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第392話 支給品
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「アルト、金を貸して欲しい」
冒険者ギルドで眠気と戦っているところにティーノがやって来た。
そして、いきなり金を貸して欲しいと言われたのだ。
相談窓口ではあるが、お金の事は商業ギルドに言って欲しい。
一応グレイス発案の銀行なんかもあって、審査を通ればお金を貸してもらえる。
だが、ティーノの店は外から見る分には順調そうで、お金に困っているようには見えないのだが。
愛人問題か?
「金を貸す貸さないは別として、どうして金が必要なんだ?」
「実はシャレードに頼まれて、ステラで大規模な商人の集会に料理を出すことになったんだけど、材料を一気に仕入れるための現金が無いんだ」
「あ、そういうことか」
店の仕入れは売上から金を回しているが、売上以上の金が必要になると、仕入れる方法がないな。
売掛買掛の概念はまだ無いし。
詳しい説明は異世界転生した経理に任せるけど。
そんなのがいるかは知りません。
で、仕入れは現金払いなのだが、その現金が無いわけだ。
それで俺に借りに来たと。
ミダス王よりもミダス王的な俺なら、触るものどころか、無から金を産み出すからな。
歩くインフレーションですね。
だが、ここで俺がお金を貸すのが本当に良いのかは別問題だ。
例えばだが、突然魔王軍の攻撃が発生して集会が中止にでもなれば、ティーノは仕入れた材料を破棄する事になるだろう。
なにせ、店の売上だけでは足りない程の仕入れ額だ。
俺の方は無から作り出す金なので、いつ返してくれても良いのだが、じゃあ俺が居なかったらどうなるのって話である。
これを解決するためには、
「シャレードに話して、食材は支給にしてもらおう」
「支給に?」
工場の製品でも、ユニットに組み込む部品が客先からの支給になることがある。
自己調達が多いのだが、客先からの支給品の場合もある。
支給品は有償と無償とがある。
下請けのメリットは、品質の管理と価格の管理が不要になるというものだ。
海外の部品で不良が出たときに、小さい会社だと対応出来ないし、売る側も回収不能になる可能性から、取引をしてくれないこともある。
そこに大手が入ることで、売る側と使う側双方にメリットが生まれてくるのだ。
それに、有償支給の場合でも内示と確定注文が大きくずれた場合には、下請け法があるので支払いが免除される。
多くの場合は有償支給品の代金は売上との相殺になるのだが、売上よりも仕入れが多い逆ざやになると、下請けはかなりきつい。
それを防ぐために有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止というのがある。
親事業者は有償支給品を使った製品を下請けから買う前に、有償支給品の代金を決済してはならないというものだ。
これなら、内示がファンタジーなあの会社と付き合うのも安心だね。
下請法に守られる会社なら。
俺の管轄は品質管理なので、金の事はこれくらいにしておいて品質の事を言うと、弊社のような小さな会社を相手してくれないような大企業が、品質問題で真剣に動いてくれるからとても楽です。
時々自己調達で大手の不良品とお付き合いするのですが、わりと木で鼻を括ったような対応をされてしまいます。
こちらとしては対策書の期限もあって焦るのですが、相手はそこまで焦らずに自分のところが悪くないかもしれませんねって態度をとってきます。
まあ、相手も弊社の不良とカウントしたメーカーと付き合いがあったりするので、こちらも対応が悪くて無理ですと証拠を積み上げて客先に報告してやるんですけどね。
言い訳しても、既に積みあがってしまった証拠の前にはどうにもならない。
っていうのが出来ないメーカーもあるので、やっぱり支給品がいいですね。
大手がきゃん言わせてくれますから。
それに、きゃん言わせなくても客が受入検査して、良品だけを弊社に支給してくれればいいのです。
あまりにも安く買いたたきすぎて、選別するくらいなら付き合いを止めるっていう裏事情があって、客先が加工メーカーの代わりに選別していたこともありましたね。
それもこれも適正価格を把握せずに、兎に角コストダウンする調達部門が悪い。
お前ら選別しろ!
