転生個人投機家の異世界相場列伝

犬野純

文字の大きさ
54 / 71
テクニカル戦争

54 子孫

しおりを挟む
 僕、マクシミリアン・フォン・B・ローエンシュタインは、ローエンシュタイン家の大父マクシミリアン様の足跡を調べていた。
 ローエンシュタイン家中興の祖として、大父の称号を与えられたマクシミリアン様から数えて八代目となるが、僕は大きな問題に直面していた。

「フィエルテ王国史に載ってない、日記だけの記述も真実なのかな?」

 大父様は帝国との戦争のさい、僅かな伴と帝国に乗り込み、その輸送網を破壊した。
 その結果、帝国は圧倒的に有利な国境の砦への籠城がつかえなくなり、短期決戦の為に野戦を仕掛けてきたのだ。
 ただし、開戦前から輸送部隊を襲っているので、帝国の手前国史に載せるわけにはいかなかったとか。
 公式記録には無いが、終戦後に大父様のアイテムボックスから出てきた帝国兵の死体は1000人を超えていたと、ニクラウスの当時の日記に記してある。
 野戦は一進一退の攻防となったが、三日目の戦いでフィエルテが優勢になり、そのまま帝国が撤退することとなった。
 これにより国境付近はフィエルテの勢力下となる。
 帝国はこれ以上の国内への侵入を嫌い、早期に講和が結ばれることとなった。
 フィエルテの主張を一部認め、カール王子の返還と賠償金に一部領土の割譲となった。
 しかし、カール王子は帰国となるのを知ると自害してしまったため、その亡骸のみが無言の帰国となった。
 なお、アンネリーゼの行方は掴めなかった。
 王子の子を宿しており、フィエルテ王家の血筋を帝国に残すつもりだったのではないかと推測されている。

 大父様は戦争の功績は公にならないが、戦費をドミニク殿下に出した功績から、伯爵位と帝国から割譲された領土の一部を下賜された。
 既に侯爵ではあったが、国から与えられたものではなかったことと、子供に継がせる為の爵位として、ドミニク殿下が気を使ったのだ。
 後に、大父様の次兄は辺境伯の継承権を放棄し、家督を大父様に譲ることとなった。
 功績から考えて、自分よりも大父様が相応しいと判断したのだ。
 これにより、大母ブリュンヒルデ様の子供が辺境伯を継ぎ、大母エリーゼ様の子供が侯爵を、大母マルガレータ様の子供が伯爵を継ぐこととなった。
 皆、名前に大母様の頭文字のB、E、Mを入れて、どこの血筋のローエンシュタインかをわかるようにしてある。
 それが入っていないのは、大父様の子ではないローエンシュタイン家の者となっている。

 戦後、無事に帰還された大父様は、小麦の先物で利益を出した後は、戦勝好景気とその後の不況を見てきたかのように正確に的中させ、不況で立ち行かなくなった貴族の爵位を購入した。
 なので、大父様の子供は皆爵位を持つ事となった。

 「相場は狂乱せり」と大父様はある日の日記に残していた。
 その日を境に買いを手仕舞いして、少しずつ売りを積んでいったとある。
 そして二週間後、相場は天井をうった。
 そこから一ヶ月間の下落が続き、株も商品も皆暴落した。
 悲劇の火曜日と言われる暴落で底を打つのだが、悲劇の火曜日に大底で投げた投資家が沢山いたらしい。
 大父様は当時の金融大臣から、売りの手仕舞いを打診されて、悲劇の火曜日に買い戻しを入れた。
 そして、一気にドテンしたのである。
 大父様のドテンが伝わると、相場は一気に反転した。
 後世の歴史家はあの時の更に売っていたら、フィエルテの市場は崩壊していたと書いているが、大父様はそれ以上は下がらないとわかっていたのではないだろうか。
 なにせ、大父様の日記にもここらで大底かなと書いてあるのだから。

 その後も度々ヨーナス、ハーバーと組んで、様々な相場に手を出しては資産を増やしていった。
 株では買い占めをしたが、商品の買い占めを行うことは無く、相場が終わると物価が下がったので、庶民には大父様の人気は高かった。
 徹底して買い占めはしないという信念を貫いたのだ。

