冒険者ギルド品質管理部 ~生まれ変わっても品管だけは嫌だと言ったのに~

犬野純

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第308話 PDCAのC

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教えてください。
この世のありとあらゆるものの、部品のコストを優先したのならば、品質は死にますか?
納期は死にますか?
対策の苦しみと、却下の悲しみと、現在の自分の辛さと……
品管は死にますか?
製造は死にますか?
生管はどうですか?
みんな逝くのですか?
何がとは具体的には言えませんけどね。
それでは本編いってみましょう。

 まさかこんなところで、コントロールプランを奪った連中に出会すとは。
 やはり、初期流動期間中は何が起きるかわからないな。
 何の初期流動なのかは知らないが。

 前回冒険者が襲われた状況から、カイエン隊ではこいつらの相手をするには荷が重い。
 役者不足だな。
 俺とシルビアで倒すしかない。
 彼我の距離は30メートル。
 ミリ表示は不評なので封印だ。
 辛い……

「あの日野玉女をなんとかしなさい」

「わかった」

 シルビアからの指示が出た。
 シルビアが戦士のダイナに接近したいのだが、ダークエルフの放つファイヤーボールによって阻まれている。
 それを止めなければならない。
 そういえば、日野玉?
 誤変換じゃないよ。

「【テーパーゲージ作成】!!」

 女ダークエルフの足元からテーパーゲージを生やす。
 気分はヴラド3世。
 串刺し公だな。

 だが、テーパーゲージの攻撃は空を切った。
 華麗な身のこなしで、足元から生えてきたペーパーゲージを紙一重で躱す。

「身軽な!」

 舌打ちするも、シルビアは戦士たちに接敵できた。

「詠唱が止まれば十分よ」

 と言われる。
 そうだな。
 さて、再び詠唱されないように、ここからは詰将棋のごとく連続で攻撃をしていくぞ。

「なっ!?」

 まずはRPS補正で相手の体の自由を奪う。
 これには相手も驚いたようだ。
 驚いて声が出た。
 なにせ、そんなスキルなんて初体験だろう。
 動けなくなる未知の恐怖だ。
 ここで上空に定盤を作り出して潰そうかと思ったけど、色々と聞きたいこともあるので、周囲を囲むだけにしておいた。
 どうせRPS補正で固定しているから逃げられないのだが、シルビアへのファイヤーボールの射線は潰しておかないとね。
 よし、あとは相手の意識を刈り取るだけだ。
 定盤を迂回して近づこうとしたが、ダークエルフの足元に魔法陣が出現したかと思ったら、その姿が消えてしまった。

「転移魔法かな?」

 多分そうだろう。
 こちらの指定した座標を魔法で上書きして、どこかに転移したのだろうな。
 こうなると、次からRPS補正は使えないな。
 逃げられる前に一撃で気絶させないと。

「そうそう、シルビアは――」

 ダークエルフに逃げられたのでシルビアの加勢に向かおうと思ったが、向こうも終わっていた。
 5人の戦士が地面に転がっている。
 圧倒的だな。
 思わず感心した。

「殺し――」

「てないわよ。尋問することもあるでしょ。あたし達じゃなくて、偉い人たちがね。連れて帰りたいんだけど、この人数だとあたし一人じゃ無理ね。カイエン隊の付き添いはどうする?」

 そう、今回はカイエン隊の地下20階層到達のためのPDCAサイクルとして、ここに来ているのだ。
 カイエンに視線を投げると、彼は頷き返してきた。

「こんなのがいるんじゃ、俺達だけだとこの先は危ない。今回はここまでにしますよ。転がっている連中を抱えていくのは、俺達でも役に立てそうですしね」

 と、肩をすくめてみせた。
 妥当な判断だな。
 魔王の手下がここで何をしていたのかは知らないが、更に奥にはもっと手強い連中がいるかもしれない。
 俺とシルビアがここでいなくなった時に、彼らだけでは対象出来ないだろう。

 さて、当初の目的を忘れないうちに整理しておこう。
 PDCAサイクルでいえば、Doの結果Checkを実施できるところまで来たわけだ。
 いまここでそれをするわけにはいかないので、街に帰ってからにはなるけどな。

「じゃあ、こいつらをロープで縛って、街まで連行していってね」

「え、俺達だけで?」

 シルビアからそう言われて、カイエンは抗議の目を向けた。
 しかし、シルビアは動じない。

「あたしらがいたから、死なないで済んだようなものよ。自分達だけでこの連中に勝てたとでも?勝てないまでも、逃げられたかどうかも怪しいわね」

「そう言われるとそうなんだが……」

「感謝もただじゃ伝わらないわよ」

 シルビアとカイエンのやり取りを見ていて、前世を思い出す。
 社内で感謝ってなかなか伝わらないよね。
 不良を出していない部署からの、選別応援とか貰ったら、何かしらで感謝を示さないと、後々に禍根を残すことに成るから。
 それを品管に持ってこないで欲しい。
 製造部門でうまくやってよね。
 ね?

 さて、こうしてカイエン隊の自己評価は終了し、ステラに帰ることとなった。
 帰りは俺が先導することになり、出現したモンスターを兎に角駆除していく。
 前世でも、蜂や蛇の相手は品管だったな。
 田舎の工場には危険な生物が出没する。
 流石に熊や猪との戦いは経験したことがないが、他には百足や烏といった生物とも戦った。
 ほら、作業者は途中離籍できないからね。
 でも、カメムシだけは勘弁な!
 臭いから。

 そんなわけで、冒険者ギルドに到着すると、捕まえてきたダイナを引き渡した。
 これから職員が衛兵を呼びに行き、引き取りに来てもらうのだ。
 連行してきたのはカイエン隊であり、俺もシルビアも何も言わなかったので、迷宮で彼らを捕縛したのはカイエン隊の手柄となった。
 いくばくかの賞金が出るらしい。
 魔王軍の情報が引き出せれば、増額もあるのだとか。
 よかったね。

 残るはPDCAサイクルのCとAだな。
 これは打ち上げで酒を飲みながらやるそうだ。
 仕事の話だぞと思ったが、こちらではそれが習慣なので止めない。
 郷に入っては郷に従えだな。
 そう、自動車業界の品管が転職して、他業界の品管になった時に受けるカルチャーショックも、無理に自動車業界の品質管理を押し付けては、組織になじむことが出来ないのと一緒だ。
 自分も前世では自動車業界ではなかったときに、自動車部品メーカーの品管経験者が中途入社してきて、なんてうるさい事を言うんだろうって思った。
 思ったどころか、納期に間に合わなくなるので、そのやり方に何度も衝突したものだ。
 だが、自分が自動車業界に来てみると、彼のやっていたことが当たり前だったわけだ。
 どことは言わないが、あの業界の品質管理やばい。
 今はどうだかわかりませんけどね。

「アルト、行くわよ」

 おっと、シルビアに呼ばれてしまった。

「今行くよ」

 カイエン隊の奢りで、街の酒場で打ち上げを兼ねて今回の冒険の評価と改善を話し合うことになっているので、俺は慌ててみんなの後を追った。
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