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第155話 ボイラー技士
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ボイラー技士。
それは日本では国家資格である。
ボイラーは大きな工場やデパートなどでは、空調に使われることもあるが、異世界にはそんなものはない。
蒸気機関車でもあればいいのだが、蒸気機関すらまだ発明されていない。
そして、そんなボイラーを扱うジョブを神から与えられたとしても、実際に行う仕事はないのだ。
「で、冒険者になってはみたものの、適性が無いから活躍が出来ないと」
「はい」
相談窓口で俺の目の前意にいるのは、イグニスという新人冒険者だ。
ジョブはボイラー技士であり、仕事がないので冒険者をすることになったという非常に親近感の湧く相談相手である。
ボイラー技士の名前がイグニスなんて丁度いいよね。
相談内容は、冒険者になってはみたものの、やはり適性がないのでどうにかならないかという事だ。
どうにかならないかと言われても、俺がボイラーを作れるわけではないしな。
いや、一人ボイラーをつくれそうな心当たりがあるな。
ちょうど定期的に豆腐を食べに来ると連絡があったな。
「明日時間がとれるなら、この時間に来て欲しい」
「わかりました」
俺はイグニスと一緒にオッティに会う事にした。
あいつなら相談に乗ってくれるだろう。
そして翌日。
オッティとグレイスがティーノの店に来たところに合流する。
「オッティ、こちらがボイラー技士のイグニスだ」
「よろしくお願いします」
イグニスがぺこりとお辞儀をする。
緊張しているのが伝わってくる。
なにもとって喰おうって訳じゃないんだから、そんなに緊張しなくてもいいのに。
「ボイラー技士か。随分と珍しいジョブだな」
オッティもそのジョブに驚く。
「そうなんだよ。ボイラーが無いのにボイラー技士のジョブで困っていたんだ。オッティなら蒸気機関くらいつくれるだろう」
「なんですかその蒸気機関って」
ボイラー技士とはいえ、蒸気機関を知らないイグニス。
日本ではワットの蒸気機関の発明は学校で習うが、そんな情報はここにはない。
「お湯を沸かして機械を動かす装置だよ。ボイラーというのはお湯を沸かすための装置の事さ」
俺はイグニスに説明する。
いまいちピンと来ていないようだな。
描くものでもあれば、絵で説明できるのだが、生憎とそんなものはない。
「蒸気機関なら既につくったぞ」
オッティは事もなげにそう言った。
「え、本当か。じゃあボイラーの管理を任せてくれたりとか?」
「いや、お湯を沸かすのはボイラーじゃない」
「じゃあ、何で?」
「電気だ」
「電気……」
なんとオッティはお湯を沸かす仕組みを、ボイラーのような外燃機関ではなくて、電力にしたというのだ。
確かに抵抗熱でお湯を沸かすことはできるかもしれないが、なんで電気なんだろうか。
そもそも電気でモーターを回せば、蒸気機関なんていらないじゃないか。
「よく考えてみろ、モーターのコイルを作るのがこの世界で出来ると思うか?」
「確かに……」
オッティに言われて気が付いたが、コイルを作る技術が無かった。
前世でコイル巻き設備を作ったことはあるが、この世界で同じことは出来ると思えない。
「ところで電力はどうやって作ったんだよ。コイル無しじゃ発電できないだろう」
俺は疑問をオッティにぶつけてみた。
「塩水につけたアルミと銅の板を何枚も直列につないだ。アルミと塩を大量にお前から貰ったからな」
そうだった。
オッティに頼まれてアルミと塩を作って渡したんだった。
因みに銅は+極、アルミは-極である。
十円が+で一円が-と覚えれば覚えやすいだろう。
そのまんまだ。
日本の硬貨を塩水に浸したキッチンペーパーとニクロム線を使って電池に出来るのだ。
お金を傷つけると犯罪だから、真似しないように。
貨幣損傷等取締法というのがあるのだ。
異世界だから関係ないけど。
「まあ、電力を火力に変えればいいだけだよな」
そういう俺に、オッティは┐(´д`)┌という漫画のようなゼスチャーをした。
「木炭か?石炭か?どうやってそれを継続させる?そして、この世界に温室効果ガスを増やすのか?」
そう言われると何も言い返せない。
「環境に良くないのが私達だけなら、影響は小さいじゃない。だったら構わないわ」
グレイスはふんと鼻をならす。
どこぞの環境活動家少女の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい台詞だな。
「まあまあ。今はイグニスの仕事の相談だ。試しにボイラーを作ってみるのもいいんじゃないか。石炭だってこの世界でも産出するだろう」
そう言って険悪になった話題の転換をさせた。
