冒険者ギルド品質管理部 ~生まれ変わっても品管だけは嫌だと言ったのに~

犬野純

文字の大きさ
282 / 439

第281話 高級料亭の料理人がハンバーガーショップを始めるような

しおりを挟む
カネテックの枡形マグネットブロックが錆びてしまいました。
誰だよ、素手で触った奴は!
それでは本編いってみましょう。


 今日はブレイドが相談に来ている。
 なんでも、食堂の料理人が独立するので、相談にのって欲しいというのだ。
 それは俺に聞かれても困るのだが、同業者に聞くわけにもいかないしな。

「こいつが独立したいと言っているシグナムだ」

 ブレイドから紹介されたのはシグナムという若い男であった。
 何度か厨房で見たことがある。
 独立するにあたってなんの相談だろうか?

「よろしくお願いします」

 シグナムはそう言って、ペコリと頭を下げた。

「どんな相談があって、俺のところに?」

 そう訊ねると、彼は真剣な表情となった。

「実は冒険者ギルドの食堂の味付けでは、冒険者への受けはいいけど、それ以外の人達からの評価が低くなるのかと思いまして。一般客を相手に料理を作ることで、自分の実力が世間でどの程度通用するのかを確認したいのです」

「どういうこと?」

「冒険者は総じて味付けの濃い料理を望みます」

 シグナムの言うことは、確かにそのとおりだ。
 体を使う職業の冒険者は汗をかくせいなのか、濃い味付けの料理を好む。
 そういう需要に応えるのもよいが、他の人達にも料理を提供して、どう評価されるのかを確認したいのか。
 チャレンジ精神があっていいね。

「私は料理人です。美味しいものを作って大勢の人に喜んで貰いたいんです。一握りのの冒険者だけに食べて貰うのではつまらないと思うんです」

 シグナムの気持ちはわかった。
 どこかで聞いたような気もするし。
 さて、今からピクルスを贈る準備をしておこうか。

「それなので、多くの人が気軽に食べてくれるように、屋台でまずは始めたいと思い、屋台で料理するときの注意すべき点を教えていただきたいのです」

 シグナムはまっすぐに俺を見てくる。
 そういうことか。
 しかし、俺は屋台なんてたこ焼きもどきのものしか経験がない。
 繊細な味付けの料理を屋台で提供するときに、起こりそうな不具合の相談と言われてもな。
 金属加工の会社に、同じ製造業なんだからといって、電子部品の工程FMEAを依頼しても、多機能横断チームは素人ばかりだろ。
 そんなものは抜けが多くて駄目だ。

「今すぐには難しいなあ。知り合いを集めるから、少し待ってほしい」

 俺はここでの回答は控えた。
 しかし、このままなにもしないわけではない。
 他の料理人の意見を聞いて、それなりのものをシグナムに伝えようと思うのだ。
 そのために時間が欲しい。

「わかりました。私もすぐにここを退職するわけではありませんので、待たせていただきます」

 シグナムはそう言ってくれた。

 俺はシグナムの期待に応えるべく、ティーノ、メガーヌ、コロラド、ミゼットに屋台で料理するときの注意点を聞いて回った。
 ミゼットは子供たちに任せている屋台での、問題点の把握をお願いしたのだ。
 自分でやれよ?
 そうですね……

 そして、再びシグナムとの話し合いとなった。

「結論から言うと、誰も経験したことがないので、どうにも対策のたてようがない」

 そう伝えた。

「そんな。それじゃあどうすれば」

 泣きそうになるシグナム。
 これだけだと相談にのった意味がない。
 一呼吸おいて、シグナムに対策を話し始めた。

「リスクをとりすぎなければいいんだよ。冒険者ギルドの経営する屋台として、新しく商売を始めたらいい。ダメならまた食堂で料理をすればいいんだから」

 これならリスクはないな。
 試験販売のハンバーガーを返品されても問題ない。
 本当は返品じゃなくて、返金になるんだけど。
 でも、あそこのハンバーガーを美味しいとか言ってる連中が、味の事わかるわけ無いよね。
 どことは言いませんけど。
 っていうか、あそこでも優秀な料理人っていう設定なのに、一般人よりも味覚が劣るとかヤバイよね。
 物語的に仕方がないのかもしれないけど。

 話を戻そうか。
 そして、冒険者ギルドもシグナムがうまく行けば、新しいノウハウを手に入れることが出来る。
 メリットがない訳じゃない。
 いうなれば、社内ベンチャー的な奴だ。

「これでどうかな?もちろん、シグナムが屋台をやるなかで、色々と問題が出てくるとおもう。そのときに、一つ一つの事例について対策を考えていこう」

 俺の話を聞いて、シグナムは黙って考え込む。
 そして、しばらくの後に頷いてくれた。

「それでお願いします」

 こうして、シグナムは繊細な味の料理に挑戦することになった。
 結果についてはまた後程。


※作者の独り言
電気自動車の普及への警戒感から、内燃機関関連の部品メーカーは、新規の製品に挑戦しているとか聞きます。
ノウハウが無いところに挑戦するのは大変ですよね。
過去トラもわからないので、FMEAなんてろくなものが出来ない。
それどころかまともな製品が出来ない。
弊社も偉い人が「飲食業に進出するぞ!」とか言い出したら困りますね。
ラーメンなんてお湯を入れる位しかやったことがないので。
前に書いたかもしれませんが、設備屋に金型加工させたら面取りしちゃったりしてくれました。
金属加工の範囲ですらそれなのに、違う業種に出ていくのは成功する気がしない。
既存の企業を買収するのが手っ取り早いですよね。
そういえば、フェイスガードを車両メーカーが作ったり、製造メーカーを支援するって話がありましたが、とある車両メーカーの品質管理をフェイスガード製造メーカーに持ち込んだ話の続報が聞きたいですね。
異世界に持ち込むよりは何とかなるかとは思いますけど、自動車のティア1に要求するようなことを、いきなり持ち込まれたらどうなるのかな?
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ
ファンタジー
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。 そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。 だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。 マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。 全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。 それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。 マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。 自由だ。 魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。 マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。 これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

処理中です...