冒険者ギルド品質管理部 ~生まれ変わっても品管だけは嫌だと言ったのに~

犬野純

文字の大きさ
331 / 439

第330話 インサイダー取引はやめよう

しおりを挟む
相場をテーマにした小説書きたいと思いながら、全く出来てない。
今回はそんな想いを入れたお話です。
それでは本編いってみましょう。


「ところで、アルトもオッティも散々インサイダー情報に触れていたけど、それを使て株式の売買をしなかったの?」

 小籠包を食べ終わってしまい、再び口が動くようになると、グレイスがとんでもないことを言いだした。

「インサイダー情報で売買したら犯罪だろ。損してもインサイダー取引は罰則は適用されるからな」

 俺は呆れた顔でグレイスを見た。
 これはコンプライアンス教育を受けてないとわからないか。

「そんなことないわよ。二人が取引していたのって大手の自動車メーカーでしょ」

「直接の取引じゃないけどな」

 オッティがグレイスの言葉を訂正した。
 ティア2だったので、納品先はティア1だったのだ。
 そこでさらにアッセンブリされたものが、自動車メーカーの工場に納品されていたので、直接的には取引は無かったのだ。

「それでもリコール情報とか持っていたんでしょ」

「まあ、自社の関連部品だったらそうなるな」

 俺はそう答えたが、実際は少し違う。
 その違いを説明するのは面倒だったので、今回は省略した。
 リコール情報なんて簡単には外部に漏れない。
 確かに自社の部品を組み込んでいるユニットがリコールともなれば、作りだめの注文がくるのだが、それはリコールを発表した後の事だ。
 極稀にリコールが来るとわかる事もあるのだが、それは本当に偶然が重ならないと無理である。
 流石にそれをここでは書けないが。

「言っておくが、家族の口座で売買しても、証券取引等監視委員会は発見するからな。それで逮捕されたなんて散々ニュースになったろう」

 俺はグレイスが言いそうなことを先に否定しておいた。

「そんなことしないわよ。というか、該当する銘柄を売買せずに、インサイダーで利益を出せるわよ」

「売買しなければ利益も損失も出ないんじゃないか?」

 オッティがグレイスに疑問をぶつけた。
 俺も頷く。
 インサイダー取引と言いながら、取引しないとはどういうことか。

「取引はするわよ。ただ、該当銘柄は除くってだけ。日経平均株価って知ってる?」

「それくらいは知っているよ」

 俺は馬鹿にされたようで、少しムッとして言い返した。

「大手自動車メーカーは日経平均採用銘柄に採用されているの。ヤマハ、日野、トヨタ、日産、三菱、SUBARU、いすゞ、日野、ホンダってね。日産車体は採用されてないけど。それで、その中のどれかの銘柄で大規模リコールの情報を掴んだとしたら、その銘柄以外の全部の日経平均採用銘柄を購入するの。そして、同額の日経平均先物を売ればいいの。そうすると、該当銘柄の下落分だけ利益になるわ。これならインサイダー取引にならないのよ」

 グレイスの話を整理すると、日経平均先物は日経平均採用銘柄の値動きとリンクしている。
 つまり、日経平均採用銘柄を加重平均に応じて購入し、同額の日経平均先物を売った場合、利益も損失も出ないのだ。
 まあ、実際は手数料分損するのだが。
 そして、インサイダー情報を持っている企業が下がると思えば、先述のようにそれ以外の企業を購入して、日経平均先物を売ることで、現物と先物の差分が利益になるという訳である。
 尚、先物についてはインサイダー取引は適用されないので、これなら確かにインサイダー取引には該当しないような気もする。

「これはインサイダー取引じゃないけど、東日本大震災の時に東京電力を空売り出来ない機関投資家が取った戦略よ。様々な理由で東京電力を空売り出来なかったから、東京電力以外の日経平均採用銘柄を買って、同額の日経平均先物を売ったの。まあ、これが出来る条件も限られているから、誰でも出来るってわけじゃないけどね」

「条件?」

 俺はオッティのグラスにワインを注ぎながら、グレイスに条件を訊ねた。

「まず、常に株価は動いているから、高速で注文できるシステムを持っていないと駄目なの。何せ先物と現物の裁定取引なんだから、鞘がない事が条件になるのよ。同じ理由で全銘柄が取引成立していることね。何かの銘柄がストップ高やストップ安だと、これも裁定取引が成立しないから。そして、その裁定取引を出来るだけの証拠金を持っている事。この条件があって初めてできるのよ」

 なるほど、現物と先物で同じ日経平均の商品を作らなければならないから、高速取引が出来る環境が必要なのか。
 合計225回も注文しなきゃならないので、手動ではまず無理だな。
 グレイスの実家が使っている証券会社は注文を受けてくれるだろうとのこと。
 そりゃあ大口顧客ですからねえ。
 そして、株価が値幅いっぱいまで行ってしまうと、先物との連動が切れてしまう。
 TOPIXでも理論上は同じ事が出来るのだが、やりにくい点はそれだろうな。
 後は取引が極端に薄い銘柄があって、合成するのに手間がかかるってのがある。
 なので、日経平均株価がいいのだそうだ。
 そして、日経平均採用銘柄を全部買うだけの資金力。
 そんなもんがあったら仕事していない。
 まあ、全部の条件がそろうことなんて殆どなさそうだが、理論上はインサイダー情報を使って、インサイダー取引にならずに利益を出せるって事か。

 異世界に東京証券取引所はないけどな。



※作者の独り言
この方法で売買したときに、インサイダー取引に抵触するのかどうか、証券取引等監視委員会の見解を訊いてみたいですね。
東日本大震災の時は、株主の売りが集中して、貸し株を調達できなかったっていうのと、東電とのお付き合いから、つなぎ売りするのが出来なかったっていう理由だったかと思います。
東電を空売りしないけど、東電の下げで利益を出すっていう手口がありましたね。
以前から使われていたみたいですが。
どことは言えませんが、自社株の取引きが出来ない会社のあそことかね。
ルールは破ってないよっていうことなのですかね。
違反して罰金の支払いを命じられたってニュースが無かったですから。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ
ファンタジー
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。 そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。 だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。 マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。 全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。 それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。 マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。 自由だ。 魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。 マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。 これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

処理中です...