環境問題は個人個人の考えがあるから、会社でも触れたくない話題である。
環境関連の国際規格を認証取得している企業ですが、至らぬ点が多々ありまして……
いや、死んじゃったからもう気にすることないか。
「ところでオッティ」
「なんだ?」
「蒸気機関があるということは、熱交についても開発していくということでいいのか?」
熱交とは熱交換器の略である。
ボイラーは蒸気を発生させるための熱交換器である。
エアコンなんかも熱交換器である。
エアコンあると快適だよねとは思ったが、熱交換器つくるのって大変だよね。
冷媒どうやって用意するのっていうのがある。
冷媒とは熱交換器の中を循環する物質である。
冷媒番号はアメリカ冷凍空調学会によって名前の付け方が決められていたりするのだが、まあ死ぬまでに使わない知識だな。
「HVACとオリフィスとらせん二重管、ヒートポンプやエバポレータ、ヒーターコアは既に試作してある。FEMやCPMはおいおいだな」
用語解説は面倒なので置いておくが、オッティの言っていることはカーエアコン関連だと思ってもらいたい。
自動車が開発される前にカーエアコンのシステムを開発してどうしようというのだ。
工業の発展の順番を考えて欲しい。
しかし、カーエアコンの仕組みを作っているということは、コンプレッサー技術を確立したということか。
それに、HVACなんて樹脂成型技術の塊だろう。
どうやって試作したんだよ。
「スキルでちょちょいとな」
だそうである。
そりゃそうだよね。
冷媒を通すパイプですら、この前俺がホーマーにお願いしてやっと鉄パイプを作ったのだ。
スキルなしでの生産なんて1000年後だろうな。
「あんたら、訳の分からない単語で盛り上がってないで、さっさとこの子の仕事を決めなさい」
「「はい……」」
チンプンカンプンな単語ばかり出てくるので、不機嫌になったグレイスに会話を止められてしまった。
イグニスも恐縮して固まったままだ。
大丈夫、君の仕事はボイラーに石炭をくべる仕事だからね。
そういえば、ボイラーソルトはどうするんだろうか?
「塩は?」
「軟水はスキルで作っているから、塩なんていらない」
そうですか。
異世界転生ちょろい。
そんなわけで、イグニスはオッティと一緒にカイロン侯爵のところに行くことになった。
就職口が見つかってよかったね。
※作者の独り言
らせん二重管とオリフィスが一緒かよっていうのが笑いどころです。
それは日本では国家資格である。
ボイラーは大きな工場やデパートなどでは、空調に使われることもあるが、異世界にはそんなものはない。
蒸気機関車でもあればいいのだが、蒸気機関すらまだ発明されていない。
そして、そんなボイラーを扱うジョブを神から与えられたとしても、実際に行う仕事はないのだ。
「で、冒険者になってはみたものの、適性が無いから活躍が出来ないと」
「はい」
相談窓口で俺の目の前意にいるのは、イグニスという新人冒険者だ。
ジョブはボイラー技士であり、仕事がないので冒険者をすることになったという非常に親近感の湧く相談相手である。
ボイラー技士の名前がイグニスなんて丁度いいよね。
相談内容は、冒険者になってはみたものの、やはり適性がないのでどうにかならないかという事だ。
どうにかならないかと言われても、俺がボイラーを作れるわけではないしな。
いや、一人ボイラーをつくれそうな心当たりがあるな。
ちょうど定期的に豆腐を食べに来ると連絡があったな。
「明日時間がとれるなら、この時間に来て欲しい」
「わかりました」
俺はイグニスと一緒にオッティに会う事にした。
あいつなら相談に乗ってくれるだろう。
そして翌日。
オッティとグレイスがティーノの店に来たところに合流する。
「オッティ、こちらがボイラー技士のイグニスだ」
「よろしくお願いします」
イグニスがぺこりとお辞儀をする。
緊張しているのが伝わってくる。
なにもとって喰おうって訳じゃないんだから、そんなに緊張しなくてもいいのに。
「ボイラー技士か。随分と珍しいジョブだな」
オッティもそのジョブに驚く。
「そうなんだよ。ボイラーが無いのにボイラー技士のジョブで困っていたんだ。オッティなら蒸気機関くらいつくれるだろう」
「なんですかその蒸気機関って」
ボイラー技士とはいえ、蒸気機関を知らないイグニス。
日本ではワットの蒸気機関の発明は学校で習うが、そんな情報はここにはない。
「お湯を沸かして機械を動かす装置だよ。ボイラーというのはお湯を沸かすための装置の事さ」
俺はイグニスに説明する。
いまいちピンと来ていないようだな。
描くものでもあれば、絵で説明できるのだが、生憎とそんなものはない。
「蒸気機関なら既につくったぞ」
オッティは事もなげにそう言った。
「え、本当か。じゃあボイラーの管理を任せてくれたりとか?」
