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第27話 異世界初のフラワーダイキャスト
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昨日は1日選別で終わりました。
品質管理辛い。
以上、作者の愚痴でした。
それでは本編いってみましょう。
今日も一日よく働いた。
今まで行った不具合対策が継続されているのか、各工程を見回ってその維持を確認した。
これをしないと、作業者も次第にやらなくなっていくからな。
適度な工程巡回が緊張を持続させてくれるのだ。
一日中立ちっぱなしだったので、とても足が棒のようだ。
共同浴場で汗を流してから自分の部屋に帰ってきたが、何もする気になれず、そのままベッドに倒れ込む。
「それにしても、識字率が低いせいで、打てる対策の種類が限られるよな」
ついつい愚痴が溢れる。
文字を読める人が少ないため、文章による注意が出来ないのが痛い。
前世で読んでいた異世界転生の小説だと、主人公が異世界に学校を作るってのがよく出てきたよな。
などと、思い出した。
しかし、俺の居る世界ではそれは難しいだろう。
自分にそんな力がないっていうのもあるが、明治維新の頃の日本と一緒で、子供も貴重な労働力なのである。
その子供たちを学校で学ばせようとしたら、不足する労働力をどうしたら補えるのか考えなければならない。
義務教育の法制化ができるならば、教育を受けさせる義務を果たさない保護者を罰すればよいのだが、そんなことをしたら、国家に対する不満が高まるだろう。
王の権力を使えばそれも鎮圧できるだろうが、問題は王家による専制もあるな。
彼ら支配者にとっては、国民は愚民である方が望ましいのだ。
文字が読めるようになると、支配層が好き勝手に決めていた法律の明分化を要求してくるようになる。
彼らにとっては、自国の発展よりも、支配体制の継続のほうが望ましいのだ。
中央集権化して、巨大な国家を作るのであれば、人材不足の懸念から教育に力を入れるだろうけどな。
今のように王家とそれに連なる貴族達が治める政治体制では、義務教育などは危険思想だと思われるな。
それに、そんな小説の主人公たちは、戦後の教育しか知らないはずだが、学習指導要領もなしに全国に画一的な教育を普及させている。
どんなチート能力があるというのだろうか。
伝習館高校事件のような事が各地で起こると思うんだよね。
江戸時代の寺子屋や、藩校での教育はそれに近いので、必ずしも画一的な教育が必要という訳ではないが、基礎学力をつけるためには最低限ここは必要という指針を示す必要があると思うぞ。
教員の質も一定じゃないからだ。
もっと楽な異世界転生ライフを送りたかった……
「教育が駄目なら、料理とか定番だよね」
と思ったけど、俺に料理の知識がない。
前世でも得意料理はお湯を沸かして、即席ラーメンを作ることだったからな。
異世界に来てからわざわざ料理に目覚めることも無かった。
今でも食事は冒険者ギルドの食堂で済ませている。
あそこが定休日なしで助かった。
「工作機械や金型で料理を作れるわけじゃないしな。金型に金属じゃなくて食い物を流し込む訳にもいかないし」
と独り言を言ったところで、昔アメリカのリンゴマークの会社のスタッフと仕事をした時の事を思い出した。
サプライヤーを訪問した後にたこ焼きを食べたのだ。
金型に小麦粉を水に溶いた物を流し込むのを見て
「フラワーダイキャスト!」
ってアメリカ人が驚いていたんだよな。
たこ焼きやたいやきをこの世界に広めるのもいいかも知れない。
あんこは無いけど、小麦粉を焼いた料理なら広まるだろう。
鋳物の金型が存在する世界だから、たこ焼き用の金型も作ることができるだろ。
熱伝導率を考えたら、金か銅で金型を作りたいところだが、高価になると盗難の可能性もあるしな。
アルミ合金を俺が精錬してもいいのだが、アルミ合金がこの世界にないので、もっと混乱しそうだな。
鉄でいいか。
小麦粉と卵はあるし、出汁をとる文化もここにはある。
タコが無いけど、代わりのものを見つければいいんじゃないかな。
お好み焼きみたいになりそうな気もするが。
