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第57話 キズ打痕サビはどこで発生したのかわからないので、犯人は名乗り出て下さい
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「将軍が呼んでいるのですか?」
俺はギルド長に呼び出されて執務室にいた。
またラパンからの予告でもあったのだろうか、それともオッティについての情報がわかったのだろうか。
まあ、仕事であるならば行かないという選択肢はないな。
「それでは行ってまいります」
「よろしく頼むよ」
そんなわけで、将軍のところへと向かうのだが、何故かシルビアが付いてくる。
今回は護衛という訳ではないと思うのだが。
仕事はいいのか?
「あんたを守るのが仕事よ」
と言われてしまった。
今回そんなに危険な仕事なの?
などと心配してみたが、将軍に会ったらそんな事はないと判明した。
しかし、ある意味もっと厄介な内容でもある。
「このグラスにキズがあったのですね」
「君ならわかるだろう、今流行りのエッセの工房で作られているグラスだ。しかも、ステンレスという不思議な金属でつくられているのだよ」
当然知っている。
なにせ出どころは俺だ。
この世界でステンレスが作れるのは俺くらいなもんだし、へら絞りは一般には出回っていない。
そのグラスに彫刻を施して、美術品として保有しようと思ったというのだ。
ところが、彫刻が終わって納品されたものには小さなキズがあるのである。
キズは小さいのだが、ステンレスのキズは目立つ。
ドラゴンの彫刻の顔の部分が凹んでいるのが、光の反射でよく分かる。
外観検査ではNGになるレベルだな。
「それで、このキズを直せと言われても無理ですけど」
「そんな事は頼まんよ。彫刻家にクレームを言ったらキズは前からあったかもしれないし、彫刻したあとにそちらで付けたのかも知れないと言われ、エッセの工房には彫刻家に渡したときにはキズは無かったと言われたのだよ。もう一度頼むにしても、同じことを繰り返してはバカみたいではないか。このキズがどこで付いたのかを調べてほしい」
そう、これほど厄介な事はない。
キズ、打痕、サビはどこで発生したのかは特定しづらいのである。
何故ならば、どこの工程でも発生する可能性があるからだ。
今回のような小さなキズでは、完全に犯人を特定出来ることなど珍しい。
因みに、前世でもキズの発生場所を特定出来なかった事は沢山ある。
最悪だったのは、試作品を納品した一ヶ月後に、タイヤで轢かれた跡がある製品を不良と突き返された事だな。
徹夜で再作成させられて、なおかつ対策書まで書かされた。
対策書には、タイヤで轢かれた製品を納品する会社に発注した御社が悪いと書いてやったがな。
なお、タイヤはフォークのタイヤっぽかった。
自社のフォークのタイヤとは形が一致しなかったので、当然納品した会社で踏んで壊したのだろう。
それでも犯人が名乗り出なかったので、真相は闇の中となった。
今回はそれほど酷い案件ではないが、どこでキズが付いたかを特定するのは難しいだろう。
「取り敢えず関係者を集めましょう。全員で検証するのがいいと思います」
と提案したら受け入れられた。
将軍の命令で、エッセ、運搬を担当したイノーバ、彫刻家のクオン、その弟子のセニックが官邸に呼ばれる。
こういう事は関係者全員で検証を行うのがよい。
更に、本来であれば後工程から遡って検証するのがよいのだ。
今回はそこまではしないけど。
全員が揃ったところで、俺はキズの確認を行う。
【電子顕微鏡】スキルでキズを拡大してみると、彫刻の線がキズの箇所では歪んでいるのがわかった。
「彫刻の線がキズの箇所で歪んでいますので、このキズは彫刻後に付いたとわかりました」
俺が20倍に拡大した画像を空中に映し出す。
なんて便利なスキルなんだ。
因みに10倍から2000倍までの倍率がある。
凄いぞ【電子顕微鏡】スキル。
「成程、映像では確かに線が他と比べて歪んでいるのがわかるな」
将軍をはじめ、この場に集まった人間が理解してくれた。
「つまり、俺は無罪でいいのか」
「ああ」
エッセはホッとした顔をした。
疑いが晴れて良かったね。
俺もホッとした。
「クオンさん、彫刻が終わったグラスは、どうしましたか?」
「弟子のセニックに箱に入れるように指示したよ。彫刻自体は満足の出来だったから、キズなんて無かったな」
