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第7話 異世界の作業標準書の作り方

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 俺はやっと手に入れた固有スキル【作業標準書】で何を作ろうか悩んでいた。
 冒険者ギルドらしく、剣での戦い方や、斧の使い方、槍の使い方っていうのもよいが、魔法の使い方も捨てがたい。
 だが、そんな物を作ったとして、誰が使うというのだ。
 適正の無いものが魔法を使えるわけもない。
 剣士のジョブがある冒険者に、弓の作業標準書は必要なのだろうか?
 俺をこの世界に転生させた神は、何をさせたいというのだろう。

「ヘルプ機能も見つからないし、とにかく使ってみるしかないか」

 俺は作業標準書を作るべく、まずはギルド長のところに向かった。
 彼は若いころは迷宮に潜っていた冒険者なのだ。
 ジョブは剣士だったと聞いている。
 剣士の作業標準書を作るところからはじめよう。

「おや、アルトどうかしたかい?」

 ギルド長は自分の机に座って、書類に目を通していた。
 冒険者の引退後、彼はギルドの職員として働き始めたが、その事務能力がみとめられ、ついにはギルド長まで出世したのだ。
 役職に依存しないその卓越した能力は、誰もが認めるところであった。
 そんな彼は、俺が部屋に入るとそう聞いてきたのだ。

「実は自分のスキルの事でお願いがありまして」
「なんだい?」
「固有スキルを取得できたのですが、そのスキルは作業を誰でもできるようにする能力だと思うのです」
?」

 ギルド長が不思議な顔をした。
 俺だって自分のスキルを使ったことがないので、これが初めてなのだ。
 そのことを伝えて、ギルド長の剣士の経験を教えて欲しいと頼んだ。

「そんなスキルがあったとはね。いいだろう。それが本当に可能であれば、レベルに依存しない冒険ができるようになるからね。ギルドが買い取る素材も大幅に増えるだろう」

 手始めにショートソードの使い方の説明をお願いした。
 そして、ギルド長の説明は実にわかりやすかった。
 上段からの振り下ろし、刺突に横薙ぎ等様々な状況に応じたショートソードの使い方を、初心者でもわかるように話してくれる。
 さらに、作業標準書を作るうえで重要な、品質の急所と急所の理由をこちらがお願いしなくても、きちんと説明してくれるのだ。
 俺の【作業標準書】スキルは、発動するとギルド長の説明を自動で白紙に記入してく。
 白紙というのは語弊があるな。
 作業標準書のフォーマットが出来ており、そこに自動筆記されていくのだ。
 しかも、写真を貼り付ける場所には、ギルド長が見せてくれた動きが絵として描かれる。
 こんな便利なスキルは、前世でほしかったぞ。
 流石に1ページに全て記述するわけにはいかず、作業標準書が膨大な枚数に膨れ上がる。
 これを全部読み込むのは骨が折れるな。
 だが、これこそが剣士としてのノウハウの固まりであり、これを全て覚えることで画一的な動きができる様になるのだ。
 取り敢えず今日のところはショートソードだけにしておこう。

「ありがとうございました」
「お役に立てたかい?」
「はい。おかげさまでとても良いものが出来上がりました」

 お礼を言って部屋から出た。
 早速この作業標準書を使用してみたいところだが、今は仕事中なので諦めよう。
 まあ、俺の仕事なんて、誰かが失敗しなければ発生しないので、それまで暇を持て余してはいるんだけどね。
 その日はそわそわしながら終業時間を待った。

 ゴーン、ゴーン、ゴーン

 時の鐘が迷宮都市に鳴り響く。
 これで今日の仕事は終わりだ。
 俺は急いでデボネアさんの鍛冶屋へと走った。
 店に入るなり、俺は大きな声で、

「デボネアさん、ショートソードを売って下さい」

 と、閉店準備をしていたデボネアさんに話しかける。

「はぁ?」

 俺の言ったことにデボネアさんが目を丸くした。
 彼も俺のジョブが品質管理であることを知っている。
 俺がショートソードを買う意味がわからないのだ。

「そうか、わかった」
「わかってくれましたか」

 デボネアさんはうんうんと頷いて、ショートソードをいくつか持ってきてくれた。
 それをカウンターの上に並べる。

「どれがいい」
「うーん、買ったことが無いので、どういう基準で選べばいいのかがわかりませんね」
「そうか、こいつなんかどうじゃ」

 そういってショートソードの中でもやや大きめの物を差し出してきた。

「他のよりもちょっと大きいですね」
「ショートソードからロングソードに変更するか迷っている冒険者向けだのう」
「扱えますかね」
「女の子でも問題はないじゃろ」

 女の子でも問題ないとは、男女共同参画社会に対する敵対的な発言だな。
 この文明レベルにジェンダーフリーとか通じなさそうなので、今はその話は置いておこう。

「じゃあこれにします。おいくらでしょうか」
「そうじゃな、この前仕事を紹介してくれたから、特別に銀貨5枚でええわい」
「ありがとうございます、じゃあこれで」

 俺はカウンターに銀貨を置いた。
 デボネアさんがニヤリと笑う。

「告白が上手くいく事を祈っとるぞ」

 俺はその言葉は理解できずに固まった。
 告白?
 何を言っているのだろうか。

「デボネアさん、告白ってなんですか?」
「はぁ?お前さん、そのショートソードをスターレットの嬢ちゃんにプレゼントするんじゃないのか」
「何でそうなるんですか!」

 デボネアさんの勘違いにも程がある。
 どうして俺がショートソードを買いに来たのが、スターレットへのプレゼントとなるのだ。

「お前さんはショートソードを使いこなせるスキルはないじゃろ。てっきり相談に乗ってやったスターレットへ告白するんじゃと思っとったわい」
「話が飛躍しすぎですよ」
「なに、スターレットの嬢ちゃんがいつもここに来る度に、お前さんの事を褒めていたので、満更でもないのかと思っていたわ」

 なんとそんな事があったのか。
 褒めるなら俺本人を褒めてくれ。
 恥ずかしいけど……

 こうして俺はショートソードを手に入れて、自室で作業標準書を見ながらそれを振るうのであった。
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