137 / 439
第136話 設計完了後にIMDS登録を要求されても、禁止物質入っていたらどうすんのや
しおりを挟む
その日俺は珍しく、上位の冒険者からの相談を受けていた。
「鉄が使われていないかの測定ですか」
「ええ」
相談に来たのは銀等級の冒険者であるエアトレックとそのパーティーだ。
相談内容は装備品に鉄が使われていないかということだった。
「べつにそれは構わないが、理由を教えてくれるか」
俺はエアトレックに理由を訊ねた。
装備に鉄が使われていて困るのはハイジャック犯くらいなもんだろう。
この世界にハイジャックはないから、理由がわからない。
単に鉄が入っているかいないかでは、不具合の対策のしようもない。
その先にある理由が必要なのだ。
「実は精霊の祠に行って、精霊に会おうとしたのですが、会うことができなかったんですよ」
「それと鉄と何が関係するんだ?」
「精霊は鉄が嫌いなんです。だから、精霊の祠に行っても鉄を身に着けていると、精霊が出てきてくれないのです」
「なるほどね」
エアトレックが持ってきた武器はミスリル銀でできていた。
目の前に出された装備品を見る限りでは革製品が多い。
留め金は金や銀で作成されている。
合金で鉄が混じっているというわけでもない。
俺は装備品を見ながら唸る。
「うーん、鉄を使っている様子はないな。本当に鉄が理由なのか?」
「他のパーティーは精霊の祠で精霊に会うことができたって言っていた。俺達だけ会えないのは鉄だとしか思えないんだ」
どうしても精霊に会えなかった理由は鉄だというエアトレック。
こういう時は装備品をIMDS登録してあれば便利だな。
IMDSとはInternational Material Data Systemの略で、完成車両メーカーが環境保護を目的とした各種の法規に対応するため使用物質のデータを収集しているシステムだ。
ドイツで開発されたため、公用語が英語とドイツ語となっている。
日本語対応してほしいのだが、どうして日本のメーカーはこういうところが弱いのか。
SOC4物質をはじめとした禁止物質を使用していようものなら、大問題となるので、それを事前に発見できるのだ。
SOC4物質とは環境負荷物質で、水銀、鉛、カドミウム、六価クロムのことである。
使っちゃダメ絶対!
まあ、規定値以下ならいいんですけど。
というわけで、使用している物質を登録するシステムがあればいいのだが、そんなものをここに求めるのは間違いだな。
「どう鑑定をしても、鉄は見当たらないなー。本当にこれで全部か?」
俺はどうしても鉄が見当たらないので、エアトレックが冒険をしたときに持っていた装備品を、ここに全て持ってきていないのではないかと疑った。
「それは間違いないはずだ」
エアトレックは自信を持っている目をしている。
だとすると、見えないところに鉄が混ざっているのか。
そう考えていたら、思いついたことがあった。
「金属製の武器っていうと、このショートソードだけど、刀身を止めているピンってなんだろうな?分解してもいいか?」
「ああ、構わないぜ」
柄の部分をばらして止めピンを確認したところ、どうやらそれは鉄でできていた。
「これが、鉄だな」
「これかー」
エアトレック達もピンを覗き込む。
「ショートソードを買うとき、どうやって言ったか覚えているか?」
不具合箇所を突き止めることができたので、此処からは原因の調査だ。
「ミスリル銀でできたソードが欲しいって言ったんだよな」
「なるほど、鉄は使ってないという条件ではなかったのだな」
「ああ。でも、ミスリル銀のソードっていったら、精霊に会うために鉄じゃだめなんだなって気が付くだろ、普通は」
エアトレックが反論してきた。
だが、その普通はという考えは大きな間違いだ。
設備のM6のねじの頭を締めすぎてねじ切ってしまう作業者にたいして、「普通は締める力加減をわかっているだろう」というのは、作業を指示したほうが悪い。
