ストラグルガールズ

1. 私と一緒にもう一度

「あれ？どこだっけ？」
　明け方、まだ人通りの少ない町中に、困った顔をして歩く髪の短い女の子がいた。眠そうに歩く通行人を横目に、早足でキョロキョロと辺りを見渡しながら町中を歩いていく
「おかしいなぁ、確かここら辺って書いてたのに……。まあいいや、探そ」
　そう言うと、うーんと大きく背伸びをして、右足で地面にトントンと叩くと、ふわりと浮かび街の空を駆け抜けていった





「……朝だ」
　その頃、大音量で鳴る目覚まし時計に起こされて、不機嫌そうに体を起こす女の子がいた。頭が回らず少しボーッとしていると、部屋の外から声が聞こえてきた
「ノエル！遅刻するわよ！早く起きなさい！」
　そう言われて、ゆっくりとベッドから降りると、ゆっくりと長い髪を無造作に束ね、服を着替えを始めると、重い足取りで部屋から出ていくと、リビングにあるテーブルに朝御飯が並んでいた
「ノエル、ご飯は？」
「……いらない」
　キッチンから慌ただしく出てきた母親に、素っ気なく返事をすると、トボトボと玄関まで歩いて靴を履きはじめた
「スープだけでも飲まないの？」
「……いらない」
　後ろから聞こえてくる声に少し振り向くと、また素っ気なく返事をして、玄関の扉を開けて出てしまった






「今日、学校サボろうかな……」
　と、ポツリ呟きながらトボトボと通学路を歩いてくノエル。さっきまで人通りの多く騒がしかった道もいつの間にか静かになって、テンション低く歩いていると、通りの向こうに一人、女の子が立っているのに気づいて、歩いていた足を止めた
「あの子……」
　ニコニコと微笑む女の子を見ていると、二人の間に一台の車が通り過ぎると、さっきまでいたはずの女の子の姿がいなくなっていた
「あれ？気のせい……」
　首をかしげながら女の子が居た場所を見ていると、突然背中からぎゅっと抱きしめられた
「ノエル、やっと見つけたよ！どこに行ってたの？」
　見知らぬ女の子に抱きしめたまま、テンション高く嬉しそうに話しかけれて、戸惑うノエル。恐る恐る振り向きながら声をかけた
「あの……どちら様？」
「ずっと探して見つけたのに……どちら様って……」
　ノエルの顔を見ながら、しょんぼりとした顔と声で返事をする女の子。ふとノエルが荷物を持っているのに気づいて、ノエルにニコッと笑った
「学校行くの？残念だけど、この世界の学校には、もう行けないから」
「何を言って……」
　と、ノエルが問いかけようとすると、抱きしめていた体を離し、今度はノエルの手をぎゅっと強くつかんだ
「ほらほら、早く！ここにいるべきじゃないんだから」
「だから、何を」
　少し苛つきながらノエルが女の子に言い返していると、女の子がトントンと地面を蹴ると、ノエルの手をつかんだまま、空に向かって飛び出した
「えっ？なに？」
「ちゃんと私に掴まっていないと危ないよ。落ちちゃうから」
　女の子に言われて、恐る恐る振り向くと、さっきまでいたはずの場所は遥か遠く真下にあるのを見て、女の子の手をぎゅっと強くつかんだ
「あばれないでね、落ちゃうから」
　女の子の言葉を聞いて、掴んでいた手の力が少しずつ弱まっていくノエル。なぜかまた恐る恐る下を向くとさっきよりも地面が遠く町並みが小さく見え、恐怖で血の気が引いて、女の子を掴んでいた手を離してしまった

「よし、このくらい地面から離れてたら大丈夫だ」
　そう言うと、ノエルの方に振り向く女の子。だが、ちゃんと手を繋いではずのノエルの姿はなく、不思議そうに下を向くとノエルが地面に向かって落ちていた
「これはヤバい！」
　慌てて落ち続けていくノエルを追いかける女の子。だが、間に合うどころか、どんどんと距離が離れていく
「仕方ない。少し離れてるけど、一か八か……」
　そう言うと、女の子が何やらブツブツと呟きはじめた。その間にも、どんどん地面に近づいていくノエルは、恐怖で目を閉じようとした時、突然とても眩しい光が現れて、思っていたよりも強くぎゅっと目を閉じた






「ちょっとミコト、大丈夫？」
「大丈夫。モカ、ありがとう。助かったよ」
　眩しかった光が消えてすぐ、エヘヘと笑う女の子の声と、聞きなれない声が聞こえて、そーっと目を開けると、大きな鳥の背中に、ノエルの手を引っ張り、ミコトと名を呼ばれた女の子と、同じく服を着た見知らぬ女の子が二人で話をしていた
「本当にノエルを連れてきたの？」
「うん。そのために頑張って勉強したんだし。まあ、大分ギリギリセーフだったけどね」
「先生に怒られるよ……」
「大丈夫だよ。ちゃーんと伝えてるもん」
「……あの」
　恐る恐る二人に声をかけたノエルの声に気づいた二人が一斉に振り向いた。少し驚いて顔を背けるノエルに、ミコトが近づき、また手を取りぎゅっと強く握りしめた
「ノエル、今日から心機一転、また一緒に頑張ろうね！」
　ニコニコと笑顔でそう言うミコトと、側で苦笑いしているモカを見てノエルが呆然としていると、ミコトがノエルの手を離し、くるりと背を向け空に向かって両手を広げながら、大声で叫んだ
「この世界にあるアードルド魔術学園で、私と一緒に天下を取るの！頑張ろうね！！」