「そうですか。ではセニックさんにお聞きします。箱に入れる前にどこかにぶつけましたか?」
「いいえ、そんな事は無かったと思います」
「成程、ではイノーバ、箱をここまで運ぶ最中にどこかにぶつけたり、落としたりしましたか?」
「いや、そんな事はしていない」
「では確認してみましょう」
俺は将軍が持っていたグラスを入れていた木箱を取り出す。
「木箱の外観にキズはありませんね。つまりイノーバの言うように、箱に外圧はかかっていないということです。箱の中を見ても、グラスに干渉して、今回のようなキズをつくる原因になる突起はありませんでした」
「俺は犯人じゃないって事でいいか?」
イノーバが俺を見てくる。
勿論、イノーバは犯人じゃないだろう。
「ええ。この箱の状況からして、イノーバは犯人じゃありません」
俺の言葉を聞いてイノーバは安堵する。
さて、ここで残ったのは……
「こうなると、キズをつけたのは二人になりましたね」
「二人?」
シルビアが不思議そうな顔をする。
「アルト、だって残ったのはセニックしかいないじゃない」
「そうでもないさ。将軍が自分でキズを付けた可能性だってあるんだよ」
「まさか」
シルビアは信じられないといった顔をする。
しかし、よくあることでもあるのだ。
落下させてしまった製品を、自責にしたくないために落下品だったと嘘を付く作業者など、沢山見てきた。
また、持ち方が悪く、自分で気が付かないうちに、作業台にぶつけていたりすることもある。
大量生産であれば、同じ様なキズが何度も発生するので、原因を特定する事も出来るだろうが、今回は一品物であり、将軍が気が付かないうちにキズを付けていたとしたら、それは絶対にわからないままだろう。
そこで将軍の口が開いた。
「確かに、私が意図せずにキズを付けた可能性もあるかも知れないが、今回に限っては犯人はセニックだよ」
「将軍、どうしてそういえるのでしょうか?」
俺はその指摘に納得がいかなかった。
セニックを犯人とするには、証拠が足りなすぎるのである。
「先程セニックだけは『無かったと思います』と歯切れが悪かった。これは自分に心当たりがあるから、逃げの言葉として思わず出てしまったんだよ」
将軍はそういうとセニックをじろりと睨んだ。
セニックは脂汗を浮かべている。
「あれは将軍のスキル【尋問】よ。嘘を付くことが出来なくなるわ」
とシルビアが耳打ちしてくれた。
そんなスキルがあるのか。
将軍に睨まれて、セニックはついに真実を語った。
「申し訳ございません。私が箱に入れる前にぶつけてしまったのです。見た感じでは凹みが小さいので問題ないと思い、そのまま出荷してしまいました」
ありがちだな。
キズをつけた本人が検査をしても、どうしても判断基準がゆるくなる。
自分のミスを誤魔化したいから当然だ。
セニックの言葉を聞いて将軍が怒鳴る。
「クオンの渾身の作品をキズつけて、なおかつそれを出荷するとは何事かっ!!」
これはそばがきを作ったほうがいいな。
いや、あの時は陶器に対してプラスチックや金属の器って言われていたな。
唐山陶人先生の茶碗の銘を「ソバガキ」にした話だ。
残念ながらここにはソバガキが無いし、セニックは意図的にミスを隠して悪質だから助けるのもな。
と思っていたのだが、シルビアが
「なんとかならないの?」
というので、今まで一度も使ったことのない【品質偽装】を使ってみることにした。
「しかし、将軍見て下さい」
「なんだ?」
「よくよく見てみれば、この凹みがこのグラスの彫刻に味を出していると思いませんか」
「言われてみればそうだな。どうして今まで怒っていたのだろうか。これはこれでいい作品になったな」
流石品質偽装だ。
不良品を良品と言い張ったら、将軍が納得してくれた。
これなら要求品質を満たしていない鉄鋼も、アルミも出荷仕放題だぜ。
いや、駄目だ駄目だ。
このスキルは封印しよう。
何かとてつもなく大きな力と戦う羽目になりそうだからな。
「これにて一件落着だな」
「犯人が見つかって、納品もできてよかったわね」
ただ、【品質偽装】を使用した後ろめたさから、その日はシルビアに付き合ってもらって、お酒に逃げて嫌なことを忘れましたとさ。
品質管理レベル21
スキル
作業標準書
作業標準書(改)
ノギス測定
三次元測定
マクロ試験
振動試験
電子顕微鏡
塩水噴霧試験
引張試験
硬度測定
重量測定
温度管理
レントゲン検査
輪郭測定 new!