そんなわけで、食品の金型を考えていたら、いつの間にか眠ってしまい、気がついたら朝になっていた。
翌日冒険者ギルドの仕事が終わると、走ってデボネアさんの店に向かった。
金型職人を紹介してもらう為だ。
「別に紹介するのは構わんが、お前さんがどうして鋳物の金型を必要としているんじゃ?」
「試してみたいことがあるんですよ。流し込むのは金属じゃなくて、小麦粉ですけどね」
「小麦粉?」
日本でたい焼きやたこ焼きが考案されたのは明治時代以降である。
比較的新しい食べ物であり、中世には存在しなかったのだ。
こちらでも金型で小麦粉を溶かした液体を成形するという考えはまだ生まれておらず、世界初のフラワーダイキャストとなるのだ。
紹介してもらったのはステラで金型を作っているドワーフのストラトスだ。
やっぱりドワーフなので、デボネアさんにそっくりである。
俺はストラトスに金型の大まかなデザインを伝える。
左右対称の金型で、それを蝶番で連結させる。
この左右対称が上手くいかないと、完成時にパーティングラインがずれてしまい美しくないので、蝶番をつける時は俺が立ち会って、金型を三次元測定する予定だ。
すごい、三次元測定のスキルが役に立つぞ。
後日、約束通り俺が立ち会い測定をしながら、左右対称の金型が完成した。
すげー重たいが、頑張って冒険者ギルドの食堂に持ち込む。
「何をするの?」
「新しく考えた料理をしようと思ってね」
調理場を貸してくれたメガーヌが、俺が何をするのか心配で立ち会ってくれている。
心配と興味が半分半分かな?
金型を窯の上に置いて熱していく。
待ち時間の間に、予め準備していた水と小麦粉と卵とだし汁を混ぜる。
金型が熱くなってきたので、水を垂らして温度を確認する。
水の状態で大まかな温度がわかるのだが、温度測定のスキルがあれば楽だったなと今更気がついた。
「よし、温度はこれくらいでいいだろ」
俺は作った生地を右側の金型に流し込む。
その後、豚肉とキャベツを乗せて、焼き加減を確認する。
「頃合いか」
今度は左側の金型に生地を流し込む。
そして、右側の金型を持ち上げて、左側の金型と重ね合わせた。
右側の金型から生地が剥がれた事を確認し、金型を元に戻す。
PLパーティングラインを整えながら待つこと数分。
「これくらいかな」
ドラゴンをデフォルメしたデザインの『ドラ焼き』が完成する。
味はお好み焼きにかなり近づけたと思う。
「ソースをかけて食べてみて」
俺は出来立てのドラ焼きをメガーヌに差し出す。
彼女はそれを受け取り、ソースをかけて食べた。
「どう?」
恐る恐る感想を聞いてみる。
自分でもつまみ食いしたが、悪くはないと思うんだ。
「もう少し手を加えれば売れるわね」
「そ、そうか」
やはり、自分で作ったものを自分で評価するのは駄目だね。
料理のことは詳しくないので、改良はメガーヌに任せよう。
後日、メガーヌの手により改良されたドラ焼きが売り出され、冒険者ギルドの名物となった。
味もよく、形も面白いと評判だ。
冒険者でない街の人が、わざわざ買いに来るほどで、金型を追加発注したほどだ。
俺がその盛況ぶりを見ていると、シルビアがドラ焼きを持って隣にやって来た。
「職員ですら買うのに苦労するくらいの賑わいなんて凄いわね」
「ああ、これで7号棟の名誉は守られ、松川さん夫婦は円満、畑山さんと佐村さんは結婚だ」
「はぁ?」
俺の言うことが理解できずに、シルビアが怪訝な顔をした。
流石に『恋のお好み焼き』のエピソードは伝わらないか。
ここは日本全国味巡り・大阪編の前に出てきたラヂオ焼きのエピソードにしておけばよかったな。
小麦粉を焼く話ならローピンでもいいけど。
「最近じゃ、街中の店や向こうの冒険者ギルドも、うちを真似して小麦粉を焼いた料理を考えているみたいよ」
「それは楽しみだ」
「あら、真似されて怒るかと思ったのに」
「美味いものが食えるならいいじゃないか。今ある調理法だって、誰かが考えたのをみんなが真似したんだし」
「それもそうね」
これを機に金型技術が発展してくれることを願う。
※作者の独り言
たこ焼き製造の工程を特殊工程とした時に、たこが入っている事を保証するにはどうしたらよいのかというのを新人教育に使っています。
