」
城崎の急かす声とともに、脳裏にある記憶が瞬時に蘇る――。
高谷と元濱。連れの仲良しコンビは鉄生と城崎の座る列より五列前の席。窓際および中央の通路を挟んだ通路側にそれぞれ座っていた。それは高松の空港で見た、混雑ゆえに最終的に二人ずつに分かれても妥協せざるを得なかった座席表を確認した時のこと。
すぐに把握した。もう何も言うことはない。
城崎の後に続き、リュックを持ちスーツケースを引きながら、人混みに紛れて階段から飛行機を降りる。
雨の中、近くに展開されていた白い筒の通路から早足で空港内に入り、動く歩道、上り下りのエスカレーターを行き、他の乗客の背中を避けながら抜ける。
ようやく着いたそこは、乗客の手荷物が小さい入口から流れてくるお馴染みの部屋。手荷物を一つも預けていない鉄生は、城崎が預けた荷物を持って戻ってくるのを出口前にて待つ。
そう、城崎のために。
待って約三分後。
リュックの中のスマホの微かな震えに気づく。開くと円の中に描かれた、ザリガニのマスコットと一緒に浮き出る二つのメッセージ。
高谷からだ。だが、その吹き出しを見た瞬間――危惧こそしていたが――目を見張る。
『悪い。もう夜遅いし俺ら先帰るわ~』の後に続けて出てきたそれは――。
『気をつけろよ。今来るやつでルシエルライナー終わりだからさ』
安値かつ最速で日暮里と成田を繋ぐ座席指定有料列車、ルシエルライナー。
本数こそ限られているが、これを使うのと使わないのとでは移動時間は大きく変わる。通常なら片道で約一時間二十分かかる所を約四十分に縮められるのだから。
しかしフライトは遅れ、旅行前の座席決めが不運にも終電逃しを現実のものとした。
たとえ間に合っていたとしても、最速かつ快適に東京方面へと帰るための唯一の頼みの綱だったことには変わりはない。
今まさに、それが千切れるべくして千切れた――。
地上に伸びる長いアスファルトにエンジンを落としながら――タイヤが雨水を弾き――着陸する。
悪天候でとにかく揺れまくった機内。起きているのもしんどいほどに。イヤホンを耳にし、愉快なロックをかけて現実逃避するように眠りに落ちていた。
エンジンの轟音とともに感じるタイヤとアスファルトの摩擦が、"彼"を完全なる眠りの世界から徐々に引き離していく――――。
「おい、テツ! 成田に着いたぞ、早く起きろ!」
呼びかける聞き慣れた声。
急かすように体を揺すられたこともあり、それはテツ――金田鉄生の意識が完全に現実へと戻された瞬間だった。
アイマスクを上げてイヤホンを外し、揺すられた方向を見ると、通路側に立つ眉間にシワを寄せた顔。辺りの乗客が続々と棚から荷物を整え、次々と降りているのを確認すると、真上の棚に手を伸ばし――。
「急いでくれ! 高谷と元濱はもう先に降りたんだよ!」
いきなり怒鳴ったその声に一瞬驚く。
「うぇ!? そんなんならもっと早く起こせよ!」
「僕は窓際の席だったから、席立つ前に二人は先に行ってしまったんだ!」
城崎の急かす声とともに、脳裏にある記憶が瞬時に蘇る――。
高谷と元濱。連れの仲良しコンビは鉄生と城崎の座る列より五列前の席。窓際および中央の通路を挟んだ通路側にそれぞれ座っていた。それは高松の空港で見た、混雑ゆえに最終的に二人ずつに分かれても妥協せざるを得なかった座席表を確認した時のこと。
すぐに把握した。もう何も言うことはない。
城崎の後に続き、リュックを持ちスーツケースを引きながら、人混みに紛れて階段から飛行機を降りる。
雨の中、近くに展開されていた白い筒の通路から早足で空港内に入り、動く歩道、上り下りのエスカレーターを行き、他の乗客の背中を避けながら抜ける。
ようやく着いたそこは、乗客の手荷物が小さい入口から流れてくるお馴染みの部屋。手荷物を一つも預けていない鉄生は、城崎が預けた荷物を持って戻ってくるのを出口前にて待つ。
そう、城崎のために。
待って約三分後。
リュックの中のスマホの微かな震えに気づく。開くと円の中に描かれた、ザリガニのマスコットと一緒に浮き出る二つのメッセージ。
高谷からだ。だが、その吹き出しを見た瞬間――危惧こそしていたが――目を見張る。
『悪い。もう夜遅いし俺ら先帰るわ~』の後に続けて出てきたそれは――。
『気をつけろよ。今来るやつでルシエルライナー終わりだからさ』
安値かつ最速で日暮里と成田を繋ぐ座席指定有料列車、ルシエルライナー。
本数こそ限られているが、これを使うのと使わないのとでは移動時間は大きく変わる。通常なら片道で約一時間二十分かかる所を約四十分に縮められるのだから。
しかしフライトは遅れ、旅行前の座席決めが不運にも終電逃しを現実のものとした。
たとえ間に合っていたとしても、最速かつ快適に東京方面へと帰るための唯一の頼みの綱だったことには変わりはない。
今まさに、それが千切れるべくして千切れた――。
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