蛍光X線分析
シックネスゲージ作成
ブロックゲージ作成
ピンゲージ作成
品質偽装
リコール
※作者の独り言
今日アルミ製品を落下させて変形させた人は名乗り出て下さい。
床の塗料から対象の工程は絞り込めていますが、運搬中なのか作業中なのかが絞り込めていません。
やった人はわかっていると思います。
俺の2時間を返してくれ。
俺はギルド長に呼び出されて執務室にいた。
またラパンからの予告でもあったのだろうか、それともオッティについての情報がわかったのだろうか。
まあ、仕事であるならば行かないという選択肢はないな。
「それでは行ってまいります」
「よろしく頼むよ」
そんなわけで、将軍のところへと向かうのだが、何故かシルビアが付いてくる。
今回は護衛という訳ではないと思うのだが。
仕事はいいのか?
「あんたを守るのが仕事よ」
と言われてしまった。
今回そんなに危険な仕事なの?
などと心配してみたが、将軍に会ったらそんな事はないと判明した。
しかし、ある意味もっと厄介な内容でもある。
「このグラスにキズがあったのですね」
「君ならわかるだろう、今流行りのエッセの工房で作られているグラスだ。しかも、ステンレスという不思議な金属でつくられているのだよ」
当然知っている。
なにせ出どころは俺だ。
この世界でステンレスが作れるのは俺くらいなもんだし、へら絞りは一般には出回っていない。
そのグラスに彫刻を施して、美術品として保有しようと思ったというのだ。
ところが、彫刻が終わって納品されたものには小さなキズがあるのである。
キズは小さいのだが、ステンレスのキズは目立つ。
ドラゴンの彫刻の顔の部分が凹んでいるのが、光の反射でよく分かる。
外観検査ではNGになるレベルだな。
「それで、このキズを直せと言われても無理ですけど」
「そんな事は頼まんよ。彫刻家にクレームを言ったらキズは前からあったかもしれないし、彫刻したあとにそちらで付けたのかも知れないと言われ、エッセの工房には彫刻家に渡したときにはキズは無かったと言われたのだよ。もう一度頼むにしても、同じことを繰り返してはバカみたいではないか。このキズがどこで付いたのかを調べてほしい」
そう、これほど厄介な事はない。
キズ、打痕、サビはどこで発生したのかは特定しづらいのである。
何故ならば、どこの工程でも発生する可能性があるからだ。
今回のような小さなキズでは、完全に犯人を特定出来ることなど珍しい。
因みに、前世でもキズの発生場所を特定出来なかった事は沢山ある。
最悪だったのは、試作品を納品した一ヶ月後に、タイヤで轢かれた跡がある製品を不良と突き返された事だな。
徹夜で再作成させられて、なおかつ対策書まで書かされた。
対策書には、タイヤで轢かれた製品を納品する会社に発注した御社が悪いと書いてやったがな。
なお、タイヤはフォークのタイヤっぽかった。
自社のフォークのタイヤとは形が一致しなかったので、当然納品した会社で踏んで壊したのだろう。
それでも犯人が名乗り出なかったので、真相は闇の中となった。
今回はそれほど酷い案件ではないが、どこでキズが付いたかを特定するのは難しいだろう。
「取り敢えず関係者を集めましょう。全員で検証するのがいいと思います」
と提案したら受け入れられた。
将軍の命令で、エッセ、運搬を担当したイノーバ、彫刻家のクオン、その弟子のセニックが官邸に呼ばれる。
こういう事は関係者全員で検証を行うのがよい。
更に、本来であれば後工程から遡って検証するのがよいのだ。
今回はそこまではしないけど。
全員が揃ったところで、俺はキズの確認を行う。
【電子顕微鏡】スキルでキズを拡大してみると、彫刻の線がキズの箇所では歪んでいるのがわかった。
「彫刻の線がキズの箇所で歪んでいますので、このキズは彫刻後に付いたとわかりました」
俺が20倍に拡大した画像を空中に映し出す。
なんて便利なスキルなんだ。
因みに10倍から2000倍までの倍率がある。
凄いぞ【電子顕微鏡】スキル。
「成程、映像では確かに線が他と比べて歪んでいるのがわかるな」
将軍をはじめ、この場に集まった人間が理解してくれた。
「つまり、俺は無罪でいいのか」
「ああ」
エッセはホッとした顔をした。
疑いが晴れて良かったね。
俺もホッとした。
「クオンさん、彫刻が終わったグラスは、どうしましたか?」
「弟子のセニックに箱に入れるように指示したよ。彫刻自体は満足の出来だったから、キズなんて無かったな」
「そうですか。ではセニックさんにお聞きします。箱に入れる前にどこかにぶつけましたか?」
「いいえ、そんな事は無かったと思います」
「成程、ではイノーバ、箱をここまで運ぶ最中にどこかにぶつけたり、落としたりしましたか?」