特に答えを用意している訳ではないが、品質管理経験者の方のご意見募集。
経験者じゃなくても構いませんが。
品質管理辛い。
以上、作者の愚痴でした。
それでは本編いってみましょう。
今日も一日よく働いた。
今まで行った不具合対策が継続されているのか、各工程を見回ってその維持を確認した。
これをしないと、作業者も次第にやらなくなっていくからな。
適度な工程巡回が緊張を持続させてくれるのだ。
一日中立ちっぱなしだったので、とても足が棒のようだ。
共同浴場で汗を流してから自分の部屋に帰ってきたが、何もする気になれず、そのままベッドに倒れ込む。
「それにしても、識字率が低いせいで、打てる対策の種類が限られるよな」
ついつい愚痴が溢れる。
文字を読める人が少ないため、文章による注意が出来ないのが痛い。
前世で読んでいた異世界転生の小説だと、主人公が異世界に学校を作るってのがよく出てきたよな。
などと、思い出した。
しかし、俺の居る世界ではそれは難しいだろう。
自分にそんな力がないっていうのもあるが、明治維新の頃の日本と一緒で、子供も貴重な労働力なのである。
その子供たちを学校で学ばせようとしたら、不足する労働力をどうしたら補えるのか考えなければならない。
義務教育の法制化ができるならば、教育を受けさせる義務を果たさない保護者を罰すればよいのだが、そんなことをしたら、国家に対する不満が高まるだろう。
王の権力を使えばそれも鎮圧できるだろうが、問題は王家による専制もあるな。
彼ら支配者にとっては、国民は愚民である方が望ましいのだ。
文字が読めるようになると、支配層が好き勝手に決めていた法律の明分化を要求してくるようになる。
彼らにとっては、自国の発展よりも、支配体制の継続のほうが望ましいのだ。
中央集権化して、巨大な国家を作るのであれば、人材不足の懸念から教育に力を入れるだろうけどな。
今のように王家とそれに連なる貴族達が治める政治体制では、義務教育などは危険思想だと思われるな。
それに、そんな小説の主人公たちは、戦後の教育しか知らないはずだが、学習指導要領もなしに全国に画一的な教育を普及させている。
どんなチート能力があるというのだろうか。
伝習館高校事件のような事が各地で起こると思うんだよね。
江戸時代の寺子屋や、藩校での教育はそれに近いので、必ずしも画一的な教育が必要という訳ではないが、基礎学力をつけるためには最低限ここは必要という指針を示す必要があると思うぞ。
教員の質も一定じゃないからだ。
もっと楽な異世界転生ライフを送りたかった……
「教育が駄目なら、料理とか定番だよね」
と思ったけど、俺に料理の知識がない。
前世でも得意料理はお湯を沸かして、即席ラーメンを作ることだったからな。
異世界に来てからわざわざ料理に目覚めることも無かった。
今でも食事は冒険者ギルドの食堂で済ませている。
あそこが定休日なしで助かった。
「工作機械や金型で料理を作れるわけじゃないしな。金型に金属じゃなくて食い物を流し込む訳にもいかないし」
と独り言を言ったところで、昔アメリカのリンゴマークの会社のスタッフと仕事をした時の事を思い出した。
サプライヤーを訪問した後にたこ焼きを食べたのだ。
金型に小麦粉を水に溶いた物を流し込むのを見て
「フラワーダイキャスト!」
ってアメリカ人が驚いていたんだよな。
たこ焼きやたいやきをこの世界に広めるのもいいかも知れない。
あんこは無いけど、小麦粉を焼いた料理なら広まるだろう。
鋳物の金型が存在する世界だから、たこ焼き用の金型も作ることができるだろ。
熱伝導率を考えたら、金か銅で金型を作りたいところだが、高価になると盗難の可能性もあるしな。
アルミ合金を俺が精錬してもいいのだが、アルミ合金がこの世界にないので、もっと混乱しそうだな。
鉄でいいか。
小麦粉と卵はあるし、出汁をとる文化もここにはある。
タコが無いけど、代わりのものを見つければいいんじゃないかな。
お好み焼きみたいになりそうな気もするが。
そんなわけで、食品の金型を考えていたら、いつの間にか眠ってしまい、気がついたら朝になっていた。