 そんな大父様も大母マルガレータ様が78歳で亡くなると、それを機に家督を子供たちに譲って引退された。
 当時の記録ではショックのあまり人目を憚らずに泣き続け、一ヶ月ほど食事もろくにとれなかったとある。
 大母ブリュンヒルデ様とエリーゼ様がずっと付き添い、落ち込む大父様を慰めていたそうだ。
 一ヶ月後に家督を譲り、持っていた資産は男女の区別なく全ての子供に平等に配分した。
 領地は分けられなかったが、動産については平等に分配したので、直系の子供は男爵ですら数千億マルクを得た。
 女子は金の力を使って、嫁ぎ先で完全に実権を握ることになったとある。
 大父様は聖下としての収入もあったので、生活には困らなかった。
 そして、3冊の相場の極意を記した書を書き上げる。
 これを辺境伯、侯爵、伯爵の三人の息子にそれぞれ託した。
 内容はそれぞれ別らしいが、当主のみに閲覧が許されているため、真相は定かではない。
 その後の大父様は聖下としての収入を種銭に、細々と相場を張るのみだったという。
 だが、情熱を失ったわけではなく、最後の言葉は

「今日の小麦の価格は?」

 だったと記録に残っている。
 最後まで相場を気にしていたわけだ。
 そして、68歳でこの世を去った。
 今では三人の大母様と一緒に、王都の教会の墓地に三人で眠っている。
 その墓前には、三人と結婚することになった塩が毎日供えられていた。

 僕がどうして大父様の足跡を調べていたのかというと、マルガレータ・ローエンシュタイン家による小麦の買い占めで、うちが苦境に立たされているからだ。
 今年は何十年に一度の不作で、元々小麦は値上がりしていた。
 そこに目をつけたマルガレータ・ローエンシュタイン家が小麦の買い占めを行ったのである。
 王都ですら小麦の入手が困難であり、辺境の我が領地まで小麦がまわってこない。
 隣のシェーレンベルク家も同様に困っている。
 なお、シェーレンベルク家には大叔母様のブリュンヒルデ様が嫁いでいる。
 大母様と同じ名前だがその気性が荒く、魔法学園時代には気に入らない貴族令嬢をビンタした武勇伝が残っている。
 大叔母様にはマルガレータ・ローエンシュタイン家を売りで倒せと矢のような催促が来ている。
 父が急逝して家督を継ぐことになった僕には荷が重いが、大父様以来の味属性を持った僕は、一族で大父様の生まれ変わりと言われている。
 残っている肖像画もよく似ていると言われるが、同じ年代の肖像画は殆ど女装したものなので、本当に似ているかは疑問だ。
 これは、大母様たちが女装以外の肖像画を描かせなかったからだという。
 ヴァルハラ教も僕を聖下の生まれ変わりとして、崇拝対象にしたいらしいのだけど、何故女装を強要してくるのか意味不明だ。
 教会の伝統だというが、そんな伝統は廃れてほしい。

「はぁ…………」

 僕は大きなため息をついた。
 結局、女装をしている。
 大父様の生まれ変わりを演じ、小麦の買い占めを売りで潰すためだ。
 既に、海外に大船団を送り込んだ。
 豊作の国から小麦を買い付けて、領地の民に小麦を配給するためだ。
 本当はこれを使って小麦相場を売り崩したい。
 しかし、マルガレータ・ローエンシュタイン家の資金は莫大だ。
 色んなものに投資をして、領地以外の金融収入がある。
 その資金源を断って、小麦の買い占めから撤退させる必要がある。
 今すぐには無理だがいつか来るその日のためには、女装して教会のおもちゃにされるのも我慢だ。
 戦えるだけの資金を作って、売り崩すための現物を用意してやる。

 そう決意した僕は教皇を待たせてある部屋に入る。

「お待ちしておりました。正しく聖下の生まれ変わり。肖像画と寸分違いませんな」

「生まれ変わりだからね。今記憶を取り戻したところだよ」

 そう演じると教皇は目を丸くした。
 冗談でも言わないと今すぐ泣き出してしまいそうだったので、正気を保つためにそう言ってみただけだ。
 しかし、それを聞いた教皇はうっとりとした目でこちらを見てくる。

 さあ、反撃の狼煙をあげよう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

成瀬一
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...