冒険者ギルド品質管理部 ~生まれ変わっても品管だけは嫌だと言ったのに~

犬野純

文字の大きさ
322 / 439

第321話 溶接記号いい加減に直そうね

しおりを挟む
またも現実世界ででかい品質偽装が表に出てきましたね。
重要保安部品で品質偽装とか、流石にねーわ。
重要保安部品じゃなければあるのかといわれると、そこはノーコメントですけど。
もちろん、品質偽装なんてあるわけ無いじゃないですか。
とは言えないくらい、現実世界でニュースになっていますね。
子供用シロップに異物が混入したり、薬の法定検査やらなかったりもあって、そこに至るまでの経緯を想像するのが日課に。
品質問題の裏には、経営に起因する問題があると思いますが、果たしてそこまで踏み込むことが出来るのか注目ですね。
それでは本編いってみましょう。

 今日はホーマーに呼ばれてエッセの工房に来ている。
 なんでも大発見をしたのだとか。
 さて、どんな大発見だろうか。

「今から溶接治具を作るから見ていて欲しいんです」

 そういうと、ホーマーはMAG溶接の治具を作りだした。
 そこにSTAMに近い鉄パイプと、JSCっぽい材料で作ったブラケットをセットした。
 これがどんな大発見だというのだろうか?

「次にロウ付け治具を作ります」

 今度は同じパイプとブラケットを使い、ロウ付けをするための治具を作りだした。

「見てください。同じ形状の製品を作るのに、治具形状が違うんです」

 ホーマーは興奮気味に治具を指さして俺に説明した。
 確かに、見比べると溶接治具とロウ付け治具の受けの位置が違う。
 当然だな。

「溶接治具とロウ付け治具の受けの位置が違うし、ロウ付け治具の方は受けのクリアランスが大きいんですよ」

 ここで説明しておくと、ホーマーのスキルで作り出す治具は自動で最適化されている。
 なので本人の経験が無くても、良品を作ることが出来るのだ。
 今回もそれだな。

「ホーマー、溶接もロウ付けも同じように金属を接続するんだけど、熱が製品に与える影響が違うんだ。一般的にはどちらも歪みが出るとされているけど、ロウ付けは自然冷却してやると、入熱前の形状に戻るんだよ。だから、治具の形状も当然違ってくるんだ」

 ロウ付けは伸びた分元に戻る。
 ただ、伸びるのを抑えてしまうと、戻り量の方が多くなるから元の形状にならないのだ。
 そのためクリアランスを大きくとって、伸びを規制しないようにしているのだ。
 これが全ての材質や形状に言えるわけではないのだが。
 熱で応力除去した場合はまた違うので、形状や工法によっても違ったりはするか。
 何にしても、溶接とロウ付けでは治具の作り方が違ってくるのだ。
 ついでに言えば、ブラケットは何も溶接やロウ付けだけが接合の手段ではない。
 ブラケットをパイプに巻き付け、爪を折って加締めることで接合する方法もある。
 この辺は自動車の配管をみてもらえば、それぞれの違いがわかってもらえると思う。
 そして、全てに意味があってそうしているのだ。
 ええ、意味があることなんですよ。
 その割りには、最初の図面の記号がロウ付けになっているのに、途中からMAGに切り替わったりしたけど、図面がそのままなんてのもありますけどね。
 関係者が誰もいなくなったら、どうしてそうなっているのか経緯がわからなくなるから、早いところ直した方がいいと思いますよ。
 工程変更したときの受け入れ検査よくパスできるなって思っています。
 という記憶が蘇りました。
 転生してから随分と時間が経っているので、いまがどうなっているのかはわかりません。
 溶接でいえば、アークからスポットに変更したりするときも、まあ色々とありますよね。
 品管としては溶け込みの評価がいらないので、ロウ付けにしてもらえるとありがたいです。
 どうせ設計なんて強度やら、なにやら気にしていないんだ(以下自主規制――

「塑性加工して、応力除去してない個所のロウ付けでもなければ、溶接程の歪は発生しないから、治具にこうやって差ができるわけだ」

「そうなんですね!」

 ホーマーは納得してくれたようだ。

「今のところ、溶接を出来るのはホーマーだけしかいないけど、そのうちオッティが溶接機を作りそうなんだよな。その時は、ホーマーが講師になるかもしれないから、今のうちからキチンとした知識を付けておかないとな。スキルだけに頼った品質だけじゃなく、適正ジョブを持たない人でも良品を作ることが出来るように教える事を念頭に、これからは経験を積まないとな」

 オッティなら間違いなく溶接機を作る。
 そして、普及させようとするだろう。
 そんなもんの品質管理なんかしたくないから、ホーマーに押し付け……
 俺一人では手が回らないから、ホーマーにも成長してもらわないとな。
 重保やそれに類する部品の溶接の品質管理ってすごく大変なんだよね。
 誰だ、スポット溶接機の水を止めた奴は!!
 しかも変化点がどこからなのかわからないとか、全部廃却じゃないか。
 溶接ロボットが故障したから手で溶接した?
 今から客先に謝りに行こうか!
 なんて愉快な話を聞きました。
 愉快じゃない話はもっと沢山ありますが、それはまた次の機会にでも。
 尚、自分はJISの溶接資格を持ってなかったので、溶接は無免許運転でした。
 資格が必要な仕事は、有資格者にお願いしてましたよ。

「そうそう、製品受け面へのスパッタやフラックスの付着が無いことの確認と、トグルクランプの確認は必須だから、必ず教育するように」

「はい」

 ついでに始業点検でみるべき項目も教育しておくか。
 スキルで作り出した治具はどうなのか知らないが、普通は製品受け面に付着物があると位置がずれる。
 それと、トグルクランプは熱で駄目になりやすい。
 量産ラインだと、一日で交換する場合もあるのだ。
 設計が溶接の事を知らないと、レイアウト的に熱源の近くをクランプするしかなくなるので、そんなこともあるのだ。
 そして、駄目になったトグルクランプはクランプ出来ていないので、寸法不良になるのは当然だな。

 溶接治具を見ながら、他にも注意すべき点をホーマーに教えていたら日が暮れた。
 それだけ溶接では大変な思いをしたって事ですよ。


※作者の独り言
溶接治具はノウハウの塊なので、あんまり詳しくも書けません。
色々と言いたいことはありますが、生産技術はもっと設計と話をするべきかと。
まずは溶接記号を修正するところからだな。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
【毎週火木土更新】 自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...