締め付けトルクについては、トルクレンチやトルクドライバーを使用して、誰がやっても一定の力で作業できるようにするべきなのである。
知っているはずと思い込んだ方に原因はある。
対策書でも、指導者が常識的に知っていると思い込んだっていうのは、なぜなぜ分析に出てきやすい。
エアトレックにもそのことをわかりやすく伝えた。
「確かに、刀鍛冶が精霊の祠の事を知っているわけもないか」
「そうだろう。刀身はミスリル銀だったのだから、注文通りじゃないか」
「次からは鉄を使わないでくれって言わないとな」
エアトレックは納得してくれた。
彼らがベテラン冒険者であったが故に、自分達が知っていることは常識であると錯覚したのだろう。
これから止めピンの材質を変更して、再び精霊の祠に行ってみるという彼らの背中を見ながら、俺は前世で書いた対策書を思い出していた。
品質管理レベル39
スキル
作業標準書
作業標準書(改)
温度測定
荷重測定
硬度測定
コンタミ測定
三次元測定
重量測定
照度測定
投影機測定
ノギス測定
pH測定
輪郭測定
マクロ試験
塩水噴霧試験
振動試験
引張試験
電子顕微鏡
温度管理
照度管理
レントゲン検査
蛍光X線分析
粗さ標準片作成
ガバリ作成
C面ゲージ作成
シックネスゲージ作成
定盤作成
テーパーゲージ作成
ネジゲージ作成
ピンゲージ作成
ブロックゲージ作成
マグネットブロック作成 new!
溶接ゲージ作成
リングゲージ作成
ラディアスゲージ作成
ゲージR&R
品質偽装
リコール
※作者の独り言
IMDSって設計が登録をするべきだと思うんですよね。
使用禁止物質を使った設計をされていたら、品管が初物提出前に登録するときに気が付いても手遅れですからね。
っていうか、SOC4物質の含有量調査にだって時間がかかるので、設計時にやるようにお願いしたいです。
「鉄が使われていないかの測定ですか」
「ええ」
相談に来たのは銀等級の冒険者であるエアトレックとそのパーティーだ。
相談内容は装備品に鉄が使われていないかということだった。
「べつにそれは構わないが、理由を教えてくれるか」
俺はエアトレックに理由を訊ねた。
装備に鉄が使われていて困るのはハイジャック犯くらいなもんだろう。
この世界にハイジャックはないから、理由がわからない。
単に鉄が入っているかいないかでは、不具合の対策のしようもない。
その先にある理由が必要なのだ。
「実は精霊の祠に行って、精霊に会おうとしたのですが、会うことができなかったんですよ」
「それと鉄と何が関係するんだ?」
「精霊は鉄が嫌いなんです。だから、精霊の祠に行っても鉄を身に着けていると、精霊が出てきてくれないのです」
「なるほどね」
エアトレックが持ってきた武器はミスリル銀でできていた。
目の前に出された装備品を見る限りでは革製品が多い。
留め金は金や銀で作成されている。
合金で鉄が混じっているというわけでもない。
俺は装備品を見ながら唸る。
「うーん、鉄を使っている様子はないな。本当に鉄が理由なのか?」
「他のパーティーは精霊の祠で精霊に会うことができたって言っていた。俺達だけ会えないのは鉄だとしか思えないんだ」
どうしても精霊に会えなかった理由は鉄だというエアトレック。
こういう時は装備品をIMDS登録してあれば便利だな。
IMDSとはInternational Material Data Systemの略で、完成車両メーカーが環境保護を目的とした各種の法規に対応するため使用物質のデータを収集しているシステムだ。
ドイツで開発されたため、公用語が英語とドイツ語となっている。
日本語対応してほしいのだが、どうして日本のメーカーはこういうところが弱いのか。
SOC4物質をはじめとした禁止物質を使用していようものなら、大問題となるので、それを事前に発見できるのだ。
SOC4物質とは環境負荷物質で、水銀、鉛、カドミウム、六価クロムのことである。
使っちゃダメ絶対!