あかん、話がそれた。
「一先ずシャレードのところに行こう。そこで有償か無償かを話し合う」
「わかりました」
俺はティーノと一緒にシャレードのところに向かった。
シャレードは商業ギルドにおり、応接室で早速話し合いになる。
「シャレード、ティーノの資金からすると集会の料理につかう材料を仕入れるのは厳しい」
「金を貸してくれっていうのか?」
俺の話を最後まで聞かずに、シャレードは金を貸す話を切り出そうとしてきた。
俺はそれを手で制して、こちらの話を続ける。
「そうじゃない。ティーノが指定する材料を仕入れて支給してもらいたいんだ。金額もそうだが、ティーノ一人で仕入れようとすると交渉に時間が掛かりすぎる。仕入れはそちらの専門分野だろう」
「そうだな。で、それを渡して手間賃だけをティーノに報酬として払えばいいのか?」
「そこはティーノと相談してくれ。まあ、有償で支給した場合はその分シャレードが支払う金額に乗っかってくるわけだが」
「じゃあ、面倒だから無償でいいだろう」
「そうじゃないんだ」
これが支給品の難しいところで、失敗した場合に無償支給だと加工メーカーの懐は痛まない。
で、それを悪用して失敗したことにしておきながら、そもそも加工などせずにスクラップとして業者に売ってしまう会社がある。
しかも、結構多い。
天網恢恢疎にして漏らさず、結局悪事がばれて裁判になったり、取引停止になったりするのですが、やっている時はばれないと思っているんでしょうねえ。
困ったもんです。
ティーノがそんなことをするとは思えないが、失敗した時の責任をとらせるのであれば有償にするべきでしょうね。
無償支給でもロットアウトを作った場合は弁償なんていうのもありますが。
ただ、有償支給にした場合、支給品があまりにも高額だと失敗した時に加工メーカーの損害がデカすぎるってのがあるんですよね。
自分も十万円の製品にタップを一箇所追加工する仕事を千円で受注して、製品にMCの主軸をぶつけて壊してしまった事がありましてねえ。
そもそもなんで加工したメーカーで追加工しなかったんだよって話なのですが、営業が訳の分からん受注をしてしまったのですよ。
大損害でしたね。
その会社はつぶれて無くなりました。
それが原因じゃないけどね。
だったら余計な一言ですね。
「失敗した時を考えて有償で支給してくれていいんだけど、牛の肉で旨いのは子供を産んだことのない牝牛の肉だ、それも三年以上良い飼育で大事に育てられた牛だ。牡牛の肉は味が落ちる、牛の牝牡の違いは肉の味に決定的にひびくものなのだ」
と、ティーノがシャレードに注文を出した。
第49話でユーコンに言われた事をちゃんと覚えていたんだね。
元々知ってはいたが、あの時は忘れていただけか。
その他の食材もシャレードに注文し、俺達は商業ギルドを後にした。
そして商人の集会も無事に乗り切ったと後日報告を受けた。
※作者の独り言
かっぱっぱさんのモビイマを読んで、支給品についての品管から目線を書いてみようと思った次第。
冒険者ギルドで眠気と戦っているところにティーノがやって来た。
そして、いきなり金を貸して欲しいと言われたのだ。
相談窓口ではあるが、お金の事は商業ギルドに言って欲しい。
一応グレイス発案の銀行なんかもあって、審査を通ればお金を貸してもらえる。
だが、ティーノの店は外から見る分には順調そうで、お金に困っているようには見えないのだが。
愛人問題か?
「金を貸す貸さないは別として、どうして金が必要なんだ?」
「実はシャレードに頼まれて、ステラで大規模な商人の集会に料理を出すことになったんだけど、材料を一気に仕入れるための現金が無いんだ」
「あ、そういうことか」
店の仕入れは売上から金を回しているが、売上以上の金が必要になると、仕入れる方法がないな。
売掛買掛の概念はまだ無いし。
詳しい説明は異世界転生した経理に任せるけど。
そんなのがいるかは知りません。
で、仕入れは現金払いなのだが、その現金が無いわけだ。
それで俺に借りに来たと。
ミダス王よりもミダス王的な俺なら、触るものどころか、無から金を産み出すからな。
歩くインフレーションですね。
だが、ここで俺がお金を貸すのが本当に良いのかは別問題だ。
例えばだが、突然魔王軍の攻撃が発生して集会が中止にでもなれば、ティーノは仕入れた材料を破棄する事になるだろう。
なにせ、店の売上だけでは足りない程の仕入れ額だ。
俺の方は無から作り出す金なので、いつ返してくれても良いのだが、じゃあ俺が居なかったらどうなるのって話である。
これを解決するためには、
「シャレードに話して、食材は支給にしてもらおう」
「支給に?」
工場の製品でも、ユニットに組み込む部品が客先からの支給になることがある。
自己調達が多いのだが、客先からの支給品の場合もある。
支給品は有償と無償とがある。
下請けのメリットは、品質の管理と価格の管理が不要になるというものだ。
海外の部品で不良が出たときに、小さい会社だと対応出来ないし、売る側も回収不能になる可能性から、取引をしてくれないこともある。