「いや、お湯を沸かすのはボイラーじゃない」
「じゃあ、何で?」
「電気だ」
「電気……」
なんとオッティはお湯を沸かす仕組みを、ボイラーのような外燃機関ではなくて、電力にしたというのだ。
確かに抵抗熱でお湯を沸かすことはできるかもしれないが、なんで電気なんだろうか。
そもそも電気でモーターを回せば、蒸気機関なんていらないじゃないか。
「よく考えてみろ、モーターのコイルを作るのがこの世界で出来ると思うか?」
「確かに……」
オッティに言われて気が付いたが、コイルを作る技術が無かった。
前世でコイル巻き設備を作ったことはあるが、この世界で同じことは出来ると思えない。
「ところで電力はどうやって作ったんだよ。コイル無しじゃ発電できないだろう」
俺は疑問をオッティにぶつけてみた。
「塩水につけたアルミと銅の板を何枚も直列につないだ。アルミと塩を大量にお前から貰ったからな」
そうだった。
オッティに頼まれてアルミと塩を作って渡したんだった。
因みに銅は+極、アルミは-極である。
十円が+で一円が-と覚えれば覚えやすいだろう。
そのまんまだ。
日本の硬貨を塩水に浸したキッチンペーパーとニクロム線を使って電池に出来るのだ。
お金を傷つけると犯罪だから、真似しないように。
貨幣損傷等取締法というのがあるのだ。
異世界だから関係ないけど。
「まあ、電力を火力に変えればいいだけだよな」
そういう俺に、オッティは┐(´д`)┌という漫画のようなゼスチャーをした。
「木炭か?石炭か?どうやってそれを継続させる?そして、この世界に温室効果ガスを増やすのか?」
そう言われると何も言い返せない。
「環境に良くないのが私達だけなら、影響は小さいじゃない。だったら構わないわ」
グレイスはふんと鼻をならす。
どこぞの環境活動家少女の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい台詞だな。
「まあまあ。今はイグニスの仕事の相談だ。試しにボイラーを作ってみるのもいいんじゃないか。石炭だってこの世界でも産出するだろう」
そう言って険悪になった話題の転換をさせた。
環境問題は個人個人の考えがあるから、会社でも触れたくない話題である。
環境関連の国際規格を認証取得している企業ですが、至らぬ点が多々ありまして……
いや、死んじゃったからもう気にすることないか。
「ところでオッティ」
「なんだ?」
「蒸気機関があるということは、熱交についても開発していくということでいいのか?」
熱交とは熱交換器の略である。
ボイラーは蒸気を発生させるための熱交換器である。
エアコンなんかも熱交換器である。
エアコンあると快適だよねとは思ったが、熱交換器つくるのって大変だよね。
冷媒どうやって用意するのっていうのがある。
冷媒とは熱交換器の中を循環する物質である。
冷媒番号はアメリカ冷凍空調学会によって名前の付け方が決められていたりするのだが、まあ死ぬまでに使わない知識だな。
「HVACとオリフィスとらせん二重管、ヒートポンプやエバポレータ、ヒーターコアは既に試作してある。FEMやCPMはおいおいだな」
用語解説は面倒なので置いておくが、オッティの言っていることはカーエアコン関連だと思ってもらいたい。
自動車が開発される前にカーエアコンのシステムを開発してどうしようというのだ。
工業の発展の順番を考えて欲しい。
しかし、カーエアコンの仕組みを作っているということは、コンプレッサー技術を確立したということか。
それに、HVACなんて樹脂成型技術の塊だろう。
どうやって試作したんだよ。
「スキルでちょちょいとな」
だそうである。
そりゃそうだよね。
冷媒を通すパイプですら、この前俺がホーマーにお願いしてやっと鉄パイプを作ったのだ。
スキルなしでの生産なんて1000年後だろうな。
「あんたら、訳の分からない単語で盛り上がってないで、さっさとこの子の仕事を決めなさい」
「「はい……」」
チンプンカンプンな単語ばかり出てくるので、不機嫌になったグレイスに会話を止められてしまった。
イグニスも恐縮して固まったままだ。
大丈夫、君の仕事はボイラーに石炭をくべる仕事だからね。
そういえば、ボイラーソルトはどうするんだろうか?
「塩は?」
「軟水はスキルで作っているから、塩なんていらない」
そうですか。
異世界転生ちょろい。
そんなわけで、イグニスはオッティと一緒にカイロン侯爵のところに行くことになった。
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らせん二重管とオリフィスが一緒かよっていうのが笑いどころです。
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