まあ、規定値以下ならいいんですけど。
というわけで、使用している物質を登録するシステムがあればいいのだが、そんなものをここに求めるのは間違いだな。
「どう鑑定をしても、鉄は見当たらないなー。本当にこれで全部か?」
俺はどうしても鉄が見当たらないので、エアトレックが冒険をしたときに持っていた装備品を、ここに全て持ってきていないのではないかと疑った。
「それは間違いないはずだ」
エアトレックは自信を持っている目をしている。
だとすると、見えないところに鉄が混ざっているのか。
そう考えていたら、思いついたことがあった。
「金属製の武器っていうと、このショートソードだけど、刀身を止めているピンってなんだろうな?分解してもいいか?」
「ああ、構わないぜ」
柄の部分をばらして止めピンを確認したところ、どうやらそれは鉄でできていた。
「これが、鉄だな」
「これかー」
エアトレック達もピンを覗き込む。
「ショートソードを買うとき、どうやって言ったか覚えているか?」
不具合箇所を突き止めることができたので、此処からは原因の調査だ。
「ミスリル銀でできたソードが欲しいって言ったんだよな」
「なるほど、鉄は使ってないという条件ではなかったのだな」
「ああ。でも、ミスリル銀のソードっていったら、精霊に会うために鉄じゃだめなんだなって気が付くだろ、普通は」
エアトレックが反論してきた。
だが、その普通はという考えは大きな間違いだ。
設備のM6のねじの頭を締めすぎてねじ切ってしまう作業者にたいして、「普通は締める力加減をわかっているだろう」というのは、作業を指示したほうが悪い。
締め付けトルクについては、トルクレンチやトルクドライバーを使用して、誰がやっても一定の力で作業できるようにするべきなのである。
知っているはずと思い込んだ方に原因はある。
対策書でも、指導者が常識的に知っていると思い込んだっていうのは、なぜなぜ分析に出てきやすい。
エアトレックにもそのことをわかりやすく伝えた。
「確かに、刀鍛冶が精霊の祠の事を知っているわけもないか」
「そうだろう。刀身はミスリル銀だったのだから、注文通りじゃないか」
「次からは鉄を使わないでくれって言わないとな」
エアトレックは納得してくれた。
彼らがベテラン冒険者であったが故に、自分達が知っていることは常識であると錯覚したのだろう。
これから止めピンの材質を変更して、再び精霊の祠に行ってみるという彼らの背中を見ながら、俺は前世で書いた対策書を思い出していた。
品質管理レベル39
スキル
作業標準書
作業標準書(改)
温度測定
荷重測定
硬度測定
コンタミ測定
三次元測定
重量測定
照度測定
投影機測定
ノギス測定
pH測定
輪郭測定
マクロ試験
塩水噴霧試験
振動試験
引張試験
電子顕微鏡
温度管理
照度管理
レントゲン検査
蛍光X線分析
粗さ標準片作成
ガバリ作成
C面ゲージ作成
シックネスゲージ作成
定盤作成
テーパーゲージ作成
ネジゲージ作成
ピンゲージ作成
ブロックゲージ作成
マグネットブロック作成 new!
溶接ゲージ作成
リングゲージ作成
ラディアスゲージ作成
ゲージR&R
品質偽装
リコール
※作者の独り言
IMDSって設計が登録をするべきだと思うんですよね。
使用禁止物質を使った設計をされていたら、品管が初物提出前に登録するときに気が付いても手遅れですからね。
っていうか、SOC4物質の含有量調査にだって時間がかかるので、設計時にやるようにお願いしたいです。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。
享年は25歳。
周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。
25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて
ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記
大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。
それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。
生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、
まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。
しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。
無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。
これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?
依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、
いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。
誰かこの悪循環、何とかして!
まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて
私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい
あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。
誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。
それが私の最後の記憶。
※わかっている、これはご都合主義!
※設定はゆるんゆるん
※実在しない
※全五話
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる