冒険者ギルド品質管理部 ~生まれ変わっても品管だけは嫌だと言ったのに~

犬野純

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第369話 工程パトロール

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 俺は今理由があって、冒険者ギルドの中でシルビアを探していた。
 そしてやっと彼女を見つけることができ、話しかける。

「シルビア、久しぶりにMMRの活動をしようとおもう」

「どうしたの急に?」

 シルビアにMMRの活動を持ちかけたら、不思議そうな顔をされた。
 仕事をするのがそんなに不思議なのかな?
 いや、仕事をしていないのがわかっているからそうなのだろう。

 なにせ――

「期末なのに今期の実績が全くないんだ……」

 そう、今期の仕事で全く成果がないのだ。
 どうしてこうなった?
 結婚してからというもの、どうもたるんでいるな。
 さて、こうなってしまっては仕方がないが、期末までに何かしらの成果を出しておきたいと、シルビアを誘ってMMRの活動をしようと思ったわけである。 

「もう期末なのね。来期の年俸が減額されるかもしれないし、ここは実績を残しておくべきね。やりましょう」

 ああ、シルビアも今期ろくな実績を残していなかったのね。
 そういえば最近仕事したのって、水攻めを防いだくらいだったかな。
 あれはあれでそれなりの功績だとは思うんだがなあ。
 ただ、その他に何もないのは事実。
 品質管理で成果を求められても、選別の効率化くらいしか思いつかないよ。
 それが認められるわけもなく……

 おっと、いつもの病気が発症してしまったな。
 今は仕事だ。

「で、具体的に何をするの?」

 シルビアの鼻息が荒い。
 そんなに期待をされても困るのだが、一応シルビアに声をかける前に考えておいたことがある。

「パトロールだ」

「サファリの?」

「シルビア、そんな日産車体の社員以外には説明しないと伝わらないボケはやめてよね」

 メッとシルビアを注意した。
 伝わりにくいわ!
 サファリは日産車体で作っていた大型車である。
 軍事車両としても使われている。
 そして、その国内販売は終了したが、海外販売はパトロールの名前で継続しているのだ。
 国内で販売していないので、見かける機会は殆どない。
 因みに、俺の提案したのは工程パトロールともいう、工程を巡回して異常がないかを確認する行為の事だ。

「迷宮を巡回して、冒険者の異常行動を監視・改善して、それを実績として報告しよう」

「そうね。今回もレオーネは参加できないけど、それも仕方ないわよね」

 MMRの活動として行うのだが、やはり戦闘職ではないレオーネは今回も不参加とする。
 品管が戦闘職かというのは置いておきますね。

 そしてやってきた久しぶりの迷宮。
 まずは入り口での忘れ物チェックを確認する。
 スタンフラッシュの携行義務は今でも継続しており、入り口ではその有無の確認が行われている。
 スタンフラッシュは閃光を発生させ、モンスターのトレインを作らせないためのマジックアイテムだ。
 多分みんな忘れていると思うので、もう一度説明をしておく。
 忘れても、入り口で販売しているから安心だ。
 こいつの開発・運用以降はトレインによる被害は無くなった。
 入り口でのこうしたチェックも、その維持継続に役立っているのだ。
 こうして急な確認に訪れても、確実に実施しているのがわかったので一安心。
 事前に告知しちゃうと、普段やってないこともやっているように見せかけるからな。
 まあ、大抵は当日だけ誤魔化そうとしても、ぼろが出ちゃうものだが。

 入り口での確認が終わったので、迷宮の中へと足を踏み入れる。
 この辺は特に危険もなく、問題もないかと思っていたがそうでもなかった。

「あそこ、男5人のパーティが女性3人のパーティと何か話をしているけど、女性の方は困った顔をしているね」

 俺が指さす方向には、男女別々のパーティがいて何かを話しているようだが、距離があるので内容が聞き取れない。
 ただ、女性たちの顔には困惑が見て取れるので、これはなにか困りごとが起きているので間違いないだろう。

「行ってみましょう。ただし、気づかれないようにね」

 シルビアの指示で、こっそりと男達の後ろへと近づく。
 すると、彼らの会話が聞こえてきた。

「だから、女の子だけのパーティだと危険だから、俺達と一緒に探索しようって言っているじゃないか」

「いえ、あなたたちと組むつもりはありません」

 どうも、男の誘いを断っているようだ。
 すると、別の男が

「変な奴らに付きまとわれるかもしれないよ。僕らがそういう手合いから守ってあげるって言ってるんじゃないか」

 と強い口調で言う。
 あー、こんなところでナンパしているのか。
 お前ら迷宮に何をしに来ているんだ。
 横を見ると、藍婆と化したシルビアがいた。
 藍婆らんばとは十羅刹女のうちの一人で、剣を持ち鎧を着ており、人を殺す鬼神である。
 そりゃあもう、躊躇なく人を殺す。
 血の雨が降るかなと思っていたら――

「優しくした手に出ていれば。実力で危ない目に合わせないとわからな――」

 最初に話しかけていた男がすごんでみせたその時、シルビアが動いた。

「ッ――!!!」

 男が声にならない悲鳴をあげた。
 そして、股間を押さえて地面に膝をつく。
 後ろからシルビアが思いっきり股間を蹴り上げたのだ。

「誰だてめ――えええ!?!?!?」

 仲間がうずくまっているのに気が付き、攻撃してきた相手に凄んでみたが、その相手がシルビアだと気づき青くなる。

「何をしていたのか、納得できる説明をしてもらおうかしら」

 シルビアが睨みつけると、男達は縮こまってしまった。
 彼らの実力は鉄等級なので、束になってもシルビアには勝てない。
 俺も彼らには同情しない。
 迷宮といえば冒険者にとっては職場だ。
 そこで仕事中にナンパなんかしていれば、何やってるんだとなるだろう。
 前世の工場の工程パトロールでも、セクハラまがいの行為をしている奴がいた。
 お前会社に何しに来ているんだと。
 まあ、そいつを叱った上司も後に社内不倫がばれて問題になるんですけどね。
 お前ら下半身に理性は無いのか?

「返答次第じゃ、ギッタンギッタンにしてやるから、口から出す前に良く考えてからにすることね。刹那で死ぬことになるかもしれないから」

 やはりシルビアが藍婆にしか見えない。
 男達は委縮して下を向いたまま何も話さない。
 それとは対照的に、3人の女性は目を輝かせながらシルビアを見ている。
 恋する乙女のまなざしかな?

「助かりました、お姉様」

 そのうちの一人の女性がシルビアに礼を言う。
 お姉様?
 この場にレオーネがいなくて本当に良かった。
 いたら、シルビアの取り合いになっていただろう。

「礼には及ばないわ。仕事だから」

 素っ気ない対応のシルビア。

「お仕事ですか。どんな冒険ではないですよね?」

「冒険者の品質管理かしらね。そこにいるのが品質管理部長だから、詳しい内容はそこのアルトに訊いて」

 そう言われても俺には何の興味も示さない。
 いや、俺にはオーリスがいるから興味を示されても困るんだが。
 異世界転生してハーレムとか、倫理観がもたないよ。

「なんかあの人本当に冒険の事をわかっているんですか?」

「品質管理っていっても、冒険者じゃないから詳しい事わからなそう」

 と俺に聞こえるのをお構いなしに言ってくる。
 酷いわ。

「そういえば、アルトが本格的に迷宮で冒険をしたことってあったかしら?」

 シルビアまでそんな事を言いだす始末。
 さらに女性たちはやいのやいのと言いたい放題だ。

 そして俺は前世を思い出して頭痛がする。

――前世の工程パトロール

「品管!!!わたし達作業者はこの言葉に飽くなき恐怖を禁じ得ませんッッッ。そして、今日わたし達はその品管の技術を目にすることもできますッ。しかしッ、しかしですッッッ。その品管の作業する姿を見た者がいるのでしょうか?その枯れた理論が実戦の場で発揮されるのを見た者がいるのでしょうかッッッ?品管の理論はいつも机の上ですッッ。上位者は品管を気遣うあまり、実戦の場に立たせようとはしなかったのですッッッ。製造業従事者はもうそろそろハッキリと言うべきなのですッッ。品管は保護されているッッッ」

「ヤロウ……タブー中のタブーに触れやがった…………」

 工程パトロールで品管が指摘するけど、品管がルールを守って作業を出来るかと言われると辛いな。
 前世でも製造から散々言われたけどね。
 そもそも体が8時間の肉体労働に慣れていないので、1時間くらいでCTが長くなってしまうんじゃないだろうか。
 それを言ったら品管が指摘なんてできなくなるけど。
 それでも指摘を面白く思わない連中は「じゃあ品管が作業をやってみろ」とか言い出す。
 じゃあ、お前らも対策書書いて客先に報告してみろよ……
 というと喧嘩になるので聞こえないように言いましたが。


――

(いやな過去を思い出したな……)

 意識がこちらに帰ってくると、女性たちはシルビアの腕をとって先へ進もうとしている。
 男たちは置き去りだ。
 シルビアの周りは既に工程パトロールの雰囲気じゃないな。

 その後、女性たちの案内で最近薬物の密売が行われている地区だったりを巡回した。
 迷宮内は衛兵の目が届かないので、密売には最適なのだとか。
 植物が過酷な環境だと競争相手がいないからみたいな理由だな。
 そんなこんなで密売人を殴ったり、蹴ったりしながらパトロールは続いた。
 捕まえもしましたが、どうもまとわりつかれてイライラ気味のシルビアは荒っぽくなっているので、そういう説明にした。

 そんなこんなで冒険者ギルドに帰ってきて、今回の成果を報告書にまとめている。

「風紀が乱れているわね」

 シルビアがテーブルの上でぐったりしている。

「お茶を持ってきますね」

 まとめに参加しているレオーネが席を立ち、お茶を淹れに行く。
 彼女はシルビアが女性のパーティにまとわりつかれて、精神的に疲れているのを知っているので上機嫌だ。
 勝者の余裕若しくは正妻の余裕というやつかな?
 シルビアは全力で否定するんだろうけど。

「今回の結果を踏まえて、来期は毎月工程パトロールかな」

「アルト一人で行ってきて……」

 シルビアは既にやる気がない。
 まあ、そうやって定期的な計画を立てても、次第にやらなくなっていくんだけどね。



※作者の独り言
さあ、来期の工程パトロールの予定も出てきましたが、そのうちやらなくなるんだろうな。
それにしても、お前ら会社に何しに来ているんだ?
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