そこに大手が入ることで、売る側と使う側双方にメリットが生まれてくるのだ。
それに、有償支給の場合でも内示と確定注文が大きくずれた場合には、下請け法があるので支払いが免除される。
多くの場合は有償支給品の代金は売上との相殺になるのだが、売上よりも仕入れが多い逆ざやになると、下請けはかなりきつい。
それを防ぐために有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止というのがある。
親事業者は有償支給品を使った製品を下請けから買う前に、有償支給品の代金を決済してはならないというものだ。
これなら、内示がファンタジーなあの会社と付き合うのも安心だね。
下請法に守られる会社なら。
俺の管轄は品質管理なので、金の事はこれくらいにしておいて品質の事を言うと、弊社のような小さな会社を相手してくれないような大企業が、品質問題で真剣に動いてくれるからとても楽です。
時々自己調達で大手の不良品とお付き合いするのですが、わりと木で鼻を括ったような対応をされてしまいます。
こちらとしては対策書の期限もあって焦るのですが、相手はそこまで焦らずに自分のところが悪くないかもしれませんねって態度をとってきます。
まあ、相手も弊社の不良とカウントしたメーカーと付き合いがあったりするので、こちらも対応が悪くて無理ですと証拠を積み上げて客先に報告してやるんですけどね。
言い訳しても、既に積みあがってしまった証拠の前にはどうにもならない。
っていうのが出来ないメーカーもあるので、やっぱり支給品がいいですね。
大手がきゃん言わせてくれますから。
それに、きゃん言わせなくても客が受入検査して、良品だけを弊社に支給してくれればいいのです。
あまりにも安く買いたたきすぎて、選別するくらいなら付き合いを止めるっていう裏事情があって、客先が加工メーカーの代わりに選別していたこともありましたね。
それもこれも適正価格を把握せずに、兎に角コストダウンする調達部門が悪い。
お前ら選別しろ!
あかん、話がそれた。
「一先ずシャレードのところに行こう。そこで有償か無償かを話し合う」
「わかりました」
俺はティーノと一緒にシャレードのところに向かった。
シャレードは商業ギルドにおり、応接室で早速話し合いになる。
「シャレード、ティーノの資金からすると集会の料理につかう材料を仕入れるのは厳しい」
「金を貸してくれっていうのか?」
俺の話を最後まで聞かずに、シャレードは金を貸す話を切り出そうとしてきた。
俺はそれを手で制して、こちらの話を続ける。
「そうじゃない。ティーノが指定する材料を仕入れて支給してもらいたいんだ。金額もそうだが、ティーノ一人で仕入れようとすると交渉に時間が掛かりすぎる。仕入れはそちらの専門分野だろう」
「そうだな。で、それを渡して手間賃だけをティーノに報酬として払えばいいのか?」
「そこはティーノと相談してくれ。まあ、有償で支給した場合はその分シャレードが支払う金額に乗っかってくるわけだが」
「じゃあ、面倒だから無償でいいだろう」
「そうじゃないんだ」
これが支給品の難しいところで、失敗した場合に無償支給だと加工メーカーの懐は痛まない。
で、それを悪用して失敗したことにしておきながら、そもそも加工などせずにスクラップとして業者に売ってしまう会社がある。
しかも、結構多い。
天網恢恢疎にして漏らさず、結局悪事がばれて裁判になったり、取引停止になったりするのですが、やっている時はばれないと思っているんでしょうねえ。
困ったもんです。
ティーノがそんなことをするとは思えないが、失敗した時の責任をとらせるのであれば有償にするべきでしょうね。
無償支給でもロットアウトを作った場合は弁償なんていうのもありますが。
ただ、有償支給にした場合、支給品があまりにも高額だと失敗した時に加工メーカーの損害がデカすぎるってのがあるんですよね。
自分も十万円の製品にタップを一箇所追加工する仕事を千円で受注して、製品にMCの主軸をぶつけて壊してしまった事がありましてねえ。
そもそもなんで加工したメーカーで追加工しなかったんだよって話なのですが、営業が訳の分からん受注をしてしまったのですよ。
大損害でしたね。
その会社はつぶれて無くなりました。
それが原因じゃないけどね。
だったら余計な一言ですね。
「失敗した時を考えて有償で支給してくれていいんだけど、牛の肉で旨いのは子供を産んだことのない牝牛の肉だ、それも三年以上良い飼育で大事に育てられた牛だ。牡牛の肉は味が落ちる、牛の牝牡の違いは肉の味に決定的にひびくものなのだ」
と、ティーノがシャレードに注文を出した。
第49話でユーコンに言われた事をちゃんと覚えていたんだね。
元々知ってはいたが、あの時は忘れていただけか。
その他の食材もシャレードに注文し、俺達は商業ギルドを後にした。
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