これくしょんブック

シャオえる

文字の大きさ
1 / 85

1. 本を灯し導くもの

しおりを挟む
「ここは……」
 女の子が一人ポツリと呟いた、その女の子が見える世界は、今は真っ暗。キョロキョロと辺りを見渡しても、明かりもなく道も見えない
「こっち、こっち」
 動けずにいると、どこからともなく声が聞こえてきた
「こっちよ」
 怯えつつも、ちょっとずつ暗闇の中、声のする方に歩いてく。数歩、歩いた先に真っ暗の中、床に置かれた本に目が止まる
「……本?」
 無造作に置かれた本を取る。表紙には、ネコの絵が書かれた真新しい雰囲気の本を、パラパラとページをめくる。中は一枚目から最後のページまで、何も書かれていない真っ白な本

「何も書かれてないけど……」
 ページにそっと触ると、触れた指先に触れた場所から、見慣れない文字が浮き出てきた
「えっ?今……」
 触れてすぐ一瞬で消えた文字。また真っ白な本に戻り、驚いて思わず本を落としてしまった
「やっぱりそう。ずっと貴女を探してた。力を持つ者」
 そんな怯える女の子の様子に、楽しそうな声がまた話しかけてくるが、未だに声の主の姿が見えないまま
「……なに?あなたは、どこにいるの?」
 恐る恐る返事をすると、床に落とした本が勝手に、パラパラと開きだす

「書いて、詠んで。貴女の力を」
 と言うと、ふわり浮いて話しかけてくる本。目の前でひとりでに浮いて話す本に、少し後ずさりする
「誰……?私の力……?」
 思わず辺りを見渡して、自分以外の誰かがいるのか確認する。相変わらず真っ暗で足音も聞こえない。本と自分しかいない状況に不安が増えていく
「ねぇ……本が喋っているの?」
「そうよ。貴女が願うから。貴女がそう言ったから」
 
「貴女、名前は?」
「……アカリです」
 本からの質問に答えると、パラパラとページをめくる音をたてていた本が、静かになった
「アカリ……アカリ……。本を照らすアカリ。素敵な名前ね」
 話始めると、楽しく笑うような声で喋る本に、更に後ずさりして逃げようとするアカリ。そんなアカリを止めるように、本がまた話しかけてくる
「ねえ、アカリ。今度は、私の名前を呼んで」
「あなたの?」
「そう……名前をつけて。素敵な名前を」
「でも……」
「早く、早く。時間が無いの」
 急に言われて戸惑うアカリを急かすように、パラパラとページがめくったり戻ったりしている。突然、名前をつけてと言われて考えるアカリ。暗闇の中でも見える本に、これだ。と名前が思い浮かぶ
「あ、あなたは……」

「……あれ?」
 名前を言おうとした時、目が覚めてしまったアカリ。また状況が読めず、ボーッとしている意識の中で、辺りを見渡す
「夢…?」
 今度は見慣れた自分の部屋にホッとする。時計を見ると、ちょうど目覚ましが鳴る。うるさい目覚ましを止めて、まだちょっと寝ぼけながら、ベットから降りて学校へ行く準備をしていく

「おはよう……お兄ちゃん」
 準備を終えて、リビングに行くと美味しそうな朝ごはんの匂い。カタンと椅子の音をたてて座る
「……おはよう。具合でも悪いのか?」
「ううん、大丈夫」
「さっさと食べないと、学校遅れるぞ」
「うん……」
 小さい声で返事をすると、ゆっくりとご飯を食べ始める。向かいに座って兄も一緒に、二人で朝ごはんを食べてく
「お父さんは……?」
「寝ているよ。大分遅くまで起きてたみたいだから、起こさないようにな」
 すぐ会話が止まって、黙々とご飯を食べ進めていく二人。先に食べ終えた兄が食器を片付けると、一足先に学校へ向かうため玄関に向かってく
「先に出る。片付けて行けよ」
「うん……」



「変な夢だったなぁ……」
 学校も終わって、のんびりと過ごしている夜。眠るためにベットに入ってゴロゴロとしている。ふと今日見た夢を思い出しながら、ウトウトと睡魔が襲う
「今日も見るのかな?」
 と、呟いている間に眠ってしまって夢の中。スヤスヤと寝ていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた
「……アカリ、アカリ。どこ?」
「呼んでる……昨日と同じ声だ」
 声がする方へ、暗闇の中ゆっくり歩いていく。昨日と同じく本がふわふわと浮いて、アカリが来るのを待ち続けていた本。また会えて嬉しいのか、ページがパラパラと開いたり戻ったりしている

「また来てくれた。やっぱり力を持つ者……」
「あの……あなたは……」
「早く呼んで。私の名前」
 質問をしようとしたアカリの言葉を遮って、名付けを急かす本。やっぱりかと思いつつも、昨日考え言おうとしていた名前を、ポツリ呟く
「あなたの名前は……ヒカリ……でいい?」
「ヒカリ……。素敵な名前。私は、アカリを導くヒカリ」
 嬉しそうな声とともに、再びパラパラとページが捲られ、本から眩しい光が溢れる
「アカリ、これから宜しくね」
「え?どういう……」
 意味を聞こうとした時、ハッと目が覚める。体を起こしてキョロキョロと辺りを見渡す。見慣れた自分の部屋に、ホッと一つため息をする
「また……変な夢だったな……」
 一人言を呟いて、少し動かした右小指にコツンと何かが触れて、驚いて指先を見ると、夢で見た本がアカリの側に居た
「えっ?どうして……夢で見た本が……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...