翌日冒険者ギルドの仕事が終わると、走ってデボネアさんの店に向かった。
金型職人を紹介してもらう為だ。
「別に紹介するのは構わんが、お前さんがどうして鋳物の金型を必要としているんじゃ?」
「試してみたいことがあるんですよ。流し込むのは金属じゃなくて、小麦粉ですけどね」
「小麦粉?」
日本でたい焼きやたこ焼きが考案されたのは明治時代以降である。
比較的新しい食べ物であり、中世には存在しなかったのだ。
こちらでも金型で小麦粉を溶かした液体を成形するという考えはまだ生まれておらず、世界初のフラワーダイキャストとなるのだ。
紹介してもらったのはステラで金型を作っているドワーフのストラトスだ。
やっぱりドワーフなので、デボネアさんにそっくりである。
俺はストラトスに金型の大まかなデザインを伝える。
左右対称の金型で、それを蝶番で連結させる。
この左右対称が上手くいかないと、完成時にパーティングラインがずれてしまい美しくないので、蝶番をつける時は俺が立ち会って、金型を三次元測定する予定だ。
すごい、三次元測定のスキルが役に立つぞ。
後日、約束通り俺が立ち会い測定をしながら、左右対称の金型が完成した。
すげー重たいが、頑張って冒険者ギルドの食堂に持ち込む。
「何をするの?」
「新しく考えた料理をしようと思ってね」
調理場を貸してくれたメガーヌが、俺が何をするのか心配で立ち会ってくれている。
心配と興味が半分半分かな?
金型を窯の上に置いて熱していく。
待ち時間の間に、予め準備していた水と小麦粉と卵とだし汁を混ぜる。
金型が熱くなってきたので、水を垂らして温度を確認する。
水の状態で大まかな温度がわかるのだが、温度測定のスキルがあれば楽だったなと今更気がついた。
「よし、温度はこれくらいでいいだろ」
俺は作った生地を右側の金型に流し込む。
その後、豚肉とキャベツを乗せて、焼き加減を確認する。
「頃合いか」
今度は左側の金型に生地を流し込む。
そして、右側の金型を持ち上げて、左側の金型と重ね合わせた。
右側の金型から生地が剥がれた事を確認し、金型を元に戻す。
PLパーティングラインを整えながら待つこと数分。
「これくらいかな」
ドラゴンをデフォルメしたデザインの『ドラ焼き』が完成する。
味はお好み焼きにかなり近づけたと思う。
「ソースをかけて食べてみて」
俺は出来立てのドラ焼きをメガーヌに差し出す。
彼女はそれを受け取り、ソースをかけて食べた。
「どう?」
恐る恐る感想を聞いてみる。
自分でもつまみ食いしたが、悪くはないと思うんだ。
「もう少し手を加えれば売れるわね」
「そ、そうか」
やはり、自分で作ったものを自分で評価するのは駄目だね。
料理のことは詳しくないので、改良はメガーヌに任せよう。
後日、メガーヌの手により改良されたドラ焼きが売り出され、冒険者ギルドの名物となった。
味もよく、形も面白いと評判だ。
冒険者でない街の人が、わざわざ買いに来るほどで、金型を追加発注したほどだ。
俺がその盛況ぶりを見ていると、シルビアがドラ焼きを持って隣にやって来た。
「職員ですら買うのに苦労するくらいの賑わいなんて凄いわね」
「ああ、これで7号棟の名誉は守られ、松川さん夫婦は円満、畑山さんと佐村さんは結婚だ」
「はぁ?」
俺の言うことが理解できずに、シルビアが怪訝な顔をした。
流石に『恋のお好み焼き』のエピソードは伝わらないか。
ここは日本全国味巡り・大阪編の前に出てきたラヂオ焼きのエピソードにしておけばよかったな。
小麦粉を焼く話ならローピンでもいいけど。
「最近じゃ、街中の店や向こうの冒険者ギルドも、うちを真似して小麦粉を焼いた料理を考えているみたいよ」
「それは楽しみだ」
「あら、真似されて怒るかと思ったのに」
「美味いものが食えるならいいじゃないか。今ある調理法だって、誰かが考えたのをみんなが真似したんだし」
「それもそうね」
これを機に金型技術が発展してくれることを願う。
※作者の独り言
たこ焼き製造の工程を特殊工程とした時に、たこが入っている事を保証するにはどうしたらよいのかというのを新人教育に使っています。
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