「いや、そんな事はしていない」
「では確認してみましょう」
俺は将軍が持っていたグラスを入れていた木箱を取り出す。
「木箱の外観にキズはありませんね。つまりイノーバの言うように、箱に外圧はかかっていないということです。箱の中を見ても、グラスに干渉して、今回のようなキズをつくる原因になる突起はありませんでした」
「俺は犯人じゃないって事でいいか?」
イノーバが俺を見てくる。
勿論、イノーバは犯人じゃないだろう。
「ええ。この箱の状況からして、イノーバは犯人じゃありません」
俺の言葉を聞いてイノーバは安堵する。
さて、ここで残ったのは……
「こうなると、キズをつけたのは二人になりましたね」
「二人?」
シルビアが不思議そうな顔をする。
「アルト、だって残ったのはセニックしかいないじゃない」
「そうでもないさ。将軍が自分でキズを付けた可能性だってあるんだよ」
「まさか」
シルビアは信じられないといった顔をする。
しかし、よくあることでもあるのだ。
落下させてしまった製品を、自責にしたくないために落下品だったと嘘を付く作業者など、沢山見てきた。
また、持ち方が悪く、自分で気が付かないうちに、作業台にぶつけていたりすることもある。
大量生産であれば、同じ様なキズが何度も発生するので、原因を特定する事も出来るだろうが、今回は一品物であり、将軍が気が付かないうちにキズを付けていたとしたら、それは絶対にわからないままだろう。
そこで将軍の口が開いた。
「確かに、私が意図せずにキズを付けた可能性もあるかも知れないが、今回に限っては犯人はセニックだよ」
「将軍、どうしてそういえるのでしょうか?」
俺はその指摘に納得がいかなかった。
セニックを犯人とするには、証拠が足りなすぎるのである。
「先程セニックだけは『無かったと思います』と歯切れが悪かった。これは自分に心当たりがあるから、逃げの言葉として思わず出てしまったんだよ」
将軍はそういうとセニックをじろりと睨んだ。
セニックは脂汗を浮かべている。
「あれは将軍のスキル【尋問】よ。嘘を付くことが出来なくなるわ」
とシルビアが耳打ちしてくれた。
そんなスキルがあるのか。
将軍に睨まれて、セニックはついに真実を語った。
「申し訳ございません。私が箱に入れる前にぶつけてしまったのです。見た感じでは凹みが小さいので問題ないと思い、そのまま出荷してしまいました」
ありがちだな。
キズをつけた本人が検査をしても、どうしても判断基準がゆるくなる。
自分のミスを誤魔化したいから当然だ。
セニックの言葉を聞いて将軍が怒鳴る。
「クオンの渾身の作品をキズつけて、なおかつそれを出荷するとは何事かっ!!」
これはそばがきを作ったほうがいいな。
いや、あの時は陶器に対してプラスチックや金属の器って言われていたな。
唐山陶人先生の茶碗の銘を「ソバガキ」にした話だ。
残念ながらここにはソバガキが無いし、セニックは意図的にミスを隠して悪質だから助けるのもな。
と思っていたのだが、シルビアが
「なんとかならないの?」
というので、今まで一度も使ったことのない【品質偽装】を使ってみることにした。
「しかし、将軍見て下さい」
「なんだ?」
「よくよく見てみれば、この凹みがこのグラスの彫刻に味を出していると思いませんか」
「言われてみればそうだな。どうして今まで怒っていたのだろうか。これはこれでいい作品になったな」
流石品質偽装だ。
不良品を良品と言い張ったら、将軍が納得してくれた。
これなら要求品質を満たしていない鉄鋼も、アルミも出荷仕放題だぜ。
いや、駄目だ駄目だ。
このスキルは封印しよう。
何かとてつもなく大きな力と戦う羽目になりそうだからな。
「これにて一件落着だな」
「犯人が見つかって、納品もできてよかったわね」
ただ、【品質偽装】を使用した後ろめたさから、その日はシルビアに付き合ってもらって、お酒に逃げて嫌なことを忘れましたとさ。
品質管理レベル21
スキル
作業標準書
作業標準書(改)
ノギス測定
三次元測定
マクロ試験
振動試験
電子顕微鏡
塩水噴霧試験
引張試験
硬度測定
重量測定
温度管理
レントゲン検査
輪郭測定 new!
蛍光X線分析
シックネスゲージ作成
ブロックゲージ作成
ピンゲージ作成
品質偽装
リコール
※作者の独り言
今日アルミ製品を落下させて変形させた人は名乗り出て下さい。
床の塗料から対象の工程は絞り込めていますが、運搬中なのか作業中なのかが絞り込めていません。
やった人はわかっていると思います。
俺の2時間を返してくれ。
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